見出し画像

「バカなる」からリーダーシップを学ぶ

 ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは、高いパフォーマンスを実現するための「証明された」リーダーシップと経営の実践的な方法(プラクティス)を示したものです。
 ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワーク2021-2022年版で特に着目されている「デジタル化と第4次産業革命」に関連して、デジタルトランスフォーメーション(DX)について深掘りしています。
 その中で「バカなる」に出会いました。戦略の本ですが、リーダーシップにも示唆があり、ボルドリッジのリーダーシップの実践に近いものがあります。

 「バカな」と言われるほどユニークな戦略を考え出すために重要なこととして、外への関心を持ち続けることとともに、べき論でなく予測論に立って時代の流れを読むことを挙げています。
 そして、「べき論でなく予測論に立って時代の流れを読む」ことが「先見の明のあるリーダーシップ」を鍛えるとしています。

 経営者の一番重要な役割は、企業を長期にわたって維持し発展させることである。この役割を演じるためには、時代の流れを見通し、流れの変化をはやく察知し、時代の流れに合わせて経営を変えていかなければならない。経営者には、時代の流れを見通す先見力が要求される。とくに、今日のように経営の環境が国内にとどまらず、グローバルな広がりをみせ、さまざまな局面で激しく変化しているときには、先見力を強めることは経営者にとって一つの重要な課題である。
 先見力を強める一つの方法は、べき論にたたずに予測論にたって世の中の変化、時代の流れを読む努力をすることである。(べき論で)自分都合主義の立場から世の中の流れを読むのではなく、第三者的な冷静な目で、常識的に時代の流れを読もうと努力するならば、世の中の変化、時代の流れは案外容易に読めるものである。
(「バカなる」第一部第三章より引用)

 ボルドリッジ・フレームワークでは、リーダーの役割の一つに、利害関係者とのコミュニケーションを挙げています。
 ボルドリッジでは特定の方法を規定しませんが、「バカなる」には事例を交えて、経営者と組織メンバーとのコミュニケーションに関する具体的な注意点が示されています。

 一つは、戦略を浸透するための方法です。
 「バカなる」では、事例を挙げて、1口頭、2文書、3人事、4予算、5組織、6日常の言動の六つの方法があるとしています。そして「戦略を社員に理解させ、浸透させるためには、これらの六つの戦略メッセージが一貫性をもっていることが必要である」と付記しています。
 「一貫性(ALLIGNMENT)」は、ボルドリッジによく登場するキーワードです。
 戦略を浸透さるための方法として「3人事」「5組織」は少しわかりにくいかもしれません。「3人事」は、戦略に応じて新しいプロジェクトや組織を作るときに、そのリーダーにだれを持ってくるか、ということ。「5組織」は、戦略に応じて作る組織の規模や位置づけで、「バカなる」では、住友銀行が国際部門を拡充・強化する際に「ダブダブの洋服」の組織を作ったのを事例として挙げています。(「バカなる」第一部第四章)

 一つは、現場からの情報が届くようにするための注意点です。
 「バカなる」では、マイナス情報の例として、社内・社外での事故、工程不良率の増加、顧客からのクレーム、流通経路での事故、取引企業との関係の悪化、従業員のあいだの不満、部門間の衝突や対立、などを挙げています。そして、こうしたマイナス情報あるいはネガティブ情報は、上に届かない、あるいは、届くのに時間がかかる、届いてもきれいにまるめられていることが多い。
 それを避けるには、トップがこうしたマイナス情報に「情けをかけ」て、それを届けてくれた部下に「にこにこしながら『よく届けてくれた。よい情報を届けてくれた』といって接しなければならない」としています。
 マイナス情報を得ることによって、経営活動の現状の問題点や弱点を改めたり、解決することができます。「その意味で、マイナス情報は現状変革のための情報であるということができる。つまり、マイナス情報は、企業にとってイノベーションの源泉なのである」という視点は重要です。

 一つは、イノベーションを生み出す環境づくりです。これも、リーダーの重要な役割ですが、「バカなる」では、「失敗のマネジメント」という節で、米国3M社の事例を紹介した「3Mの挑戦」(野中郁次郎、清澤達夫著、日本経済新聞社、1987年)から、「失敗のマネジメント」の3つの特徴を挙げています。

第一の特徴 新製品開発の成功率を10%程度に低くおさえていること
第二の特徴 失敗者の処遇。新製品開発に挑戦した人たちは、仮にその新製品開発で失敗しても少なくとも元の地位と同等のポストにもどれること
第三の特徴 撤退の基準が明確になっていること。三年間の累積赤字が200万ドルをこえると、自動的にその新製品は打ち切られる。この明確な撤退基準のために、企業としては、新製品に安心して資金を出すことができる。ずるずると新製品開発がつづき、赤字がどんどんふくらんでいくという事態を防止できるからである。
(「バカなる」第二部第五章より)

 これらは、ボルドリッジのいう「イノベーションを支援する環境」を作る際の、一つのガイドになると考えます。

★★

 「バカなる」は、吉原英樹著「『バカな』と『なるほど』」(1988年刊、2014年復刊、PHP研究所)の心を込めた愛称です。

★★

 ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは有償ですが、筆者らが翻訳した要約版、「ボルドリッジ・エクセレンス・ビルダー【日本語版】」は、米国政府のウェブサイトから無償でダウンロードできます。
 下方の Non-English Versions / Japanese を参照ください。英語版とページ、形式を合わせてあり、対訳版としてもご欄いただけます。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?