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音楽界の奇才フィオナ・アップル その全アルバムを徹底解説します


はじめに

フィオナ・アップルは、アメリカのシンガーソングライターであり、その独自の音楽スタイルとで広く知られています。1977年9月13日にニューヨークで生まれたフィオナは、音楽一家に育ち、幼少期からピアノを学び始めました。母親は歌手であり、父親は俳優という環境の中で、彼女の音楽的才能は早い段階で開花しました。

フィオナの音楽は、ジャズ、ブルース、クラシック、ロックなどの多様な影響を受けています。またフィオナ・アップルの歌詞は、個人的な経験や感情を反映したものになっていて私小説的です。フィオナの低い声は特徴的で、感情の起伏を繊細に表現することができ、素晴らしいボーカリストでもあります。

フィオナ・アップルのキャリアは、1996年のデビューアルバム『Tidal』から始まりました。このアルバムは、彼女が19歳の時にリリースされ、一躍注目を浴びました。特にシングル「Criminal」が大ヒットし、彼女の名前を一躍世間に知らしめました。

その後、フィオナは独自の音楽スタイルをさらに発展させ、セカンドアルバム『When the Pawn...』では、より成熟した音楽と歌詞を披露しました。このアルバムは、フィオナの音楽的成長を示すものであり、批評家からも高い評価を受けました。

この記事では、フィオナ・アップルのキャリア全体を振り返り、彼女の音楽がどのように進化し、どのような影響を与えてきたのかを解説します。ぜひ最後まで読んでいってください。

1. 『Tidal』


フィオナ・アップルのデビューアルバム『Tidal』は、1996年7月23日にエピック・レコードからリリースされました。このアルバムは、彼女がまだ10代の頃に書きためた楽曲を収録しており、その若さにもかかわらず、非常に成熟した音楽性と深いリリックを特徴としています。プロデューサーのアンドリュー・スレイターと共に制作された『Tidal』は、ジャズ、ブルース、ロックの要素を巧みに取り入れ、フィオナの独特なボーカルスタイルを際立たせました。

アルバムのリードシングル「Criminal」は、特に大きな成功を収めました。この曲は、フィオナが自身の罪悪感や自己認識をテーマにしており、その強烈なリリックとキャッチーなメロディで多くの人を魅了しました。「Criminal」はビルボードチャートで高順位を記録し、1998年にはMTV Video Music Awardsで最優秀新人賞を受賞しました。この受賞は、フィオナ・アップルの音楽キャリアにおいて重要な転機となり、フィオナ・アップルを一躍スターダムに押し上げました。この授賞式は後でくわしく書きますがフィオナ・アップルは「This world is bullshit(この世界はクソだ)」と言い放ちました。それにはこの「Criminal」のMVでセクシーな格好をさせられたことが関係しているらしいです。


『Tidal』は、他の楽曲も高く評価されています。「Shadowboxer」や「Sleep to Dream」などの曲は、フィオナの鋭い観察眼と感情の深さが際立っていて、批評家からも絶賛されました。アルバム全体が持つダークで感傷的なトーンが印象的です。

アルバムの成功は、フィオナの音楽スタイルと彼女の個人的な物語が、多くの人々に共感を呼んだことによるものでした。『Tidal』のリリースからわずか数ヶ月で、このアルバムはプラチナディスクに認定され、フィオナ・アップルの名前は広く知られるようになりました。このアルバムが示したフィオナの才能と表現力は、その後の作品にも大きな影響を与え続けています。

2.『When the Pawn...』


アルバム制作背景

フィオナ・アップルのセカンドアルバム『When the Pawn...』は、1999年11月9日にエピック・レコードからリリースされました。1999年にリリースされたアルバム『When the Pawn...』のタイトルに使われた90語の詩は、フィオナ・アップルの自分自身への励ましの言葉でした。「自分が正しいことを知っていれば、落ちても大丈夫」と彼女は書いています。


アルバムのジャケットには彼女の笑顔が写っており、これは前作『Tidal』のぼやけたクールなトーンとは対照的です。『When the Pawn...』は、フィオナが自分の物語を取り戻すために作られたアルバムです。1999年にリリースされたこのアルバムは、彼女が最初のアルバム制作時にコントロールできなかった出来事を振り返り、昇華する機会になりました。

例えば、「Criminal」のビデオでの彼女の下着姿の演技を求められたことや、1997年のVMAでの「この世界はクソだ」というスピーチが誤解されたことなどです。特にフィオナ・アップルの1997年のVMAでのスピーチは非常に衝撃的でした。そのスピーチの中でフィオナは「This world is bullshit(この世界はクソだ)」と発言しました。これは下にはってあるYouTubeの映像を実際に見てみてください。この言葉は消費主義やセレブリティ崇拝に対するフィオナなりの批判を示していて、視聴者に強烈なインパクトを与えました。


フィオナはこのスピーチで、「Go with yourself(自分自身でいろ)」とも訴えました。しかしこの言葉よりも、消費主義やセレブリティ崇拝を否定する言葉が独り歩きしていきました。そのため、このスピーチが放送された瞬間から、彼女は一部の人々に「変わり者」と見なされました。

フィオナは「Criminal」ビデオへのダブルスタンダードの反発にも言及しています。マーク・ロマネクが監督したこのビデオは、「やせたカルバン・クラインモデルのように見える」とThe New Yorker誌が書いたように、VMAを受賞し、曲自体もグラミー賞の最優秀女性ロック・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞しました。しかしフィオナ・アップルがセクシーでいることに対する嫌悪感を表明したとき、特にメディアや一部のファンが批判しました。つまり、フィオナがセクシーに見えることを期待しながらそのイメージに抵抗することは許されなかったわけです。「Limp」でフィオナ・アップルはこのパラドックスを一行でまとめています。「You fondle my trigger then you blame my gun」(あなたは私の引き金を弄るけど、私の銃を非難するのね)。この歌詞は自分のセクシュアリティを利用しながらも、それを非難する人々への怒りを表現しています。

このアルバムの制作は1998年から1999年にかけて行われ、プロデューサーにはジョン・ブライオンが起用されました。ジョン・ブライオンはフィオナのピアノ中心の楽曲に多彩なアレンジを施し、アルバム全体に統一感を持たせています。フィオナの音楽は、ジャズ、ロック、ポップの要素を融合させた独自のスタイルであり、その実験的なアプローチが際立っています。


『When the Pawn...』の音楽スタイルとリリック


「On the Bound」 はアルバムのオープニングを飾る強力な曲で、フィオナ・アップルの代表作の一つです。この曲は、シンプルなコーラス「You're all I need(あなたがすべて必要)」を何度も繰り返しながら、非常にキャッチーであり、純粋な怒りが感じられます。この曲は愛についてのものですが、フィオナならではの独特な方法で表現されています。


「Paper Bag」は、期待と現実のギャップを描いた曲で、フィオナ・アップルの特徴的なリリックとボーカルスタイルが光ります。この曲では、フィオナが自分の期待が実際には空虚なものであったことを語ります。彼女のボーカルはジャズの影響を受けた独特の音程の飛躍を持ち、リズミカルなアレンジが特徴です。

I thought it was a bird, but it was just a paper bag
私はそれを鳥だと思ったけど、それはただの紙袋だった


「Fast as You Can」 は、フィオナが自分自身を過小評価しないよう警告する内容です。この曲は複数のテンポチェンジと不規則なリズムパターンが特徴で、フィオナの内面的な葛藤を反映しています。彼女のボーカルは脅迫的でありながらも魅力的であり、聴く人を引き込む力を持っています。

Fast as you can, baby, run free yourself of me
できるだけ早く逃げて、私から解放されなさい


「Get Gone」
「Get Gone」は、フィオナが自分の感情を率直に表現した曲です。この曲は、激しいギターリフとディストーション、重厚なドラムが特徴で、彼女の感情の爆発を増幅させています。歌詞は非常に直接的で、フィオナの自己決定と自己尊重の強さを示しています。

I've done what I could for you, and I do know what's good for me
私はあなたのためにできることをやったし、私にとって何が良いかもわかっている

このリリックは、彼女の自己主張と独立心を強調しています。彼女は、自分のために最善を尽くし、自分の価値を理解していることを明確に述べています。この曲は、フィオナの自己認識と自己尊重の力強い表現であり、彼女の内面の強さを示しています​ ​。


フィオナ・アップルの『When the Pawn...』は、音楽理論的にも興味深い作品です。彼女の楽曲は、伝統的なポップミュージックの枠を超えた複雑なコード進行やリズムパターンを特徴としています。

「Love Ridden」では、シンプルなピアノのメロディラインに対して、複雑な和音進行があります。「A Mistake」は、複数のキー変更と実験的なサウンドが特徴で、フィオナの反抗的な精神を反映しています。

ストリングスの使い方も特筆すべき点です。「Love Ridden」では、ピアノの静かなメロディにバイオリンが重なり、曲の感情的なクライマックスを作り出しています。これは、フィオナが愛の喪失と癒しを表現するための効果的な手法です。


評価

『When the Pawn...』は、リリース当初から批評家から高い評価を受けました。アルバムは、ビルボード200で初登場13位を記録し、初週で10万3000枚を売り上げました。また、2005年までにアメリカ国内で92万2000枚以上を売り上げ、2020年にはRIAAによってプラチナディスクに認定されました。

批評家は、フィオナの成熟したソングライティングと、ジョン・ブライオンの巧みなプロデュースを賞賛しました。『When the Pawn...』は、スピン誌によって過去25年間の中で106番目に偉大なアルバムとされ、スラント・マガジンでは1990年代の79番目に偉大なアルバムとして評価されました。



3.『Extraordinary Machine』



制作背景

フィオナ・アップルの3作目のアルバム『Extraordinary Machine』は、2005年にリリースされました。前作『When the Pawn...』から約6年もの間隔が空いた理由は、レーベルのEpic Recordsとの対立や制作プロセスの難航にあります。当初、ジョン・ブライオンのプロデュースで2003年に完成していましたが、レーベルは商業的に成功するシングルが含まれていないとしてリリースを拒否しました。

この状況に対して、フィオナのファンは抗議活動を行い、アルバムのトラックがインターネットにリークされる事態となりました。最終的に、アルバムはプロデューサーをマイク・エリゾンドに交代して再録音され、2005年にリリースされました。こうしてリリースされた『Extraordinary Machine』は、ジョン・ブライオンがプロデュースしたオリジナルのトラックを一部含みつつ、エリゾンドによる新しいアレンジが加えられています。エリゾンド版は、ブライオンのプロデュースとは異なるアプローチを取り、楽曲の中心にフィオナの声とピアノを据えています。エリゾンド版では、フィオナ・アップルの声とピアノを中心に据えたアレンジが特徴です。例えば、「Tymps (The Sick in the Head Song)」では、元のシンプルなアレンジにエレクトロニックな要素を追加することで、曲に新しいエネルギーと現代的なリズムを加えています。また、「Oh Well」では、フィオナのボーカルを強化し、感情の伝わり方をより力強くしています。さらに、「O' Sailor」ではシンセサイザーを使用することで、元の幻想的な雰囲気を維持しつつ新しい質感を加えています。ただし、「Red Red Red」と「Please Please Please」では、エリゾンドのアプローチにより曲のドラマ性が弱まり、商業性も減少しているようです。ここで両プロデューサの経歴を紹介します。

ジョン・ブライオン
ジョン・ブライオンは、多才なミュージシャン、作曲家、プロデューサーとして知られています。彼はアメリカ、コネチカット州のニューヘイブンで音楽一家に生まれ、若い頃から多くの楽器を習得しました。1980年代にはエイミー・マンのバンド『'Til Tuesday』でギタリストとして活動し、その後プロデューサーとして名を馳せました。ブライオンは、フィオナ・アップル、ルーファス・ウェインライト、エリオット・スミスなど、多くのアーティストとコラボレーションしてきました。また、映画音楽の分野でも活躍しており、『マグノリア』、『パンチドランク・ラブ』、『エターナル・サンシャイン』などの映画の音楽を手掛けました​ 。

マイク・エリゾンド
マイク・エリゾンドは、プロデューサー、ソングライター、ミュージシャンとして幅広く活動しています。彼はカリフォルニア州ロサンゼルス出身で、キャリアの初期にはベーシストやセッションミュージシャンとして活躍しました。特にドクター・ドレーとのコラボレーションで知られ、エミネムやフィオナ・アップルなど、さまざまなジャンルのアーティストと共に仕事をしています。エリゾンドのプロデューススタイルは、細部にまでこだわり、アーティストの個性を最大限に引き出すことが特徴です。マイク・エリンどはヒップホップ、ロック、ポップ、カントリーなど多様なジャンルで成功を収めた人物です。


フィオナ・アップルは世界で最も長いアルバムタイトルで知られる奇妙な個性を持つアーティストです。フィオナの音楽は他の人気女性アーティストとは一線を画しており、独自のサウンドを持ち、それを聞くことが一つの体験となります。このアルバムは特に芸術面に注目して聞くとより楽しめると思います。


前作『When the Pawn...』との違い

『When the Pawn...』と比較すると、『Extraordinary Machine』はより内省的で複雑なアレンジが特徴です。前作が持つ直接的な力強さに対して、今回のアルバムは微細な感情と細やかな音楽構成が際立っています。また、プロデューサーの交代によって、ジョン・ブライオンの独特なオーケストレーションとマイク・エリゾンドの洗練されたアレンジが融合したサウンドが特徴的です。

『Extraordinary Machine』は、フィオナ・アップルが自身のアーティストとしての成長と進化を示す作品であり、彼女の音楽的成熟と独特のスタイルが融合したアルバムです。このアルバムは、リリースまでの困難を乗り越え、待望のリリースを果たし、ファンや批評家から高い評価を受けています。


主要な楽曲

『Extraordinary Machine』のサウンドは、ミニマルで実験的な要素が強調されています。前作『When the Pawn...』が持つ力強さと対照的に、このアルバムはより繊細で複雑なアレンジが施されています。

「Extraordinary Machine」
この曲は、ジョン・ブライオンの影響が強く、奇妙な楽器の配置とユニークなオーケストレーションが特徴です。ヴィブラフォンやストリングスが重なり合う独特のサウンドです。

「Tymps (The Sick in the Head Song)」
マイク・エリゾンドのプロデュースによるこのトラックは、ダンスビートを取り入れており、アルバムに新鮮なエネルギーをもたらしています。ドラムのビートとフィオナのピアノが絶妙に絡み合い、リズミカルな展開を見せています。

「O Sailor」
ピアノとストリングスを中心に構築されたこの曲は、重厚な雰囲気とフィオナの感情的な歌声が融合しています。エピックなバラードであり、フィオナの内面的な葛藤と希望が交錯する楽曲です。

このアルバムの歌詞は、フィオナ・アップルの個人的な経験や感情を深く掘り下げています。映画監督ポール・トーマス・アンダーソンとの関係の終わりを背景に、誠実でありながらも悲観的な内容が多く含まれています。

歌詞
"Be kind to me, or treat me mean / I'll make the most of it, I'm an extraordinary machine"
優しくしても、冷たくしてもいいわ / 私はそれを最大限に活用する、私は特別な機械だから

「Extraordinary Machine」


4.『The Idler Wheel Is Wiser Than the Driver of the Screw and Whipping Cords Will Serve You More Than Ropes Will Ever Do』



フィオナ・アップルの4作目のアルバム『The Idler Wheel Is Wiser Than the Driver of the Screw and Whipping Cords Will Serve You More Than Ropes Will Ever Do』(以下『The Idler Wheel...』)は、2012年にリリースされ、彼女のキャリアにおける重要な作品として多くの批評家から高く評価されています。このアルバムは、フィオナ・アップルの内省的で実験的なスタイルをさらに深化させた作品です。アルバムタイトルは非常に長く、詩的であり、アルバム全体のテーマに沿ったものになっています。

制作背景

このアルバムは、フィオナ・アップルと彼女のドラマーでありパーカッショニストのチャーリー・ドレイトンが共同制作しました。2008年から2009年にかけて秘密裏に録音され、最小限の楽器編成と生々しい感情表現が特徴です。ピアノとパーカッションが主体となり、アップルのボーカルが際立つようにアレンジされています。

フィオナ・アップルはインタビューで、アルバム制作に長い時間がかかった理由について、「私は意図的に曲を書こうとするのが好きではない」と語っています。彼女はまた、キャリアが終わることに対する恐れがないことを強調し、自分のペースで音楽を作ることが重要だと述べています。


アルバムのテーマとタイトルの意味

アルバムタイトル『The Idler Wheel Is Wiser Than the Driver of the Screw and Whipping Cords Will Serve You More Than Ropes Will Ever Do』は、非常に詩的で象徴的な意味を持っています。「Idler Wheel(アイドラー・ホイール)」は、機械の一部であり、他の部品をサポートする役割を果たします。このタイトルは、フィオナ・アップルが人生の中で経験する複雑な感情や状況に対する洞察を示しています。

具体的には、従来の方法や手段ではなく、より微細な視点やアプローチが重要であることを示唆しています。これは、物事を強引に進める「Driver of the Screw(スクリューのドライバー)」よりも、柔軟でサポート的な役割を果たす「Idler Wheel」の方が賢明であるという考え方です。また、「Whipping Cords(鞭のコード)」が「Ropes(ロープ)」よりも役立つという部分は、見かけ上の力強さよりも、より適切な道具や手段が効果的であることを意味しています。フィオナ・アップルは、こうした視点から自身の経験や感情を表現しているのです。

前作『Extraordinary Machine』との違い

前作『Extraordinary Machine』は、ジョン・ブライオンがプロデュースした複雑なオーケストレーションが特徴でした。このアルバムでは、豊かなアレンジメントとポップな要素が取り入れられており、マイク・エリゾンドによる再録音も行われています。

一方、『The Idler Wheel...』は、よりミニマルで原始的なサウンドに焦点を当てています。このアルバムでは、フィオナの声とピアノが中心となっており、ジャズ風のパーカッションも加えられています。全体的にシンプルで直接的なアプローチが取られており、過剰なアレンジメントを排除することで、アップルの感情表現が際立っています。

『The Idler Wheel...』は、フィオナが内省的で個人的な経験を深く掘り下げた作品であり、音楽的な革新と感情的な深さを融合させたものです。彼女の声が主役となり、他の楽器はあくまでサポート役に徹しているため、聴く者に強い印象を与えるアルバムとなっています。


主要楽曲とテーマ

アルバム全体を通じて、フィオナ・アップルの深い感情と複雑な内面が描かれています。

「Every Single Night」
アルバムのオープニングトラックで、フィオナの内面的な葛藤と夜ごとの不安がテーマです。繊細なセレスタの音色から始まりますが、すぐに原始的なコーラスに移行します。MVでは、頭にイカを乗せたフィオナが登場し、視覚的にユニークな演出がされています。


Every single night’s a fight/With my brain 毎晩、私の脳との戦い

「Every Single Night」

「Hot Knife」
「Hot Knife」はアルバム『The Idler Wheel...』の中でも特に注目すべきトラックで、フィオナ・アップルと彼女の妹モード・マガートが3部のラウンドで調和しています。この曲の特徴的なサウンドは、ティンパニ(大太鼓)のロールが遠くで雷のように響くことで、非常にダイナミックで印象的です。細部へのこだわりによってアルバムの中でも特に目立つ曲となっています。


「Valentine」
この曲では、失恋の痛みや自己反省がテーマとなっており、フィオナが過去の関係について深く掘り下げ、自己批判を交えて歌っています。

曲の冒頭では、フィオナが自分の感情を整理できず、相手に対する未練や愛情が残っていることを歌っています。

While you were watching someone else / I stared at you and cut myself.

あなたが他の誰かを見ている間 / 私はあなたを見つめて自分を傷つけた

「Valentine」


I’m amorous but out of reach / A still life drawing of a peach

私は恋愛感情を持っているけれど手の届かない存在 / 静物画の桃のように

「Valentine」

この部分では、自分の持っている愛情が実際の行動に移せないというもどかしさを静物画に描かれた桃に例えています。


『Fetch the Bolt Cutters』



制作背景

フィオナ・アップルの5作目のスタジオアルバム『Fetch the Bolt Cutters』は、2020年4月17日にリリースされました。リリース時ははコロナウイルスのパンデミックと重なり、多くの人々が自宅で自粛している状況です。このアルバムの制作背景には、多くの独自のエピソードやクリエイティブなプロセスが関与しています。フィオナはこのアルバムの制作に数年間を費やし、その多くを彼女の自宅スタジオで録音しました。

『Fetch the Bolt Cutters』のタイトルは、英国のテレビドラマ『The Fall』の台詞から取られており、抑圧からの解放と自由の象徴として用いられています。フィオナ・アップルは、このタイトルがアルバム全体のテーマをよく表していると述べています。彼女はインタビューで、「自分の人生や経験から解放され、より自由に、より率直に表現すること」を目指したと語っています。

アルバムの大部分は、フィオナ・アップルのヴェニスビーチの自宅スタジオで録音されました。彼女は家庭用品や身の回りの物を楽器として使用し、ユニークなサウンドを作り出しました。鍋やフライパン、家具の音、犬の鳴き声など、日常生活の中で聞こえる音がアルバムに取り入れられています。このアプローチにより、アルバムは非常に親密で生々しい音質を持つことになりました。フィオナは、このアルバムをほとんど自分一人で制作しましたが、いくつかのトラックではパーカッショニストのエイミー・アイレアとドラマーのセバスチャン・スタインバーグとコラボレーションしています。彼らの貢献により、アルバムのリズムとパーカッションの要素が強化され、フィオナのボーカルとピアノを引き立てる役割を果たしました。


レーベルとの関係
前作『The Idler Wheel...』のリリース後、フィオナ・アップルは音楽業界から一時的に距離を置いていました。『Fetch the Bolt Cutters』の制作中も、彼女はレーベルに対してほとんど報告を行わず、自分のペースで制作を進めました。彼女はインタビューで、「プレッシャーや外部からの期待に左右されず、自分のペースで作品を作り上げることができた」と述べています。

前作『The Idler Wheel...』との違い

『The Idler Wheel...』は、そのミニマルで原始的なサウンドが特徴です。アップルとチャーリー・ドレイトンの共同プロデュースによるこのアルバムは、主にピアノとパーカッションで構成されています。音の重なりやアレンジメントがシンプルで、フィオナの声と楽器が直感的に響くようになっています。全体的に、アルバムはフィオナの内省的な世界観を反映し、彼女の感情がストレートに伝わる作りになっています。

対照的に、『Fetch the Bolt Cutters』はより実験的で自由なアプローチが取られています。このアルバムはさっきも書いた通り、自宅で録音された音を多く使用し、犬の吠える声や日常の物音などが楽曲に取り入れられています。フィオナが即興的に感情を音楽に反映させていることもこのアルバムの特徴です。

また扱っているテーマの前作と異なります。『The Idler Wheel...』では、内省的なテーマが強調されています。フィオナは自己探求や感情の揺れ、複雑な人間関係について深く掘り下げています。

『Fetch the Bolt Cutters』では、解放と自由がテーマとなっています。アルバムのタイトルは、抑圧からの解放を象徴しており、フィオナの個人的な経験や社会的な制約からの解放が反映されています。例えば、タイトル曲「Fetch the Bolt Cutters」では、社会的な期待や制約から解放されることが歌われています。

音楽スタイルとアプローチ

『Fetch the Bolt Cutters』はローファイな美学を取り入れています。フィオナ・アップルは、自宅で多くのトラックを録音し、家庭用品を楽器として使用することで、親密でオーセンティックな雰囲気を作り上げました。非伝統的な打楽器や犬の鳴き声、環境音などを取り入れることで、ユニークな音響風景を作り出しています。フィオナ・アップルのボーカルは中心に据えられ、その感情豊かで生々しい歌声が楽曲を支配しています。アルバム全体にわたるリズムの駆動力とメロディーの融合は、従来の音楽の枠にとらわれないアプローチを反映しています。


主要な楽曲

「Shameika」
この曲は、フィオナが学生時代にポテンシャルを見出してくれたクラスメートについて歌っています。

Shameika said I had potential
シェメイカは私にポテンシャルがあると言った

「Fetch the Bolt Cutters」
タイトル曲では、過去のトラウマや社会的な制約からの解放をテーマにしています。フィオナは非伝統的な打楽器とチャントを使用し、強力でカタルシスを作り出しています。

Fetch the bolt cutters, I’ve been in here too long
ボルトカッターを取ってきて、私はここに長すぎた

ここでは解放のメッセージを唱えています。


「Relay」
この曲は、世代を超えて伝わる痛みと怒りのサイクルについて深く掘り下げています。

Evil is a relay sport when the one who’s burned turns to pass the torch
悪はリレースポーツだ、焼かれた者が松明を渡すとき

「Relay」

このリレースポーツというメタファーは、怒りや痛みの「バトン」が次々と手渡されていくという継続的なプロセスを効果的に伝えています。この曲は負の連鎖を断ち切り、前に進むことの重要性を説いているわけです。他にも中べきすべきところがあります。

I resent you presenting your life like a fable / While you still have your wounds and your scars

あなたが自分の人生をおとぎ話のように見せることにむかつく / あなたにはまだ傷や痕があるのに

「Relay」

このラインでは、実際の痛みや苦しみを無視して、美化された物語として人生を語ることへの批判をしています。


評価

『Fetch the Bolt Cutters』はリリースと同時に広く称賛されました。革新的なプロダクション、感情の深さ、そしてフィオナ・アップルの大胆なソングライティングアプローチが高く評価され、特にRate Your Musicではかなりの高得点をたたき出しました。




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