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少女に気軽な一人旅が届くまで問題1

半ば忘れられていそうですが、実は『少女トラベルミステリ』は山浦弘靖『星子ひとり旅シリーズ』と風見潤『幽霊事件シリーズ』に関する研究本プロジェクトです。
そのため最近の記事は「少女がトラベルミステリの主人公として成立し、ヒットするまでの流れ」を追いかけています。

今までの記事では『ミステリ』『少女探偵』などについては扱ってきていますが、最大の要素である『トラベル』について扱ってきていませんでした。門外漢ですし、ものすごく大変なので後回しにしていたところがかなりありますが、さすがにそろそろやらないとまずいだろうということで今回から始めます。

今、日本は若い女性が一人旅するのに支障のない社会です。国外では治安の悪い地域などもあり、女性に限らず一人旅は危険だからやめておいた方がいいような地域、女性ゆえの危険がある地域も多いです。そうでなくても「夜に一人で外出することができる」地域はごくわずかでしょう。

ただ、とりあえず今の日本ではほとんどの地域に、誰にはばかることもなく、一人旅したい女性が出かけることができます。この状態が成立して初めて星子ひとり旅シリーズのヒットがあったはずです。
それはいつから成立したのか。どうやって成立したのか。それが今回のテーマです。

まず女性が一人旅に行くために必要なのは何か。
『一人旅できる環境』と『一人旅したいという意志』です。
女性が一人旅したいという思っても、壮絶に治安が悪いとか、昔のように「女性の一人旅? まさか自殺……!?」などと勘ぐられる状況だったら、ハードルはとても高くなります。
そして「そもそも旅行なんてしたくない」「旅行に行くとしても他の人と一緒に行くんじゃなかったら嫌」という人ばかりだとしたら、そういうニーズはありません。
この両方を満たさない限り、女性の一人旅が望まれたりはしない訳です。

まず大前提として「旅行ニーズはあったのか」という問題ですが、これはかなり昔からありました。江戸の頃から案外女性の旅行者はいたのです。もちろん一人旅ではなく、男性グループとの同行や、女性グループでの旅行でも荷物持ちなどの男性を同行させての旅行です。
そして今のように公共交通機関がある訳ではないので徒歩ですから、かなり長い時間をかけて旅をすることになります。
こちらの本が詳しくていろいろ参考になりました。

女性は治安のよさ、その他の問題で男性よりお金がかかるなど、現金を持ち歩かなくても為替での送金ができるなど、観光旅行用のガイドブックも出ているなど知らなかったことが満載でした。
観光ニーズはかなりあり、そのインフラも割と整えられていて、女性も旅を楽しんでいたのは間違いなさそうです。

ただし、その恩恵に浴することができるのは、経済的に豊かな、現役で働く必要のない高齢の女性がメインだったようです。比較的高齢の女性が多いのは、隠居してから楽しみの旅行に出るような感じだったからでしょう。若い女性でも旅をすることもなくはないですが、メインの旅行者ではありませんでした。
あと、そもそも徒歩なので健康、健脚な女性以外は無理というハードルも無視できません。ワタシのような体力のない人間は、この時代に旅を謳歌することはできなかったでしょう。

まして江戸の頃には関所があるので、そうそうカジュアルに遠くに出かけることはできません。そして出かけても思ったより女人禁制の名所も多く、男性よりも行ける場所は限られているのもつらいところです。
ただし、食の楽しみもおみやげ購入できる場所も多く、女人禁制でない場所なら観光を楽しむこともできました。
人質として江戸住まいをさせられている大名の妻女には許されず、それ以外の経済的に豊かな女性に限られるとはいっても、観光は女性にも開かれていたのです。
女性に『旅をしたい意志』はあり、それが一部の女性とは言え叶えられた。楽しい旅行をすることができたのは間違いありません。

ただ女性が『一人旅できる環境』までは整っていなかったということです。このタイミングに女性が一人旅をしたいと言い出すのは多分非現実的だったでしょう。
そこが整うためにはまず民間に開放された公共交通機関が整う必要があります。

次回は明治、電車が開通してからの話になります。

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