Liner voice+ 東京事変「音楽」 書き起こし①

   Spotifyでライナーボイスという神のプレイリストを今回東京事変でしてくれたので、取り急ぎ自分用に文字起こしをした。省いた部分あり。

   私は内田さんによるインタビューがほんまにほんまに大好きなので、一曲ずつああして耳で聴けるなんて夢みたいだった。最高。

孔雀

内田:アルバムの一曲目、孔雀。
椎名:孔雀。
内田:はい。クレジットには椎名さんと浮雲さんの作曲曲ということで。
椎名:そうですね。
内田:これはデモがあがってきてどういうプロセスを経てこういう形になったのかなあという。
椎名:所謂ボーカル以外のトラック部分だけはもう早い段階で浮雲から貰ってまして。で、まあ貰ったらすぐメンバー全員で触ってみたりするという工程を、まあどの曲でもなんですが、こちらもそうで。


内田:じゃあ出だしのマイクチェックの感じっていうのは、椎名さんから?
椎名:これね、そうなんです。つまり最終的に孔雀として完成したこのトラックをどうしても一曲目にもってきたかったんですよ。この、すごく、それこそニュートラルな五人のノリの感じが一番顕著にでてる感じがして。テンポ感とか。ノリの良い五人のすき〜なくつろぎ方というか。それを最初にもってきて、音楽を始まるよっていう、伝えたかったんですかね。
内田:もう全員の名乗り口上から始まりますもんね。言わば。
椎名:そうですね。そういうことは、あの、基本的にそういう風に自画自賛でレコメンドしてくっていう、基本の態度じゃないですか、あのラップって言われるものとか。それをすごく苦手としてきたグループですから。やっぱりこうちょっと勇気がいりましたけど。『音楽』って冠してしまいましたからには、ちょっとトライしてみようかなと。

内田:今回でも、まさにアルバムの一曲目としての孔雀なんですけれども、これリリックにも出てきますけど、孔雀明王って三毒を喰らうあの孔雀明王ですよね。
椎名:そうですね。
内田:そこの部分も含めてやっぱり東京事変としては十年前のアルバム『大発見』の続きであるし、椎名林檎としてもその『三毒史』と地続きの作品なのかなっていうのがやっぱりその一行目のくだりからこうポンと入ってくる感じがファンにはあるんじゃないかなと思うんですが。
椎名:そうですね。もうあの『三毒史』っていうアルバムタイトルが発表された段階で学のあるお客さまが「あ、もう絶対事変復活くるな」って仰ってるくらいだから。それはやっぱりこう一回きちんと述べた方がいいのかなと思って。
内田:ちゃんとこっちもアンサー返しとこうみたいな (笑)
椎名:はい(笑)そうですね。
内田:で、サウンドがものすごくブラックミュージックというかファンクなノリなんですけれども、これもじゃあデモの段階から割りとこの形?
椎名:そうですね。浮雲のこういうフィーリングがでると、そういう作家性がでてきたらもう皆瞬間的にスイッチが入って。あの、浮雲が例えば他の曲で、8ビートの早い曲だったりするとほんとにジャストに、タイム感としてジャストにいるんですよね。刄田さんがちょっと前にいて、ジャストのクリックと一番仲良くしてるのが浮雲っていう感じのノリなんですけど、こういう曲になると浮雲は後ろに、実際のテンポよりもちょっと後ろに引くところにいきたがるでしょ。そうすると皆今度は刄田さんがジャストの、いつもよりは遅めのところにっていう感じで、一瞬でもうバンッて居場所が決まるんですよね。で、そういう風になった時の事変って一番、こう事変らしいっていうか。自分でも、私なんかはそういう風に感じるんですけど。うん、だからこそ、シングルには中々今まできっていないが、こういう曲をオープニングに相応しいかなと思ってもってきたくなりました。

毒味

内田:今回のそのデモに対する皆さんのスタジオでいじってくそのアンサンブルの様子っていうのは、制作期間がまあちょっとコロナも挟んで多分割と長かったと思うんですけど、曲によって時間かけたりじっくり見つめられたりした感じなんでしょうか。
椎名:ううん。全然です。
内田:あ、そうなの。
椎名:いつもと同じ軽率な思いつきでパッととって終わりですね。
内田:軽率な思いつき(笑)
椎名:はい。
内田:そこはじゃあ瞬発力と間十時で。
椎名:この騒動が起きる前にほとんどとって、とり終えちゃってたから。起こってたらなんか戸惑いとかをみせた人もいたかもしれないが、まあそれもないだろうなというか。さしてそちらには何の影響も及んでないですね。
内田:むしろじゃあ未発表曲というかアルバムで初出の曲っていうのは今年入ってから椎名さん作詞したっていうのを読んだんですけども。やっぱりこの状況が反映されているのはリリック?
椎名:そうですね。これもまあ反映っていうのか、いわないのか。当たり前に映してるものもあるでしょうけど、でもそのかまえているカメラの位置は二十年前から変わっていないっていうか。同じ件についてウォッチしてて、それに対する我々の、なんかこう、感じるものっていうのを分かち合うための場所っていうのがずっと変わってない気がして。
内田:毒味の歌詞はやっぱり俗世というか、まさに今この状況の世の中に対する椎名さんのその変わらない点というか、カメラと仰いましたけど、ジャーナリスティックな視点はやっぱりすごくされているなあという風にこちらは感じましたけども。
椎名:そうですね。ただ、二十年前と比べれば同じこと書こうとしても、良くなった点はすごく沢山ある気がしてて。例えば、あの、メディアは結局故事に降りてきてるっていう点とか。その、私なんかからして喜ばしいなとか、より健全だなって思う点もいっぱいあるから。なんか単純にその凄く強い力、一方的な力に対して怒ってるっていう印象にならないようにしたいなと思って。まあ曲もそういう曲ではないと思うし。そういうことはちょっと気をつけた気がします。作詞の上では。
内田:なるほど。
椎名:これあれです。一サビで書かれている、私が書きたかったのは羽生善治さんのことです。
内田:あっそうなんだあ。
椎名:えっと、あのそういうものばっかり見ていたいっていう。羽生善治へのラブレターですね。
内田:ほお〜。
椎名:(笑)だから羽生善治、今回は薬或いは毒として登場して頂いたつもりなんです。あの、勝ちがみえてくると手が震えるってすごく格好いいなと思って。そういうのこそ見たいのに。なんかくだらないことやってんなぁ、みたいなことほんとに若い頃からよく思って、テレビとかラジオとかってもっと面白いことだけでいいのにって。皆きっと思ってらっしゃるだろうになあって。思ってたんですよね。なんか、作ってらっしゃる方々も。すごくさぁ、くだらない、そのなんにも本当のことが描かれないただの決まり事をやらされるみたいなの、嫌なんだろうなあって。思いませんでした?十代くらいの頃に。
内田:分かります。なんか作り物の構造、まあプログラムであり、良さもあるんだけども。約束だったり。でもやっぱりプログラムが作ってるものって分かってくるとちょっと白んで付き合う自分みたいなものが、段々自我の目覚めと一緒についてきますよね。
椎名:そうですよね。でも実際にはすごく若い、単純な話だとは思うものの、すごいヤバい人がいたらその人を映しといてくれればそれだけで成立するじゃんみたいな。すごい人って少ないだろうけど、稀有な人っていうのが、なんか居てくれればそれが一番端的にその人のパワーだけで貰えるものいっぱいあるよなあとか。で、なんかその中途半端な人に無理やり決まり事やらせてるのとかみせてくんなや、みたいな気持ちありますもんね。
内田:それこそまあ、イチローさん。スーパースターもそうだしね。
椎名:そうそう。うん、イチローとか。ほんとの毒と薬とか、ヤバいやつをお見せしてくれと。
内田:もうそれ見りゃ十分だと!ああ〜でもそうか、「震えるその利き腕」はそこだったんだあ。
椎名:うん、将棋です。

紫電

内田:いやあ、伊澤さんこういう螺旋のようなメロディーやっぱり本当に美しいの弾きますね。
椎名:ああ、あのアルペジオ、あのピアノアプローチですか。紫電のピアノ本当に綺麗ですね。

内田:そう、だから勿論その歌というかボーカルと歌詞全て伴って事変のナンバーではあるんだけど、インストゥルメンタルとしての魅力っていうのは今回やっぱり殊更にそれぞれの曲すごく含んでいるな、孕んでいるなっていう感じはするんですよね。
椎名:嬉しいです。紫電は特にね、ほんとにピアノとあとトシキさんのドラムの、こういう性急な16ビートの畳み掛ける感じと、まあぴったり、勿論亀田さんのジャストのこういうのもそうだし、この紫電に関しては割と皆セッティングが、平均的な皆のセッティングかもしれないですね。浮雲のこういう香ばしい感じの和音。ワーッていう音色で。ど真ん中のセッティングですかね。音色として。
内田:後半の刄田くんのドラ息子っぷりも。
椎名:あ、最後の!
内田:そうそう(笑)
椎名:ああいうのなんでつけるんだろう。一葉さんって。本当に不思議です。なんか、お祭ビーットゥのことですよね。(略) なんかトシキさんがやっぱり凄く真顔で叩くんですよあれ。あんなそこまでスカしてクールなサウンドを終えておいて、祭ビートに入る瞬間絶対可笑しみが溢れてきそうなものなのに。絶対真顔なんです。やっぱり。猫みたいに。それがねぇ、また堪えられないっていうか、こちらとしては、どうして。いつもそうです。
内田:あれはでも刄田さんのもうお祭感はDNAというか血でしょうね。だからもう、マジであそこいけるんですよね。

内田:これ今回紫電のリリック、歌詞は気付いて世の中に白けてる椎名さん、書き手よりも、世代が下の女性の声を代弁している感じとこちらは捉えるんですが。
椎名:あっそうあってほしいとお若い方々に望んでいる姿でしょうかね。
内田:それは、椎名さんが。
椎名:はい。私がだし、私がなんかこう漠然と親世代の者として、そうで居て欲しいという姿です。これはでも毎回真ん中より前の曲は大体そういう風に書いてるので、そのバリエーションの一つという感じです。
内田:アルバムの中盤より前。
椎名:今回だと「闇なる白」より前の曲はずっとお若い方々の当事者として聴いて頂きたい部分というか。そういう風にいつも書いています。
内田:殊更そのアルバムの前半戦にそこを凝縮していく感じっていうのは、御自身の中ではやってみて自然とそうなってきた感じですか?まあこれまでのアルバムもそうだけど。
椎名:どうしても、そうなんですよね。ライブのセットリストを考える時もアルバムのセットリストを考える時も。それぞれに発展してほしいから、どうしてもそうなっちゃいますよね。時系列、時の経過がやっぱり手伝ってくれるないと描きようがないから。年を経てどういう風に、ポンコツであっても、どういう風にすれば自分に傷がつかないように上手にやれるかとか、無骨であっても幸せだといえる時間を過ごせるかとか、まあ色々ありますよね。幸せとか、健康とか。色々な形があるけど、描く時にどうしてもやっぱり若い時から始めた方が描きやすいっていうだけかな。あと誰っていうわけじゃないけど、若々しい曲を書いてくれるメンバーがいたりするから、それが叶ってるのかな自然に。

内田:事変の皆さんが書く曲っていうのは、勿論スキルが上がっていたり手練手管になっていたりはするんだけども、深みとかとはまた違う次元で言うと、本当に老けないよね。
椎名:なんかね、どこかに向けての、どこかから見た時の純度がとにかく高いんですよね。瑞々しい。

椎名:仲間ながら本当に不思議で、改めて聞いちゃったりしますもんね、え、これどっから取っ掛りつけたの、とか。
内田:それ本当に聞いたりするんですか。
椎名:いや、ちゃんと答えてくれることもないけど、有り得ないけど、真面目な種明かしの話になる訳ないんだけど、思わず、え、なにコレ…って聞いてしまうことはありますよね。メールとかで。デモ貰ってすぐ、びっくりして。

命の帳

内田:この歌詞、御自身の書き手というか、まあ歌い手の登場人物の視点から若い世代に向けて、やっぱり出会いとか愛情とかを経て欲求とか触れ合いというのはこういうことであって欲しいなあっていう薫陶とか願いみたいなものが含まれているのかなと感じたんですが。
椎名:そうですね。そうとさえ思ってくれれば。結局アルバムとかツアーをやってて私が描きたいのは、というかモノを作ってて誰しもが描きたいのは尊厳の問題と思うんですけど、この本作においては後半で、大人がその尊厳を取り返すのにどうしたらよいものかっていうところに考察が移っていく時に、でも若い時から自分で結局どういう風に守るか、教えては貰えなかったよなあっていうことに行き当たりますよね。それで殊更口酸っぱく自分が親だとして、自分の本当の子供に言えるかっていったらすごく難しいんだけど。いっぱいそうすべきだって書かれたものが世の中にあってもいいんじゃないかなって思ったりして、ある時。なにでそう思ったのか分かんないけど、まあこの曲書く時に思ったのかな。あの、曲を貰ってリリックを書くのにあたってかもしれません。
内田:この決して長くないリリックの中に、椎名さんが、それは歌だけじゃなくて例えばインタビューみたいな、その書籍とかの発言でも度々仰ってたその「自分の欲しい答えなんていつも一つだけ」。必ず正解は一つしかなくて、その正解を勝ち取るために四苦八苦してきた椎名さんっていうのを度々ちょっとお話伺ったりもしてきたんで、答えが一つってとこだったり、あとこれまでの曲でも聴かれたボキャブラリーで「ランキング首位」「一位に」みたいな所とあとやっぱり終盤の「宇宙一」っていうこの宇宙っていうスケール感含めて、なんかこの短い歌詞の中にすごく椎名さんのこれまでの描いてきたボキャブラリーみたいなところもちょっと集約されているのかなっていう感じはするんですよね。
椎名:ああ、そうですか。まあ使ってる語句はそうかもしないですけど、でも私としては、なんかハッキリそれを言及したのが初めてっていう感じの印象で。あの、色んな馴れ合いがあってよしとするか、いや自分のそのことを尊重して貰わないと触れさせちゃダメですよ肌になんかっていうか。色々選択がある中で一番だって思ってない人には絶対に触らせないでほしいって親は思うの。親は自分の子が、いや二番目に好きな恋人だって扱われるんならそんな、もう触っちゃいけません、触らせたくないって娘に対して思いますよね。息子にだってそう思います。一番好きな女の子にしか触っちゃダメだよって。女の子だけは大事にしてって言って育てるんだから、やっぱりほんとはそうなの。でも、ほんとはそうだけどそうはならないよねなんて許さないから!っていうのが、私の、親としての気持ちだし、親世代としての、大人として、まだピュアななんにも汚れのないお若い方々にはそうでいてほしいのっていうおばさんの気持ちですね。すごく初めて書いた感じはしたけど。
内田:ああ〜なるほどね。
椎名:うん。全然その、今まで書いたことのある感じとは全然違う話じゃないかしらね。






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