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アデル『21』徹底解説


アルバムの制作過程

「21」は、アデルが深刻な破局を経験した後に制作されたアルバムです。このアルバムは、彼女の個人的な感情の記録であり、その制作過程には多くの困難と感情の揺れ動きが伴いました。アデル自身がインタビューで語っているように、このアルバムは失恋に伴う感情の記録と言えます。

アデルはポール・エプワース、ライアン・テダー、リック・ルービンなどの著名なプロデューサーとコラボレーションし、『21』の制作に臨みました。これらのプロデューサーは、それぞれの楽曲に独自のスタイルと深みを与え、アルバム全体に一貫したテーマと感情を持たせました。

特に、ポール・エプワースとのコラボレーションは、サウンドに大きな影響を与えました。エプワースは大名曲「Rolling in the Deep」で、アデルのボーカルの力強さと感情を最大限に引き出すプロデュースを行いました。また、ライアン・テダーとのコラボレーションでは、「Rumour Has It」「Turning Tables」のような楽曲が生まれました。リック・ルービンとのコラボレーションも重要な要素でした。ルービンはアデルの自然なボーカルスタイルを尊重しつつ、楽曲に深みとダイナミクスを加えるプロデュースを行いました。「Don't You Remember」のような楽曲は、カントリーミュージックの影響を受けたシンプルで美しいアレンジが特徴で、アデルの柔らかなボーカルが際立っています。アデルの成功に大きく貢献したもう一人の重要人物が、トップミキサーのトム・エルムハーストです。彼はアデルの大ヒットシングルのうち3曲をミックスしました。


「21」の制作過程で、アデルは自身の感情を深く掘り下げ、それを音楽に昇華させることに成功しました。アデルはインタビューで、アルバムの制作が自分にとって感情的な解放の手段であり、同時に癒しのプロセスであったと語っています。

さらに、アデルは「21」の制作にあたり、アメリカ南部を訪れることで新たな音楽的影響を受けました。彼女はツアー中にナッシュビルなどの都市を訪れ、カントリーミュージックの巨匠たちから影響を受けました。これにより、アルバムにはカントリーやアメリカーナの要素が取り入れられ、音楽的幅が広がりました。

追加情報として、アデルは子供の頃からエタ・ジェイムスを尊敬していて、最初のコンサートは母親と一緒に行ったThe Cureのライブだったらしいです。またアデルが大好きなビヨンセはアデルのことを「彼女は70年代のアーティストが行ったように、今のアーティストが行かない場所に連れて行ってくれる」と称賛しています。もっとアデルのアルバムに関する周辺情報を知りたい人は以下のピッチフォークの記事を読んでください。これらの情報からアデルがどんなアーティストを聞いてきたか音楽遍歴が分かってきます。



アデルの『21』に関わったプロデューサが他に手掛けた作品

ポール・エプワース (Paul Epworth)
ポール・エプワースは、多くの有名アーティストと共に素晴らしい作品を手掛けてきました。彼は、フローレンス・アンド・ザ・マシーンのアルバム『Lungs』と『Ceremonials』でのプロデュースや、リハンナ、ブロック・パーティ、プライマル・スクリームなどのアーティストとの仕事で知られています。

ライアン・テダー (Ryan Tedder)
ライアン・テダーは、OneRepublicのフロントマンとしてだけでなく、数多くのヒット曲をプロデュースすることで知られています。彼は、ビヨンセの「Halo」やリアーナの「Umbrella」、ル・ルーの「Bleeding Love」など、多くのポップスのヒット曲を手掛けています。また、テイラー・スウィフト、エド・シーラン、ジェニファー・ロペスなどのアーティストともコラボレーションしています。

リック・ルービン (Rick Rubin)
リック・ルービンは、音楽プロデューサーとしてのキャリアを通じて、多くのジャンルで成功を収めています。彼は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、メタリカ、ジョニー・キャッシュ、Run-D.M.C.、Jay-Zなど、ロックからヒップホップ、カントリーまで幅広いアーティストと仕事をしてきました。



商業的成功と影響
「21」のリリース後、アデルのキャリアはさらに飛躍しました。アルバムは世界中で大ヒットし、特にアメリカとイギリスでの成功は驚異的でした。アメリカでは、ビルボードアルバムチャートで10週間トップを維持し、複数のプラチナ認定を受けました​ ​。また、イギリスでは13週間連続で1位を獲得し、10倍のプラチナ認定を受けました​。これはアメリカとイギリスのチャート史上、女性ソロアーティストによる最長のNo.1アルバムとして記録されています。

このアルバムの成功は、複数のヒットシングルによってさらに後押しされました。「Rolling In The Deep」と「Someone Like You」は特に大ヒットし、前者は13カ国以上で1位を獲得し、アメリカでは400万枚以上を売り上げました​ 。



収録曲


1 「Rolling In The Deep」
「Rolling in the Deep」はアデルのセカンドアルバム「21」からの最初のシングルであり、R&Bとソウルの要素を持つ曲です。この曲では、アデルを捨ててモデルと付き合った元恋人に対しての辛い別れを経験した後の怒りと悲しみを描いています。曲のタイトルは、イギリスのスラングで「誰かがあなたの後ろ盾になる」という意味らしいです。この曲はリリース後、多くの国でチャートのトップに立ち、アデルのキャリアを大きく飛躍させる曲となりました。いまではアデルの代表曲として多くの人に認知されています。

[Verse 1]
There's a fire starting in my heart
心に火が灯り始めた
Reaching a fever pitch and it's bringing me out the dark
それはどんどん燃え上がり、暗闇から引き出している
Finally, I can see you crystal clear
やっと、あなたがはっきり見える
Go ahead and sell me out and I'll lay your shit bare
私を裏切ってもいい、でもあなたの本性を暴くから
See how I'll leave with every piece of you
あなたの全てを持ち去る私を見て
Don't underestimate the things that I will do
私が何をするかを侮らないで
There's a fire starting in my heart
心に火が灯り始めた
Reaching a fever pitch, and it's bringing me out the dark
それはどんどん燃え上がり、暗闇から引き出している


2 「Rumour Has It」
「Rumour Has It」はR&B、ポップ、ジャズの要素を持つ曲で、アルバムからの4番目のシングルです。この曲は、ライアン・テダーとのコラボレーションによって生まれました。テダーはこの曲をプロデュースする際、アデルのボーカルを際立たせるためにリズミカルなビートとシンプルなアレンジを施しました。歌詞はアデルの友人の実際の経験に触発されて書かれました。友人が苦しい別れを経験し、その後に元恋人が噂を広めたことがきっかけとなっています。


3 「Turning Tables」
「Turning Tables」はポップビートの曲で、アルバムの最後のシングルです。この曲は関係の終わりについて歌っており、アデルは元恋人の態度や気分の浮き沈みに耐えられなくなったことを描いています。アデルはこの曲を通じて、元恋人に対する怒りと失望を表現しながら、関係を終わらせる決意を表明しています。

ライアン・テダーとの共同作業で作られたこの曲は、アデルがスタジオに到着する直前に経験した感情を反映したものです。テダーはこの曲のプロデュースにおいて、アデルの感情的なボーカルを引き立てるために、シンプルで力強いアレンジを施しました。

[Chorus]
So I won't let you close enough to hurt me
だからもう傷つけられる距離には近づけない
No, I won't rescue you to just desert me
見捨てられるために助けたりしない
I can't give you the heart you think you gave me
あなたがくれたと思ってる心は返せない
It's time to say goodbye to turning tables
気まぐれに振り回されるのはもう終わり
To turning tables
振り回されるのはもう終わり


4 「Don't You Remember」
歌詞の中でアデルは元恋人に「なぜ自分を愛していたのか」を思い出してほしいと問いかけています。彼女は関係がどこで間違ってしまったのかを考え続け、さらにその答えが見つからないことに苦しんでいます。

[Verse 2]
When was the last time that you thought of me?
最後に私を思い出したのはいつ?
Or have you completely erased me from your memory?
それとももう完全に記憶から消してしまったの?
I often think about where I went wrong
どこで間違えたのかよく考えるけど
The more I do, the less I know
考えれば考えるほど、分からなくなる


5「Set Fire to the Rain」
「Set Fire to the Rain」は、アデルのアルバム「21」からのヒットシングルの一つで、ポップとソウルの要素が融合した楽曲です。この曲はアデルが内面の葛藤と愛の喪失を歌ったもので、このアルバムの中で一番強烈なボーカルが特徴です。アデルはこの曲を通じて、自分がどれだけ深く傷ついたか、そしてその感情がどれほど複雑であったかを訴えています。

プロデューサーのフレーザー・T・スミスとのコラボレーションにより、この曲は非常に緻密で感情豊かなアレンジが施されています。スミスはアデルのボーカルを際立たせるために、ライブドラムサウンドと豪華なストリングスセクションを取り入れました。これにより非常にドラマチックで印象的なサウンドに仕上がっています。

[Chorus]
But I set fire to the rain
でも私は雨に火をつけた
Watched it pour as I touched your face
それが降り注ぐのを見ながら、あなたの顔に触れた
Well, it burned while I cried
涙を流しながら、それが燃え上がった
'Cause I heard it screamin' out your name
あなたの名前を叫んでいるのを聞いたから
Your name
あなたの名前を


6 「He Won't Go」
R&Bとソウルの影響を強く受けたメロディが特徴の曲です。アデルは、困難な状況に直面している友人の物語を元にこの曲を作りました​。そのため、友人や家族の支えに対する感謝と、困難な状況でも愛する人を支え続けることの重要性をテーマにしています。


7「Take It All」
アデルが元恋人との関係を振り返り、その関係が終わりを迎える瞬間の感情を描いたバラード曲です。


8「I'll Be Waiting」
アルバム『21』の中でもアップテンポな楽曲で、ポップロックの要素を取り入れています。この曲は、別れた後でも元恋人が戻ってくるのを待つという願いが込められた楽曲です。

[Chorus]
I'll be waiting for you when you're ready to love me again
あなたがもう一度私を愛する準備ができるのを待っている
I'll put my hands up
手を挙げて
I'll do everything different, I'll be better to you
全てを変えて、もっとあなたに尽くす
I'll be waiting for you when you're ready to love me again
あなたがもう一度私を愛する準備ができるのを待っている
I'll put my hands up
手を挙げて
I'll be somebody different, I'll be better to you
違う人になって、もっとあなたに優しくする


9 「One and Only」
アデルが真実の愛を求める心情を歌ったソウルフルなバラード曲です。この曲では、


10「Lovesong」
この曲はアデルがThe Cureの「Lovesong」をカバーしたもので、彼女の独自の解釈とアレンジが加えられています。アデルがこの曲を選んだ背景には、彼女自身の音楽的なルーツと深い繋がりがあります。The Cureは先ほども書いた通り、アデルが初めてコンサートを見に行ったアーティストであり、影響を受けたアーティストのです。数々のオリジナル曲で構成されているアルバムの中で、この曲をカバーすることを選んだのは、アデルが『21』というアルバムを通じて自分自身を記録に残したいという強い思いがあったからではないかと思います。アデルにとって『21』は自身の人生や感情のドキュメントです。そのため、より個人的なことにフォーカスを当てたアルバムにしたかったからこの曲を選んだのかもしれません。

アデルはこのカバーを通じて、オリジナル曲の持つメランコリックな雰囲気を維持しつつ、自分自身のスタイルを取り入れることで新たな命を吹き込んでいます。アデルのバージョンはよりシンプルで、感情のこもったボーカルが際立つアレンジが特徴です。


11「Someone Like You」
「Someone Like You」はアルバム「21」の最後を締めくくる曲であり、アデルの代表曲の一つです。この曲は特にファンの間で非常に人気が高く、ストリーミングサービスでアデルの楽曲の中で1位になることが多いです。アデル自身もこの曲が好きだと公言しています。この曲のテーマは彼との関係の終わりを受け入れ、彼の幸せを願うというものです。

アルバムの冒頭では怒りや復讐心が見られますが、「Someone Like You」では、アデルが前向きに関係を終わらせる姿勢を示しています。アデルは過去の関係を思い出しながらも、それを乗り越えて新たな一歩を踏み出す力を得たと歌っています。まさにアルバムの最後の曲にふさわしいですね。この曲の特徴は、シンプルなピアノの旋律とアデルの感情豊かなボーカルです。アデルはこの曲を書くことで、失恋の痛みとそれに伴う感情をみごと音楽に昇華させました。

[Chorus]
Never mind, I'll find someone like you
大丈夫、あなたのような人を見つけるから
I wish nothing but the best for you, too
あなたにも幸せを祈ってる
Don't forget me, I beg
私を忘れないで、お願いだから
I remember you said
あなたが言ってたのを覚えている
Sometimes it lasts in love, but sometimes it hurts instead
時には愛が続くこともあるけど、時には痛みを伴うこともあるって
Sometimes it lasts in love, but sometimes it hurts instead
時には愛が続くこともあるけど、時には痛みを伴うこともあるって



おまけ

「Rolling in the Deep」や「Set Fire to the Rain」などのヒット曲の制作過程には、非常に興味深いエピソードがあります。これらのエピソードを知ることで、曲がどのようにして形作られたのか、その背景にあるクリエイティブなプロセスに対する理解が深まると思います。

「Rolling in the Deep」の制作エピソード
「Rolling in the Deep」の制作過程では、ポール・エプワースがジャズのリフを試している最中に、アデルがアカペラで歌い始めましたそうです。この瞬間が最終的なメロディの基盤となったという話は、非常に衝撃的です。アカペラで即興的に歌い、それがそのままメロディに発展するなんて、アデルの並外れた歌唱力と創造性がなければ成し得ないことです。実際にこのエピソードを知った後に曲を聴くと、とてもそうは思えないほど完成されています。


「Set Fire to the Rain」の制作エピソード
「Set Fire to the Rain」では、プロデューサーのフレーザー・T・スミスが最初に作ったデモをそのまま最終的なプロダクションに使用したそうです。スミスは、アデルのボーカルを引き立てるために、ライブドラムと豪華なストリングスセクションを取り入れ、この曲にドラマチックな要素を加えました。この曲が持つ壮大な雰囲気は、スミスの巧みなアレンジによるものです。このエピソードを知ってから「Set Fire to the Rain」を聴くと、最初に作ったデモの段階から既に完成度が高かったことがわかります。





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