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Jay-Zのアルバム『The Black Album』徹底解説

アルバムの背景

『The Black Album』は2003年11月14日にリリースされ、Jay-Zの引退アルバムとして宣伝されました。Jay-Zは当時、音楽業界から一時的に退くことを決意し、このアルバムをキャリアの総決算として位置づけました。このアルバムには、彼のキャリア全体を振り返り、彼が成し遂げたことやこれからの挑戦についての深い洞察が含まれています。

『The Black Album』の優れている点

  • リリカルな成熟
    Jay-Zのリリックスキルは、このアルバムで頂点に達しています。彼のリリックは深く、個人的な経験や社会問題に対する洞察が豊かに表現されています。特に「What More Can I Say」や「Moment of Clarity」などのトラックでは、彼の内面の葛藤や成功への道のりが描かれています。

「What More Can I Say」
「What More Can I Say」は、Jay-Zが自身の成功とそれに伴う批判に対する応答としての曲です。

  • リリックの詳細解説:

"I'm not a biter, I'm a writer for myself and others."
和訳: 「俺は模倣者じゃない、自分や他人のために書くライターだ。」

「What More Can I Say」

Jay-Zはここで、自分が他人の作品を模倣するのではなく、自らの経験と視点から独自のリリックを生み出していることを主張しています。

歌詞: "I dumbed down for my audience to double my dollars.
和訳: 「俺は観客のためにリリックを簡略化して収入を倍増させた。」

「What More Can I Say」

「Moment of Clarity」
「Moment of Clarity」は、Jay-Zが成功と富を得た後も内面的な葛藤を抱えていることを描写しています。

歌詞: "If skills sold, truth be told, I'd probably be lyrically Talib Kweli."
和訳: 「スキルが売れるなら、本当のところ俺はリリカルにタリブ・クウェリのようだろう。」
歌詞: "I can't help the poor if I'm one of them, so I got rich and gave back, to me that's the win-win."
和訳: 「俺が貧乏人のままじゃ貧乏人を助けられない、だから俺は金持ちになって還元した、それが俺にとってのウィンウィンだ。」

「Moment of Clarity」

タリブ・クウェリは、モス・デフ(現Yasiin Bey)と共にBlack Starというグループを結成し、1998年にデビューアルバム『Mos Def & Talib Kweli Are Black Star』をリリースしました。このアルバムは批評家から高く評価され、アンダーグラウンド・ヒップホップシーンで一躍注目を集めた人物です。タリブ・クウェリは、リリカルな才能とともに、社会問題に対する強い関心を持つことで知られています。

名曲「99 Problems」の詳細

「99 Problems」は、『The Black Album』の中でも特に注目されるトラックです。Rick Rubinがプロデュースし、ロックとヒップホップの融合が特徴的です。この曲は、Jay-Zが直面する様々な問題を描写し、彼のストリートからの成り上がりとその後の成功、そしてそれに伴う困難を描いています。

リリックの解説:

歌詞: "I got 99 problems but a bitch ain't one."
和訳: 「99の問題を抱えてるけど、女のことじゃない。

「99 Problems」

このフレーズは、Jay-Zが多くの困難に直面しているが、それが女性に関する問題ではないという意味を持ちます。彼のリリックは、社会的な問題や自身の経験に根ざしたものであり、深いメッセージを持っています。

英語: "The year is '94 and in my trunk is raw, In my rearview mirror is the motherfucking law."
和訳: 「1994年、トランクには違法なものが、バックミラーには警察が見える。」

「99 Problems」

このリリックでは、Jay-Zが過去のストリートライフを回顧しています。違法な活動とそれに伴う危険が描かれており、彼の過去の生活のリアリティが強調されています。

  • 多様なプロダクション
    このアルバムには、Just Blaze、Timbaland、The Neptunes、Rick Rubinといったトッププロデューサーが参加しています。各トラックが異なるサウンドを持ち、アルバム全体に多様性と一貫性をもたらしています。

  • 感情的な深み
    Jay-Zの感情が強く表現されており、彼の内面の葛藤、成功の喜び、そして引退の決意がリスナーに直接訴えかけます。や「Lucifer」の中で彼の感情的な深みが特に表現されています。

歌詞: "Lucifer, dawn of the morning! I'm gonna chase you out of Earth."
和訳: 「ルシファー、朝の明星よ!お前をこの地球から追い出してやる。」

Lucifer

ルシファーとは悪魔のことです。

歌詞"Lord forgive him, he got them dark forces in him. But he also got a righteous cause for sin."
和訳: 「主よ彼を許したまえ、彼の中には暗い力が宿っている。でも彼には罪を犯す正当な理由もある。」

「Lucifer」

このリリックでは、Jay-Zが内なる悪(暗い力)と戦っていることを示しています。しかし、彼が過去の行動(罪)を正当化する理由があると主張しています。

これまでのアルバムとの違い

  1. テーマの重さ
    『The Black Album』はより内省的で、自己の内面や将来に対する考察が深く掘り下げられています。以前のアルバムは主にストリートライフや成功の物語を描いていましたが、このアルバムではJay-Zの個人的な成長と変化が強調されています。

  2. プロダクションの多様性
    複数の著名なプロデューサーを起用することで、各トラックに独自のサウンドを持たせています。これにより、アルバム全体が一貫して魅力的なものとなっています。

  3. リリカルな深さ
    Jay-Zのリリカルスキルは、このアルバムでこれまで以上に発揮されています。彼のリリックは複雑で、多層的な意味を持ち、リスナーに深い印象を与えます。

プロデューサーの業績

Kanye West以外の『The Black Album』に参加したプロデューサーたちは、それぞれ独自のキャリアを築いており、多くの名作を手掛けています。

  1. Just Blaze

    • 代表作:

      • Jay-Z『The Blueprint』、「Girls, Girls, Girls」、「Song Cry」

      • Eminem『Recovery』、「No Love」

      • Kendrick Lamar『Compton』、「Compton」

  2. Timbaland

    • 代表作:

      • Missy Elliott『Supa Dupa Fly』、「The Rain (Supa Dupa Fly)」

      • Justin Timberlake『FutureSex/LoveSounds』、「SexyBack」

      • Aaliyah『One in a Million』、「If Your Girl Only Knew」

  3. The Neptunes (Pharrell Williams and Chad Hugo)

    • 代表作:

      • Nelly『Nellyville』、「Hot in Herre」

      • Britney Spears『In the Zone』、「I'm a Slave 4 U」

      • Snoop Dogg『R&G (Rhythm & Gangsta): The Masterpiece』、「Drop It Like It's Hot」

  4. Rick Rubin

    • 代表作:

      • Beastie Boys『Licensed to Ill』、「No Sleep Till Brooklyn」

      • Red Hot Chili Peppers『Blood Sugar Sex Magik』、「Under the Bridge」

      • Johnny Cash『American Recordings』、「Hurt」

Jay-Zのアルバム『The Black Album』の各トラックで使用されているサンプリング

確認済みサンプルリスト

  1. Interlude

    • プロデューサー: Just Blaze

    • サンプルは使用されていません

  2. December 4th

    • サンプル: "That's How Long" by The Chi-Lites

  3. What More Can I Say

    • サンプル: "Something for Nothing" by MFSB

  4. Encore

    • サンプル: "I Will" by John Holt

  5. Change Clothes

    • プロデューサー: The Neptunes

    • サンプルは使用されていません

  6. Dirt Off Your Shoulder

    • プロデューサー: Timbaland

    • サンプルは使用されていません

  7. Threat

    • サンプル: "A Woman's Threat" by R. Kelly

  8. Moment of Clarity

    • サンプル: "Sound of da Police" by KRS-One

  9. 99 Problems

    • サンプル: "Long Red" by Mountain

    • サンプル: "Get Me Back on Time, Engine No. 9" by Wilson Pickett

    • サンプル: "The Big Beat" by Billy Squier

  10. Public Service Announcement (Interlude)

    • サンプル: "Seed of Love" by Little Boy Blues

  11. Justify My Thug

    • サンプル: "Rock Box" by Run-DMC

    • インターポレーション: "Justify My Love" by Madonna

  12. Lucifer

    • サンプル: " Chase the Devil" by Max Romeo

  13. Allure

    • プロデューサー: The Neptunes

    • サンプルは使用されていません

  14. My 1st Song

    • サンプル: "Tu y Tu Mirar...Yo y Mi Cancion" by Los Angeles Negros

https://www.whosampled.com/album/Jay-Z/The-Black-Album/

このアルバムはサンプルの使用されていないアルバムが多いです。これも時代の流れでしょうか。

引退しなかった理由とその後の活動

Jay-Zは『The Black Album』を最後に引退を宣言しましたが、実際には引退しませんでした。彼自身が後に語ったところによれば、当時は本当に疲れ切っており、音楽業界からの休息が必要だと感じていたからです。毎年アルバムをリリースし、ツアーや他のアーティストのプロデュースを行う中で、精神的に消耗していたことが背景にあります​。

しかし、引退からわずか数年後の2006年、Jay-Zは『Kingdom Come』をリリースして音楽シーンに復帰しました。この復帰は、彼が音楽を愛しており、完全に手を引くことができなかったためです。また、Jay-Zは音楽以外にもビジネスや慈善活動に積極的に取り組み続けました。

ビヨンセとの「Crazy in Love」

同年にリリースされたビヨンセの「Crazy in Love」は、Jay-Zがフィーチャリングアーティストとして参加しており、この曲は大ヒットとなりました。「Crazy in Love」は2003年にリリースされ、ビヨンセのソロデビューアルバム『Dangerously in Love』に収録されています。この曲はBillboard Hot 100で8週連続1位を獲得し、二人の関係を公に示すきっかけともなりました​ 。今でもこの曲の影響はすさまじいです。

まとめ

『The Black Album』は、Jay-Zのキャリアの中で重要な位置を占めるアルバムであり、彼のリリカルな才能とプロダクションの多様性が際立つ作品です。このアルバムを通じて、Jay-Zは成功と内面的な葛藤を描き、リスナーに深い印象を与えました。彼が引退を決意した背景には精神的な疲労がありましたが、音楽への情熱は消えることなく、その後も活動を続けました。『The Black Album』は、Jay-Zのキャリアを総括し、新たな章への橋渡しとなる重要な作品です。



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