TOLAC(既往帝王切開後経膣分娩)について①その理由と病院選び
コウノトリのエピソードでも取り上げられたTOLAC(Trial of labor after cesarean delivery )、VBAC Vaginal Birth After Caesarea)。日本語で言うと、既往帝王切開後経膣分娩。既往帝王切開後経膣分娩を試みることをTOLAC、経膣分娩に成功したらVBACというとのこと。
私は第一子の出産時に、逆子(横位)が治らず、予定帝王切開をしました。通院していた産院では帝王切開を行うことが出来ず、31週で提携先の国立病院へ転院しました。初めての出産、想定外の帝王切開ということで、動揺しましたし、不安も大きかったです。しかしそんな心配を一瞬で消し去るほど、我が子との対面は感動的で幸せな瞬間でした。
十月十日一緒に過ごし、術後の痛みという形でおなかを痛めて産んだ我が子は愛おしかったです。私は「帝王切開はお産じゃない」なんて1mmも思いません。また赤ちゃんは赤ちゃんなりの理由があり、逆子だったり、横向きだったり、予定日を過ぎてゆっくり出てくることがあるのだと思います。私と娘にとっては、帝王切開で迎えるという事がベストだったと思っています。
TOLACを試そうと考えた理由
TOLACは子宮破裂のリスクが高く、子宮破裂による母子死亡事故や障害が残ってしまうような事例も日本で起きています。また子宮破裂を避けるため、誘発剤やバルーンなどのお産を促進させる人工的な処置も望ましくなく、自然分娩がうまく進まなければ、より身体的負担の高い緊急帝王切開になる可能性もあります。
このようなリスクがあり、TOLACが成功する可能性は60〜70%という中で、私がTOLACを試そうと考えた理由は3つです。
1.反復帝王切開の身体的負荷>TOLACが成功した場合の身体的負荷
帝王切開は身体への負担が大きいです。手術の同意書について説明を受けた際に、帝王切開手術に伴う硬膜外麻酔、子宮癒着、輸血のリスクなど一通り説明を受け、帝王切開手術そのものにリスクがあることを知りました。また身体への負担が大きく、第二子以降も帝王切開する場合は最低1年以上、望ましいのは2年以上開けるべきと言われました。また帝王切開は3回以上は出来ないそうです
私が選んだ日本赤十字医療センターでも、反復帝王切開の身体的負荷の高さ指摘し、反復帝王切開を前提にしない方針を示しています。
2.産後の育児のスムーズさ
「入院期間が帝王切開より短い」「母乳育児がしやすい(だろう)」の二つのポイントがあります。
①入院期間が帝王切開より短い:帝王切開は前日の入院含め、最低10日間ほど入院します。第二子出産にあたっては、第一子のケアもあるので、10日間の入院は長いな、、、とできれば、早く退院したいと考えました。自然分娩の場合は、経過の順調な経産婦は5日間程の入院です。
②母乳育児のしやすさ:第一子出産時は完全母乳にこだわりがあったわけではありませんが、いざ産まれてみると母乳の方が楽という実感がありました。特に夜間は、哺乳瓶の煮沸と調乳で睡眠時間が奪われるのが辛く、早く完全母乳に移行しようと母乳外来に通いました。
一般的に帝王切開の術後、1〜2日は授乳をするのが難しく、また人によっては数日授乳ができず、母も子も授乳ペースや量を早期に掴むのに苦労するようです。私自身も手術当日は酸素マスクに足にはプレッサーという状態なので、授乳はできずに、最初はミルクでした。一方で母乳生成は始まり、手術の傷口が痛む中、カチカチになったおっぱいを、なんとか飲ませよう、飲めないなら搾乳を、、、と、授乳のため悪戦苦闘しました。
経膣分娩でも予後が芳しくないこともありますが、帝王切開よりは授乳しやすいだろうと考えました。
3.第一子が出産立ち会いできる可能性
赤ちゃんを楽しみにしている娘に、出産立ち会いができる機会を作りたいと思ったのも大きな理由です。帝王切開の場合は、ほぼ立ち会いは出来ず、出来ても夫だけという病院がほとんどです。
この3つの理由でTOLACを試したいと考えるようになり、最終的には実際に病院で話を聞く中で、「子宮破裂による事故が起きる可能性を限りなく0に近づけようと体制をとってくれている。」と確信できた日本赤十字医療センターでなら、TOLACを試すことが出来そうだと考えました。
病院選び
ほとんどの病院が、「帝王切開経験者は次も帝王切開」を原則にしてます。これは病院のホームページなどで確認できます。一方で「TOLACをやっています」と大々的に掲載する病院は少なかったり、「数年前はやっていたが、産婦人科の方針変更でやめた」という病院もありました。私は最初はインターネットで検索し、候補の病院を探しました。
2019年夏時点だと、以下が見つかりました。
日本赤十字医療センター(広尾)
順天堂大学病院(お茶の水)
東京大学病院(上野)
都立大塚病院(大塚)
育良病院(目黒)
その上で、TOLACを希望するということは、陣痛開始後病院に向かうということになるので、自宅からの距離などを考慮し、日本赤十字医療センター/順天堂大学病院/育良病院で検討することにしました。
日本赤十字医療センターを選んだポイント
1.周産期母子医療センターであること
「万が一」があった場合、帝王切開手術はもちろん、新生児の治療も含め、同じ病院内で行うことができます。赤ちゃんに何かあった場合、最短時間で都内でできる最善の医療を受けることができる点が1番のポイントでした。
不幸にもTOLACで起きた事故をみると、子宮破裂後の対応遅れや搬送先でお亡くなりになっているケースが多いように思いました。
日赤の医師からは、「万が一」が起きたら、15分で赤ちゃんを取り出す体制を夜間含め整えてますよ」と説明を受け、赤ちゃんはもちろん母体の安全も担保できると考えました。
2.TOLACにチャレンジできない可能性も十分に説明してもらえたこと
最初にTOLAC希望で診察を受けた際に、TOLACにチャレンジできない可能性についても説明を受け、また前回帝王切開した病院からカルテを取り寄せ、その内容も踏まえて判断すると言われました。
最終的には病院ごとの基準に照らした判断になると思いますが、日赤は以下のような観点でレビューしているとの事でした。
①前回の帝王切開の理由
→母体の特性や病気が理由だと、次回も同じことが起きる可能性があるため、難しいようです。逆子が理由なら問題ないそうです
②前回の帝王切開の手術内容
→おなかを縦に切っているケースは難しく、横に切開しているほうが望ましいそうです。
③今回の妊娠の経過が順調であること
恐らくレビュー観点は病院によって異なるので、TOLACを希望する人は、医師と話し合い、自分がTOLACを試すことができるのかを十分に確認した方が良いと思います。
上記を満たした上で、予定日までに陣痛がきて自然分娩ができればTOLAC成功です。陣痛がこなければ、予定帝王切開になります。
3.待ち時間の少なさ
前回転院した病院は担当医制で、担当医に急な帝王切開オペが入ると数時間待つこともありました。今回は時短で仕事、育児もしながらの妊娠生活になるので、検診の待ち時間が長い病院は避けたい気持ちがありました。その点、日赤医療センターは、チーム担当制をとっており、担当の医師は固定ではありませんが、その分、待ち時間が比較的短いです。朝の予約ならほぼ予約時間通りでした。
担当医orチーム担当制は好みもあると思いますが、私にとっては、毎回違う医師の診察を受けることになるため、TOLACへの質問や不安について複数の医師から話を聞け、理解を深め、安心することができたので良かったです。
日本赤十字医療センターでお世話になろうと決めたタイミングでは、TOLACを必ず試すと覚悟が決まっていた訳ではありません。上記を3つのポイントで選んだうえで、検診時の医者の助産師とのコミュニケーションを通じて、日本赤十字医療センターのTOLACの経験の豊富さを実感し、覚悟が固まっていきました。