ちょっと寄り道・・・「バカな」と「なるほど」
ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは、高いパフォーマンスを実現するための「証明された」リーダーシップと経営の実践的な方法(プラクティス)を示したものです。
ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは2年ごとにその時代の最先端の実践を取り入れて改訂されています。最新の2021-2022年版で特に着目した点に「デジタル化と第4次産業革命」があります。
丁度、デジタルトランスフォーメーション(DX)について話す機会を頂きましたので、その準備のため、関連する情報を集めています。
三品和広氏の著書(山口重樹氏との共著)を見ましたが、関連して、三品氏がその戦略論研究において影響を受けたという吉原英樹神戸大学名誉教授の「『バカな』と『なるほど』」(1988年初版。2014年復刊、PHP研究所刊)を見ることにします。
DX=IT*イノベーション であり、その成果としてビジネスモデルまで変革するものであれば、「戦略」は大いに関連するテーマです。
本書の復刊は、楠木健教授がベストセラー「ストーリーとしての競争戦略」の中で本書を評価したことがきっかけのようです。本書の冒頭には楠木氏が「復刊に寄せて」という文書を寄せており、その中で楠木氏は「『ストーリーとしての競争戦略』の核となる概念の着想は、吉原先生がずいぶん昔に出された『バカなる』に多くを負っている」と書いています。
「バカなる」とは、成功している企業の多くが、一見して非常識(=バカな)だが、よくよく見ると合理的(=なるほど)な戦略を実行している、という意味合いです。
戦略が「合理的」であれば、誰もが同じことを考える。だから、どこかに非合理の要素がなければ、独走につながらない。しかし、本当に非合理ではうまくいくはずがない。ということは、世の人々が「理」と思い込んでいる通念や慣行に潜む嘘を見破ることにこそ、戦略の第一歩があるということです。(三品和弘著「経営戦略を問いなおす」)
「バカなる」復刊版で吉原氏は、「最近の『バカな』と『なるほど』の事例」を挙げています。
クリステンセンが著書「イノベーションのジレンマ」(原著は1997年刊)で挙げた破壊的テクノロジーの事例、例えば、「下級」のHDD(ハードディスク)は、業界の有力企業にとっては開発したいと思わない「バカな」技術であった。
キム&モボルニュの「ブルーオーシャン戦略」(2015年刊)にある事例は、ワイン業界からは非難された(=バカな)オーストラリアのワイン、イエロー・テイル。こだわりを捨てて、飲みやすさ、選びやすさ、楽しさや意外性という別の価値を提案して米国で受け入れられた。
アマゾンは、1997年に上場後7年間赤字で、一度も利益を上げたことがない。その後も驚くほど低利益率の経営をしている(本書復刊時点)。これは利益が出ないことを示して、競合の参入を防ぐ、強かな戦略であった。
戦略には、差別性と合理性の二つの条件をそなえていなければならない。なかでも差別性が重要である。合理性の方を重視すると、平凡な、常識的な戦略になりやすい。(そもそもそれでは戦略にならない。)
差別性にも二つあって、一つは「たいしたものだ」「さすがだ」と他社から評価される差別性。これでは、競争企業はすぐその戦略を模倣する。戦略が成功するためには、もう一つの差別性、競争企業から「バカな」と言われるくらいユニークでなければならない。
他社が軽蔑し、バカにする戦略の場合は、実際に成功するのを見てからでないと、他社は真似をして参入してこない。その間に、創業者利益を上げることができる。業界のなかで相当の地位を築き上げることも可能である。
「バカな」と言われるほどユニークな戦略を考え出すために重要なこととして
・外への関心を持ち続けること
・べき論でなく予測論に立って時代の流れを読むこと
を挙げています。
「べき論より予測論を」というのも経営者に必要な要素です。
べき論で進めるのは管理者の仕事、リーダーは予測論に立つべき、ということかもしれません。ボルドリッジでも核となる価値観において、大切にしているのは、「先見の明のあるリーダーシップ」です。
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