個人的な感想(批判)_「 #KuToo (クートゥー): 靴から考える本気のフェミニズム」に対して

はじめに

 はじめに断っておくが、下記に記すことはだいたいが些事である。重大な部分、2章(クソリプ章)への批判については別記事に書いた。

 とはいえ、上記の記事の9割方は私が発見した問題点ではなく、すでに指摘されていた事項をまとめたのみである。
 この記事では主に1章への批判を記す。
 些事であるとわかっているのなら指摘する必要などないではないか、正しい活動の足を引っ張ろうとしているだけなのでは、と思われるかもしれない。それなのになぜこの記事を書いたのかといえば、私が石川氏をまったく信頼できないと感じているからである。なぜ信頼できないかといえば、この本の2章があまりにもひどく、仮に法的に問題がないとしても不誠実な行いであるからだ。なので、単純な誤記や表記漏れだろうと思っても、もしかしたらわざとやっているのではないか、と思ってしまう。信頼できないというのはそういうことである。

前提:KuToo活動についての私の理解、および用語の定義

 KuToo活動については、公式サイト(https://kutoo.me/)署名キャンペーンページ(https://www.change.org/p/%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81-kutoo-%E8%81%B7%E5%A0%B4%E3%81%A7%E3%81%AE%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%97%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%BC%B7%E5%88%B6%E3%82%92%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%84)、および書籍『 #KuToo (クートゥー): 靴から考える本気のフェミニズム』(以下、「『KuToo』本」と表記する。)を参照した。
 ところで、『KuToo』本の発行以降(2019/12/27)に公開された公式サイトはともかく、公式Twitter(@KuToo92)の案内がないのは、Twitterから始まった運動としてどうかと思う。

KuToo活動について - 私の理解

目的:
厚生労働省から企業へ、「ヒールのある靴、およびパンプスの『強制を』禁止する」通達を発出させること

理由:
①ヒールのある靴、およびパンプスは健康被害を招くおそれがある。
②しかし、それらの靴の着用を「マナーだから」という理由で強制している職場がある。
③これは女性にのみ行われることである。
④「マナーだから」という理由は合理的ではない。
⑤健康被害のおそれのある靴を、合理的でない理由で女性にのみ強制するのは性差別である。
 よって、ヒールのある靴、およびパンプスの強制は禁止されるべきである。

用語の定義

【パンプス】
甲の部分が大きく開いた靴。

【ヒールのある靴】
靴のかかと部分が高くなっている靴。ハイヒールを含む。

【ハイヒール】
6-7cm以上のヒールのある靴。

KuToo活動について - FAQ※非公式

・「職場でスニーカーを履かせろ」という活動なのか?
 違う。おそらくそれはスニ活である(ただし就職活動に限る)。

・パンプスでなければどんな靴を履くのか?
 男性の履いているのと同じような、ヒールのない、甲部分が覆われた靴。

・なぜパンプスが健康被害を招くのか?
 甲部分が覆われていないため、かかととつま先で靴を支えることになり、靴擦れや足指の変形、マメ・魚の目を起こしやすい。(下記サイトを参照)

※「きちんとサイズを測れば起こらない」という指摘もある。

・なぜヒールが健康被害を招くのか?
 かかとが高くなっているため、常につま先立ちで歩いていることになり、足の指に負担がかかる。また、捻挫などもしやすい。(下記サイトを参照)

・ヒールのある靴、およびパンプスを禁止させる活動なのか?
 違う。『強制』の禁止をめざす。
 ヒールのある靴、およびパンプスが好きな人は履いていてかまわない。

・プライベートな場でヒールのある靴、およびパンプスを履くのをやめよう、という活動なのか?
 違う。職場に限る。

・ヒールのある靴、およびパンプスを履いている人は皆、痛みを耐えているのか?
 個人差があると思われる。痛くない人もいるだろう。

・女性の足は自然とヒールのある靴に適したかたちに変わるのでは?
 不明だが、ならないと思われる。
 私は女性だが、ヒール3cmの靴でも履いて歩けない。
 また、仮にそれが「ずっと履いていればそのようなかたちになる」というものであれば、纏足のようなものであり、強制されるべきではないのでは。

・では、なぜ女性はヒールのある靴、およびパンプスを履くのか?
 おしゃれのため。

・おしゃれのために履くならば、ヒールのある靴、およびパンプスを職場で強制されてもいいのでは?
 職場でおしゃれを強制するのは不当である。

 以上が私のKuToo活動に対する理解である。

批判1:用語の定義がない

 そもそも、なぜ「スニーカーを履きたいのか?」(P.84)「パンプスでなければどんな靴を履くのか?」(P.86)という疑問が出されるのかといえば、それはパンプスがどんな靴なのかが知られておらず、女性のフォーマルな靴をパンプスと呼ぶ、と思っている人が多いからではないか。P.87にも「フォーマル靴はパンプス以外存在しないと思ってる系」とある。
 そんなことも知らないのか、と思われる方も多いかもしれない。しかし、ファッションに興味のない人間にとって、靴の名前などどうでもいいことである。男性ならなおさら、自分が履かない靴の定義など知らない人も多いであろう。
 実際、石川氏も『KuToo』本の中で、男性の履くビジネスシューズを「男性の革靴」と表記している。しかし、これは正確ではない。
 まず、革靴とは革で作られた靴をさす。よって、パンプスでも革で作られていれば革靴と呼べる。主な男性のビジネスシューズを正確に呼ぶならば、靴ひもを結ぶ部分(羽根)が靴本体と一体化していれば内羽根式、羽根が完全に開くならば外羽根式、甲に接合部や模様がないものをプレーントゥ、横一本の線が入っているとストレートチップと呼ぶ(他、Uチップ、ウイングチップ、スワールなど。詳しくはWikipediaへ)。ひもではなくストラップでとめるものならモンクストラップ、ひもやストラップでとめないものならローファーまたはスリッポン。『KuToo』本表紙で石川氏が履いているのは内羽根式ストレートチップ(メダリオンなし)、たぶんセメントだろう。
 用語の定義がないというのは、何を話しているのかわからない、ということにつながる。パンプスがなにかわからない人が、パンプスの健康被害について理解することは無いだろう。
 こんなのはただ説明すれば済むことである。「知らないほうが検索しろ」といえるものでもない。「パンプスの強制をなくそう」と言う側が【何を】なくしたいと思ってそう言ったのか(KuToo活動の場合、【甲の開いた靴を履かせることによる健康被害を】なくしたい)が重要だからである。
 ところで、P.47に「男性と同じようにつま先のつまった靴や…」という表記があるが誤りだろう。パンプス(の逆)をさすならば、つま先ではなく甲部分の形状で決まるはず。よって「甲の覆われた靴」が正しい。「つま先のとがった靴」は「ポインテッドトゥ」と呼ぶようだ

 また、ハイヒールの定義も同じく、なされていない。
 P.48にイギリスの事例が出てくる(断っておくが、きちんと「ハイヒール」とは書いてある)が、これは「ハイヒール」の事例である。

 事例では「5~10センチのハイヒールを強要された」とある。
 Wikipediaによれば、(要出典がついているが)ハイヒールとは7cm以上のヒールのある靴をさすベルメゾンネットでは6.5cm以上をハイヒールとしているようだ。
 P.43によれば、石川氏のアルバイト先の服装規定には「ヒールは5センチから7センチを目安に」とあったが、足を痛めたため3センチのヒールの靴を履いていたそうだ。
 「ハイヒールを強制する職場がある」と「ヒールのある靴を強制する職場がある」とでは意味合いが異なる。ハイヒールでなければ強制してもいいというものではないが、だからといって混同してもいいわけではない。
 実際、海外では混同されてしまっているらしき節もある。(下記Togetter参照)

 好意的に見れば、3センチでも10センチでも、ヒールのある靴の強制をやめさせたいという立場なので載せていないだけ、または、ハイヒール排斥運動ではないので、定義が必要だと思わなかったのだろう、となるだろう。
 悪意をもって読むと、よりネガティブな「ハイヒールの強制」というイメージをつけることによって、「性差別である」という主張を通しやすくしようとしているのではないか、となる。

批判2:健康被害のデータがない

 パンプスやヒールのある靴が痛い、足に怪我をした、という表記はあるが、「なぜ痛いのか」、「なぜ怪我をするのか」についての表記がない。
 P.210掲載の厚労省への提出文書には、ヒールによる健康被害の資料を添付したらしき表記「別添資料参照」があるが(2か所)、『KuToo』本には資料は掲載されていない。
 好意的にみれば単純なミスである。悪意をもって読めば、資料の信頼性が薄いので載せていないのではないか、となる。
 身体に負担がある、怪我の危険性がある(P.45)と書いているのだから、最低限その根拠くらいは掲載すべきだったのではないか。
 なお、国会答弁で、「労災の調査論文では、十八歳から二十六歳の女性の労災が多発しており、その原因は、ハイヒールの着用が原因と推察できると記載されている」という発言があったらしい。(下記サイト参照)

 少し話がそれるが、『KuToo』本には「オフィスでヒールのある靴を強制している企業がある」というデータもない(石川氏の個人的な体験はあるが)。そのため、「強制をしている企業などないのでは?」と言う人もいるようだ。これについては朝日新聞が記事を出している。

 何が言いたいのかというと、「『KuToo』本はデータを軽視しているのではないか?」ということである。

批判3:活動の目標が載っていない

 KuToo活動は厚労省から通達を発出させることを目的としている。
 これは署名ページおよび公式サイトに明記されている。しかしなぜか『KuToo』本には記載がない。そのため、何を目標としているのか、書籍を読んだだけでは分からない(厚労省に提出された要望書は載っているが、載っているだけである)。
 私はこの本をKuToo活動の本だと思って購入した。タイトルが『 #KuToo 』だからである。もし、タイトルが『石川優実 ――#KuTooから考える本気のフェミニズム』だとか、そういうものであればこんな批判はしなかっただろう(それ以前にたぶん買わなかったと思うが)。

批判4:KuTooタグ誕生の経緯が載っていない

 勘違いされがちなようだが、KuTooという名称は石川氏が考案したものではない。

 2章でさんざんツイートを引用しているのだから、このツイートも引用させてもらえばよかったのではないか。あるいは打診して断られたのかもしれないが。
 分かりやすく覚えやすいキャッチコピー、フレーズの重要性は周知の事実だろう。もし、最初に出ていた「#ブラックパンプス教からの脱会」などのタグを使っていたら、ここまで活動が広がったとは思えない。
 タグ作成者は気にしないだろうが、「敬意がない」と思われても仕方がないのではないか。
※流行語大賞の授賞式では「私が作った言葉ではありません」と発言している。(下記サイト参照) また、公式サイトにも石川氏が考案したタグではない旨の表記はある。

おわりに

 批判点を4つ述べた。書き終わってから気づいたが、すべて「あるべきものが掲載されていない」というものであった。KuToo活動の特に初期において、目的や内容を誤解されがちだったような流れがみられるが(それらの一部はクソリプとして収録されてしまっている)、正直いって受け手の理解力ではなく石川氏の説明能力の問題だったのではないか。クソリプ実録よりも活動内容の周知に注力するべきだったのではないかと思う。余計な世話だろうが。
 最後に個人的に一番許せなかった誤記を。

 それでも思考を停止させた腹立たしいセクシストがいつの世にも存在する。そんな人たちは本当に面倒だし、私の人生に関わってほしくない。シャットダウン!
(P.41)

 シャットアウトです。

追記