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受験期からの勝負曲

   #私の勝負曲  というハッシュタグを見つけた。私は何かな〜と考えつつ答えはとっくに決まっていて、それは椎名林檎の「逆さに数えて」だ。

   「逆さに数えて」は、2014年NHKサッカー放送のテーマソングとして制作された「NIPPON」のシングルのカップリング曲。テレビで何度も流れていた「NIPPON」に比べると、知名度としては結構低いものだと思う。でも流石は「NIPPON」のB面、全く異なるアプローチでれっきとした応援歌になっている。まさにハレとケのように、表題曲が、ここぞと言う場面や瞬間にダイナミックに背中を押してくれるものだとすると「逆さに数えて」は静かに、人生そのものを奮い立たせてくれる曲だ。と私は思っている。

   私は、今振り返ると私の人生にとってとても大切な時期、要所要所でこの曲を何度も聴いてきた。始まりは大学受験だった。受験期のことは少し記憶が飛んでいて、とにかく志望の国公立に受かりたい一心で勉強漬けの毎日だった。勉強自体はそれほど嫌いな訳ではなかったけど、あの焦りと不安の日々はかなりキツかった。もう二度とやりたくない。そんな中で、勉強以外に覚えているのが夜、塾の帰り道に聴く椎名林檎の曲たちだ。就中聴き込んだ「逆さに数えて」の冒頭の歌詞、

逆さに数えて残りを測っているの
確と最期から指折たったいままで
   使い果たすのさ    今生のすべて
   さまよえる心よ    振り返る勿れ

   疲れた状態の心と体にとりわけ染み渡るのは、熱く激しい曲ではなくしっくりと低音の効いたこの曲だった。おそらく聴く人にとってひとつの人生の応援歌となりうるこの曲は、私の受験期の始めから終わりまでを確かに寄り添ってくれたと思っている。目標の志望校に受かることは出来ず苦い思い出になったが、あれ以上は出来なかったし後悔はしていない。そして受験が終わったからといってこの曲を聴かなくなる訳もなく、その後は本当に私の人生の一曲、時々思い出しては大切に聴く長期にわたる勝負曲となっていった。

   私は歌詞の考察とかはあんまりしないし、人のそれを見ようとも思わないんだけれど、林檎さんの別個の曲の歌詞で共通するところは気にするし、考えさせられる。何度も林檎さんが歌っていること、例えば「五感を使い切れ」だったりで、この曲では「生命を使い果たせ」だと思う。このことを歌う他の曲を挙げるなら「勝ち戦」や「雨傘」だ。これらは後ろを振り返らずに今を実感しろと言っているように私は感じる。最期の瞬間にすべてを使い切れているように。「逆さに数えて」のラスト二行の詞、

斃る日に   丁度   終わるように
いまは何ひとつ   諦められない

   泥臭くありたいなあと思う。死ぬまでに一度でいいからこの曲を生で、林檎さんのあの声で聴いてみたい。叶う日は来るのだろうか。

   (去年AbemaTVの特番で平野ノラさんが「逆さに数えて」を人生のテーマソングと仰っていた時は、同じ人みっけ!と、とても嬉しかった。)







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