【DTM】Modartt Pianoteq 7(物理モデリング音源) レビュー

 Pianoteq 7がリリースされたのでレビューです。この記事を書いている段階ではバージョンは「7.0.3」、エディションは「Pro」です。

【オススメ度】:★★★☆☆

【総評】:最強の可能性を秘めているが発展途上のピアノ風音源。CC#120で再現性が無い問題が解決したことにより★1→3へ大幅ランクアップ。

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 6のレビューはこちら(pianoteqはバージョンにより音色が異なりvstiも別音源扱いなので以前のレビューはそのまま残します。)

【Pianoteq 7について】

 6→7のバージョンアップでの大きな変更点はSteinway DがNew YorkとHamburgの二種類に分かれたくらいでしょうか。7からは「Morph/Layer」という面白い機能も付いて音作りの幅が広がっていますが、音色の傾向を根本的に覆すようなレベルで音を作れる訳ではないので、あくまで「おまけ」の範囲だと思います。

 7では基本的にどのモデルも音色自体は少しづつ厚くなり、良くはなっていますが、6から劇的に進化としたという感じはなく、全体的にボヨヨンと鳴る感じはあまり変わっていません。(ただし、アップデートは€29なのでしない理由は無いと思います。)

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 個人的にはNYとHBの音のキャラクターは逆じゃないかな?という気がします(笑)。PianoteqのNYは暖かく濃厚で優しい音色の方向性で、HBはブライトで軽快が感じです。一般的には逆のイメージじゃないでしょうか?特にNYは本来はもっと金属的なイメージがありますね。

 ただ、5や6の頃から気になっていた「無駄に大きい変な金属音」が無くなっているのは地味に大きな進歩だと思います。おそらく以前はモデリング技術での再現性不足を誤魔化しリアルに聞かせるために過剰にデフォルメした金属音を入れていたものと推測されますが、それをしなくても良いレベルまでモデリング技術が進歩したという自信なのでしょうか。pianoteq 7ではどのモデルも非常に自然な金属音の表現になっています。

 しかし、前述の通り、全体的にpianoteqはボヨヨンと鳴る傾向があり、硬質さに欠ける所はあまり変わっていないので、ブライトな傾向の「Bechstein」や「K2」、「Steinway B」等の音色のモデルがその弱点をカバーして、ハードシンセのピアノ的なサウンドとしてバランス良く使える印象です。

 どの音源も使い方次第ではありますが、純粋に弱音で雰囲気を出したい等の用途であれば、SynthogyのIvoryシリーズ等の方が向くでしょう。

 一方で、Pianoteqは物理モデリング音源であるため、多くの点で他の音源より優位な点があります。

 まず、通常のサンプリング形式の音源と違い入力に応じて音色が生成されるため、ベロシティレイヤーの切れ目が無い自然な強弱表現や多彩なカスタマイズ等、収録元サンプルの制約に縛られない自由度が非常に高い音源です。(ただし、これにはデメリットもあります。詳細は後述)

 また、容量が数十MBなのもpianoteqの大きな利点です。この容量で収録サンプルに縛られずに生楽器の音色を自由に生成できるのは大容量サンプリング形式の音源より遥かに「未来」がある形式の音源だと思います。

 しかし、「容量が小さい=動作が軽い」とはならないことには注意です。24bit/48kHzくらいまでならどのPCでも非常に動作は軽快ですが、96kHzや192kHzを選択すると急激にCPUのマシンパワーを要求されますので、「PCのスペックが低くても良い」というような音源ではありませんので要注意です。

 なお、Pianoteqにはその高性能が故に未来永劫抱え続ける問題があります。それは「設定できる項目が多すぎ・複雑すぎて全ての動作を理解して使用するのは不可能」ということです(笑)。どういうことか見ていきましょう。

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 まず、一番の沼ですが、マイク設定です。各マイクのXYZ軸に加え、各マイクの音の遅延時間の設定等、ほぼ無限にセッティングできるため、ゴールが見えません(笑)。また、上記の図でもわかるように「Sound speed(空気中の音の伝達速度」まで弄れるのですが、これは一体どういう計算をしてマイキングと絡ませていけばよいのか不明です(笑)。

 特に、物理モデリングとはいえ、Pianoteqのマイクの挙動はPianoteq世界でのマイクの挙動なので、これまた特殊です。近距離では現実マイクよりシビアで極端な変化をする一方で、遠距離にしても空気感はあまり感じない鈍さがあり、これ専用の研究が必要です。

 しかし、7からはマイクの設定が若干しやすくなっております。「Mic Preset」なるものが増えており、AB、MS、ORTF、XY等の基本的な組み合わせは洗濯できるので、あとは位置や距離を変えるだけで使えるようになります。(ただ、現状のpianoteqの音色でそこまでマイク設定にこだわっても"そもそもの音色が"という気がします。)

 次に各種設定項目ですが、これも全てを理解して88鍵盤全てをエディットするのは不可能に近いと思います(笑)。なんでも設定できるという利点が裏目に出て、設定できる項目が多すぎて複雑で分からない状態です。基本的にはプリセットで少し気になる部分を変えるぐらいの使い方が現実的だと思います。

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【重要】:Pianoteqが書き出しで毎回違う結果を吐き出す問題について(CC#120 ALL SOUND OFFの入力で解決します)

 ここで一つ重要な話です。6のレビューの時に「【問題点3】ランダムな音色生成で再現性がない。」との指摘をしましたが、これについてTwitterで呟いたところ、色々な人が検証をしてくれて、解決策が見つかりました。

 まず、そもそも論としてどういう事かを書きますと、PianoteqをDAW上でバウンス/書き出しをすると、下記の画像の通り、毎回違う結果を吐き出します。最大レベルも違えば、鳴り方の定位も違うのでこれは非常に困った問題でした。(スタンドアローン版で書き出す場合は同じ結果を吐き出すようです。)

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 この話をTwitterで呟いたところ、色々な人が検証してくれて、「CC#120 ALL SOUND OFF」等のリセットを曲の先頭等に入れれば結果は完全に一致する事が判明しました。

 これはvsti版でDAWの停止とリセットの連動に関するプログラムミス/バグなのか、ModarttにとってはCC#120を先頭に入れるのが前提の作りなのか原因は不明です。少なくともスタンドアローン版ではCC#120の有無に関わらず、毎回同じ結果を吐き出すと言われていることから、Pianoteq自体がランダムで違う結果を吐き出すことは製作者の意図ではないように思われます。

 なお、逆相でぶつけると微妙に違うとの人もいましたが、Sympathetic resonanceやDuplex scale等の動作が怪しい後付けエフェクトをOFFにし忘れているものと思われます。私の環境では完全にドライにして、書き出したところ、完全に一致し、逆相で当てても完全に音が消えました。

検証a

 ということで、pianoteqを使う際には先頭に「CC#120 ALL SOUND OFF」を入れることで、何度書き出しても同じ結果になりますので、音源をきちんと制御したい人は「CC#120」を入れるのが良いでしょう。逆に、あえてランダムで変化させたい場合にはCC#120を入れないまま使うのもアリかもしれません。

 ただ、これは以前より書いていることですが、そもそも論として、毎回ランダムで楽器の音が変わるのは物理現象としておかしいのです。現実の楽器の録音で毎回同じにならない事と、楽器が毎回ランダムで違う音を出すことはイコールではありません。

 現実では気温・湿度・楽器の状態・マイキング・電圧・奏者の位置・演奏の違い等の様々な条件が完全一致しないため、同じにならないだけであり、「全く同じ条件」であれば楽器の動作も物理現象として同じ結果にならなければおかしい訳です。(どちらが好きか/良いかの問題とは別です。)

 また、現実においても音色変化は前述の条件に伴う物理法則に従い変化しているのであり、所謂各鍵盤が理由なく「ランダム」に鳴っているではないのです。

 この辺りは誤った理解が広まっていると思います。ドラムのマシンガン問題等を解決するために、単純にランダムでサンプルを切り替えるラウンドロビン等は「現状の技術における回避策」としてはありだと思いますが、本来の形としては一撃目と二撃目の違いは物理現象として理由のある違いであってそれを正確にシミュレートすべきであり、ランダムで勝手に音色が変わるのは本来の形ではないと思います。

 その「本来こうあるべき論」の考え方が「既存技術の限界による固定概念」に引きずられて忘れられてしまったり錯誤されてしまうと本当に良いものはできなくなってしまうのではないかなと思います。

 なお、CC#120で同じ結果を吐き出すようになるとは言え、Pianoteqの性質上、アップデート等で動作が変わる可能性があるので、後から再編集する可能性がある大事な曲等を作る時はオーディオ化しておいた方が無難です。

 後は以下、6のレビューと被るところも多いですが、基本的なところのレビューを7に合わせて改訂して改めて掲載いたします。

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 6のレビューでも書きましたが、スタンドアローン版が非常に気が利いていています。「Recently played on the keyboard」と自分が弾いた直近の内容が自動でMIDIで記憶される設定になっており、サクッとアドリブで弾いたり軽くスケッチで作曲したフレーズ確認をするのに非常に便利です。(一定時間、間隔を置くと別の曲と認識して別のMIDIファイルとして保存します。一定期間を超えると古いものから自動で消えていく設定もできるので自分で消さなくても大丈夫です。)

【最後に】

 Pianoteqは毎回必ず即アップデートしていますが、まだまだ発展途上だと思います。一番はやはり音色です。現時点ではまだこれはPianoteqという楽器であり、純粋なピアノ音源としてはまだまだ遠いなと思います。(もちろん今の音色でも使い道はいっぱいあります)

 特に、欠点として音域により得意不得意がモロに出ています。所謂61鍵盤の範囲位まではそこそこ良いと思いますが、その範囲外の高音域、低音域の音色は急激に凄く嘘っぽい感じになっていきます。

 ただ、これは6のレビューでも書きましたが、この辺りは単純なモデリング技術云々よりも、製作者の思想により、技術以上に良く聴かせることも、技術以下にしか聴こえない風にもなる部分です。昔のハードシンセが低容量ペラペラの波形でも良い音色で鳴るのは各メーカーのサウンドデザインが非常に優れているからでしょう。

 そういう意味で、PianoteqもとよりModarttはモデリング技術のレベルの高さの割にはサウンドデザインがあまり上手でない印象です。しかし、前述の通り7からは無駄に大きい変な金属音でのデフォルメが無くなったり等の進歩が見えてきており、5〜6の路線迷走から抜け出した感じがしますので今後には大きく期待できると思っています。

 さらに言えばPianoteqは物理モデリングである為、サンプリング形式とは違い、プチノイズやピッチのずれ、鍵盤毎の音量、定位の収録上のミスが発生しない上に、エディットの可能性は無限大という最大の長所がありますので、音色の傾向さえ良くなれば間違いなく最強です。

 これからもアドオン、アップデートは購入していきます。是非ともModarttには今後も頑張っていただきたいところです。

本記事は以上です。



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