科学熱傷 わずか数秒の油断が招く赤ちゃんの誤飲事故

赤ちゃんはまだ触覚の発達が未熟で往々にして口、舌で物の情報を捉えるという。ティッシュを食べようとしたり、おもちゃがヨダレでベトベトになるような経験をした方々も多い事だと思う。舐めても安心というおもちゃもあるにはあるのだが、それも清潔を保たなければ意味がない。私の息子も例に漏れず、あらゆる物を口に入れようとするので日々それを阻止する為に画策して来たのだが…事故当時は10ヵ月。親としては失格と言われても仕方のない事ではあるが恥を承知で注意喚起とリアルな経過を書かせて頂きたい。

普段から気を付けていた。

昨今のコロナ渦の影響で仕事が激減し、主に育児を担当しているのが私。夜の仕事を長く続けているので朝が非常に弱い。それでも息子が生れてからはミルクを忘れる事のないように心掛けていた。二度寝してしまい目を離してしまう事も考慮してあらゆる危険を排除した。テレビを始めとする家具は全て壁面に改造し、就寝前にはゴミや危険物が落ちていない事を確認、妻や親族には神経質過ぎると言われたくらいだ。息子が触れる物はおもちゃ箱のみ。朝、頭の回転が遅い状態の時にはそのおもちゃ箱から自分でおもちゃを出して遊んでくれていた。もちろんすべてを拭き上げ、口に入れても差し支えない状況にして、ぬいぐるみ等の唾液が染み込むような物は別にしておいた。完璧なつもりだったのだが…

事故発生は11:30頃

妻は早朝からの勤務だが間のある仕事の為、ちょくちょく帰って来てくれる。朝の弱い私にとってすごくありがたい。その日も朝のミルクは妻が準備してくれて私はその様子を寝床から夢うつつに聞きながら二度寝と覚醒のはざまでまどろんでいた。妻が再び出勤し息子と二人になったので寝床に寝転んだ状態でお気に入りのおもちゃで遊んでいたのだがお昼も近くなって来て少し眠気が襲って来た。うとうととし始めてしまったが眠るわけにはいかない。しかし眠い…「機嫌よく遊んでいるようだし少しだけ目を閉じよう」息子の後ろ姿を見て目を閉じる事数秒。カチッという聞きなれない音がした。
当家はフローリングなのだが、フローリングに鉄が当たる音。おもちゃを落としたのかと思い、息子の方を見るとまだ何かごそごそやっている。名前を呼ぶとニッコリ笑いながら笑い袋の中身をこちらに渡して来た。

え?中身?

笑い袋のおもちゃには当然笑う声を出す機械が入っている。簡単には外れないようになっていると勝手に思っていたのだが、縫い目もなく口を縛っている紐が解ければ簡単に取り出せる仕組みになっていた。受け取った機械部を見てみると電池がすべて外れていた。先ほどの音はどうやら電池がフローリングに落ちた音らしい。周囲に散らばるボタン電池を拾い電源BOXに戻すも一つ足りない。LR44という小さなボタン電池が4つで動く仕組みなのだが3つだけ。この時点で誤飲を疑ったものの息子の口には何も入っておらず、寝床付近であった為どこかに飛んだ可能性もある。あと一つ見つかれば良いだけの事。そう自分に言い聞かせて徹底的に探すも見つからない。次第にボタン電池を飲み込んだ可能性が高くなるにつれて強くなる不安。部屋のどこかにある可能性も捨てきれないが誤飲であった場合、一刻も早い処置が必要だ。この時点で10分経過。病院に行くにしても妻が出勤に車を使っているので緊急で戻ってきてもらう為に電話をしたが勤務中で出れず。折り返しを待つ間の時間にまずは小児救急相談ダイヤルという行政機関?に電話をしながら引き続き部屋の捜索を続ける事にした。


#私だけかもしれないレア体験

小児救急電話相談への電話 11:40頃


流血している、呼吸をしていない、など明らかに救急車を要請するような病状であれば迷う事もないが絶妙な具合の悪さを引き起こす事がある赤ちゃん。そんな時に応急処置法や救急車要請の判断、近隣病院の紹介を行ってくれるのがこの小児救急電話相談だ。焦りながらも電話をすると落ち着いた声の女性オペレーターが応対してくれた。ボタン電池の誤飲事故の可能性があるが確定的ではない状況と息子の様子、月齢などを伝えた。当の息子はピンピンしているが私がパニックになったり不安な顔を見せるといけないと思い平常心を保つことに努めた。オペレータは息子の様子や部屋にボタン電池がある可能性に少し迷いながらも誤飲の可能性がある以上、すぐに受診した方が良いと現住所から一番近く小児を受け入れてくれる病院を紹介してくれた。この間も部屋の操作は続けていたが15分探しても見つからない事から私の中で誤飲をしていると考えるようになった。妻の折り返しも未だ無く、受診の予約をしておこうとすぐさまその病院に電話をするのだが…

たらい回しにすらされない受け入れ拒否

紹介して頂いた病院は住まいから一番近い割と大きな病院。少々否定的な事を書くので名前は伏せておく。電話をかけ小児科に繋いでもらい状況を説明すると看護師が「少々お待ち下さい」と言った。通常この後は保留音が流れ、医師と相談するのだと思うのだがなぜか保留音が流れなかった
以下、一言一句言葉使いが間違いないとは言えないが内容は間違いない。

看護師ボタン電池の誤飲らしいんですけど飲んだか飲んでないか分からないんですって。〇〇先生は?え?昼休憩?どっちかわからないし、そしたらもう拒否しちゃっていいですかね?

どっちか分からないから調べて欲しいのだが・・・あまりの軽さというか医療に携わる人の言葉とは思えず唖然としているとしばらくして

看護師「もしもしー?申し訳ございません。当院にはボタン電池を除去出来る器具がなく受け入れる事が出来ません。」と回答。

そもそもは私の不注意が招いた事。それは重々承知している。私の息子だけが特別な訳でもなく、ましてコロナ渦。医療は平等でなくてはならない。そうなのだけれども正直申し上げて腹が立った。医療に携わる者が病気かもしれない小さな子供の診察を昼休憩を理由に受診拒否とはなんたる事か。だがここで文句を言っても仕方のない事、そうですか、とだけ言って早々に電話を切った。無礼ではあるがありがとうございましたとは言えなかった。今思い出してもモヤモヤする事案だ。コロナ渦なので受け入れが難しい事も予想してこの病院にかけた時から近隣の小児科を検索しておいたのですぐさま次の病院へ問い合わせする事が出来たが理由が昼休憩だったとは…この時妻から折り返しがありすぐに帰って来てくれるとの事。

2件目の問い合わせ

次にかけたのは少し遠いがTVで特集されたりドラマの舞台にもなっている大病院。救急救命に力を入れている事もあり、ここなら大丈夫だろうと少し安心し妻の帰って来る時間や病院までのルートや所要時間などを考えていた。小児科につないでもらって状況の説明をすると「ここではレントゲンでボタン電池の誤飲の有無は調べる事が出来るが、それを除去する器具がなく処置が出来ない。それでよければ診察自体はする」と言う。それで良ければと言われても…ボタン電池があった場合はどうなるのか?と聞いた所、「ご自分で器具のある病院に向かって頂くか、こちらで器具のある病院を調べて手続きした後、転院という形でその病院に搬送する」との事。同時に近隣にその器具を扱う病院は無い可能性が高い事も告げられた。一番大きな病院だったので絶望的な返事ではあったが仕方のない事、近隣病院すべてに問い合わせてみる旨を伝え電話を切る事にした。妻が帰って来るまでまだ少しある。その間に病院全てに問い合わせし、処置出来る病院があれば良し。なければ妻が帰り次第、この病院に連れて行こうと思った。この時でおそらく正午頃。事故発生から30分が過ぎた。息子がぐずったりしていないのがせめてもの救いだった。

全滅・・・振り出しに戻る

先の大病院での電話中に誤飲事故の治療について調べておいた。なんでもマグネットカテーテルという磁石のついた細い器具が必要になるらしい。妻が帰って来るまでの間に近い順から問い合わせを続けた。器具がなかったり、そもそもお昼は電話受付すらなかったり。大都会ではないのですぐさま全滅となってしまった。ダメ元でもう一度、小児救急相談へ電話をしてみた。軒並み受け入れてくれない状況を伝えると困惑しながらも救急車を呼ぶ提案をされた。もうすぐ妻が帰って来るが車が手配出来た所で向かう病院が無い。救急車なら少々距離のある病院でも最速で到着でき、応急器具にマグネットカテーテルを持っているかもしれない。お礼を言ってすぐさま119番に電話をする事に。もし誤飲していなかったら土下座をする覚悟は出来ている。救急のオペレーターに状況を説明、同時に近隣で受け入れてくれる病院が無い事も伝えた。「誤飲の有無がどうであろうと、近隣病院が受け入れられない状況だろうと我々は要請があればどんな症状でも出動します。どうしますか?」と聞いて頂いて迷わず要請する事にした。「不安でしょう?」と私にまで優しい言葉をかけて頂いた。おかげでイライラや不安は少し収まったのを覚えている。

救急車到着

救急車を待っている間に妻が帰って来た。病院に連れていくと思っていたら救急車待ちの状況。困惑したはずだがこういう時の母は強い。「これからピーポーピーポー乗るよー♪」と息子を安心させていた。私は度重なる受け入れ拒否や自分の不甲斐なさになかなかの形相をしていたに違いない。息子は泣いてこそいないが不安そうな顔をしていたように思う。コロナ渦の事、自分を落ち着かせる為にも救急車には妻と息子だけで乗ってもらい私は必要な物を準備し後から向かう事にした。

搬送。まさかの病院

ここからは妻から聞いた話も織り交ぜて行く。救急車に乗ってもう一度状況を説明すると隊員の方が「器具のある病院はここから少し遠いところにある。まずはボタン電池の確認をするのはどうか?」と提案してくれたらしい。無ければ無いで安心出来るし、誤飲しているのならもう一度要請してくれればすぐに器具のある病院まで連れて行くとの事。それに同意すると救急隊員が病院への受け入れ要請を開始した。要請先は1件目に昼休憩でなんとなく断られたあの病院。妻曰く二つ返事で受け入れてくれたらしい。時刻は13:00頃。妻からラインで搬送先を聞いた時は憤りを覚えたが有無を診察してもらう以上、納得するしかなかった。

問診と誤飲の有無

問診が始まった。この時、私が到着した。処置室に入る息子と妻の後ろ姿を見たが処置室は施錠されており、付近に病院関係者もおらず、コロナ渦でもある。幸いLINEが出来る状況みたいなので大人しく待合で待つことに。この時看護師に「さっき電話されました?」と聞かれたらしいが妻は事情を知らないので「多分、夫がかけたと思います」と曖昧に答えたそうだ。発生時刻は何時か?持病は無いか?等の質問をしながらカルテらしき紙に書き込んで行く。この時発生時刻を11時30分と答えたのにもかかわらず何故か12時過ぎと書かれたそうだ。何のための偽装なのか今でも分からない。13:24頃やっとレントゲン撮影。胃にボタン電池が確認された。
 

実際のレントゲン写真


救急とは・・・・

待っている間もボタン電池の誤飲事故について調べては不安になる。体内放電を起こして穴が開いた事例とか、全身麻酔が必要だとか。あらゆる事を想定した。誤飲が確定した今、一刻も早い処置が必要になる。こうしている間にも息子の胃に穴が開こうとしているのだから。聞いていた通りここには器具がなく救急車を要請してくれるらしい。高速を使って30分くらいのかなり大きい母子センターへ搬送されるとの事。これが決まったのが13:49分。待っている間の当時のLINEのやりとりが残っているのでかなり正確に時刻が書ける。レントゲン撮影からこの病院を探すまでに約30分かかっている。正直、遅さにかなり苛立ったが他の患者さんもいるだろう。これでも早い方だと自分に言い聞かせた。この間ももしも入院になったらとか、潰瘍が出来て重篤な後遺症が出たらとか悪い事ばかり考えながら妻と今後の事をやりとりした。未だ息子と妻は施錠された処置室の中。お昼前だったしお腹も空いているはずの息子を想うと自分の不注意が招いた結果に情けなくなくなった。

救急車を待っていたはずなのに

このあと遠方の病院に搬送される息子。妻がついててくれて息子は眠ったようだ。息子の顔も見れない場所で救急車を待っていても仕方ない。入院の可能性も考慮してミルクや毛布、おもちゃ等を一度取りに帰って私が単身で先に病院に行く事にした。準備をしながら一刻も早い救急車の到着を願った。14:20分に信じられないメッセージを妻から受け取る。

今救急車の要請したみたい!

この時刻に妻の前で救急車の要請をしたらしい。一度帰っていて良かった。病院にいたらきっと処置室のドアを蹴破っていたと思う。後に聞いた話だが病院を30分かけて探した後、救急車呼びますねーと言ったままどこかに消えた看護師がさらに30分後に思い出したように電話を掛けたらしい。忘れていたのか報連相というのが出来ていなかったのかは分からないが1時間以上息子は何の処置もされず放置されていたことになる。客観的に見ると自分の不注意で子供を危険な目に遭わせた挙句、忙しい医療現場の対応についてキレているやべぇ奴かもしれない。そう思われる方もいる事は受け止める。
息子に何かあったらこの病院のロビーで自分の胃に穴を空けて抗議しようと本気で考えていた。今思うと発想が恐ろしい。。。。。

母子センター到着 処置開始

救急車要請からは今までの事が嘘のようにスムーズだった。15:18にマグネットカテーテルにて摘出。幸いにも潰瘍は無く、息子の顔を見て安堵した。本当に良かった。摘出されたボタン電池は錆びたように変色が始まっていた。処置もっと遅れていたらと思うとゾッとする。

救急隊員がくれた薬

母子センターに向かう最中も救急隊員の方は優しく対応してくれたそうだ。息子が不安にならないようにゴム手袋に絵を書いて小さな人形を作って頂いた。もう空気は抜けてしまっているが今でもお守りとして飾ってある。息子が無事だった事とは全く関係の無い事かもしれないが、私はとてもよく効く薬になったのだと信じている。病は気からという言葉があるが、逆に病で気が滅入る事もある。傷や病の治療だけでなく、病における不安を取り除く事、患者に寄り添う事もまた医療の一部なのではないだろうか。

救急隊員がくれた手袋ちゃん

虐待の疑い

軽微な胃粘膜の荒れがあるかもしれないし、念の為に一週間後もう一度診察を受けるよう言われ無事にすべてが終了したかに思えた。息子の無事を喜んでいると待合室に保健師さんがやって来た。事故の状況や家具等の配置、普段の生活スタイルなどを割と深めに聞かれた。事故の再発防止の為に聞き取りや指導をしなければならないとの事だったが、虐待の有無を見極めるための聞き取りだと思う。自分の過失であることは間違いないし、疑われる事も仕方ない。むしろ疑ってかかるくらいでないと虐待を第三者が気付く事など不可能だ。全然気分が悪いなんて思わなかったけど保健師さんは終始申し訳なさそうにしていた。後日担当の保健師さんが自宅相談に来るとの事で解散となった。中には怒る人もいるのだろう。保健師さんも大変な職業だなと思った。

自宅相談

日取りが決まり自宅相談に担当の保健士さんがいらっしゃった。普段から色々と神経質に対策していた事もあって特に何も言われる事もなく息子の成長について10分程度話してお帰りになった。1点だけ受けた指導はフローリングは転倒しやすく、また転倒時にダメージになりやすいのでフロアマットなどを敷き対策すると尚よいとの事。虐待について聞いてみたがここにはそんな気配はないと言われ無事に疑いも晴れた。

学習した事と予防策

私が言うのも滑稽極まりない話ではあるが身をもって体験した事で学習出来た事もある。今回のボタン電池はLR44という小さいタイプの物だが、CR2025のような大きな物でも十分に起こり得る事故なので注意して頂きたい。本来なら電池カバーにネジがついており取り外しにはプラスドライバーが必要になる。しかし対象年齢が高めに設定されていたり海外企画の物ではついていない場合がある。電池の交換が面倒だからとネジを外したままにしたり、劣化に気が付かずプラスチック部が割れていたりする事もある。まさかと思う事が事故につながる為、これを読んで下さった方は今一度おもちゃの確認をして頂きたい。

電池以外でも起こる誤飲事故

電池は粘膜に触れると放電を起こし化学熱傷や潰瘍を引き起こすので最も気をつけなければならない物だが、それ以外でも気を付けなければならない。乳幼児の最大経口は4cm程。1円玉を2枚並べたくらいの大きさで結構大きい。これ以下の大きさのおもちゃや小物は飲み込む可能性があるという事になる。気管につまれば声も出せずに大惨事になる。少々の物なら排便時に排出されるが内臓や肛門を傷つける恐れもあるのでなるべく手の届かない所に保管しておくと良い。

その他の可能性

家の中は外に比べて比較的安心と思ってしまう。それでも乳幼児の事故の大半は家の中で起こる。アイロンでの火傷、たばこの誤飲、浴槽への転落、家具が倒れて裂傷、コンセントへ何らかの物を刺して感電、柱や壁の角での打撲、歯磨き中やお箸を持っての転倒で上あごに刺さる、熱い飲み物でのやけど、パッと思いつくだけでもこれくらいはある。排除出来る危険は1つでも少ない方が良い。

最後に

育児は危険と隣り合わせ。心配だけを見ればキリがなく心身ともに疲れ切ってしまう。少し転ぶくらいは成長の証と笑えるくらいのどっしりとした気構えも大切だと思う。危険はあるがあなたと言う目がある。転んだ子供を起こせる手がある。大丈夫だよと涙を止める事が出来る声がある。そしてあなたの子供はあなたが思う何倍も強くたくましい。日々、頑張っているあなたに応えようと子供は色んな冒険をする。危険を知る事、応急処置を知る事もとても大切な事だが一番知っていて欲しい事は

あなたはとても頑張っていて、子供を危険から守る事が出来る力がある

疲れていると忘れがちだし、気が付いていない人もいるかもしれない。
新米だろうとベテランだろうと関係ない。親になろうと奮闘しているのならあなたはもう必要な事の全てを持っている。考え方と使い方を子供と一緒に成長させて行くだけの事。その子にとってあなたほど素晴らしい親はいないのだから。


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