「貞観政要全訳注」を読んで6,000文字程度にざっくりまとめてみた
なんか8月よりも7月の方が気温高くありませんでした?でも湿度が高すぎて冷房なしでは寝つけない。ゆーりです。
「幼少期から帝王学を叩き込まれた」「帝王学を学んだ」などよく聞く「帝王学」について、以前からささやかながら興味があったのですが、調べてみると、そういった学問のジャンルが確立されているわけではないもよう。
そんなこんなで「帝王学 本」で検索し、わりとレビュー評価が高く、最寄りの図書館でも借りられそうな本をチョイスした結果「貞観政要全訳注」がヒットしたので、これを借りてみむとてするなり。
ちなみに、貞観政要は「じょうがんせいよう」と読みます。私はこの本を借りるまでずっと「ていかんせいよう」だと思っていました。
さらにちなみにメイン画像はAIに作ってもらったイメージで、貞観政要とは一切関係ありません。
Amazonレビューで「これは分かりやすい!」って書いてあったから借りたんですが、めちゃくちゃ難しかったです。これでわかりやすいんなら、原典はどれだけ難しいんや…。(まあそもそも原典は漢文なんですが。)
貞観政要とは
ざっくり言うと、唐の二代目の皇帝太宗の言葉と、詔勅(公に意思を表示する文書)、太宗と臣下の議論、臣下の上奏文(太宗への意見などを書いた文)が書かれた書物のこと。
太宗の死後、呉兢という人によって編纂された書物です。
『国を治めるための心構え』が書いてある本なので、私のような一般人にはおおよそ関係のない話も多くありましたが、読んだ率直な感想は、「全然できてないんだよなあ…」という感じです。
以下、「貞観政要全訳注」に書いてある内容をさらにざっくりかみ砕いてまとめました。
上に立つ者はかくあるべし
初心忘るべからず
「貞観政要」の中でこれでもか、ってくらい何度も出てきたのがこれ。なぜ何度も出てくるのか、というと、太宗自身が何度もこれを忘れ、部下に諫められたから。
入社時は真面目に働くのに、数年経つと態度がでかくなり悪態をつくようになる。我が身を振り返らずにはいられません。
理想的な君主は、高価な貢物を好まず、自惚れることなく、質素に暮らすことが大切だ。
君主が贅沢を求め、民に負担を強い、遊びにふけり、媚びへつらう臣下を重用し、有能な臣下をないがしろにすれば、国は自ずと滅びる。
皆、はじめは謙虚に過ごすが、しばらく経つと驕り高ぶるものだ。謙虚さと思慮深さを忘れなければ、国はいつまでも安定する。多くの君主は、治世が安定すると努力を怠り、傲慢になる。そうすると君主に意見をする者もいなくなり、国は徐々に衰退し滅亡する。
謙虚に、慎み、教えを乞う
君主は、言動のすべてを臣下や民に見られていると思い、慎むべきである。
君主は能力を誇示することなく、常に謙虚で教えを乞う姿勢を忘れないように。自分の方が優れていると思い込むと、臣下の意見を聞かなくなり、臣下との気持ちが離れ、国は傾いてゆく。
優れた君主は、様々な人の意見を聞くので、状況の把握が容易にできる。暗君は、限られた者の意見しか聞かないので、甘言に騙されるなど、国の状態を正しく知ることができなくなる。
感情や私欲に流されてはいけない
君主は一時の感情に流されて物事を決断してはならない。
愚かな君主は、感情に任せて功績のない者を重用し、罪のない者を処罰する。それは国の乱れにつながる。
君主が欲に任せて行動すれば、民は苦しむ。君主は感情と欲望を抑えるよう心掛ける必要がある。
賢者と愚者の差は、感情を制御できるかどうかだ。欲望や喜怒哀楽はどんな人間にもある。賢者はそれを制御するが、愚者はそれに流されて身を持ち崩す。
臣下の過失を、感情に任せて必要以上に厳しく罰してはいけない。それを見た他の臣下や民衆は君主を軽蔑して恐れるだろう。
金に目がくらんで、道に外れるようなことをしてはならない。君主が欲深ければ国は必ず滅び、臣下が欲深ければその身は必ず滅ぶ。
贅沢は国の滅亡の第一歩となる。銀の細工を作り、満足できなければ次は金で、それで満足できなくなると宝石で作るようになり、際限がなくなるものだ。
信頼できない者からの贈り物をむやみに受け取ってはいけない。後に関係を疑われ、不利益が生じる可能性がある。
民が大事
君主は船、民は水である。水は船を運ぶが、転覆させることもある。水は船がなくても流れ続けるが、船は水がなければ動くことはできない。
民衆の気持ちに寄り添い、苛烈な統治を止め、正しい道を外れなければ、世は自然と安定する。
君主は民衆を憐れまなければならない。民衆を虐げるということは、自分の身体を虐げることと同じだ。
君主は、民を動かすときは、それが本当に民の利益になるのか考えたうえで決めるべきだ。民の望まないことは行うべきではない。
臣下との信頼関係が大事
君主が臣下を大切に扱えば、臣下も誠心誠意仕える。臣下を犬や馬のように扱えば、臣下は赤の他人のような態度になるだろう。
上に立つ者が疑わしければ、下の者は信用しなくなる。下の者の気持ちを量れなければ、上の者は苦労する。
君主は臣下をわざと試すようなことをして、臣下の信頼を失ってはならない。
君主は、臣下に礼節をもって接し、信頼して仕事を任せ、良いことは褒め、悪いことはしかり、賞罰をはっきりとさせるべきだ。そうすれば自ずと臣下の質が高まり、国は安定するようになる。
君主は、臣下が意見を言いやすいよう、やわらかい表情や態度を心掛けること。意にそぐわない意見を聞いても、感情的に叱責したり、詰問したりしてはならない。そうすると、いずれ意見を言ってくれる人はいなくなる。
統治について
現代で言うと、「会社経営について」といった感じでしょうか。
統治全般
平時に危機感を持つって本当に難しいですよね。まあ大丈夫でしょ、という油断が命取りになる例は結構ありますよね。
国が安定している時期であっても気を緩めず、常によく治めようと努力すること。
君主は、安泰であっても危険を忘れず、治まっていても混乱を忘れない。そうすれば安らかに国家を保つことができる。
国を治めるのは木を育てるのと同じ。根がしっかりと張っていれば枝葉が茂るように、君主が穏やかでいれば、人民も安寧となる。
過去に学び、生かすこと。善人を重用し、良い政治を行うこと。役に立たない者、ありもしないことを言って不和を起こそうとする者を排除すること。それで国は安定する。
ルールの決め方
君主は軽々しく決まり事を制定してはならない。ルールが妥当かをしっかり審議し、長く続く制度としなければならない。
ルールは単純であるべきだ。ルールが複雑だと覚えられなくなり、間違いや不正が起こりやすくなる。
人事について
この項目については、全然できてない会社が多すぎない?というか、(今はもう崩壊しつつあるけど)年功序列制度へのアンチテーゼかな?という印象を強く持ちました。
多くの事柄を君主ひとりで裁こうとすれば、判断を誤る可能性が高くなる。賢い臣下に任せ、君主はそれを観察するのが最もよい。
地位の高い臣下に重要な任務を、地位の低い臣下には小さな任務を任せるのが国を治める常である。
経験や才能のない者に役職を与えてはならない。
いくら能力が高くても、信用できない者を採用してはならない。
才能のない善人を採用することは大した害にはならないが、才能のある悪人を採用すると、きわめて大きな害をもたらす。
乱世であれば素行よりも才能を優先すべきだが、太平な世であれば必ず才能と人格を兼ね備えた者を採用すべきだ。正直な者を採用し、邪悪なものを遠ざければ、国も民も安定する。
例え敵対した者であっても、忠義があり、高い能力を持つ者であれば採用すべきだ。
才能のある人に役職をつけるべきで、人数は少なくてもかまわない。役職の数に合わせて人を採用するのではなく、人に合わせて役職を与え、適材適所を心掛けるべきだ。
自薦による人材確保はすべきではない。愚かな者は、自分が才能のある善良な人間だと思い込み、それを誇りにしているため、人を押しのけ争い合う風潮になってしまう。
どんなに功績のある臣下でも、犯した罪を許してはならない。
部下に罪があった場合、その上司にも責任を取らせてはならない。上司を一緒に裁けば、上司は部下の不正を隠すようになるからだ。
血縁関係やコネに左右されてはいけない
君主は公平であるべきで、血縁の有無や好き嫌いによって、役職を付けたり、待遇を変えるようなことしてはならない。
重要な役職に、血縁や縁故などの理由のみで才能のないものを就けるべきではない。そういった人が賢人の出世を邪魔するようなことがあってはならない。
血縁関係の有無によって、評価や罰則の軽重を変えてはならない。
国のことを考えない臣下は排除すべし
他人を陥れるために偽りの情報を流したり、ゴマをすったりする者を信用してはならない。彼らの言うことを信じれば善良な臣下がいなくなり、国の害にしかならない。
民ではなく、君主の利益のみを考えて進言するような臣下は重用してはならない。
君主と臣下の関係
現代で言うといわゆる「上司と部下の関係」にあたるでしょうか。
君主と臣下は、国が乱れている時も安泰な時も、常に一心同体だ。君主は驕らずに臣下の意見を受け入れ、臣下は畏れることなく君主を諫めるようにすれば、国は安定する。
君主と臣下が互いに疑いを持つことは、国にとって大きな害となる。君主が誠意をもって臣下を扱えば、臣下は必ず誠意をもって仕え、君主が公平である限り、臣下も公平であるように務めるだろう。
小さな問題を放置すると、やがて大きな問題も放置するようになり、国が傾く。たとえ些細なことであっても、臣下は、君主が誤った時は、君主の顔色をうかがうことなく、正しい意見を述べて諌めるべきだ。
また君主も、そういった臣下を優遇するべきだ。
臣下がすべきこと
現代で言うと「部下がすべきこと」ですが、「貞観政要」を読んだからといって部下だけが以下のような行動をすると、日本の会社ではほぼ高確率で厄介者扱いされてしまうので注意。
そんなことはほぼないとは思うけど、社長から「貞観政要を読め!」とすすめられたあなたは、以下の通り行動しましょう。
国のためを思うなら君主に意見を言え
読んでいて面白かったのが、「君主に意見をする際は、厳しい口調ではなく、やわらかい口調で、相手を立てるように諭しましょう(意訳)」という内容。
臣下に厳しく指摘された太宗が「そんなにきつく言わなくてもよくない!?(意訳)」となっている場面がありちょっと笑えた。
今まで働いた会社のうち、社長に意見するような人が重用されていたのは1社だけかな。あとは基本的にゴマすりの民たちが昇進し、「嫌なら辞めろ」という会社。
君主の逆鱗に触れることを恐れずに意見ができる臣下がいれば、国は安泰だ。
私心を滅して正しい道を守り、忌憚ない意見を言い合い、他人に同調しないこと。他人の面子を潰すことを躊躇い、不和を避けるために遠慮したり、表向きは賛同するが裏で陰口を言ったり、批判を嫌がったり恨んだりすることが横行すると、国は滅亡に向かう。
臣下は、君主の言うことに異議がある場合は必ず自分の意見を述べること。間違いを知りながらも黙っていたり、意見するのを躊躇うようなことはあってはならない。
臣下は、些細な間違いでも君主に進言し、それと同時に他人からの忠告も受け入れなければならない。人の忠告を受け入れることができない人には、人を諫めることはできない。
そのほか
役職者は重要な案件のみ担当し、軽微な仕事は部下に任せること。
同僚の些細なミスや悪口をいちいち君主に伝え、信頼関係を乱そうとしてはならない。
良い人材であれば、自分の身内であっても、自分の嫌いな者であっても推薦すべきである。
「六正」と「六邪」
臣下の行いには「六正」と「六邪」がある。六正を行えば国は栄えるが、六邪を行えば国は傾く。
六正
初期の段階で物事の良し悪しを見抜き、いずれ害をなすと判断したときは、君主に気づかれる前に未然に潰す。(第一の正:聖臣)
日々善い行いをし、君主には優れた助言をし、長所を伸ばし短所を正す。(第二の正:良臣)
規則正しい生活をし、君主をよく助け、やる気を起こさせる。(第三の正:忠臣)
物事の成功・失敗を察知して危険を早く防ぎ、ほころびの根源を断ち、君主を不安にさせないように動く。(第四の正:智臣)
法を守り、職務に忠実で、賄賂を受け取らず、過剰な報酬を辞退し、贅沢をしない。(第五の正:貞臣)
君主に媚びず、嫌な顔をされても面と向かって君主の誤りを指摘する。(第六の正:直臣)
六邪
現在の地位にあぐらをかいて仕事をさぼり、周りに流される。(第一の邪:具臣)
:君主にゴマをすり、常に褒めて喜ばせ、後の害を考えない。(第二の邪:諛臣)
口がうまく、小心者を装っているが、内心は自分より優れた人に嫉妬し、他人の欠点を強調して君主の正しい判断を妨げる。(第三の邪:奸臣)
自分の間違いを認めずごまかし、他人を唆して諍い事を増やす。(第四の邪:讒臣)
権力をむやみに振るい、責任を他人に押し付け、自分の周りのみに利益がいくように図り、君主の命令を勝手に変え、高い地位に居座る。(第五の邪:賊臣)
下心をもって君主に仕え、君主を悪いほうに導き、君主の悪評を広める。(第六の邪:亡国の臣)
後継者について
一番印象に残ったのは、「後継者をいきなり現場に配置すると現場は混乱する。事前に必要な知識を学ばせ、現場に行っても問題ないかどうか見極めたうえで配置するべきだ(意訳)。」
こんなの、現代の小さい家族経営の会社にありがちすぎるじゃん、過去から学ばなさすぎでしょ。と思って笑えました。
太宗自身も、後継者についてはなかなか頭の痛い問題だったのではないか、と読み取れる描写がいくつもあり、多くの進言を臣下からされていました。
たぶん、実子をうまく会社の後継者にするには、信頼できる社員の協力が必須なんだろうなと思わせる内容でした。
後継者として決めた子供以上に、他の子どもを優遇してはいけない。将来後継者の子が後を継いだ時に、優遇されていた子を害する可能性がある。
子供は周囲の人に影響され善にも悪にも変わる。後継者となる子には、幼いころから優れた補佐役をつけて敬わせること。多くの人と接する機会を増やし、常に礼節を教え、人格を整えるようにすべきだ。
裕福に育ち、わがままに生きることは国を亡ぼす。君主の子供は幼いころから不自由なく暮らせるため、何もしなければわがままで自分勝手な人間に育つ。
後継者となる子には、人民にとって何が良くて何が悪いのかを学ばせ、間違った言動を諫め、正しい方向に導かなければならない。徳の高い人間かどうかは、血筋や富、権力の有無ではなく、日々の行いで決まる。徳が高ければ、自ずと臣下も従うようになる。(と、後継者に教えるべきだ)
そのほか教訓
このあたりは儒教的な教えなのかな?という気がしました。儒教に詳しいわけではないので、あくまで推測ですが。
親には孝行をし、兄弟と仲良くすべきである。
酒や愛欲におぼれてはならない。
必要以上に迷信を信じたり、神頼みをしてはならない。
才能があっても、努力しなければ成功しない。
完全に余談
貞観政要の内容には一切関係がないんですが、書籍内の「君主に文集は必要ない」という節を読んで、任天堂の社長であった岩田聡さんのことを思い出しました。
ざっくりとまとめると、臣下が、太宗がこれまで書いた文章をまとめて文集を作ることを提案したところ、「君主は徳のある行いが大切なのであり、それをまとめる必要があれば史官(歴史編纂を任務とする官吏)が書きとめ後世まで伝えるだろう。わざわざ自分からまとめる必要はない」と太宗が断った話です。
ほぼ日が出版した「岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」という書籍の中で、岩田さんは自分の本を出すことに反対していた、という記述があったんですよね。
同じ書籍の中で、岩田さんは社長になってから多くの本を読んでいた、とあったので、この節を読んで、おそらく貞観政要も読んでいたんじゃないかな?と勝手に想像してしみじみしました。
おわりに
自分の身に当てはめてみても反省するところばかりでしたし、自分が今まで勤めてきた会社に当てはめてみても、こんなに昔から言われ続けていることなのに、未だにできてないんだよなあ…という感じでした。
これを社長が読んで部下にも読ませれば、もうちょっと会社がより良いものになるんじゃないだろうか?と思っていたのですが、自分がこの本を読もうと思ったきっかけが「フリーランスになり時間ができたから」なので、毎日仕事に追われる社員に対してこの厚みの本を渡すのはちょっときついかな。
楽しそう!と思って読んでもなかなか進まなかったので、「会社から読めと言われた」状態だとまず読破は難しいかなーと思いました。
ちなみに、書籍内の文章すべてをまとめたわけではなく、言ってることが同じようなところは省きました。刑罰や軍隊についての記述は、あまり生かす場面がないかな?と思い、記載していません。
文中の「六正」と「六邪」は他と重なっている部分が多く、最後まで入れるか迷いましたが、一応残しておきました。
とりあえず、なるべく謙虚に、驕らず生きようと思いました。
役に立ったらサポートしていただけるととってもうれしいです。