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おかえりGPS

同志Aからのお題:造語


兜も焦がす炎熱を
敵の屍とともに寝て
泥水すすり草を噛み…

1931年の戦時歌謡「父よあなたは強かった」さながら、わが家の子ども用GPS端末も強かった、という話を。

端末は手のひらサイズのかわいいやつ。キッズケータイを補う機器として、昨年秋に購入した。子どもに持たせておくと、親のスマホのアプリから現在地や移動経路が確認できる優れものだ。

それがまさか、ドラム式洗濯機のあつあつの洗濯物からポロンと出てくるとは!

単なる水没事故ではなく、衣類やタオルと一緒に洗剤の泡でじゃぶじゃぶされた後に、熱風を浴びること2時間のデス・ロード。戦場の炎熱&泥水をかいくぐった“父”にも同情されようぞ。「雨の日でもへっちゃら」という防塵防水性能(IP55)は備えているものの、さすがに今回は防げないだろう。

「死んだ」と思ったが、本体のLEDが赤く点いている。通常は「充電中」を知らせる色だが、この時は血のようにも、苛烈な環境に置かれたことへの怒りにも見えた。GPSにも命があるのか。

ふと思い出したのは、ラジオで聴いた落語家の桂宮治さんの話。イヤホンをトイレで水没させてしまい、ダメになったと思って新しいのを買ったのに、数日後には水が抜けて死んだはずのイヤホンが復活した、とか。わがGPSも万に一つの可能性を信じて、乾かしてみよう。

赤い光は日を追うごとに徐々に薄くなり、ある日完全に消えた。スマホのアプリが「充電してください」と促すが、あせりは禁物。通電せざること山の如し。乾燥第一である。

事故から2カ月ほど待っただろうか。端末利用の無料期間が終わり、翌月から課金が始まる。解約か継続か。再起動を試す時が来た。

緊張しつつ、端末にUSB Type-Cケーブルを差して充電開始。LEDが赤く光る。しばらくすると充電完了を知らせる緑色に。生き返ったのか?

でもアプリが反応しない。もう一回充電してみると、今度はアプリで現在地も経路も問題なく表示されるではないか。三途の川を渡らずに帰ってきた!

奇跡のよみがえりGPS端末。「Global Positioning System」改め「GreatなProductしかもStronger」の降臨である。


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