見出し画像

『ザ・プレイス 運命の交差点』

2017年のイタリア映画。
監督はパオロ・ジェノベーゼ。
アメリカのドラマ『The Booth 欲望を喰う男』をリメイクした作品です。


所謂ワンシチュエーション映画で、the placeというカフェのシーンのみで物語が進んでいきます。

カフェの一番奥の窓際の席にいつも座っている謎の男。
彼の手元にはびっしりと文字が書かれたノートがあります。

彼の元には、悩みを持った様々な人が会いに来ます。

・無くなったお金を探していて、息子との関係を元に戻したい警察官の男性。
・夫のアルツハイマーを治して家に帰ってきてほしい年配の女性。
・息子の病気を治したい会計士の男性。
・最近感じなくなってしまった神の存在を、改めて感じたい修道女の女性。
・美人になりたい女性。
・父親との関係を断ち切りたい薬の売人の男性。
・彼女を作りたい工場で働く男性。
・冷めてしまった夫婦の愛を取り戻したい女性。
・目が見えるようになりたい盲目の男性。


そんな彼ら彼女らに、謎の男はノートを見ながら、指示を出していきます。
その指示が以下の通り。

警察官→誰かを血が出るまで殴る。(無くなったお金が見つかる。)何かしらの被害届をもみ消す。(息子との仲が良くなる。)

年配の女性→爆弾を作って多くの人を殺す。(夫のアルツハイマーが治る。)

会計士→幼女を見つけて殺す。(息子の病気が治る。)

修道女→妊娠する。(神を再認識する。)

美人になりたい女性→強盗をして10万ユーロと5セントを手に入れる。(美人になる。)

薬の売人→美人になりたい女性の強盗を手伝う。(父親との関係を断ち切る。)

工場で働く男性→会計士に殺させようとしている幼女を二週間護る。(彼女ができる。)

夫婦の愛を取り戻したい女性→誰でもいいので一組の夫婦を別れさせる。(夫婦の愛を取り戻す。)

盲目の男性→女性を犯す。(目が見えるようになる。)


これだけ見ると、非人道的な指示ばかりに見えますよね。
物語の中でも、依頼に来た人のほとんどが、方法を変えてくれと頼んだり、謎の男のことを悪魔と呼んだり、そりゃそうだって感じです。

ただ謎の男はそう言われる度に、方法を変えることはできないが、決して強制ではない。自身の判断で辞めてもいいと伝えます。
けれど、彼に依頼に来る人々は皆、どうしても自分の悩みを解決したいという想いが強く、指示された行動をとるように努めます。


お気づきの方もいるかもしれませんが、この依頼人たちは、誰かと誰かが謎の男の導きによって絡んでいきます。

謎の男がそれぞれに出した指示が絶妙に交差しながら物語は進んでいきます。

唯一、年配の女性だけは1人だけ誰とも関わることはありません。
彼女はギリギリまで、夫の為に爆弾を爆破させて多くの人の命を奪うかどうか悩んでいました。
しかし、最後に謎の男にこう言って、爆破するのをやめます。

「もし爆弾で多くの人の命を奪って、元の夫が戻ってきたとしても、その夫の目の前にいる私は、今までの私ではない。」

彼女のように目標を達成せずに謎の男の前から去っていく人もいれば、目標を達成する人もいます。


それぞれの運命が交差することで、誰かの人生が変わっていく。その手引きをしているのが謎の男。
謎の男というだけあって、主人公だけど彼には名前がありません。
カフェの店員アンジェラが名前を聞いても、「それは大事なことじゃない。」的なことを言ってはぐらかします。

このアンジェラの存在も映画の中で大きいです。
彼女は唯一依頼する人間ではない登場人物です。
閉店後に一人疲れ切っている謎の男に話しかけるアンジェラは、次第に謎の男との距離を縮めていきます。
謎の男が弱みを見せる唯一の相手です。

この映画で一つだけ気になるのは、謎の男が客なのに閉店後も店の中に普通にいることです。
謎の男、このお店に住んでる説あります。
ずっと眠れていないとアンジェラに言っているので、お店に居続けているから眠れていない説あります。
ふかふかのベッドで寝てほしい。


話が逸れました。


ワンシチュエーションということで、依頼人たちが取る行動は一切描かれません。
映画を観ている人も謎の男と同じで、事後報告でその行動の細かい描写を知ります。
自分でその描写をイメージすることになるので、その人のイメージや誰かとの関わりを強く意識しながら見ることができて、逆にハッキリとした人間関係が頭の中に浮かびます。

ドラマのリメイクと知った時、確かにドラマで観ても面白そうと思ったし、舞台でも絶対に面白いなと思いました。そもそも舞台は基本的にワンシチュエーションなので、フォーマットとしては舞台が一番適しているので。
舞台上に一人の男が椅子に座り続けていて、そこへ次から次へと人がやってくる姿、容易に想像できます。


個人的に面白く感じた点は、謎の男と依頼人たちの温度差の違いです。

謎の男は基本的に冷静で淡々としていて、表情をあまり変えません。
それに対して依頼人たちは、それぞれの感情を謎の男にぶつけます。笑ったり怒ったり悲しんだり。
謎の男が淡々としているからこそ、彼ら彼女らの感情が目立って、より想いが伝わってきます。
カフェのシーンのみで、説明的なセリフも多い中で、ザ説明セリフという印象もなくナチュラルなお芝居はすごく良かった。登場人物全員表情が特に良かったです。
淡々としている謎の男も、ふと見せる弱い部分が依頼人に対する時との差があり、彼も一人の人間なんだなと思わせる瞬間があって、素晴らしかった。


映画でワンシチュエーションっていうのは、結構退屈な作品が多い印象なんですが、この作品は登場人物の関係性がテンポよく展開していくので、飽きることなく観ることができました。


この映画、原題は『The Place』ですが、邦題は『ザ・プレイス 運命の交差点』です。
邦題の、分かりやすくサブタイトル付けました!の典型的な例ですが、この題名でなければ、今書いているこのnoteも存在しなかったかもしれないと思うと、邦題ありがとう!の気持ちでいっぱいです。

謎の男を演じたヴァレリオ・マスタンドレアがマイケル・ファスベンダーに見える瞬間がありました。見えなかったらすみません。


ご覧になったことがない方は是非〜。


以上、海上の映画noteでした。

GRahAMBox(グレアムボックス)です。 あなたのそのお気持ちがただただ嬉しいです。