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遺影を作った話

なんだか物騒なタイトルになってしまうが、あまり身構えないでいただきたい。

今から書くのは、一昨年祖母が亡くなった時の話である。

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大腸がんを患った祖母は、亡くなる一年前ぐらいから定期的に入院するようになっていた。

最後に入院した時は母親に「そろそろ覚悟するように」と言われ、土日に新幹線で実家に帰り一緒に病院で過ごした。

癌は別れの準備をする期間がある病気であると、どこかで読んだことがあるが
そんな感じで私達の家族も、一年ちょっとぐらいの期間ゆっくり祖母に寄り添った。

晩年はあまり友達と過ごさず(動物の友達は多かったけど...)祖父と日々を過ごしていたので、葬儀は家族と親戚のみで小さく行い、お葬式の後も休みを余分にお願いしていた私は家でゆっくり過ごして心の整理をつけようとしていた。



そんな時である。


母「おばあちゃんのいい感じの遺影用の写真がないから、Photoshopでいい感じに合成してほしい」


はい?


母「亡くなる前に一緒に旅行に行った時の写真がいいんだけど、全部背景がゴチャゴチャしてたり、私が隣に居たりするのよね〜
だからいい感じに直してほしい」



そ、その頼み方ってデザイナーが一番困る「よくわかんないけどうまい感じに仕上げちゃって!」ってやつ....

しかも小一時間、画面の中のおばあちゃんと向き合い続けるからいろいろ思い出して悲しくなっちゃうやつ....



しかし、結論から言うと、デザイナーおよびPhotoshopを使える人間が家族の遺影を手作りするのはすごくありな選択肢であった。



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そもそも、普通遺影はプロの業者やカメラのキタムラさんに頼むものらしいのだが、相場は6000円〜ほど

しかも、「背景を変える」「仏壇用にリサイズ」などオプションが重なると、余裕で1万円を超えてくるらしい。あと時間もかかる。

なるほど確かに、社会人になって身につけたスキルで、葬儀一式費用をほんの少しでも安く抑えられるのであれば、孫の本気を見せようじゃあないの!

人物の切り抜きはそれなりに慣れているので髪の端の部分の毛もいい感じに持ってきて、背景は自然の緑が入った写真をぼかしたりトーンを上げたりして制作した。


私「こんな感じでどうでしょうか?」

母「うーん。もうちょっと笑ってほしいし髪の毛のムラをなくしてほしい。あと少し血色よく仕上げてほしいかな。」


いや結構本気のお戻しじゃないっすか...

でも確かに笑ってて血色いい方がいいよなあ、と思いつつ
フィルター > ゆがみ で顔を笑顔に、ブラシツールで少しチークをさして、髪のグレーヘアのムラを整えた。


私「こんな感じでどうでしょうか?」

弟「どうせやったら歯ホワイトニングしたりや。」


タレント撮影ですかこれは。と思いつつ、笑顔の歯を選択ツールで囲み、トーンカーブでホワイトニング。うんうん、結構いい感じになってきたぞ。


私「こんなかんじで...」

祖父「最近は病気でしてなかったけど、白髪染めしてた時の髪の色がええなあ。どおせやったら若々しく作って。」


いやグレーヘア綺麗に仕上げたのに。デザイナーあるある「クライアント内部で意見に相違がある」じゃないですか。

最終的にはPCで作業する私の後ろで、家族みんなでやいのやいの言いはじめた。仕事だったらかなり厄介なお客さんである。


そうしてできた遺影は、祖父と祖母が二人で使っていたタンスの上に飾り、後ろ側には美大で頑張っている弟が描いた木漏れ日が差す森の水彩画を立て掛け、前側には線香立てと生前使っていた食器でお供え物をした。

ほぼ無宗教で、催事のみ仏教にならっていた我が家の大きな仏壇は、少し前に引き取ってもらっていた。
オールホームメイドの追悼スペースは、なかなか我が家らしくて良い完成形だと思う。

結局作業に口を出していた家族たちも、いつしか祖母の生前の話に花をさかせ、完成したものが額縁に収まった時にはみんな満足してくれてた。

故人の表情や姿を自分たちで振り返りながらつくる遺影は、発注して後日届く遺影よりも、きっと良いものになる。デザイナーのみなさんには、ぜひ遺影の仕事受注をおすすめしたい。



最近、実家を売ってマンションに引っ越した母親から連絡が来た。


母「引っ越し先だと遺影が大きいから、小さいフォトフレームサイズに編集してほしい」

私「リサイズ費...」

母「でません」


突然のリサイズ作業が発生する可能性があります。

(おわり)



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