Liner voice+ 東京事変「音楽」書き起こし②

黄金比

内田:メロディー自体はこれ、ネオソウルって言ったらいいのか、これもすごくブラックミュージックのテイストが強くて。ちょっと、なんていうかブラックミュージックのフュージョンというか。
椎名:そうですね。浮雲が時々書いてくれるああいうスケットを固定化したみたいなものですね。
内田:これ途中浮雲さんボーカル取りますけども、椎名さんの中で改めて浮雲さんの声を持ち出す時の、ルールじゃないですけど、こういう時に浮雲の声、みたいなのってなんか御自身の中でセオリー的なものってあります?
椎名:音域だけです。
内田:あっそうなんですか。
椎名:はい。もうこれは事変の時はいつ歌ってもいいことになってるから、良い音域のところにフレーズがあれば。で、これはもうね多分浮ちゃん自分でそのことも分かってて、この部分を自分が歌うだろうなって思ってたと思います。男声の声域っていうか、私が結局最終的に歌っているところは浮ちゃんにはちょっと高かったり、不快な音域だから。多分そこだけ。うん、でずっとそれ以外はハモってるっていう。判断してたはずです。本人も。
内田:じゃあもう本当にメロディーとアンサンブルに優先する形。
椎名:楽器として。その、振り分けてるだけです。ピッコロとフルートみたいな、単純に。
内田:なるほどね。いや「地球環境さえもいい感じ〜」って伸びていくところを聴いて膝を叩いたんですけど、俺は(笑)
椎名:丁度いい分布だと思ったんですよ。
内田:そう、なんかむしろこの伸びる感じを言わせたくてここ歌わせたのかなぐらい、ちょっと思ったんですよ。
椎名:そうですね。ハーモニーをちょっと。
内田:この曲基本的に、勿論東京事変なのでメンバー全員五人だけでだせる音を演奏しているじゃないですか。だけどこういう曲、この黄金比もそうだけど、ギュウギュウに詰め込まないで、余白を残しておくことで、ちょっと他の曲のトークの時にも出てきましたけど、インストゥルメンタルとしての面白さも聴き取れるし、だからそのキーボードの音色とか浮雲さんの16のギターの気持ちよさみたいなところもちゃんと歌モノとして聴きながら感じ取れるなあって感じたんですけど。
椎名:そうですね。まあ、あと浮雲が書く曲はそういう余白、スペースをすごく楽しめる曲が元々多いんですけど。そこで意外と御本人は弾き倒してくれたりして(笑)このアウトロはもうホントにベースとテイクがいっぱいあって困るっていう、言葉としておかしいですけど、あの、すごくいいテイクがいっぱいあって選べないで困っちゃうっていう感じだったんですよね。

内田:何度かレコーディングおじゃまさせて頂いたこともありますけど、こういうの弾いてる時の浮ちゃん楽しいんだろうなあっていう。
椎名:泣きのね。泣きのギター。こういうフレーズもでも上手なんですよね、意外と。仲間ながら、手前味噌ながら、ちょっとうっとりしますよね。

内田:歌詞は、傍目というか、その衆人環視に囚われない男性と女性、その二人独自の関係性みたいなところが一個ストーリー的にこの核になってますけども。この歌詞は椎名さんが書くにあたって、どういう背景というか、想いだったのかなっていう。
椎名:これ、ちょっと難しかったのか、サウンドだけ聴いたらこう、あのなんだろうな、人の関係性云々っていうのを描こうとは思わなかったと思うんです。もうちょっと曲だけ聴いて自分が声をだすとしたら、うーんなんていうのかな、誰かに対する自分の態度とか、挑発的な誰かに挑むような、刺激したり揶揄したりとか、少しこう意地悪な気持ちとかを描きたいとこなんだけど。浮雲とか一葉に、一応ね、曲どういうイメージだったって、リリックどういうのがくると予定してたのかな、というのを聞くんですよ。浮雲はこの曲に関して「フツーでいいよ」って言ってきて、え、普通ってどういう意味っていって、皆が聞いてる時に聞いたら、「ん、なんかラブソングとか」って言ったんです(笑)普通ってそういうことかって。でラブソングかって。もう久しく書いてないから、もうホントに十代の頃から苦手で、どうやって書くかってレクチャーされたぐらいなんだから、当時のプロダクションの人に。それで出来たのがギブスとかここキスで。ていうぐらいなのに、はぁ、なんかラブソング難しいこの曲で!と思って。それで苦肉の策だったんです。その、彼がいうような普通さっていうのは男女の駆け引きみたいな意味って、その後補足の説明が入ってきたりして。ああ、そうか…。そう、これが私なりのその浮ちゃん、浮雲のオーダーも少し満たしつつ、少し加味したって訳です。このアルバムの中で私のルールもちゃんとクリアしてっていう。

青のID

内田:これもひとつ、事変の持ち味としての曲なんじゃないのか、これ作詞作曲椎名さんですけども、それこそキラーチューンとか好きなリスナーには堪んないんじゃないかなって思うんですけど。
椎名:ああ〜そうですよね。だから若々しい、そういうの、かつて表現してきた『スポーツ』とか『娯楽』とかで表現してきた、なんか過去にもあったような気がする曲ですよね。確かに。事変らしい一つの形ですよね。
内田:なんかこう、言葉が正しいかどうか分かんないけど、アンサンブルのちょっとわちゃわちゃした痛快な感じも含めてなのかなあと思ったんですよね。
椎名:あ、破綻しているとも言いますよね。
内田:(笑)
椎名:一応ピアノのリフとか御用意してるんですけど、どんどん破綻していってしまう。でも仮タイトルがたしかチャールストンだったかな。やっぱりステップで、私発想しがちで。デンス。デンスを中心にやっぱり音楽って考えがちなので、そういうリフでってなると、今までもいっぱいあったでしょう、たしか、事変のチャールストン系のデンスが。
内田:うんうん、チャールストンって言われるとすごくストンときます。あのちょっとブルーグラスとかカントリー的なスタンダード感もありつつ、途中ちょっとジャズ系のする感じ、なんだろうって思ってたんだけど、ステップでチャールストンって言われるとなるほどなって感じがします。
椎名:そうね。浮雲のギターが入るとちょっとそれが漠とするけど。結局チャールストンなんですよ、歌いたい感じのやつが。
内田:これ椎名さんなんだけど、なんか曲自体が持ってるちょっとミュージックとしてのバックトゥルーツで言うとどっちかっていうとこう、浮雲さんのルーツっぽいなって思ったりして。
椎名:聴こえるんですね、ギターがね。なるほど。あ、歌メロの感じかも。音階の感じかもしれないですね。セブンスの、そうね、それは確かにわかる気がする。
内田:あとやっぱり「早う」ってところではぁよぉっていうカントリー感が聴こえてくるのも俺、個人的に堪んなかったんですけど。あれ格好いいなと思って。
椎名:(笑)なるほどね。まぁ、それは意外な。
内田:そのそれいけ感がたまんねえなっていう。でもまずやっぱり、ちゃんとこうデンスで考えがちじゃないけど、まず声に出したり演奏したりして、こう発したい歌いたい響きっていうのがしっかりあって、で意味は意味で勿論その、後からついてくるじゃない、勿論元々書きたいなとどっかこう頭の中に沈殿している想いだったり、記録している映像だったりが色々あるのかもしれないけど、まずやっぱりそのフィジカルで、身体がこう気持ちいいところにちゃんと持っていくっていうのは、これは事変というかやっぱり椎名さんの中でずっと変わらないルールなのかなあっていう気もするんですけど。
椎名:ああ、そうですね。連動させるのがプロかなという風には思っているかもしれませんね。たしかに。そこに使う技のことを専門性高めていった方がより面白い領域っていう風に判断しているかもしれないですね。

内田:青のID、アイデンティティについての、なんていうんだろう、ポジティブっていう言葉で言っていいのか分からないけど、まあ一つの椎名さんの姿勢なのかなという、アティチュードなのかなと、聴いていて歌詞を読んでちょっと感じたんですけども。因みに椎名さんとて、今回苦労したじゃないけど、難産だったなっていうリリックってあるんですか?
椎名:青のIDは、曲も自分で書いているくせに、難しかったです。あのこれ、小松菜奈ちゃんが主演の映画の中で、小松菜奈氏のすごく繊細なお芝居もだし、原作で描かれているすごくナイーブな、あの時だけのあの年頃特有の、壊れてしまいそうなああいうのを、閉じ込めたかったんですよね。そういうの、覚えがあって、私。覚えがあるからこそ、ちゃんと正確にあの感じ描きたいなって思ったら、まあ、欲がでたんでしょうね。私だってその頃を通ってるから知ってるはずだし、あの痛み、ヒリヒリとあの若い時の妙にデリケートな、もう一か八かみたいな毎日っていう、あの感じを描きたかったんですよね。だから難産っていうか、まあすごく苦労した、苦しかったです。描いていて。あのどうしてもあれを描きたいし。うん。

闇なる白

内田:えっとアルバム順でいくと七曲目にあたる、まあ折り返し地点というか。今回一曲一曲個人的にはすごく歌詞が気になっているんですけども。尖った言葉も入りながら今ここの状態っていうか、このコロナでわちゃわちゃしている世の中も含めて、椎名さんが切り取ったリアリティがあるのかなと思ったんですが。
椎名:そうですね。あと先程のあの前半後半の、アルバムのストーリーの述べ方としての時間軸っていうの、世代軸ってのがあるとしたら、まあ大人も子供も巻き込まれているこの現状っていう。そこのアングルですよね。
内田:そうですよね。
椎名:うん。『三毒史』もTOKYOっていう曲を真ん中にしましたけども。その役割ですよね。我々が今、お揃いでみているものとして。
内田:今回「どちらも正しい」っていう言葉が、例えば闇なる白にはでてきますし、他の曲でもセンターライン、王道、右か左か、みたいな、その、なんだろう。
椎名:右翼左翼。
内田:そうですね。清廉潔白、白黒だけではやっぱり説明できないものっていうのがあるわけで、なんかそこを映し出すにあたってセンター、王道、真ん中、どちらも正しいっていう言葉ってのがこう、要所要所に使われているなあっていうのがすごく見ていて感じるんですけども。
椎名:まあ、そうですね。闇なる白以外では、どっちも嫌っていうのが多いけど、ここは、どちらも正しいと仮定した場合に陥る苦しさを、描いとかないといけない場面だったんですよね。これは要するに、全部馬鹿ばっかだもうほんと黙っとけよクソ喰らえって言ってれば、丈夫に生きていけますから。ふてぶてしく。それでよければいいんですよ。そういう風に、だからお若い方々にはそうしてくれっていう風に前半で述べてますけど。ここではそうもいえないのが我々なわけであって、そこのことをやっぱり無視しては次のお話にいけないので。どうしてもやっぱり描かなくてはいけなくて。誰も悪者にできないっていうね。人々が。
内田:だから僕は自分の手元にある歌詞の資料のところの鍵かっこの、安全で即効性ある処方云々ってところをものすごい線引いて二重丸もしちゃってるんですけども。
椎名:(笑)浮雲の声が良かったですか。
内田:そうそう(笑)それもあるんですけど。いやでもまさに今椎名さんが話されたことだなあって思います。

内田:これボーカル途中オートチューンなエフェクトかかってますけども、こういうエフェクトっていうのは、毎回エンジニアは井上雨迩さんですけど、これは例えば井上さんからのアイデアなのか、それとも椎名さんがこういう味付けにしようなのか、作曲者である伊澤君が例えばこういうことにしてみようなのか、どういう流れで決まっていくものなんですか。
椎名:これはね、大体楽器のアンサンブルを決め込む段階で、だからプリプロの段階で伊澤がデモを持ってきて皆で聴いた時に、そんときには決まってましたね。これどうしてもピアノトリオにしたいから、浮ちゃん私と一緒にボーカルしてっていって、そんかわりそれね、ケロケロしてて、もうだからこういうことを多分書くだろうって決まってて、言葉の内容も。それですごくしんとした寒い冷え込んだサウンドにしたいから、そうするって多分すごくイメージがあって、で雨迩さんもそれみえる、みえるねって言って。なんにも迷いがなかったって感じですかね。一葉だけギター欲しいなってずっと最後まで言ってたけど。
内田:(笑)へえ〜。エフェクトも、こういうエフェクトはこういうエフェクトは、みたいなのは井上雨迩さんの方から幾つか提示してくるんですか?それともこれかなっていう感じで椎名さんなりどなたかがもう一発でこの音色になるものなんですか?
椎名:あのね、これってエフェクターじゃないので、えっと、結果的にその炭酸ボイスってうちの現場ではそう呼んでますけど。
内田:(笑)
椎名:長く短い祭でシュワシュワっとした印象でしたくて、あの時は。炭酸ボイスにしたいって一言にいっても、あれ実際には一言一言どこにどういうのを掛けるかって、祭の時はすごくお願いを、一言、文字に書いてしたんですよね。で、今回はそれを踏まえてちょっとやらしてって雨迩さんに委ねて。だからかなり同じように書いて下さってると思います。ザーッとラフに普通にカラオケみたいに歌ったものに対して一つ一つ、こう一個一個の音に対して選んで掛けるっていうか。書いてるっていうか。
内田:ああ〜そうなってんのかあ。
椎名:うん。書き換えをしてらっしゃると思うんです。で、まあそういう風にご提案頂いたら、どこがどうとか言って、ここだけは音符が若干半符の音低めに歌った感じを残して欲しいとかいうのがあれば、そこはケロッとしないでとか、そういうやり取りです。いっつもそう。あれ以降は(笑)初めての頃はすごく一緒に一生懸命やられてたけど最近もう雨迩さん御自身でやりたい、こういうふうなっていうご提案がおありだから。いっぱいいいの考えて下さるんですよね。都度都度。






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