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輪廻は廻る 〜異世界、アンジェの奮闘記〜

第一部 子爵領幼女編

第六話 準備と知識と


 アンジェは、朝から気分が良い。
 街へ出かける気で、アニーを待つ。
 先ずは、ご飯を食べて、着替えたら何処に行こ〜と考えていると、部屋にアニーが来たので、準備をする。

 一番乗りでテーブルに座ると、ニコニコ、ニヤニヤと妄想していると、お父様とお母様が来た。

 「アンジェ、おはよう。
何時もより、早いようだが。その顔は、控えなさい。」
気が付かない内に、変顔になっていたようだ。
 アンジェは、両手で頬を挟み揉みほぐす。
 「お父様、お母様、おはようございます。
だって、街へ行けるのよ。もう、楽しみで早く起きてしまったわ。」 
 お父様が、
「いやいや、服の準備もあるから、明日からしか行けないよ。」
(『ガ~ンガ~ンガ~ン』、アンジェは心に深い傷を負った。)
 お母様も、
「楽しみだったのは分かるから、あからさまにガッカリした顔は止めなさい。」
援護は無かった。
 仕方ない、ヤケ食いだ!
「ガツガツ、もぎゅもぎゅ、カチャッカチャッと肉を切り口に頬張りパンを突っ込み、喉に詰まらせる。」
いつものパターンである。
 直ぐに、水を飲むと無理やり飲み込む。
(俺は、いつもいつも、その食べ方直らんのか?走馬灯みたいに、昔の記憶が流れてくるじゃないか!
フンッ!)
アンジェは懲りない。

 カチャカチャ、モギュモギュ、と繰り返す。
(駄目だ。いつ死んでもおかしくない。嗚呼、母さんっ。今行くよ~。)
 ゴキュッゴキュッと、また、飲み込むと
「テーブルマナーは、まだ覚えられないのか?
 せめて、頬張る、ナイフやホーク、スプーンをカチャカチャ音を立てないくらいは直ぐ覚えなさい。」
 お父様が最低限の注文をつけると、
「その心配は、ありませんわ。」
 アンジェの言葉に、皆がこちらを見ると
「マナーを知らない庶民のマナーを勉強していますの。」
 あらっ?皆が青筋たてて、冷たい目線を向けている?
「バカ者がぁ!
いくら、庶民とはいえ、喉に詰まらせ真っ青になりながら水を飲むマナーがある訳なかろう!」
おぉ、お父様の激怒だ。
「アンジェ、それでは家の恥を晒すような物ですわよ!」
 おや、お母様までお怒りの様だ。
(俺は、当たり前だろ。わざとなのか?わざとだと言え!その内、親に捨てられるぞ。 
ハイハイ、分かりましたよ!やれば良いのでしょ、や・れ・ば。)

 アンジェは、
「お父様、お母様、それに皆も、申し訳ありませんでした。
 これ以降は、マナーを持って証明致しましょう。
ですが!成長期なので!沢山食べるのは、お許し下さい。」
 急に態度の変わったアンジェに目が・てんになるエドとステフ。
「そんな対応が出来るのか?隠していたとも思えないのだが?まぁ、直すと言うなら、これくらいにしておこう。」

 タリラタッタラー。アンジェは、この場を丸く収めた。
(まだ、成長期なんて言ってるよ~。胸が、そんなに大事かね〜。横に、大きくなりたいんじゃね!樽ちゃんと呼ばれたいのか?
うっさいわね!アンジェは一喝しながら、『ゼーハー、ゼーハー』と荒い息をつく。)

 朝食を済ませると、部屋に戻ったアンジェは、ベッドへ潜り込むとケプッとお腹を擦りながら、昼寝では無く、朝寝をしようと横になる。が
「アンジェ様、何をなさっているのですか?」
 おや、アニーが少し怒っている。
「街へ行く事もなくなったから、食休みをと。」
返事の途中で、大きくお怒りな感じに変わっていく。
「本日は、街ではなくて書室で授業ですよね〜。」
 この数日で、アニーの私への態度が厳しい気がする。
「でもでも、食べ過ぎたと言うか、あっ昨日の疲れと筋肉痛で」 
 また、私の言葉を遮りながら、
「では、食事の量を減らしましょう。
おやつも、止めたほうが良いですね。」
 あれ、アニーがお父様、お母様みたいになってるぞ?

 降参しか無い!
「アニー、ごめんなさい、私が悪かったわ。」
 アンジェは素直に謝った。

 アニーは、分かれば宜しいと態度を変えると、書室へ連れて行かれた。
「復習を兼ねて、計算問題を用意しています。先ずは、こちらを解いて下さい。」
 アニーから渡された答案用紙には、足算、引算に掛け算と割り算があった。アンジェは、
「これくらいなら、直ぐ終わるわ。」
2桁、3桁程度、暗算でも出来る。

 掛け算、割り算も、以前の世界では10進法が一般的に使われていたので、桁が多くても何段あっても困らない。
 逆にこの算盤そろばんが使えない。
「アニー、出来たわよ。」
 アンジェが手を上げて呼ぶと、アニーはビックリして受け取ると答え合わせをする。

 アニーは、額に手を当て、
「もう、計算は大丈夫ですね。角度や確率、割合なども有りますが流石にまだ、早いでしょうか?」 
 アンジェは、
「1周360度とか確率50%とか戦力7対3とかもあるの?簡単な計算は出来るわよ。」
 控えめに、簡単と付け足した私、グッジョブ。と思っていたら、
アニーは
「本当に出来るのですか?」
とまたビックリしている?
(俺は、出来なくて当たり前、出来てビックリって、アンジェは本当に残念なんだなぁ。)

 アニーは、朝からの授業を変更しようと悩んでいるようだ。
 アンジェは、
「アニー、今の国の事が知りたいわ。聞かせて貰ってもいいかしら?」
 アニーは、
「分かりました。私の知る限りの事は、お話しましょう。」
 アンジェは、
「エストラン王国だから、王様がいるのでしょ?後は、子爵や男爵の他の爵位はどうなっているの?」 
 アニーは、
「王国歴186年の4月20日になります。」
 私は4月7日生まれだから季節は春?四季はあるのかしら?

 「現在は、第4代カルロス王の施政下にあります。また、プランタ王太子が次期国王にと選ばれています。
では、爵位ですが、王族であれば公爵、それ以外であれば、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵とあります。
 ですが、準男爵と騎士爵は1代限りの爵位です。
 また、爵位授与は、国王様と公爵様がお持ちです。
 公爵様は、伯爵以外の独自の任命権があり、同じ伯爵でも王様からの授与された方が上位で公爵様からの授与は下位となります。
基本はこのくらいです。」

 アンジェは、
「成程、以前の日本で言う公侯伯子男に準男、騎士があるのか。
公侯は単語的に違うけど、ま、分かりやすく覚えておこう。」

 アニーは、
「以前?日本?何でしょうかそれは。」
(しまった、考えてたことが、口に出てたようだ。)
「いや~、前に話した夢の事ですわぁ。
 余り詮索しちゃ駄目ですよ〜。オホホホホ。」
(ごめんアニー、これ以上は詮索しないでと、俺とアンジェは願った。)
 「分かりました。アンジェ様、午前の授業はこれくらいにしておきましょう。」

 ほっと胸を撫でおろしたアンジェは、思ったより歴史の浅い国ながら、計算問題から、技術は進んでいるのかもしれないと、街へ早く行かねばと思い直した。

 午後からは、更に広く浅く情勢についての授業が続いた、
 「王族は、ウィルビス侯爵が取り纏めています、寄親でもあることから、ハイド伯爵とこのリヒタル子爵も王族派になります。
 以前お話に出た、バズール公爵は野心家と噂される程に、注意が必要です。
 このリヒタル領は公爵様の直轄地で、ヘルモンド伯爵のベルナン子爵領と接しています。
 また、北部からリヒタル領は、チェンダール帝国と接しています。
 帝国と王国は敵対国ですが、ベルナン子爵はバストール王国と接しています。
 こちらは、同盟国なので小競り合いもない様です。」
 アニーは、話し尽くすと、
「何か、分からない事、質問はありますか?」
と返事を促す。

 アンジェは、
「うん、今のところはいいかしら。
また、聞きたいことがあれば、その時に教えてちょうだい。」

 『コンコン』失礼しますとミリーが入ってきた。
「お嬢様、お洋服と靴の準備が揃いました。服を合わせに行きましょう。」

 待ってました!アンジェは、ミリーの手を引くと部屋へとバタバタと走り去っていく。

 「これが、街へ行くときに着るの?白い襟首に水色のワンピースに袖を通すと似合ってる?」
 ミリーが、
「大変お似合いです。アンジェ様の、金の髪に金の瞳が服を引き立てていますよ。」
 アンジェは、更に帽子と靴を履いてみる。
「白い帽子に、茶色い靴。早く行きたいわ。ミリーとアニーは準備は出来ていますの?」
 ミリーは、
「勿論で御座います。明日は、3人で出かけましょう。」
(孫にも衣装と言うやつだな。
何それ?
 立派な衣装があれば、それなりの見た目になるということだ。
 失礼な!何を着ても、私の溢れ出す気品は抑えられないのよ!
寝言は寝て言え。
『ムキ〜!』何時も、お風呂で真赤になってるくせに!
 いやいや、そんなチッパイに興味はない。アニーとミリーの距離感が近いと言うか。
 アンジェの冷たい視線を感じながら、さぁ明日は早いからもう寝ようかなぁ。)

 その頃、アニーは、
「エド様、本日のアンジェ様のご報告ですが。計算は5歳と思えない程に熟知されています。現在、置かれている王国内と近隣諸国については、ご理解されました。また、基本的な貴族の序列では、ご存知の様子でした。まだ、余裕が有るのか、隠されている感じがしました」
 「ご苦労であった。少し、考えさせてくれ。明日は、街へ行くのだろう。調子に乗って騒がないよう見てやってくれ。」

 アニーは、
「畏まりました。では、失礼致します。」

 アンジェは、遅れてご飯を食べると音も立てずにナイフとフォークを使いこなしたが、やっぱりまだ、一口がデカい。
 ミリーにお風呂に入れられ、ピカピカになると遠足か待ち遠しい気分で眠りに就いた。