Liner voice+ 東京事変「音楽」書き起こし③

赤の同盟

内田:もともとドラマの主題歌で、先に発表されてましたが。
椎名:赤の同盟、聴いて下さった方もいらっしゃるかもしれませんね、去年の夏でしたかね。
内田:これは伊澤さんの作曲クレジットですが、持ち込まれた時の状態からどうアレンジ、アンサンブルつけてくかっていうプロセスでいうとどんな感じだったんでしょうか。
椎名:一葉の曲はあの、もうリズムのパターン、アクセントも全部決まっているので、デモの段階で。全部打ち込んできてくれるので、ほぼその通りじゃないですかね。もうなんならドラマのフィルを指定してあったりするくらいの、割とその通り。でもギターだけ、私も一葉もデモに浮雲のギターだけはもうあんまり入れないですね。よっぽど決まったリフじゃないと。ベーシック、その伴奏みたいな役割をギターにしてもらう可能性がある曲以外はないですね。だからそれ以外は全部指定してあります。

内田:作詞については椎名さんの中で、まあドラマの主題歌ってのはタイミングとして一つありましたけど、こういう背景でとか、ここのフレーズから書き始めたみたいなくだりで言うと、なんかちょっとエピソードみたいなもの聞かせて貰えたらと思うんですけども。
椎名:やっぱりアーメンとかジーザスとかガッデムとかを先に書いたかなあ。
内田:あっここからなんだ!
椎名:書くっていうか(笑)
内田:書くっていうか(笑)こっから嵌め込んでいった。
椎名:じゃないかなあ。あの音がもう、そういうアーメンっていう音だったから。じゃないかな、忘れちゃったけど。ただ、とにかくその頃震災の後と一緒で、なんか世の中に発されるものがあれば皆が選考員となって正しいか正しくないかジャッジするっていう感じが蔓延している頃だったから。勿論あの、それでジャッジされて不可とされることっていうのも怖いことかもしれないが、それよりも、なんていうのかな、誰かを傷つけるようなものを出しちゃいけないというか。元々すごく写実的なタッチだし、殊更ね、センセーションなものを書きたいとかは思ってないんだけど、より一層いつもよりも気をつけて、面取りしてっていうか、あの、綺麗事は絶対言っちゃいけないんだが、ただし優しくプレゼンしたいなっていう風に思うと、どうしたらいいんだろうと思って。曲はね、すごくエッジがあるかいいじゃない、その通り合ったものにもしたいし。そこはちょっと全体的にこの曲はリリック、作詞は苦労したかもしれないですね。タイミングとして。去年の今頃、ん、五月ぐらいに書いてたかな。
内田:そっかそうですよね。世の中に出すタイミングっていうのはどうしてもやっぱり都度都度作用しますよね。
椎名:そうなの。なんかあれ、やっぱりこうパンっと何か、誰かが何かしたって時に、パンってこうネガティブなことを仰る時ってきっとすごく傷ついておられるじゃないですか、あの時って、仰ってる方が。多分すごく。ねえ。だからそういう、こうギスギスしたお気持ちにさせちゃうようなもの絶対出せないから。どうしたらそういう方が、ね、その事って時々考えるけど、難しいポイントですね。
内田:そうですよね。これリリックの中に「大嫌いの原理も大好きの法則さえも」っていうくだりがありますけど、それこそ原理法則という言葉に呼応するというか、反応しているように、歌詞の中にあの、数学とか論理学とかで出てくるあの論理記号。そうそうそう、あれ可愛いなあと思って。
椎名:そう、なんかちょっとぶりっ子しちゃったかな。
内田:あははは(笑)
椎名:そう(笑)可愛くしたかったの、とにかく。誰も傷つけたくないっていう発想から、多分。うん、パッケージを可愛くしようとは思ったかもしれないです。すいませんオバサンのぶりっ子を、みっともないことして。
内田:そんなことない(笑)でもその椎名さんの言葉を借りて言うなら、その椎名さんの中におけるちょっと可愛くしちゃったのが、歌詞カードというか字面で見ると論理記号にでるのがすげえなっていう(笑)
椎名:ああ、あとあれね、半角。アーメンとか。そう、ちょっとぶりっ子部分かもしれないです。
内田:途中間奏のあのピアノの後ろで鳴っているあの同期音みたいな、バスとかクラックみたいなの、あれは打ち込みなんですか?
椎名:ああ、あの変な昔のラップのイントロみたいなね。
内田:そうそうそう(笑)
椎名:(笑)そうです、あれ多分ね、一葉のキーボードの中の音源かもしれない。そういう素材だったから。こうやって鍵盤でトゥットゥッて弾いて、叩いてるみたいなのですよね。あれそのまま使いたいなって言って、なんか別のをやってみたんだけど、笑い方が、ちょっとやっぱ元々一葉がデモで使ってた音色の方が笑えたから。もっと私笑いたいからあれ持ってきてって言った気がします(笑)

銀河民

内田:『娯楽』の時は某都民、『ニュース』の時は選ばれざる国民。民シリーズがいよいよ銀河に来たかっていう感じなんですけど、タイトル的に(笑)
椎名:はい、民の、ピープルシリーズですね。
内田:うんうん。作曲はこれ浮雲さんと伊澤さんのお二人のクレジットになってますけども、どういうプロセスでこれは作っていったんでしょう。
椎名:やっぱり浮ちゃんがそのまま和声の動きとかだけで最初トラック提案してて。あとベースのリフ、ドゥッドゥッっていうのあって。放ったらかしてたんですよね。で、歌モノにするかしないか、別にインストのままなんか記録してもいいぐらいのものだったんだけど。歌メロあってもいいと思う時に、一葉が書いてきてくれたんじゃなかったかな。浮雲が頼んでたのかな。あ、じゃあ私も書いてみようかって言ったんだけど、なんかあんま良くなんなくて。一葉に頼んでみていいって言ったんだ私が、そうそう。
内田:メロディーとしてはあの、メロウソウルと言ったらよいのだろうか。
椎名:そうですね。これ亀田さんのベース、すごい低い音のでるベース、楽器使ってもらって。多分皆かなり、メンバー自身は孔雀とかこの銀河民という曲とかが好きだと思います。やっててすごく自分たちらしいという曲ですね。
内田:亀田さんのプレイ今回イントロからズンズンくる曲もありますけど、基本的にはすげえ渋いなと思って聴いてたんですけど。
椎名:そうなんですよ、ほんとにベースが今回すごくスケベで。
内田:そうね(笑)あの、渋くスケベにいい仕事してるなって感じが。
椎名:うん。皆が、それでこういう亀田さんの側面が好きなんですよね。私もそうだし、だからどんどんやって欲しくて。なんか多分ね、そのために書いてきたんですよね、浮ちゃん(笑)
内田:ははっそうなんだ(笑)
椎名:亀田さんに五弦ベースを触って欲しくて書いたんじゃないですか。そういうとこあると思います。
内田:なるほどね。浮雲さんのギターがなんかこの曲、やっぱこう、ミュートで後半弾き続けるところのニュアンスも含めて。
椎名:ああ、タイム感がね、すごい。
内田:そうそう。いかにこう浮雲さんのタイム感とニュアンスみたいなのが曲の印象に貢献するというか、左右するのかっていうのがしみじみ分かる曲でもあるなあって後半聴いてると思ったんですけど。
椎名:そうですね。ほんと面白いグルーヴをもってる人です。あと、スティールパンみたいな音もあれ、浮雲なんですけど。ギター、シンセっていう。
内田:そう、だから椎名さんは都度都度、特に近年ブラックミュージックからの、元々影響っていうか、昔からすごく聴いてるなっていうのも含めて、取材とかでも仰ってた気がするんですけども。事変でこういうソウルっけとかブラックミュージックっけをだす時ってでも、ものすごくブラックブラックしてる感じではなくて、なんかどっかに涼しさだったりとかがちゃんと含まれたソウルの扱い方をするなという感じがするんですけど。
椎名:ああ、なんかね、やっぱり多分私がソロの名義でブラックミュージックが好きだったんですよっていう曲を書かないのもそうだし、事変で黒いものをちょっと匂ったとしても、所謂R&Bとかソウルってものにならないの。何故かというと、どっちかって言うとやっぱりプレイヤーものになっちゃうんですよね。あの、そういうのど自慢みたいなものにあんまり誰も興味なくて。ボーカリスト本人も黒人のカルチャーが好きだけど、あっちは別に好きじゃなかったから。のど自慢系、ウォ〜オオォみたいな、ああいうやつ(笑)ああ、なんか笑っちゃって、どうしても。何今の、え、すごい恥ずかしいと思って、どうしても。
内田:今いいもん聴いたあ。
椎名:ああ、ごめんなさい(笑)そういうのじゃないから、そっちにはどうしてもならないじゃない。そういうのってだってすっごくカラオケがダサいんだもん。プレイが、ただの伴奏だから。ずーっとその、刻んでるみたいなの、コード。そのボイシングも特に美味しくなくて歌が主役になる、みたいなのは、誰も好きじゃないからならないと思います。で多分その、セッションじゃないですか。だからどっちかっていうとプレイヤーの、セッションのCDに一緒に楽器のプレイヤーがおいてる時にちょっと歌う、みたいなやつの方が聴いてると思う。私もそうだし、一番そうかも。歌モノよりそういうのを聴いてますもんね。
内田:そうですね。ああでもセッションバンドの感覚って言われるとすごくストンときますね。

獣の理

内田:獣の理。これ亀田さんの曲。
椎名:はい。獣の理もかなり、綺麗ですよねえ、曲。ピアノのピュアネスを感じます、痛いほどの。
内田:言葉の、例えば「緊張感」とか「僕の番」っていうところで、フレーズの語尾のところで細かく韻を踏んでる感じっていうのが気持ちいいなあだったり、なんかやっぱりそういう細部まで考えてあるなあと思いながら聴いてたんですけども。
椎名:ああそうですか、そうですね。音色を毎回その、同じ音の高さの時に音色が揃うと綺麗かなとかそういうことを考えますかね。闇なる白で、エ行攻めで押してて、ずっとえ、え、えで母音がずっとエになるようにしてるのも、ちょっと不快感を表現したくてやったんだけど。これもそうですね。これはどっちかっていうと抜けの良さを強調したかったんでしょうね、多分。
内田:その辺の不快感だったり抜けの良さだったりアタックだったり、やっぱり韻っていうのも曲の印象によってかなり、やっぱり細かく椎名さんの中で使い分けがあるわけですよね。
椎名:そうですね。まあ細かくしようと思えば目盛りがいくらでも細かく用意できるものだから。やっぱり少し、出来るところはやるようにしてますね。

内田:この歌詞は、清濁併せ呑むじゃないですけど、濁りと清さみたいなところが描かれていて、己の肉体で体感するし、二足歩行したい欲するっていうストーリーなのかな。
椎名:そうですね。でもこの場合は、アルバムで大人の場面を描きたいところでもっかい、今一度それを、やっぱりそうなんだなって実感し直す場面として描きたかったんですよね。その、絶好調な、あの若い一番パフォーマンス高く出せる、記録を出せる年齢じゃない時にこそ、もう一回感じることがあるじゃないですか。なんか病気したりして、例えばおっきい病気して手術したりして、とか。なんか必ずあるんですよね大人になって。老眼とか、始まってくるから。やっぱちょっと、ネットでみても分かんねえなあみたいな感じっていうか(笑)上手く言えないんだけど、その、なんかもう一度なんとなく身体と、頭と、心とのの置き所、自分を真ん中に置くっていうことが出来るようになったかもっていうような。大人特有のそういうの、ちょっと描きたかったんですよね。青のIDももう一回くるみたいな。大人のID取得っていう感じをちょっとやりたくて。





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