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ジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』徹底解説

ジョイ・ディヴィジョンのデビューアルバム『Unknown Pleasures』は、1979年にリリースされ、ポストパンクの歴史において極めて重要な位置を占める作品です。このアルバムは音楽的な革新と暗い部分が融合し、音楽業界に強い印象を残しました。


バンドの背景とアルバム制作

ジョイ・ディヴィジョンは、1976年にマンチェスターで結成されました。当初は「ワルシャワ(Warsaw)」という名前で活動していましたが、1978年に現在の名前に変更しました。メンバーはボーカルのイアン・カーティス、ギターとキーボードのバーナード・サムナー、ベースのピーター・フック、そしてドラムのスティーヴン・モリスです。

ファクトリー・レコードとの契約
1978年、バンドはマンチェスターのインディペンデントレーベル、ファクトリー・レコードと契約しました。ファクトリー・レコードはトニー・ウィルソンとアラン・グレトンによって設立された会社です​。この契約はバンドにとって大きな転機となり、より広範なリスナーに音楽を届ける機会を提供しました。ウィルソンとグレトンはバンドがマンチェスターに留まり、ファクトリー・レコードと共に音楽を制作する方が、ロンドンに移って活動するよりも有利だと判断し、バンドに利益の50/50分配という前例のない契約を提案しました​。

ファクトリー・レコードに所属したことにより、バンドはレーベルの専属プロデューサー、マーティン・ハネットと協力する機会を得ました。ハネットは、その独特のプロダクションスタイルで知られており、バンドの音楽に革新的な要素を取り入れることに長けていました。

アルバム制作
『Unknown Pleasures』の制作は、1979年4月にストックポートのストロベリー・スタジオで行われました。レコーディングは、3回の週末にわたるセッションで完了しました​ 。当時のレコーディング技術は限られていましたが、ハネットはデジタル技術とアナログ技術を融合させ、独自の音響空間を作り出しました。ハネットはスタジオでの実験的なアプローチを好みました。

具体的にはハネットはギターやドラムの音を録音し、その録音した音をAMSデジタルディレイユニットを使ってキーボードで再生しました。これにより、通常の演奏では得られない独特のエフェクトやリズムを作り出すことができました。例えばギターの一部を逆再生することで、曲全体に異次元的な雰囲気を与えることができました​ 。

ハネットのアプローチはスタジオ自体を一種の楽器として使用するものでした。それとデジタルエフェクトだけでなく、アナログ機器も巧みに使いこなし、音の奥行きと広がりを最大限に引き出しました。例えばドラムの音をトイレに設置したスピーカーで再生し、その音を再録音することで、独特のリバーブ効果を生み出しました。このような手法は当時のスタジオ技術の限界を超えるものであり、音楽制作における新たな基準を確立しました​ ​。

アルバム収録曲の一つである「Insight」では、イアン・カーティスのボーカルを電話回線を通して録音することで、遠距離感を演出しました。また、「She's Lost Control」ではSynareドラムシンセサイザーを使用して、他の楽曲とは異なるリズムパターンを作り出しました​。

ハネットのこのようなプロダクション手法は、ジョイ・ディヴィジョンの音楽に独特の質感と深みを与え、アルバム全体を一種の芸術作品として昇華させました。この技術と創造性は、ポストパンクの音楽シーンにおいて、ジョイ・ディヴィジョンを特異な存在として確立させる一助となりました​



代表曲

『Unknown Pleasures』は全10曲から構成されており、各曲が独自の雰囲気と物語を持っています。代表曲だけ詳しく見ていきます。

「Disorder」
Disorderはアルバムのオープニングを飾るトラックで、カーティスの切実なボーカルとピーター・フックの印象的なベースラインが特徴です。この曲は、イアン・カーティスの内面的な葛藤と絶望感を表現しており、アルバム全体のトーンを設定しています。

[Verse 1]
I've been waiting for a guide to come and take me by the hand
誰かが現れて僕を導いてくれるのを待っていた
Could these sensations make me feel the pleasures of a normal man?
この感覚が普通の人の喜びを感じさせてくれるのだろうか?
Lose sensation, spare the insults, leave them for another day
感覚を失い、侮辱は避けて、また別の日にしよう
I've got the spirit, lose the feeling, take the shock away
僕には意志がある、でも感覚を失い、衝撃を取り除くんだ

「Disorder」

また曲の最後に「I've got the spirit, but lose the feeling」(意志はあるが、感情を失う)というフレーズが繰り返されるのも絶望感が漂っています。

[Outro]
I've got the spirit
僕には意志がある
But lose the feeling
でも感覚を失う
I've got the spirit
僕には意志がある
But lose the feeling
でも感覚を失う

音楽的には、スティーヴン・モリスのドラムが非常に重要な役割を果たしています。彼のドラムはクラウトロックバンドNeu!の影響を受けており、エネルギッシュでダンサブルなリズムを提供しています。このリズムは曲全体に一種の緊張感を与えています。またマーティン・ハネットのプロダクションが、曲に広がりと深みを加えています​ ​。


「Day of the Lords」
Day of the Lordsは、重厚なギターリフとカーティスの深いボーカルが特徴の曲です。そのため曲全体に暗い雰囲気が漂っています。

[Verse 3]
This is the car at the edge of the road
これが道端の車だ
There's nothing disturbed, all the windows are closed
何も乱れていない、全ての窓が閉まっている
I guess you were right when we talked in the heat
暑い中で話した時、君が正しかったのだろう
There's no room for the weak, no room for the weak
弱者の居場所はない、弱者の居場所はない

曲の中で頻繁に登場するWhere will it end?(それはどこで終わるのか?)という絶望感の伴った繰り返しのフレーズが特に印象に残ります。


「She's Lost Control」
She's Lost Controlは、イアン・カーティスが職業紹介所で出会った若い女性がてんかん発作を起こしたことに触発されて書かれました。その女性はイアン・カーティスと同様にてんかんを患っており、その発作に対する恐怖と絶望感について書かれています。この曲のシンセサイザーのリズムと繰り返されるギターリフは、聴く者に不安感を与えてきます。ピーター・フックの特徴的なベースラインが曲を支え、そのプレイスタイルが光っています。

[Verse 1]
Confusion in her eyes that says it all
彼女の目に混乱が浮かんでいる、それが全てを物語っている
She's lost control
彼女は自制を失ってしまった
And she's clinging to the nearest passer by
彼女は近くの通行人にすがりついている
She's lost control
彼女は自制を失ってしまった
And she gave away the secrets of her past
彼女は過去の秘密を打ち明け
And said, "I've lost control again"
「また自制がきかなくなった」と言った
And to the voice that told her when and where to act
行動のタイミングを教える声に対して
She said, "I've lost control again"
「また自制がきかなくなった」と言った

「She's Lost Control」


「I Remember Nothing」
I Remember Nothingはアルバムの最後を飾る曲で、その非常に暗く重厚な音響が特徴です。ピーター・フックのベースが曲全体に暗く重い雰囲気を与えています。音楽的には非常にミニマルなアプローチが取られており、各楽器が慎重に配置されているため、一種の孤独感を感じさせます。

[Chorus]
We were strangers
僕たちは他人だった
For way too long
長すぎた間
We were strangers (Violent)
僕たちは他人だった(暴力的に)
For way too long (Violent)
長すぎた間(暴力的に)
We're strangers
僕たちは他人だ

[Verse 1]
Get weak all the time
いつも弱くなる
May just pass the time
ただ時間を潰しているだけかもしれない
Me in my own world
僕は自分の世界にいる
Yeah, you there beside
そう、君は隣にいる
The gaps are enormous
溝は大きい
We stare from each side
お互いに見つめ合う
We were strangers
僕たちは他人だった
For way too long
長すぎた間

[Verse 2]
Violent, more violent, his hand cracks the chair
暴力的に、さらに暴力的に、彼の手が椅子を叩き壊す
Moves on reaction, then slumps in despair
反応して動き、そして絶望に沈む
Trapped in a cage and surrendered too soon
檻の中に閉じ込められ、早々に降伏した
Me in my own world
僕は自分の世界にいる
The one that you knew (For way too long)
君が知っていた世界に(長すぎた間)

[Chorus]
(We were strangers) We were strangers
(僕たちは他人だった)僕たちは他人だった
(For way too long)
長すぎた間
We were strangers
僕たちは他人だった
For way too long
長すぎた間

「I Remember Nothing」


『Unknown Pleasures』の影響

『Unknown Pleasures』は、リリース当初から高い評価を受け、ポストパンクの金字塔とされています。このアルバムは多くのアーティストに影響を与え、後の音楽シーンに大きな影響を与えました。特にニュー・ウェーブやゴシックロックといったジャンルにおいて、大きな影響を与えています​。具体て例を挙げるとロバート・スミス率いるThe Cureは、ジョイ・ディヴィジョンのダークで内省的なサウンドから多大な影響を受けたそうです。ロバート・スミスは、イアン・カーティスの歌詞の深さと音楽的アプローチに感銘を受けており、The Cureの初期の作品にはその影響が色濃く反映されています。




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