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ニール・ヤング70年代のアルバム 『After the Gold Rush』から『Tonight's the Night』まで徹底解説

ニール・ヤングは、1945年にカナダで生まれたシンガーソングライターであり、彼の音楽キャリアは半世紀以上にわたって続いています。彼の作品はフォーク、ロック、カントリーなど多様なジャンルを融合し、独自のスタイルを確立しました。ニール・ヤングの音楽はその時代の社会問題や個人的な経験を反映し、多くの人々に深い影響を与え続けています。特に1970年代は彼のキャリアの中でも特に重要な時期であり、多くの名盤を生み出しました。この時期のニール・ヤングの音楽は商業的成功と批評家からの高い評価を同時に受け、彼の名声を確立する大きな要因となりました。

ニール・ヤングは、60年代後半にバッファロー・スプリングフィールドというバンドで活動を始めましたが、すぐにソロアーティストとしてのキャリアを築き始めました。70年代に入ると、さまざまなスタイルを取り入れることで、音楽的な幅を広げていきました。『After the Gold Rush』や『Harvest』といったアルバムはその代表例と言えるでしょう。これらの作品はフォークロックやカントリーロックの要素を融合し、内省的な歌詞とメロディが特徴となっています。

70年代初頭、ニール・ヤングは、時代の変化に敏感に反応し、その音楽を通じて個人的な体験や社会問題を表現しました。『After the Gold Rush』は1970年にリリースされ、その独特の音楽性と歌詞が多くのファンを魅了しました。アルバムの制作過程では、若手ミュージシャンを積極的に起用し、新しいサウンドを追求しました。代表曲「After the Gold Rush」や「Only Love Can Break Your Heart」は、その後も多くのアーティストによってカバーされるなど、長い間愛され続けています。

1972年にリリースされた『Harvest』は、ニール・ヤングのキャリアの中で最大の商業的成功を収めたアルバムです。このアルバムはアコースティックギターを中心としたシンプルなアレンジと、感情豊かな歌詞が特徴です。「Heart of Gold」や「Old Man」、「The Needle and the Damage Done」などの楽曲は、彼の代表曲として広く知られています。またこのアルバムの制作には、ジェイムズ・テイラーやリンダ・ロンシュタットといった有名ミュージシャンが参加し、そのクオリティをさらに高めました。

ニール・ヤングの70年代のキャリアは、このような初期の成功だけでなく、彼の音楽的進化と挑戦の時期でもありました。彼は常に新しいサウンドを追求し、自分自身の音楽スタイルを模索し続けました。クレイジー・ホースとのコラボレーションや、実験的なアルバムの制作など、その試みは多岐にわたります。次のパートから、この時期の代表的なアルバムについて紹介していきます。


『After the Gold Rush』(1970年)


『After the Gold Rush』は、ニール・ヤングが1970年にリリースしたアルバムで、彼のキャリアの中で最も重要な作品の一つとされています。このアルバムの制作は、ニール・ヤングの自宅の地下室で行われました。この場所は、ヤングが当時住んでいたロサンゼルスのトップアンガード・キャニオンにある家であり、録音はリラックスした雰囲気の中で進められました​ 。

アルバムの制作には、ニール・ヤングの友人や仲間たちが多く参加しました。クレイジー・ホースのメンバーであるダニー・ウィッテン(ギター)、ビリー・タルボット(ベース)、ラルフ・モリーナ(ドラムス)もその一部です。また、当時18歳のニルス・ロフグレンがピアノで参加し、これは彼のキャリアにおける重要な転機となりました。


音楽的特徴
『After the Gold Rush』は、その多様な楽曲とサウンドの一貫性によって評価されています。ニール・ヤングのボーカルは感情のこもった表現力があり、楽曲に深みを与えています。また、アルバムにはピアノやフリューゲルホルンなど、様々な楽器が使用されていることも注目すべきところです。

アルバム全体としては、フォーク、カントリー、ロックの要素が融合しており、ニール・ヤングの詩的な歌詞とシンプルなメロディで構成されています。特に「After the Gold Rush」や「Only Love Can Break Your Heart」といった曲では、ピアノのメロディが中心となり、繊細で感情的なサウンドを作り出しています​ 。

楽曲紹介

「Tell Me Why」
この曲はニール・ヤングが成長の過程で経験した困難や、人生の選択の難しさについて歌っています。1960年代の終わりから1970年代の初めにかけて、ニール・ヤングは自身の音楽キャリアの中で多くの変化と挑戦を経験しました。それがこの曲に現れているのかもしれません。

[Verse 1]
Sailin' heart ships through broken harbors
壊れた港を越えて心の船を航行する
Out on the waves in the night
夜の波の中で
Still the searcher must ride the dark horse
探求者はなおも暗い馬に乗り続け
Racing alone in his fright
恐怖の中で一人走る

[Chorus]
Tell me why
教えてくれ
Tell me why
教えてくれ
Is it hard to make arrangements with yourself
自分自身と向き合うのは難しいかい?
When you're old enough to repay
責任を果たす年齢になっても
But young enough to sell?
でもまだ自由に生きられる年齢なのに


「After the Gold Rush」
この曲はニール・ヤングが見た夢にインスパイアされ、環境破壊後の未来を描いています。人類が新しい文明を太陽上に築くという奇妙なビジョンが描かれています。ニール・ヤングの歌詞の詩的な表現力と、彼のメロディメーカーとしての才能を示しています。

[Verse 1]
Well I dreamed I saw the knights in armor comin'
夢の中で鎧をまとった騎士たちがやってくるのを見た
Sayin' something about a queen
女王のことを話していた
There were peasants singin' and drummers drummin'
農民たちは歌い、ドラマーは太鼓を叩いていた
And the archer split the tree
そして弓矢が木を真っ二つにした
There was a fanfare blowin' to the sun
陽の光に向かってファンファーレが響き渡り
That was floating on the breeze
そよ風に乗って漂っていた
Look at Mother Nature on the run
1970年代の逃げ惑う母なる自然を見てごらん
In the 1970s
1970年代

[Verse 2]
I was lyin' in a burned out basement
焼け落ちた地下室で横たわっていた
With the full moon in my eyes
満月が目に映っていた
I was hopin' for replacement
新しい希望を求めていた
When the sun burst through the sky
太陽が空を突き抜けたとき
There was a band playin' in my head
頭の中でバンドが演奏していて
And I felt like getting high
気分が高揚していた
I was thinkin' about what a friend had said
友人が言ったことを考えていた
I was hopin' it was a lie
それが嘘であることを願っていた
Thinkin' about what a friend had said
友人が言ったことを考えていた
I was hopin' it was a lie
それが嘘であることを願っていた

[Verse 3]
Well, I dreamed I saw the silver space ships flyin'
夢の中で銀色の宇宙船が飛んでいるのを見た
In the yellow haze of the sun
陽光の黄色い霞の中で
There were children cryin' and colors flyin'
子供たちが泣いていて、色とりどりのものが飛び交っていた
All around the chosen ones
選ばれた者たちの周りで
All in a dream, all in a dream
すべては夢の中、すべては夢の中
The loadin' had begun
積み込みが始まっていた
Flying Mother Nature's silver seed
母なる自然の銀の種が飛び立って
To a new home in the sun
陽の光の中の新しい家へ
Flying Mother Nature's silver seed
母なる自然の銀の種が飛び立って
To a new home
新しい家へ


「Only Love Can Break Your Heart」
この曲はグラハム・ナッシュのジョニ・ミッチェルとの別れに触発されて書かれました。ニール・ヤングの感情豊かなボーカルが心に響いてくる楽曲です。

[Verse 1]
When you were young and on your own
若くて一人でいた頃
How did it feel to be alone?
孤独はどんな感じだった?
I was always thinking of games that I was playing
いつも遊んでいたゲームのことを考えていた
Trying to make the best of my time
時間を有効に使おうとしていた

[Chorus]
But only love can break your heart
でも、心を壊すのは愛だけ
Try to be sure right from the start
最初から確かめておくんだ
Yes, only love can break your heart
そう、心を壊すのは愛だけ
What if your world should fall apart?
もし君の世界が崩れたらどうする?


「Southern Man」
この曲は奴隷制度と人種差別をテーマにした曲で、その激しい歌詞とギターリフが特徴です。ニール・ヤングは歌詞の中での中で、南部の白人に対し、聖書の教えを思い出し、正しい行動を取るよう白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)警告しています。

KKKは1865年に結成された白人至上主義の団体でリンチや暴力を通じて、黒人やその他の少数派に恐怖を植え付けました。KKKのメンバーは白いローブとフードを着用し、夜に十字架を燃やす儀式を行いました。この儀式が歌詞の中で引用されています。

[Chorus]
Southern man better keep your head
南部の男よ、頭を低く保て
Don't forget what your good book said
聖書に書かれたことを忘れるな
Southern change gonna come at last
南部にも変化がついに訪れるだろう
Now your crosses are burning fast
今や十字架が急速に燃えている
Southern man
南部の男よ


[Verse 1]
I saw cotton and I saw black
綿花畑と黒人たちを見た
Tall white mansions and little shacks
高い白い豪邸と小さな小屋
Southern man, when will you pay them back?
南部の男よ、いつ彼らに償うのか?
I heard screaming and bullwhips cracking
悲鳴と鞭の音が聞こえる
How long? How long?
どれだけ続くのか? どれだけ?


[Chorus]
Southern man better keep your head
南部の男よ、頭を低く保て
Don't forget what your good book said
聖書に書かれたことを忘れるな
Southern change gonna come at last
南部にも変化がついに訪れるだろう
Now your crosses are burning fast
今や十字架が急速に燃えている
Southern man
南部の男よ


[Verse 2]
Lily Belle, your hair is golden brown
リリー・ベル、お前の髪は黄金色
I've seen your black man coming 'round
お前の黒人が近づいてくるのを見た
Swear by God, I'm gonna cut him down!
神に誓う、あいつを殺してやる!
I heard screaming and bullwhips cracking
悲鳴と鞭の音が聞こえる
How long? How long?
どれだけ続くのか? どれだけ?


「Don't Let It Bring You Down」
この曲はニール・ヤングが初めて大西洋を越えてツアーを行った際に書かれたもので、落ち込んだ気持ちから抜け出すための希望を歌っています。

[Chorus]
Don't let it bring you down
落ち込まないで
It's only castles burning
燃えるのはただの城さ
Just find someone who's turning
誰かが変わるのを見つければ
And you will come around
君も変われる


『After the Gold Rush』はニール・ヤングの音楽キャリアにおける重要な作品であり、キャリアの中で1、2を争うほどの名盤です。このアルバムはニール・ヤングのその後のキャリアに大きな影響を与え、彼を1970年代の音楽シーンの中心人物として確立させました。


『Harvest』(1972年)


制作背景

『Harvest』は、ニール・ヤングが1972年にリリースしたアルバムであり、彼のキャリアの中でも特に重要な作品です。このアルバムはナッシュビルのクアドラフォニック・サウンド・スタジオで録音されました。このスタジオは、プロデューサーのエリオット・メイザーによって設立され、彼がニール・ヤングを説得して録音を行った場所です​。

ニール・ヤングがナッシュビルを訪れたのは「The Johnny Cash Show」に出演するためでした。この機会を利用して、メイザーは彼をスタジオに招待し、セッションミュージシャンを集めて録音を開始しました。ベーシストのティム・ドラムンドは、たまたまスタジオの近くを歩いていたところをメイザーに誘われて参加することになりました。またドラムにはケニー・バトリーが加わり、ニール・ヤングのギターと共にカントリーロックのサウンドを形成しました​。



ロンドン交響楽団とのコラボレーション
アルバムには、ロンドン交響楽団とのコラボレーションも含まれています。「A Man Needs a Maid」と「There’s a World」は、ロンドン交響楽団と共に録音され、壮大なオーケストラのアレンジが特徴です。そのためこれらの曲はニール・ヤングのシンプルなギターとボーカルとは対照的な、重厚なサウンドが加わっています。

リンダ・ロンシュタットとジェームス・テイラーの参加
「The Johnny Cash Show」
に出演した際、ニール・ヤングはリンダ・ロンシュタットジェームス・テイラーをスタジオに招き、「Old Man」と「Heart of Gold」のバックボーカルを担当させました。特に「Old Man」では、ジェームス・テイラーがバンジョーを演奏し、曲に独特の深みを加えています。これらのセッションは、ナッシュビルのリラックスした雰囲気の中で行われ、アルバム全体に温かみをもたらしました​。

リンダ・ロンシュタット


ジェームス・テイラー


アルバム制作の過程
アルバムの制作は1971年初頭から始まり、同年の9月まで続きました。録音は、ナッシュビルのクアドラフォニック・サウンド・スタジオ、カリフォルニアのヤングの農場、そしてロンドンのバーレイ・スタジオで行われました。ニール・ヤングはこの期間中に新しいバンド、ストレイ・ゲイターズを結成し、彼らと共にアルバムの大部分を録音しました。ストレイ・ゲイターズのメンバーには、前述のドラムンドとバトリーの他、ペダルスティールギターのベン・キースも含まれており、彼の演奏がアルバムのサウンドに大きな影響を与えています​ 。

アルバムに収録された曲「The Needle and the Damage Done」は、唯一のライブ録音であり、ドラッグによる友人の死をテーマにした感動的な曲です。この曲はニール・ヤングのアコースティックギターとボーカルのみで構成されています。ヤングはこの曲について、「私は説教者ではないが、ドラッグは多くの偉大な人々を殺した」と語っています​ 。


楽曲紹介

「Out on the Weekend」
アルバムのオープニングを飾る、ティム・ドラムンドのベースとケニー・バトリーのキックドラムが完璧に調和した素晴らしい曲です。それとニール・ヤングのメロウなボーカルが印象的です。

「Harvest」
タイトル曲である「Harvest」はカントリーの要素を強く感じさせるワルツ調の楽曲で、シンプルなメロディとニール・ヤングの心に響く歌詞が特徴です。

[Verse 3]
Will I see you give more than I can take?
君が僕に与えてくれる愛が、僕が受け取れる以上のものになるのか?
Will I only harvest some?
僕はその一部しか受け取れないのか?
As the days fly past, will we lose our grasp?
日々が過ぎ去る中で、僕たちはその感覚を失うのか?
Or fuse it in the sun?
それとも太陽の下で一つになれるのか?

「A Man Needs a Maid」
この曲はロンドン交響楽団とのコラボレーションで制作され、ピアノとオーケストラの壮大なアレンジが特徴です。歌詞からは孤独感が伝わってきます。

[Verse 1]
My life is changing in so many ways
人生がいろいろな面で変わっている
I don't know who to trust anymore
もう誰を信じていいのかわからない
There's a shadow running through my days
日々に影が差している
Like a beggar goin' from door to door
ドアからドアへと回る乞食のように
I was thinkin' that maybe I'd get a maid
メイドを雇おうかと考えた
Find a place nearby for her to stay
近くに住む場所を見つけて
Just someone to keep my house clean
家を掃除してくれる人が欲しい
Fix my meals and go away
食事を作って帰ってくれる人が

[Chorus]
A maid
メイドが
A man needs a maid
男にはメイドが必要だ
A maid
メイドが

「Heart of Gold」
ニール・ヤングの最も成功したシングルであり、カントリーフレーバーとポップなメロディが絶妙に組み合わさっています。リンダ・ロンシュタットとジェームス・テイラーがバックボーカルを担当しています。

[Verse 1]
I want to live, I want to give
生きて、与えたいんだ
I've been a miner for a heart of gold
黄金の心を求めて鉱夫のように探し続けている
It's these expressions I never give
そんな気持ちを普段は見せないけれど

[Chorus]
That keeps me searchin' for a heart of gold
だから僕は黄金の心を探し続ける
And I'm getting old
そして年を重ねていく
Keep me searchin' for a heart of gold
黄金の心を探し続ける
And I'm getting old
年を取っていくけれど

[Verse 2]
I've been to Hollywood, I've been to Redwood
ハリウッドにもレッドウッドにも行った
I crossed the ocean for a heart of gold
黄金の心を求めて海を渡った
I've been in my mind, it's such a fine line
心の中でも探してきた、それは微妙な境界線なんだ

「Old Man」
この曲はニール・ヤングが購入した牧場の年老いた管理人に触発されて書かれました。ジェームス・テイラーのバンジョー演奏が加わっています。愛による支えが必要だという普遍的なことについて人生経験を重ねた牧場の年老いた管理人について訴えかけるニール・ヤングが歌詞の中で見られます。この曲は多くのアーティストにカバーされている人気曲です。

[Intro]
Old man, look at my life
おじさん、僕の人生を見てくれ
I'm a lot like you were
僕は昔のあなたにとても似ている

[Verse 1]
Old man, look at my life
おじさん、僕の人生を見てくれ
Twenty-four, and there's so much more
24歳、まだまだこれからだ
Live alone in a paradise
楽園で一人暮らし
That makes me think of two
二人のことを考えさせる

[Verse 2]
Love lost, such a cost
失った愛、その代償は大きい
Give me things that don't get lost
失われないものを僕にくれ
Like a coin that won't get tossed
投げられないコインのように
Rolling home to you
あなたの元に戻っていく

[Chorus]
Old man, take a look at my life, I'm a lot like you
おじさん、僕の人生を見て、僕はあなたにとても似ている
I need someone to love me the whole day through
一日中僕を愛してくれる人が必要なんだ
Ah, one look in my eyes and you can tell that's true
僕の目を見ればそれが本当だとわかる

「Alabama」
「Southern Man」の続編
として、アラバマ州の歴史的な偏見と人種差別をテーマにしています。デイヴィッド・クロスビーとスティーヴン・スティルスがハーモニーを担当しています。歌詞の「Your Cadillac has got a wheel in the ditch and a wheel on the track」という部分は、南部の進歩が過去の問題によって妨げられている状況を示しています。また「See the old folks tied in white robes」という部分では、さっきも言及した通り、白いローブとフードを着用し、夜に十字架を燃やす儀式を行うクー・クラックス・クラン(KKK)について言及しています。この曲でニール・ヤングはカナダ人としてアメリカの問題について歌うことに対して賛否両論を受けることとなりました。

[Verse 1]
Oh, Alabama
ああ、アラバマ
The devil fools with the best laid plan
悪魔は最高の計画をもてあそぶ
Swing low, Alabama
低く揺れろ、アラバマ
You got the spare change, you got to feel strange
小銭を持っているのに、妙な気分になる
And now the moment is all that it meant
そして今、その瞬間だけがすべてを意味する

[Chorus]
Alabama, you got the weight on your shoulders
アラバマ、その重荷が君の肩にかかっている
That's breaking your back
そのせいで背中が折れそうだ
Your Cadillac has got a wheel in the ditch
君のキャデラックは片輪が溝に落ちて
And a wheel on the track
もう片方はまだ道に乗っている

[Verse 2]
Oh, Alabama
ああ、アラバマ
Banjos playing through the broken glass
割れたガラス越しにバンジョーが響く
Windows down in Alabama
アラバマの窓から
See the old folks tied in white robes
白いローブに包まれた老人たちを見る
Hear the banjo, don't it take you down home?
バンジョーを聞けば、故郷に連れて行ってくれるだろう?



「The Needle and the Damage Done」
唯一のライブ録音であり、ヘロイン中毒による友人の死をテーマにした曲です。

[Verse 1]
I caught you knockin' at my cellar door
地下室のドアをノックする君を見つけた
I love you, baby, can I have some more?
愛してるよ、ベイビー、もっとくれないか?
Ooh, ooh, the damage done
ああ、被害は甚大だ

[Verse 2]
I hit the city and I lost my band
街に出てバンドを失った
I watched the needle take another man
針がまた一人を奪うのを見た
Gone, gone, the damage done
ああ、被害は甚大だ

[Verse 3]
I sing the song, because I love the man
その人を愛しているからこの歌を歌う
I know that some of you don't understand
理解できない人もいるだろうけど
Milk-blood to keep from running out
ミルクのような血が尽きないように

[Verse 4]
I've seen the needle and the damage done
針とその被害を見てきた
A little part of it in everyone
それは誰の中にも少しずつある
But every junkie's like a settin' sun
でも、全てのジャンキーは沈む太陽のようだ

歌詞に出てくる「Milk-blood to keep from running out」という部分は、ヘロインの影響でミルクのように白い血が流れることを指していると言われています。



『Time Fades Away』(1973年)


『Time Fades Away』は、ニール・ヤングが1973年にリリースしたライブアルバムであり、その制作背景は非常に複雑で暗いものです。このアルバムは1972年の『Harvest』ツアー中に録音されましたが、ツアー自体が非常に困難なものでした。ニール・ヤング自身が「バッド・トリップ」と呼ぶほど、このツアーは彼にとって苦しいものであり、その経験がアルバム全体に反映されています。

ツアーが始まる直前、ニール・ヤングの友人でありバンドメンバーだったダニー・ウィッテンがヘロインの過剰摂取で亡くなりました。この出来事はニール・ヤングに深いショックを与え、ツアー中の彼の精神状態に大きな影響を与えました。さらに、ツアー中には声が枯れるなどの体調不良に悩まされ、ツアーの最後の3週間にはデイヴィッド・クロスビーとグラハム・ナッシュが参加して彼を支援しました。

レコーディング
『Time Fades Away』の録音は、ツアー中に行われましたが、通常のライブアルバムとは異なり、ニール・ヤングは新しい未発表の楽曲を多く取り上げました。このアルバムは16トラックのマルチトラック・レコーダーを使用してライブ音源を直接録音し、その後、LPカッティング用にミックスされた音源を使用しました。これにより、従来のマスター・テープが存在せず、再リリースが難しくなったのです。

アルバムは1973年10月15日にリリースされ、ビルボードのアルバムチャートで22位を記録しました。また、アメリカとイギリスでゴールドディスクを獲得しています。

収録曲

『Time Fades Away』には、ツアー中に録音された8曲が収録されています。

「Time Fades Away」
タイトル曲「Time Fades Away」は、アルバムのオープニングを飾るダイナミックな曲です。荒削りな演奏が混乱と不安を反映しているかのようです。

[Verse 1]
Fourteen junkies too weak to work
仕事をするにはあまりにも弱った十四人のジャンキー
One sells diamonds for what they're worth
一人はダイヤモンドを本来の価値で売っている
Down on pain street, disappointment lurks
痛みの街では失望が潜んでいる

[Chorus]
Son, don't be home too late
息子よ、遅く帰ってくるな
Try to get back by eight
八時までには帰ってこい
Son, don't wait till the break of day
息子よ、夜明けまで待つな
'Cause you know how time fades
時間がどれだけ早く過ぎるか知っているだろう
Time fades away
時間は消え去る
You know how time fades away
時間が消え去るのを知っているだろう

冒頭の歌詞「Fourteen junkies too weak to work」では、ドラッグ中毒のために仕事ができない状態にある十四人の中毒者を指しています。ニール・ヤングはこの曲を通じて、自分を悩ませるほど最も関心を持っていたドラッグ問題について歌いました。

「Don't Be Denied」
「Don't Be Denied」は、ニール・ヤングの自伝的な楽曲であり、彼の幼少期からスターになるまでの経験を描いています。この曲はスライドギターの音色が印象的です。


アルバムの評価
『Time Fades Away』は、その暗いテーマと荒削りなサウンドのため、リリース当初は賛否両論でした。しかし、年月が経つにつれて、このアルバムはニール・ヤングのディスコグラフィの中で重要な位置を占める作品として評価されています。

このアルバムは、ニール・ヤングの「Ditch Trilogy」と呼ばれる一連の作品の一部として位置づけられています。このトリロジーは商業的な成功を追求するよりも、自身の内面を探求し、真実を表現することを重視した作品群です。『Time Fades Away』は、その先駆けとして、ニール・ヤングのアーティストとしての進化を示す重要な作品です。



『On the Beach』(1974年)


『On the Beach』は、ニール・ヤングが1974年にリリースしたアルバムであり、その制作背景とテーマは非常に暗く、深いものです。このアルバムはいわゆる「Ditch Trilogy」の一部であり、前作『Time Fades Away』および次作『Tonight's the Night』と共に、ニール・ヤングの最も暗く内省的な時期を反映しています。

制作背景

『On the Beach』の制作は、1973年から1974年にかけて行われました。この時期、ニール・ヤングは個人的な困難を多く経験していました。彼の友人でありバンドメンバーであったダニー・ウィッテンの死、さらにロード・クルーのブルース・ベリーの死が重なり、深い悲しみに包まれていました。これらの出来事は、ニール・ヤングにとって非常に辛いもので、それが音楽と精神状態に大きな影響を与えました。

また、当時のパートナーである女優キャリー・スノッドグレスとの関係も破綻寸前であり、彼の精神状態は不安定でした。ニール・ヤングはインタビューで「On the Beachの時期はとても暗く、あまり幸せではなかった」と述べており、彼の失望感がアルバム全体に反映されています​ 。


録音環境
アルバムの録音は、ロサンゼルスのスタジオで行われました。ニール・ヤングは、ベン・キースやラスティ・カーショウといったミュージシャンと共に、非常にリラックスした環境で録音を進めました。ラスティ・カーショウは、このセッション中に「ハニースライド」と呼ばれる強力なマリファナとハチミツの混合物をニール・ヤングに紹介しました。この「ハニースライド」は、セッションの雰囲気に大きな影響を与え、全体的にぼんやりとした雰囲気を作り出しました​。スタジオ内に立ち込める煙のため、プロデューサーはセッション中にガラス越しにブースを覗き込んでミュージシャンを探すことがありました。


楽曲紹介

「Walk On」
アルバムのオープニングを飾るこの曲は軽快なロックナンバーであり、ニール・ヤングのアンチテーゼ的な歌詞が特徴です。

[Verse 1]
I hear some people been talking me down
誰かが僕を悪く言っているのを聞いた
Bring up my name, pass it 'round
僕の名前を出して、話を広めている
They don't mention the happy times
楽しい時のことは言わない
They do their thing, I do mine
彼らは彼らのことをして、僕は僕のことをする

[Chorus]
Ooh baby, that's hard to change
ベイビー、それを変えるのは難しい
I can't tell them how to feel
どう感じるべきか彼らに言えない
Some get stoned, some get strange
麻痺する人もいれば、おかしくなる人もいる
But sooner or later, it all gets real
でも、遅かれ早かれ、すべて現実になる
Walk on, walk on
歩き続けるんだ、歩き続けるんだ
Walk on, walk on
歩き続けるんだ、歩き続けるんだ

「See the Sky About to Rain」
スローなテンポとエレクトリックピアノが特徴のこの曲は人生の旅路について歌っています。

[Chorus]
See the sky about to rain
空が今にも雨を降らせそうだ
Broken clouds and rain
裂けた雲と雨
Locomotive, pull the train
機関車が列車を引っ張る
Whistle blowing through my brain
笛の音が頭に響く
Signals curling on an open plain
広がる平原に信号が曲がる
Rolling down the track again
再び線路を進んでいく
See the sky about to rain
空が今にも雨を降らせそうだ


「Revolution Blues」
チャールズ・マンソンに影響された歌詞が特徴のこの曲は、ダークなナンバーです。ニール・ヤングの反体制的な姿勢が垣間見ることができます。

[Verse 3]
Well, I'm a barrel of laughs with my carbine on
カービン銃を持って笑いを巻き起こす
I keep 'em hopping till my ammunition's gone
弾が尽きるまで踊らせる
But I'm still not happy, I feel like there's something wrong
それでも満足できない、何かがおかしいと感じる
I got the revolution blues, I see bloody fountains
革命ブルース、血の噴水が見える
And ten million dune buggies coming down the mountains
一千万のデューンバギーが山から降りてくる
Well, I hear that Laurel Canyon is full of famous stars
ローレルキャニオンには有名なスターがたくさんいると聞いた
But I hate them worse than lepers and I'll kill them in their cars
でも僕は彼らが嫌いで、車の中で殺してやる


「For the Turnstiles」
ニール・ヤングのバンジョーとベン・キースのドブロギターが印象的なこの曲は、シンプルで力強いフォークソングです。搾取、人生の儚さなど人生の厳しい現実について遠回りに歌っています。

[Verse 1]
All the sailors with their seasick mamas
船乗りたちとその船酔いした母親たちは
Hear the sirens on the shore
岸辺でサイレンの音を聞いている
Singing songs for pimps with tailors
仕立て屋と一緒の仲間たちのために歌を歌い
Who charge ten dollars at the door
入口で10ドルを請求する

[Chorus]
You can really learn a lot that way
そうして多くのことを学べるんだ
It will change you in the middle of the day
それは日中に君を変えるだろう
Though your confidence may be shattered
自信が砕けるかもしれないけれど
It doesn't matter
それでも気にしないさ

[Verse 2]
All the great explorers
偉大な探検家たちは
Are now in granite laid
今や石に刻まれている
Under white sheets for the great unveiling
大披露のために白いシーツに覆われて
At the big parade
大行進でその姿を現す

[Chorus]
You can really learn a lot that way
そうして多くのことを学べるんだ
It will change you in the middle of the day
それは日中に君を変えるだろう
Though your confidence may be shattered
自信が砕けるかもしれないけれど
It doesn't matter
それでも気にしないさ

[Verse 3]
All the bush league batters
下級リーグのバッターたちは
Are left to die on the diamond
ダイヤモンドの上で見捨てられる
In the stands the home crowd scatters
観客たちはスタンドから散っていく
For the turnstiles
ゲートを通り抜けるために
For the turnstiles
ゲートを通り抜けるために
For the turnstiles
ゲートを通り抜けるために


「Ambulance Blues」
アルバムの最後を飾るこの曲は、ニール・ヤングの内省的な歌詞とアコースティックギター、ハーモニカが特徴です。この曲はニール・ヤングの最高傑作の一つと評価されています。


詳しい和訳はこのアルバムの和訳をまとめたnoteを確認してみてください。


『Tonight's the Night』(1975年)


『Tonight's the Night』は、ニール・ヤングが1975年にリリースしたアルバムで、彼のキャリアの中で最も暗く、内省的な作品の一つです。このアルバムは前作の説明で書いた通り、1972年から1973年にかけて経験した友人たちの死の影響を強く受けています。

制作背景
『Tonight's the Night』の制作は、1973年の夏にロサンゼルスのリハーサルルームで行われました。ニール・ヤングは新しいバンド「サンタモニカ・フライヤーズ」を結成し、ベン・キース、ニルス・ロフグレン、ラルフ・モリーナ、ビリー・タルボットと共にセッションを行いました。

アルバム全体を通して、ニール・ヤングのボーカルと演奏は非常に荒削りで感情的です。タイトル曲「Tonight's the Night」は、ブルース・ベリーに捧げられた曲で、彼がギグの後にヤングのギターを弾いていた様子を描いています。この曲がアルバムの冒頭と最後を飾り、その重苦しいトーンがアルバム全体の雰囲気を決定づけています​


楽曲紹介

「Tonight's the Night」
この曲は、そのローファイな雰囲気と荒削りなサウンドが特徴です。ヤングのボーカルは感情的で、時にマイクに近すぎたり遠すぎたりする不安定さでニール・ヤングの感情を表現しているかのようです。歌詞は、ベリーが亡くなる前にギターを弾いていた夜を描写し、彼の死に対するニール・ヤングの深い悲しみとショックが伝わってきます。

[Verse 2]
Early in the morning, at the break of day
早朝、日の出とともに
He used to sleep until the afternoon
彼は午後まで眠っていた
If you never heard him sing
彼の歌声を聞いたことがなければ
I guess you won't too soon
その声を知る機会はもう来ないだろう
'Cause, people, let me tell you
なぜなら、みんな、聞いてくれ
It sent a chill up and down my spine
その話を聞いたとき、背筋が凍ったよ
When I picked up the telephone
電話を取った瞬間に
And heard that he'd died out on the mainline
彼がメインラインで亡くなったと聞かされたんだ

「Borrowed Tune」
この曲は、ローリング・ストーンズの「Lady Jane」にインスパイアされており、ヤングが感情的な歌詞とメロディを通じて、自分の孤独と悲しみを表現しています。ニール・ヤング自身が「この曲はローリング・ストーンズから借りたもの」と公言しています。

「Come on Baby Let's Go Downtown」
この曲は1970年にフィルモア・イーストでライブ録音されたもので、ダニー・ウィッテンと共に演奏されました。ウィッテンの死後、この曲は彼へのトリビュートとしてアルバムに収録され、彼のボーカルと演奏がそのまま収められています。

「Tired Eyes」
この曲は、アルバムの中でも特に感情的な楽曲であり、ニール・ヤングの薬物取引による悲惨な事件に対する悲しみと怒りが詰まっています。ニール・ヤングのボーカルとハーモニカが中心となり、バックバンドの演奏がその感情を引き立てています。

[Verse 1]
Well he shot four men in a cocaine deal
コカインの取引で四人を撃ち
And they left them lyin' in an open field
彼らを野原に放置した
Full of old cars with bullet holes in the mirrors
古い車が弾痕でいっぱいの場所に
He tried to do his best but he could not
彼は最善を尽くそうとしたが、できなかった

[Chorus]
Please take my advice
お願いだから、私の助言を聞いてくれ
Please take my
お願いだから
Please take my advice
私の助言を聞いてくれ
Open up the tired eyes
疲れた目を開いて
Open up the tired eyes
疲れた目を開いて

[Verse 2]
 
Well, it wasn't supposed to go down that way
そんなことになるはずじゃなかった
But they burned his brother, you know
でも彼らは兄弟を焼いたんだ
And they left him lying in the driveway
そして彼をドライブウェイに放置した
They let him down with nothing
彼には何も残らなかった
He tried to do his best but he could not
彼は最善を尽くそうとしたが、できなかった

[Chorus]
Please take my advice
お願いだから、私の助言を聞いてくれ
Please take my advice
私の助言を聞いてくれ
Please take my advice
お願いだから、私の助言を聞いてくれ
Open up the tired eyes
疲れた目を開いて
Open up the tired eyes
疲れた目を開いて

[Verse 3]
Well tell me more, tell me more, tell me more
もっと教えてくれ、もっと教えてくれ、もっと教えてくれ
I mean was he a heavy doper or
彼は重度の麻薬中毒者だったのか、それとも
Was he just a loser?
ただの負け犬だったのか?
He was a friend of yours
彼は君の友達だったんだろう
What do you mean he had bullet holes in his mirrors?
彼のミラーに弾痕があったってどういうことだ?
He tried to do his best but he could not
彼は最善を尽くそうとしたが、できなかった


まとめ『After the Gold Rush』~『Tonight's the Night』まで

1970年代初期は、ベトナム戦争、若者文化の変革、社会的な不安定さなど、多くの社会的変動があった時期でした。ニール・ヤングの音楽は、そのような時代の変化を反映し、多くの若者にとっての声となりました。ニール・ヤングが1970年代初期に人気を博した理由は、社会的なメッセージと個人的な感情を巧みに融合させ、音楽的な多様性と革新性を持っていたからだと思います。このあとはシンセポップとエレクトロニカを取り入れたり、グランジにも接近したりします。その時期のニール・ヤングについても今後書いていこうと思います。

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