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『夜と霧 新版』

一度読んでみたいと思いながら、ずっと読む機会のなかったヴィクトール・エミール・フランクル(オーストリアの精神科医・心理学者・ホロコーストからの生還者)の著作をやっと読むことができました。

フランクルと言えば、「ロゴセラピー」(「実存分析」)の創始者としても知られる精神分析の流れをくむ心理学者です。

(「読んだ」というより正確には「聴いた」のですが…。勉強時間を確保するため、本当は大好きな読書・映画・ドラマ視聴等の時間を取れずにいますが、それらのインプットがないと心が飢餓状態になってしまうので、1年半くらい前から「聴く読書アプリ」を愛用しています。車の中や愛犬の散歩中、家事をしながらなど、いつでもどこでも聴けるのでとてもありがたい!)

いつ死の宣告を言い渡されるかわからない、次の瞬間にはすぐ隣にいた人が死刑執行の場へと連行されるかもしれない、生き別れた家族の生死もわからないという、長期にわたる、想像を絶する心身の緊張状態・疲弊状態・飢餓状態の中から生還した著者のメッセージは、心理学者ならではの客観的で冷静・分析的な文体でつづられていることも手伝って、読む者の心に強い説得力を持って迫ってきます。

ユダヤ民族が「神から特別な役割を与えられた民族」ということを発言すると、もしかしたら「そういう発言こそがパレスチナ問題を助長するのだ!」「『選民思想』に加担する危険な発言だ!」といきりたつような見方をする人もいらっしゃるかもしれません。

でも、旧約聖書を最初からじっくり読み解いていくと、信仰の父アブラハムからヤコブとその息子たち、エジプトでの苦役からイスラエル民族を解放するリーダーとして神から任命され、十戒を授けられたモーセ、ダビデ・ソロモンに始まる王国の興隆と衰退、神の命令に従わなかったためにバビロン捕囚を始めとする数々の苦難を強いられてきたユダヤ民族の長い歴史、そして人類最大の汚点、ヒトラーの登場による凄惨な迫害とがつながっているのではないかと感じている人は、少なからず存在するのではないでしょうか。

人としてこの世界に来られたイエス・キリストが、系図の上ではダビデ王朝の子孫であり、そのキリストを十字架につけたのが他ならぬユダヤ民族自身であることも。
キリストがどんなにこの群れを愛しておられたのかということも。
すべてが一つの文脈の中でつながっているような気がするのは、きっと私だけではないでしょう。

心理学を学んでいると、心理学の主流となる学派の創始者たち、後世に大きな影響を与えた心理学者の中に、フロイトやアドラーを始めとする驚くほど多くのユダヤ人がいることに驚かされます。
心理学者だけではありません。アインシュタインを始めとする科学者の中にも多くのユダヤ人がいます。
ユダヤ系を含めると、なんとノーベル賞受賞者の二〇%をユダヤ民族が占めているといわれます。
科学者に限らず、有名なところだとスティーブン・スピルバーグ、ダスティン・ホフマン、ウディ・アレンなどの映画・芸術分野、他にも実業界などなど、ユダヤ系の著名人には枚挙にいとまがありません。

数々の迫害と苦難に満ちた歴史にもかかわらず、世界人口のわずか〇・二五%のユダヤ人がこれほどまでに成功者を多く輩出してきたことからも、彼らの優秀さが証明されているといえるでしょう。

そんな優秀な民族だからこそ、ヒトラーを始めとする迫害者たちは、脅威を感じ、恐れ、殲滅しようとしたのでしょう。

話を戻します。

心理学者の視点から、人間がたとえどんなにギリギリの、究極の苦難の中でも、その尊厳を失わずにいられる自由を最後まで手にすることができるのだということを、フランクルはこの著作の中で教えてくれています。

著者は、精神の自由を最後まで守るために人間を支えるものは、自身の「欲望」ではなく、誰かのため、何かのために生きること=「使命」であると語っています。

強制収容所ほどの人権を踏みにじられるような恐怖体験をすることは、少なくとも現代の日本に住む私たちには、おそらくないでしょうが、すべての人にとって、平等に死が訪れること、いつかは今手にしているすべてのものとの別れが来ることは、疑いようのない事実です。
災害や事故によって突然命を失うこと、不治の病により余命宣告を告げられることは私たちの誰にとってもあり得ること。
明日の命の保証は誰にもありません。

「その時」が訪れた時に、最後まで「尊厳」を失わずにいたい。
与えられた「使命」に忠実に生きたい。
そう願わずにはいられません。

人間とはなにものか。人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。

どんな時も、人生には意味がある。どんな人のどんな人生であれ、意味がなくなることは決してない。だから私たちは、人生の闘いだけは決して放棄してはいけない。             

                    ~ヴィクトール・フランクル~