Liner voice+ 東京事変「音楽」書き起こし④

緑酒

内田:こちらはニュース番組のエンディングとして既にリスナーの皆さん、沢山聴かれた方も多いんじゃないかなと思いますけども。伊澤さん曲で、どのような感じでアレンジを構築していったかというところを聞かせて頂けますでしょうか。
椎名:うん、これもやっぱり一葉さんの曲なので、もうほんとにドラムのフィルからキメまで、ブレイクのキメとか食いのアクセントとか、まあ全部その、ピアノのバッキングのプレイとも連動してますし、きちっと指定してありましたから、それを再現してるだけっていう感じです。それで、ただその唯一自由に泳がせてもらえる浮雲のギターがこういう風に入ったので、まあメンバーにとってはちょっと新鮮な、最後の最後にちょっと味変があったなっていう。
内田:ふふっ味変だ(笑)
椎名:(笑)って感じでしたね。
内田:これ後半のコーラスも聴きどころだなあと思うのですが。
椎名:ええ、そうですか。
内田:これは伊澤さんのデモから最初っからあったんですか?
椎名:なかったです(笑)私の、もうほんとに勝手なお願いです。
内田:ああ椎名さんのアイデアなんだ。ぶあっついコーラスになってますね、これどうやって作ってんだろうと思って。
椎名:あの、一葉と浮雲の声ですね。二人が、えっと何人ずつだったかな六人ずつくらいだったかな、七、八テイクずつかな。
内田:結構だって声の頭数で言ったらいますよね、これ。
椎名:そうですね。トラック使ってますね、結構。

内田:大人側の視点じゃないですけど、高度経済成長以降に生まれてバブル期も通り過ぎて扶養側に回ってっていう、今の昭和から令和までの、日本を一回過ぎてきて、で、なんだろうな、日本イマココじゃないけど、なんかそういうところの設定から始まる物語なのかなと思って聴いてたんですけども。歌詞ね。
椎名:ああ、今のリアルな日本っていう。うん、別にでもどの時代でもいいというか、親世代になった時に、多分二十年前でも、二百年前でも、同じだったんじゃないかなって思って。同じように、こんな世の中に残してしまって、このままじゃ死ねない、親世代として死ねない、なんかもうちょっと良くして、正直者が馬鹿を見ない世の中にしないと、もうとても成仏できないよ、母ちゃん、って感じの。親心でしかないのかな、これ書きたかったのは多分。
で、アルバムの中では自然と緑酒を対比させて、親の心子知らずっていう風に描いてみたかったので、まあそのための、でもあり。
内田:なるほどね。なんかこの曲、緑酒で「次世代」って言葉が出てきて。あの、歌の歌詞にはめ込むにはちょっと角張っている言葉みたいなところも、敢えてやっぱりこう、これが言いたいんだって時には持ってきてはめ込むっていうのはあるのかなあと思って。
椎名:ああ、いやあ正直逆のことが多くて。それこそだって話す時に、次世代って私は一言も使ってないと思うんだけど。若い方々とか、お若い、私たちよりも、
内田:呼応だとどっちかって言うとそっちがいっぱい出てくるよね。
椎名:そう、絶対そう。だから、ほんとはそっちが使いたいと思います。ただ、えっともうメロディーの限界があって、とにかく縛りがあるから。その高低差に対して言葉のもつイントネーションを逆らわせない、若い〜ひ〜と〜たち〜だともう、そこのフレーズで全部意味が終わっちゃうし。もう、急いでる時は熟語にするし、音読みにするし、音読みは嫌いなんですよ、私ほんとは。訓読みが好きで大和言葉が好きだから、なるべく使いたくない。ただ、その短いタームで、この小節の二拍のあいだに、その意味を終わらせたい時もあるの、次のこのおっきなメロディーのところで述語が来たいから。とか。その、主語が述語、どういう結びになったかってこと、そっちにそのメロディーに乗せたい時は、急いで終わらせなきゃいけないでしょう。
内田:そうか、むしろ駆け抜けるための手段なんだ。
椎名:とかとか。ほとんどね、その語彙、ボキャブラリーに関してはしょうがなくてってことが多いです。もう、やむを得ずですね。本当に自分の美意識だけで書いていいんだったらメロディーね、要らないけど、でもやっぱり結局そこもね、横書きの人間なんでほんとは。音符の。五線譜の人間だから。結局そっちを優先してますね。

薬漬

内田:この曲はスタジオでどんな風に組み立てていったのかなというところを。
椎名:薬漬は、やっぱりなんの迷いもなかったのじゃないかな、少しだけビートの解釈を2種類トライしたかな。もうちょっとこう、訛ってるタイプのビートを記録したかもしれません。
内田:訛ってる?
椎名:というか、正直に言うと跳ねてる。トシキさんの16ビートが、記録したものはイーブンといってスイングしてないノリのチキチキチキなんですけど、私からのお願いでチッキチッキチッキチッキってちょっと跳ねてるものもとって貰ったと思うな、それぐらいで。あとはアプローチはそれでもう変わんない、まあ16分音符だけの話だから。8分とかもそのまま、何も変わらないので、なんの奇を衒うことも無く、伝統的なアプローチで行いましたかね。

内田:リリックは、薬漬、オーバードーズじゃないですけど、ほんと飼い慣らされて鈍化するくらいだったら不確定だろうが不安定なままだろうが、動物的な五感で感じて人生を自由を謳歌したいなっていうリリックなのかなと受け取ったんですが。
椎名:ええ、その、今に始まったことじゃなくて、年取れば取るほどそうじゃないですか、その感じを書きたかったんですよね。別にそれこそさっきの獣の理とかでもあったように、こちとら身体ひとつでやってんだからっていうのもあるけど、なんかさ、自分の親世代とかみてても、どんどんどんどんそうなっちゃってて。何も他のもの信用しないというか、自分のみたものしか信用しないみたいな。なる感じありません?(笑)で、面白いなと思って。でもさ、よく考えたらその、当然の成り行きっていうか。あとちょっとしかみられないんだったら勝手なことさせられたくないし。なんでもいいんだけど、自分でみたものきいたものでどんどん経験値が増えれば、知恵もついてくるじゃないですか。で、それもう一回ね、肉体で繰り返してやってみたいよねって、誰でも思うことでしょう。でも実際にはそんなくたびれることやりたくないし。あの変な感じをやっぱり、これ世代的にも年齢的にも一番最後のところという風に置きたかったから、そこの感じ。一番私がいいなって思った先輩への。先輩をみていいなって思うところを描きたかったんですよね。まあ曲に引っ張られて。
内田:ちなみに、椎名さんからみた椎名さんの先輩世代で、存在としてなのか佇まいとしてなのか、ちょっとリスペクトしちゃう感じの人って浮かんだりしますか?
椎名:あ、もうねずっとね、桃井かおりさんが好きなんですよ私。
内田:おおお〜〜。
椎名:あの、お付き合いしててもそうだし、お会いしたりお話しててもそうだし、すごく好きです。"もう林檎ちゃんにあんな男紹介したくなぁいのよほんと才能ないからぁ"(声マネ)みたいな。もうね、悪口が聞こえちゃうんですよ、声がおっきくて酔っ払ってらっしゃるから(笑)もうこっちがヒヤヒヤするんだけど、やめてやめてって(笑)もうホントに、大好きです。すごく嘘がなくて、疲れないでしょ多分、かおりさん(笑)そういう風でいたいもんねえ。聞こえちゃうんだもんな〜ほんと。それって悪口っていわなくないって思って。"あんな才能ないやつさぁ"って言っちゃって(笑)ほんとのことでしかないっていうか、彼女が言ってるディスは。
内田:(笑)(笑)音楽的な話題とは全然逸れちゃうんですけど、なんか今ふっと思ったんですけど椎名林檎も桃井かおりもたまたま同じ店で居合わせたら、例えば壁とかパーテーションの向こうで、全然そこで飲んでるって知らないのに声が聞こえてきて、あっ椎名林檎だ桃井かおりだって分かる感じの声ですよね、やっぱ。二人とも。
椎名:あっそうですか。
内田:うん、声ですぐ顔が浮かんでくる感じ、ああって(笑)
椎名:あの、確かに声の出し方ってその人の世の中への態度がすごく出るじゃないですか。だからすなわち、口の開け方で口の形ってどんどんフォルムができてくるから、もう四五十くらいになると口見るとその人の品性ってすぐに分かるのよね。
内田:ああ〜〜これドキドキするなあ〜。
椎名:だからどんな嘘吐いてきたかっていう。だから今はね、マスクで隠せるから(笑) 良くも悪くも。だからかおりさんって嘘じゃないから品がいいんですよね、お口も。品って結局そういうことだから、正直かどうかっていうことじゃないですか。そういう意味では、ああいう正直、要するにエレガントってそういうこと。そういう人が好きです。先輩は。でも皆、歳を経たら絶対そうなられるでしょう、そんな厄介な面倒くさいことしないっていう。
内田:そうなんですよ。しかも昨今はほら、中々やれジェンダーだルッキズムだみたいなことでこう、色々表現の仕方とか例え話も難しかったりするけど、身も蓋もないこと言っちゃうと結構ちゃんと人って見た目にでると思うんですよね。人は見た目じゃないって言ったりするけど。
椎名:ああ!そうなんですよ、そうなの。私もそれをすごく思います。あの、どうしても帰納的にでてきちゃうっていうか、ねえ、隠しきれない。
内田:そうそう、そうねえ。

一服

内田:最後の曲です。一服。
椎名:一服ですね。
内田:はい。この曲は正しい例えかどうか分かんないけど、十二曲目の薬漬までがアルバム本編でこの十三曲目の一服はちょっと、例えば椎名さんのソロライブ林檎博におけるあのneetskils mixの丸サディみたいな、エンドロールなのかなっていう。
椎名:そうそう、そうです。エンドロールですね。このアルバムにおいて、結構とぼけた我々らしいリラックスしたサウンドを音楽と呼んでお見せしたじゃないですか。とはいえなんていうか、結構玄人向けなので、最後にこう、それに付き合って下さってどうもありがとうっていう想いを込めた、ボーナストラックです。
内田:これでもボーカルがリレーしていく感じと、あとコード進行メロディーも含めて、これ作曲編曲椎名さんなんですけども、僕はこれね、率直にうわSMAPじゃんって思ったんですよ。
椎名:あはは(笑)嬉しいですねえ。
内田:そう、だからまあSMAPにも色んなマークってありますけど、SMAP的なメロディーとそのリレー感と、最初の一曲目で名乗り口上を上げた皆がもう一回ここで一人ずつリレーしていって、それこそエンドロールが流れるてく感じも含めて、なんかすっごい前に椎名さんが東京事変SMAP論じゃないけど、東京事変SMAP化計画みたいなことを仰っていたのを覚えていて、ああ〜なんかこの一服でそれがすごい体現されてるなあって感じ、ものすげえあったんですけど。
椎名:そうですか、ありがとうございます。
内田:今椎名さんが、仮にSMAPが存在して一服提供したら、こういう手口も有り得たかなくらい、まあだからこそ今それを事変でやるっていう。
椎名:ああそうか、まあ華麗なる逆襲とかと通じるものがありますもんね、そういえばたしかに。ただ、そうね、皆うちのメンバーがどういう風にカテゴライズしてるかとかはちょっと知らないんです。ただ私は、私たちがね、そのさっきのなんかの曲の時にセッションっぽい、玄人が好きなCDとかレコードしか聴いてないような人種じゃない、我々が。そりゃさ、ミュージシャンズミュージシャンみたいな作品ばっか聴くのは当然なんだけど私たちからすれば、玄人だから。プレイヤーだから。作家だから。そうなんだけど、でもだからなんていうのかな、例えば地上波にでて、アイドルの方が歌ってらっしゃるものを、そういえばこれは音楽っていうカテゴリーなんだなっていうの、確かにね、違和感があったの、ずっと。あったんだけど、でもそういうのを書く作家さんもミュージシャンだし、音楽だし、立派な音楽作品なんだから、別個に分けて蔑視したりする気持ちは全然なくて、なんていうんだろう、そういうものもちゃんと音楽としてあるとすごくいいものだという風に認識していることも、この曲には残ってくれたらいいなって私なんかは思ってました。まあ皆がメンバーがどう思っているかは分かんないけど。そういうエンドロールですね。

内田:『音楽』というタイトルのアルバムで、これまでのその『教育』だったり『大人』だったり『娯楽』だったり『スポーツ』だったり『大発見』だったり『ニュース』だったりっていうその、まあ『color bars』も含めてチャンネルっていうことでいうと、まあこれまでのチャンネル、プログラムの要素がちゃんと、このアルバムの中には全てのチャンネルの要素がある意味詰まっていうという捉え方も出来るかなと思うんですけど。
椎名:ああ、そうだといいですね。
内田:ある種チャンネルとしてはその、究極な『音楽』っていうタイトルであるんですけど、
椎名:うん、大トリみたいな感じですよね。
内田:そうそう、切った訳だけど、東京事変としてはこっからどうするのかどうなるのかっていう、結構リスナー気になってるところだと思うんですけど。
椎名:そうなんですよ。2020年にここに揃うスケジュールの中で出来ることっていうの、まあ計画してたのは計画倒れしちゃったりしましたもんね、あの騒動によって。で、正直いってノルマ達成していない気持ちもあるんですよね。ライブなんかが出来ていないから。だからその期間内に出来なかったからそれで終わりっていう予定ではあったものの、まあ何人かすごく存続して欲しいっていうメンバーがいたりとか、何名か(笑)そういう者もおるし、まあちょっと柔軟に考えようかなと思って。
内田:おっ。折角やっぱりこれだけの曲が揃ったらストレートな気持ちとしてはライブでみたいなっていう風に。
椎名:ライブね、ほんとに。あの、私たちが気にしているのは本当にお客さんに、なんかこう制約を設けるのが嫌で、何かを我慢して頂いたりすごく神経つかって頂くぐらいだったらちょっとお招きするのも気が引けるなっていう。なるべく、その、ストレスフリーな状態でお会いしたいなと思っています。



完。

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捨てます。



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