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赤に近い備忘録

セーターの裾で曇りガラスを拭うと、外には葉の落ちた街路樹が並んでいる。道路の反対側には、街路樹に寄りかかり談笑する男女がいる。カップルなのか。それともただの友達なのか。もどかしい距離感が、彼等の吐く、白い息にうかがえる。

私にもああやって笑い合える相手が居た。…そう、居た。あいつはとてもひどい奴だった。私が初めて作った肉じゃがに、ルーを入れて、カレーとして食べてしまうような男だ。しかし、私たちは血の繋がった兄弟のように息はぴったりだったし、考え方も似ていた。彼はもうこの世にはいない。なぜいなくなったのかはまだわからない。

目の前には暖炉が燃えている。正確には、「暖炉の中の薪が」燃えている。そして、今、私の中の決意の炎も同じように、真っ赤に、煌々と燃え上がっている。いや、こんな綺麗な色ではないだろう。

私は真実を知りたい。彼はなぜ死んでしまったのか。そのために彼と同じ学校に入学するのだ。あの時止まってしまった私の中の時間は動き出す。春、入学と同時に。私は、彼を死に追いやった奴らを許すことができない。

これは私の備忘録だ。決意の炎を消さないための、備忘録だ。

二〇一九年、六月某日に続く。

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