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R.E.M.『Murmur』徹底解説

R.E.M.のデビューアルバム『Murmur』は、1983年にリリースされ、オルタナティブロックの重要な作品として評価されています。今回はその作品について詳しく紹介していきます。

R.E.M.は1980年にジョージア州アセンズで結成されました。メンバーはマイケル・スタイプ(ボーカル)、ピーター・バック(ギター)、マイク・ミルズ(ベース)、ビル・ベリー(ドラム)です。バンドは地元で早くから支持を集め、初期のパフォーマンスやEP『Chronic Town』(1982年)がデビューアルバムの土台となりました。彼らはI.R.S.レコードと契約し、プロデューサーのミッチ・イースターとドン・ディクソンと協力してアルバムを制作しました。

制作過程

『Murmur』の制作はノースカロライナ州シャーロットにあるReflection Studiosで行われました。このスタジオは主に宗教番組の録音に使用されていた24トラックの施設で、R.E.M.が選んだのは意外な場所でしたが、結果的にこの選択がアルバムの独特な音響を生み出すことになりました。

当初、バンドはプロデューサーのスティーヴン・ヘイグとデモセッションを行いました。しかし、ヘイグのスタイルはバンドのビジョンと合わず、バンドはミッチ・イースターとドン・ディクソンに再び協力を求めました。イースターとディクソンは、バンドの初期のEP『Chronic Town』の制作にも関わっており、R.E.M.のサウンドとビジョンを深く理解していました​ 。

録音プロセス
アルバム『Murmur』の録音は非常に自由で実験的に行われました。ピーター・バックのギターは、従来のロックンロールのクリシェを避け、リズミカルで独創的な演奏を追求しました。マイク・ミルズのベースラインはメロディアスで、ビル・ベリーのドラムビートと共にバンド全体の一体感を支えています。多くの曲が一発録りで録音され、そのため生々しいエネルギーがアルバム全体に溢れています。プロデューサーのミッチ・イースターとドン・ディクソンは、ユニークな録音技術を駆使してアルバムの音響を仕上げました。こちらは楽曲紹介の方で紹介します。

クリエイティブな実験
スタジオでの録音セッションは、バンドメンバーがさまざまなクリエイティブな実験を行う場となりました。例えば、マイケル・スタイプはボーカルを暗い階段の踊り場で録音し、音響効果を最大限に活用しました。ピーター・バックはギターのリバーブを強調するために、アコースティックギターを使ったリフを録音し、そのままリバーブだけを残すという手法を取りました。また、ドラムのサウンドを変化させるために、ビル・ベリーはテーブルの脚を叩いたり、他の物体を使ってリズムを作り出しました​。


他に注目すべきは抽象的で意味不明な歌詞です。マイケル・スタイプの書く歌詞は難解なことで知られており、多義的な意味を持っています。なので歌詞を解説するか迷いましたが、やめることにしました。




DIY精神
R.E.M.は、アルバム制作においてレーベルやスタジオのアドバイスを無視し、完全に自分たちのビジョンを追求しました。例えば、アルバムジャケットのデザインに関して、レーベルからの「販売潜在力を最大化するためのアドバイス」を無視し、クズウに覆われたフィールドの写真を使用しました。

ツアーのパートナー選びにおいても、R.E.M.は自主性を保ち、DIY精神を貫きました。彼らはThe Minutemenというバンドをツアーパートナーに選びました。The Minutemenは、R.E.M.と同様にインディペンデントな精神を持つバンドであり、この選択はR.E.M.のこだわりと意図が伝わってきます。


楽曲紹介

1. 「Radio Free Europe」

「Radio Free Europe」は、R.E.M.の初期の代表曲で、1981年にシングルとしてリリースされ、1983年の『Murmur』で再録音されました。曲は冷戦時代の情報操作と自由な報道をテーマにしています。「Radio Free Europe」の冒頭の不思議なバズ音は、マイク・ミルズのベースをノイズゲートを通してフィルタリングすることで作り出されました。ピーター・バックのジャングリーギターとマイク・ミルズの力強いベースラインが際立っています。曲全体が持つエネルギッシュで反抗的な雰囲気が、この曲をバンドの象徴的な作品としています​ 。

Beside yourself if radio's gonna stay
ラジオが続くなら、気が動転するだろう
Reason, it could polish up the gray
理由、それは曖昧なものを明確にするから
Put that, put that, put that up your wall
それを壁に掲げて
That this isn't country at all
これは全くカントリーじゃない


2. 「Pilgrimage」

「Pilgrimage」は、独特のドラムビートとメロディアスなベースラインが特徴です。曲の構造はマイケル・スタイプの控えめなボーカルから始まり、徐々に盛り上がりを見せます。曲の後半での繰り返されるコーラス部分で、ここでのボーカルと楽器の一体感は圧巻です。この曲は宗教的な巡礼をテーマにしているようですが、よく意味がわからない多義的なものとなっています。特に注目すべきはバックのギターがGang of Fouの影響を受けている点で、これが曲に独特のリズムをもたらしています​。


3. 「Laughing」

「Laughing」は、キャッチーなギターメロディとリズミカルなドラムが特徴の曲です。歌詞はギリシャ・ローマ神話のラオコーンの物語に触発されています。ラオコーン物語は二人の息子と共に海の蛇に食べられてしまうという悲劇的な話です。歌詞解読が難しいこともこの曲の特徴であり、ファン同士が集まって歌詞を解読しようとするほどの熱狂を生みました。実際に歌詞の意味はわかりません。

[verse 1]
Laocoön and her two sons
ラオコーンとその二人の息子
Pressured storm, try to move
嵐に圧迫され、動こうとする
No other more emotion bound
他にこれほど感情に縛られるものはない
Martyred, misconstrued
殉教し、誤解される

[chorus]
Lighted
照らされて
In a room
部屋の中で
Lanky room
細長い部屋
Lighted, lighted
照らされて、照らされて
Laughing in tune
調子を合わせて笑う
Lighted, lighted
照らされて、照らされて
Laughing
笑う


4. 「Talk About The Passion」

ピーター・バックの特徴的な12弦リッケンバッカーギターによるリング状のリフで始まります。このリフは曲全体にわたって繰り返され、耳に残るメロディを形成しています。「empty prayer, empty mouths」(空虚な祈り、空虚な口)というフレーズが繰り返されます。

[verse]
Empty prayer, empty mouths
空虚な祈り、空虚な口
Combien reaction
いくつの反応
Empty prayer, empty mouths
空虚な祈り、空虚な口
Talk about the passion
情熱について語る
Not everyone can carry the weight of the world
誰もが世界の重荷を背負えるわけではない
Not everyone can carry the weight of the world
誰もが世界の重荷を背負えるわけではない


5. 「Moral Kiosk」

「Moral Kiosk」は、エネルギッシュなリズムと力強いギターワークが特徴の曲です。暗示的で抽象的な歌詞が特徴で、社会的な偽善や道徳的な規範についての批判を込めています。バンドのエネルギッシュなパフォーマンスを代表する曲でもあり、ライブでの人気曲です。

[verse 1]
Scratch the scandals in the twilight
黄昏のスキャンダルを引っ掻く
Trying to shock, but instead
驚かせようとするが、代わりに
Idle hands all orient to her
怠けた手が彼女に向かう
Pass a magic pillow under head
頭の下に魔法の枕を通す

[chorus]
It's so much more attractive
もっと魅力的だ
Inside the moral kiosk
道徳的なキオスクの中で
Inside cold dark fire twilight
冷たく暗い火の黄昏の中で
Inside cold dark fire twilight
冷たく暗い火の黄昏の中で

[verse 2]
Scratch the scandals in the twilight
黄昏のスキャンダルを引っ掻く
She was laughing like a Horae
彼女はホライのように笑っていた
Without being sour landslide
酸味のない地滑りのように
Take the steps to dash a roving eye
さまよい目を走らせるためにステップを踏む


6. 「Perfect Circle」

「Perfect Circle」は、アルバムの中でも特に感動的なバラードとして知られています。ピアノの美しい旋律と穏やかなボーカルになっています。


7. 「Catapult」

「Catapult」は、ピーター・バックのギターが特に際立つ楽曲です。彼のギタープレイは、曲全体をリードし、リフが曲の推進力となっています。ピーター・バックのギターは、アコースティックとエレクトリックの組み合わせで、曲に独特のテクスチャーを加えています。クラシックなロックの要素とインディーロックの要素が絶妙に混ざり合っていて、どこか懐かしさを感じさせると同時に、新鮮な印象も与えます。


8. 「Sitting Still」

「Sitting Still」はキャッチーなメロディとリズミカルなギターが特徴です。ギターのリフが耳に残る一曲であり、バンドのシンプルでなアプローチが存分に生かされた曲です。​歌詞の解釈が難しい曲でもあります。


9. 「9-9」

「9-9」のサウンドは非常に実験的で、他の曲とは一線を画しています。ピーター・バックのギターはアグレッシブなリフを刻んでおり、ビル・ベリーのドラムは複雑なリズムパターンを駆使しており、曲のドライブ感を与えています。「9-9」というタイトルも意味が不明で、歌詞も抽象的で解釈が難しいです。しかし、曲全体からはR.E.M.の実験的な側面と、音楽に対する深い探求心を感じることができます。


10. 「Shaking Through」

ピーター・バックのギターとマイク・ミルズのピアノが対話するように演奏されている点が特徴です。バックのギターアルペジオが一方のスピーカーから、ミルズのピアノがもう一方のスピーカーから聴こえてくるミックスが、楽曲に奥行きを与えています。この曲のコーラス部分のハーモニーが美しい曲でもあります。


11. 「We Walk」

ピーター・バックのギターとマイク・ミルズのベースが主軸となり、そのリズムセクションは非常に軽快で、曲全体に明るいトーンを与えています。曲の終盤に挿入される断続的な鈍い音はビル・ベリーがプールで遊ぶ音をスロー再生したものです。このエフェクトが軽快な曲に独特の面白みと不穏さを加えています。


12. 「West Of The Fields」

アルバムの最後を締めくくるにふさわしい力強さとエネルギーを持った曲です。ピーター・バックの鋭いギターリフとビル・ベリーの力強いドラムが、曲全体を引っ張っていきます。



Easter and Dixon experimented with unusual recording methods, which created an air of mystery to the album’s sound. The curious buzzing sound that introduces ‘Radio Free Europe’ was achieved by filtering Mike Mills’ bass through a noise gate, whilst the intermittent dull thud on ‘We Walk’ was a slowed-down recording of Bill Berry playing pool.

イースターとディクソンは、異例の録音方法を試み、その結果、アルバムのサウンドに神秘的な雰囲気をもたらしました。「Radio Free Europe」の冒頭の不思議なバズ音は、マイク・ミルズのベースをノイズゲートを通してフィルタリングすることで作り出されました。また、「We Walk」の断続的な鈍い音は、ビル・ベリーがプールで遊ぶ音をスロー再生したものです。

https://www.clashmusic.com/features/classic-albums-r-e-m-murmur/


評価と影響

『Murmur』は、その革新的なサウンドとスタイルで批評家から絶賛されました。ローリング・ストーン誌はこのアルバムを1983年の年間ベストアルバムに選び、マイケル・ジャクソンの『Thriller』をも凌駕する作品として評価しました。アルバムは後にゴールドディスクに認定され、R.E.M.のキャリアを確固たるものとしました。他にもピッチフォークは10点満点中10点をつけました。

『Murmur』はオルタナティブロックのジャンルに多大な影響を与え、多くのアーティストにインスピレーションを与えました。NirvanaRadioheadといったバンドも、このアルバムから影響を受けたとされています。


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