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【80年代MLBの世界へ】ホワイティ改革②〜最終決戦!ワールドシリーズ1982〜


1982年10月12日に開幕したセントルイス・カージナルス対ミルウォーキー・ブルワーズのワールドシリーズ。

『ホワイティ改革』後編では、ホワイティ・ハーゾグ監督兼GMがゼロから作り上げた新生カージナルスが、1982年ワールドシリーズでどのような戦いを見せたのかを実況形式で振り返ります。また後半にはこれまでのトレードの5段階評価、そしてハーゾグ時代のカージナルスとは切っても切り離せない関係にある大事件「ピッツバーグ薬物裁判」についても解説。

監督兼GMに就任した1980年オフにチームの大解体を行い、幾多の大型トレードで自分の理想とするチームを作り上げたホワイティ・ハーゾグ。そんなチームが最後に立ち向かうのは、4番、エース、守護神がいずれもカージナルスからトレードで放出された選手であるミルウォーキー・ブルワーズ

当時はカージナルスファンから非難轟々だったあの大型トレードは果たして成功だったのか。その答えがこのワールドシリーズで明らかになります。

シーズンHR数はブルワーズがリーグ最多の216に対してカージナルスはリーグ最少の68。一方でシーズン盗塁数はブルワーズが84に対してカージナルスはリーグ最多の200。戦い方は極めて対照的です。

管理主義のSTLハーゾグ監督(左)と放任主義のMILキーン監督(右)、両監督は性格までも対照的


パワー対スピードの最終決戦はどのような試合展開となるのか。ぜひ予想しながらご覧ください。

*本記事はYouTubeに複数投稿されている当時のフル中継映像を見たうえで執筆しました。公式からは映像が投稿されておらず、古いため視聴回数もかなり少ないですが、当時の雰囲気を味わうことが出来るのでお勧めです。(YouTubeでWorld Series 1982と検索すると出てきます)


第1戦 試合前セレモニー


②-1 最終決戦!1982年ワールドシリーズ

第1戦

1982年10月12日 @ブッシュ・スタジアムⅡ

*当時のワールドシリーズは偶数年がDH制採用、奇数年は不採用となっていました。
よって本大会ではDH制が採用されています。

*スタメン初登場野手は太字かつ成績(1982年シーズン)を掲載しています。ぜひ各選手の「HR数」と「盗塁数」に注目してみてください

*色は①と同じくランクごとに分けられています
(SS=紫 S=赤 A=黄 B=緑 C=青)

*左打ちの野手/左投げの投手には「*」、両打ちの野手には「#」マークが付いています

【スタメン】
(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター《得点王》
160試合/.302/19HR/71打点/.816/41盗塁
2. SS:SS ロビン・ヨーント《MVP/最多安打/ASG選出/GG賞/SS賞》
156試合/.331/29HR/114打点/.957/14盗塁
3. 1B:SS シーセル・クーパー*《ASG選出/SS賞》
155試合/.313/32HR/121打点/.870/2盗塁
4. C:SS テッド・シモンズ#
137試合/.269/23HR/97打点/.759/0盗塁
5. LF:SS ベン・オグリビー*《ASG選出》
159試合/.244/34HR/102打点/.780/3盗塁
6. CF:SS ゴーマン・トーマス《HR王》
158試合/.245/39HR/112打点/.850/3盗塁
7. DH:A ロイ・ハウエル*
98試合/.260/4HR/38打点/.655/0盗塁
8. RF:A チャーリー・ムーア
133試合/.254/6HR/45打点/.659/2盗塁
9. 2B:A ジム・ガントナー*
132試合/.295/4HR/43打点/.704/6盗塁

(左)ロビン・ヨーント (右)ポール・モリター


不動の1番得点王モリターにア・リーグMVPヨーント、6番にはア・リーグHR王トーマスと、1番から6番までの平均成績は打率.284/29HR/103打点という超強力オーダー。
故障者リスト入りしている守護神フィンガーズの穴を埋めるためにも打線の大量援護が必要です。

(カージナルス)

1. 2B:A トム・ハー#
135試合/.266/0HR/36打点/.662/25盗塁
2. LF:SS ロニー・スミス《得点王/ASG選出》
156試合/.307/8HR/69打点/.815/68盗塁
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*《GG賞》
160試合/.299/7HR/94打点/.810/19盗塁
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
136試合/.282/19HR/104打点/.773/3盗塁
5. DH:A ジーン・テナス
66試合/.258/7HR/18打点/.936/1盗塁
6. C:A ダレル・ポーター*
120試合/.231/12HR/48打点/.749/1盗塁
7. CF:A デービッド・グリーン
76試合/.283/2HR/23打点/.688/11盗塁
8. 3B:A ケン・オバークフェル*
137試合/.289/2HR/34打点/.715/11盗塁
9. SS:S オジー・スミス#《ASG選出/GG賞》
140試合/.248/2HR/43打点/.653/25盗塁

(左)ロニー・スミス (右)オジー・スミス

1・2番はホワイティ・ボールの象徴とも言える25盗塁ハーと68盗塁L.スミス。相手先発の左腕コールドウェル対策で、CFは正CFの左打者マギーではなく右打者グリーンを起用。
ブルワーズに比べて火力が足りないのは一目瞭然ですが、パワー不足を小技で補うのがカージナルスの戦い方です。こちらの守護神スーターは元気で準備万端。終盤までに1点でもリード出来れば勝つ可能性が高いでしょう。

【先発投手】

MIL:S マイク・コールドウェル*
(17勝13敗 258.0IP ERA3.91)
STL:S ボブ・フォーシュ
(15勝9敗1SV 233.0IP ERA3.48)

カージナルスは先発2番手のフォーシュが先発。一方のブルワーズも同じく先発2番手のコールドウェルを先発に。エース格を重要なシリーズ後半(第6,7戦)に先発させる為、シリーズ第1,2戦は先発2,3番手を先発させるという典型的な起用法です。

結果はこちら。

大敗
(baseball-reference.comより)


📝 "相手先発コールドウェルに3安打完封負け"


10対0のボロ負け。

NLCSでブレーブスを3タテしたとは思えない、無様な負け方でした。

打線は相手先発コールドウェルのスライダーとシンカーに翻弄され僅か3安打完封。三塁ベースすら踏ませてもらえませんでした。

圧巻の投球を披露した相手先発コールドウェル


唯一のチャンスは6点ビハインドの8回裏。ノーアウト一塁で打席に立った7番グリーンはライトへ大きな当たりも、RFムーアが壁に激突しながらキャッチし勝負あり。

8回裏 C.ムーアの好捕


一方で先発フォーシュは6回途中6失点で降板。全体的に調子は悪くなく、初回の失点は1Bヘルナンデスのエラーによるもの。ただし6回表2アウトランナー無しからの3連打2失点は非常に勿体無かったと言えます。
また5回表のシモンズの打席での特大ファールからのHR打ち直しも反省点。2球ともど真ん中へのストレートでした。


この結果を受けてハーゾグ監督は激怒...かと思いきや、「ダブルヘッダーじゃなくて良かった」とジョーク。試合後のミーティングも「あんなボロ負けではやっても仕方ない」と行いませんでした。

他に見所も無いので初戦の振り返りはこれで終了。

第2戦

1982年10月13日 @ブッシュ・スタジアムⅡ

【スタメン】
(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター
2. SS:SS ロビン・ヨーント
3. 1B:SS シーセル・クーパー*
4. C:SS テッド・シモンズ#
5. LF:SS ベン・オグリビー*
6. CF:SS ゴーマン・トーマス
7. DH:A ロイ・ハウエル*
8. RF:A チャーリー・ムーア
9. 2B:A ジム・ガントナー*

ブルワーズは昨日と同じオーダー。
第1戦でワールドシリーズ新記録の1試合5安打を放ったモリターを先頭に、オールスター級の打者が並びます。

(カージナルス)

1. 2B:A トム・ハー#
2. 3B:A ケン・オバークフェル*
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
5. C:A ダレル・ポーター*
6. LF:SS ロニー・スミス
7. DH:A デーン・オージ*
102試合/.294/0HR/34打点/.714/0盗塁
8. CF:A ウィリー・マギー#
123試合/.296/4HR/56打点/.709/24盗塁
9. SS:S オジー・スミス#

第1戦でシーズン中から薄々予兆のあった貧打が炸裂したカージナルス打線は、大幅にオーダー変更。前日4打数0安打のL.スミスは6番に降格。DHには打率.294のオージ、CFには本来レギュラーCFの新人マギーを起用しました。前日2安打のNLCS MVPポーターは5番に昇格。

【先発投手】

MIL:SS ドン・サットン
(17勝9敗 249.2IP ERA3.06)
STL:A ジョン・ストゥーパー
(9勝7敗 136.2IP ERA3.36)

ブルワーズの先発は夏にトレードで獲得したドジャースのレジェンド、37歳ドン・サットン。対するカージナルスの先発はルーキーのストゥーパー。シーズン中盤に先発不足に陥ったカージナルスの救世主となった選手です。シーズン中先発3番手を務めたスティーブ・ミューラは好不調の波が激しいという理由からハーゾグ監督は登板させませんでした。

結果はこちら。


STL、シリーズ初勝利!


📝  "明暗を分けた疑惑の一球"

今日も先発は不調で、ストゥーパーは5回持たず4失点で降板。ただ2番手カート、3番手ベアーが2.2イニングを無失点に抑える好投を見せている間に、6回裏にポーターに2点タイムリーツーベースが飛び出し4対4の同点に。続く7回表にはピンチで守護神スーターが火消しとして登板。打球は内野安打も狙えるゴロとなるも、オジー・スミスのファインプレーで無失点で乗り切ります。

この日は好守が光ったオジー・スミス
(7回表のファインプレーのシーンとは別)


直後の7回裏、2アウト一二塁のチャンスでハーゾグ監督は今日2安打1打点のオバークフェルに代えてテナスを起用する代打策を敢行するも失敗。しかしこれで流れを渡さないのが今季セーブ王のスーター。8回表を簡単に抑えます。

すると8回裏に2アウト二三塁のビッグチャンスが到来。マウンドには肩を痛めた守護神フィンガーズの代役でALCSでは2セーブを挙げた新人ラッド、打席には不調のL.スミス。そしてフルカウントからラッドが投じた完璧な外角ストレート、これがまさかのボール判定。この判定でラッドは動揺し、次打者の代打ブラウンにストレートの押し出し

8回裏 明暗を分けたL.スミスへの疑惑の一球


1点リードの9回表は守護神スーターがSFF(スプリット)を武器にお決まりの3イニングセーブで締め、シリーズ初勝利を飾りました。

9回表 MIL打線を三者凡退に抑えたスーター


第3戦

1982年10月15日 @カウンティ・スタジアム

【スタメン】
(カージナルス)

1. 2B:A トム・ハー#
2. 3B:A ケン・オバークフェル*
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
5. C:A ダレル・ポーター*
6. LF:SS ロニー・スミス
7. DH:A デーン・オージ*
8. CF:A ウィリー・マギー#
9. SS:S オジー・スミス#

第2戦と同じオーダー。過去二戦でノーヒットの3,4番に期待がかかります。


(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター
2. SS:SS ロビン・ヨーント
3. 1B:SS シーセル・クーパー*
4. C:SS テッド・シモンズ#
5. LF:SS ベン・オグリビー*
6. CF:SS ゴーマン・トーマス
7. DH:A ロイ・ハウエル*
8. RF:A チャーリー・ムーア
9. 2B:A ジム・ガントナー*

第3戦もブルワーズは同じオーダー。
第2戦は敗れはしたもののカージナルスを上回る10安打を放っており、依然強力です。

【先発投手】

STL:SS ウォーキン・アンドゥーハー
(15勝10敗 265.2IP ERA2.47)
MIL:SS ピート・ブコビッチ
(18勝6敗 223.2IP ERA3.34)

待ちに待ったエース対決。
ブルワーズはカージナルスの元エースにして今季サイ・ヤング賞受賞のブコビッチ。対するカージナルスは現エースのアンドゥーハー。

敵地カウンティ・スタジアムでの試合前セレモニー



そんな白熱すること間違いなしのエース対決を制したのはこちらのチームでした。

カージナルス2連勝!


📝 "実質6打点のスーパーヒーロー・マギー"


この試合はルーキーのウィリー・マギーが大活躍。彼一人の力で勝ったと言っても過言ではありません。

マギーはこの年422打席で4本しかHRを打っていないのですが、何とこの試合2本のHR
5回表に先制の3ランを放つと、7回表には二打席連続HRとなるソロアーチ。それも相手投手はサイ・ヤング賞受賞のブコビッチです。

5回表 先制3ランを放つマギー


さらには4点リードの9回裏、ノーアウト一塁からこの年HR王のトーマスが放ったHR性の打球をジャンピングキャッチ

9回裏 マギーのHRキャッチ


このプレーが無ければノーアウトで2点差。まさにチームを救ったファインプレーでした。

マギーは試合後「自分はプレーするチャンスを貰えるだけで嬉しいんだ」と謙虚にコメント。
またハーゾグ監督は「あのプレーはまさにチームを救った」と話しました。



しかしこの試合ではチームとして心配な事もいくつか。

この日のメイン、エース対決はアンドゥーハーが6.1回無失点と8.2回6失点のブコビッチに圧勝。しかしアンドゥーハーは7回にシモンズの放った打球が足のすねに直撃し、チームメイトに抱えられながら負傷退場。相当辛そうな様子でした。

7回裏 負傷退場する先発アンドゥーハー


仮にアンドゥーハーが第7戦に先発できないとなると、カージナルスの先発事情は一気に苦しくなります。チームは祈る事しか出来ない状況。

さらに投手陣で心配なのは守護神スーター。この日も当然のように3イニングセーブをしているのですが、HR性の打球を打たれたことからも分かるように疲れが見え始めています(当たり前)。この時代のクローザーは本当に凄い。

一方の野手陣は、1番ハーが11打数1安打、3番ヘルナンデスが11打数0安打とスランプ。その他の選手も調子が良いわけではなく、第3戦はマギーの2連発に助けられました。散々スモールベースボールで勝ってきたチームが、大砲揃いのチーム相手にHRで勝つ。なにが起こるか分からない、これぞプレーオフといった試合でした。

第4戦

1982年10月16日 @カウンティ・スタジアム

【スタメン】
(カージナルス)

1. 2B:A トム・ハー#
2. 3B:A ケン・オバークフェル*
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
5. C:A ダレル・ポーター*
6. LF:SS ロニー・スミス
7. DH:A デーン・オージ*
8. CF:A ウィリー・マギー#
9. SS:S オジー・スミス#

3試合連続で同じオーダー。前日は僅か6安打でしたが、リーグ優勝したチームとは思えないほど(投打ともに)選手層が薄く、他に起用すべき選手も特段いません。不振のハーとヘルナンデスの復活に期待がかかります。


(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター
2. SS:SS ロビン・ヨーント
3. 1B:SS シーセル・クーパー*
4. C:SS テッド・シモンズ#
5. CF:SS ゴーマン・トーマス
6. LF:SS ベン・オグリビー*
7. DH:A ドン・マネー
96試合/.284/16HR/55打点/.891/0盗塁
8. RF:A チャーリー・ムーア
9. 2B:A ジム・ガントナー*

前日僅か5安打に終わったブルワーズは、第4戦にして初めてスタメンを変更
とは言ってもそこまで変化はなく、HR王トーマスを5番に繰り上げ、DHにはハウエルの代わりにドン・マネーを起用しました。

【先発投手】

STL:A デーブ・ラポイント*
(9勝3敗 152.2IP ERA3.42)
MIL:A ムース・ハース
(11勝8敗1SV 193.1IP ERA4.47)

ブルワーズは先発4番手のハース、カージナルスはリリーフ兼先発のラポイントが先発。繰り返しになりますが、先発4番手のミューラは好不調の波が激しい為ロースター外です。
ラポイントはこの年初のフルシーズン登板。ルーキー資格も保持していました。開幕から5月中旬まではリリーフ専門だったものの、5月20日の初先発で結果を残してからは先発での起用がメインに。

試合前に談笑する両チーム守護神
フィンガーズ(左)とスーター(右)


勝てば世界一に王手をかけるカージナルス、3連敗は避けたいブルワーズ、両者ともに負けられない試合はこのような結果となりました。

逆転負け…


📝 "すべては一つのエラーから"

打線は2回表、1アウト二三塁からハーがセンターへフライを放つと、CFトーマスが捕球の際につまづき犠牲フライで2得点。

2回表 ハーの2点犠牲フライ


5点の援護を貰った先発ラポイントは6回まで好投。しかし7回裏1アウトから簡単なファーストゴロのベースカバー捕球をミスしてしまい、ランナーが出塁。ここから全てが崩れました。

7回裏 先発ラポイントの捕球エラー


ハーゾグ監督は火消しにベアー、カートと優秀なリリーフ陣を次々と投入するも、一度火のついた強力ブルワーズ打線の勢いは止まらず。逆転を許し、5-7で敗戦となりました。いつの時代もエラーは本当に恐い。

試合後ハーゾグ監督には「なぜ7回裏の火消しにスーターを出さなかったのか」と非難の嵐。選手の疲労を第一に考える21世紀のベースボールの常識からすると当然の判断なのですが、時は勝ちパターンの概念すら無い1982年。メディアやファンからは「ハーゾグ史上最悪の采配ミスだ」と酷評されました。
それでもハーゾグ監督は「7回からでは早すぎる。スーターを登板させる場合は4アウトセーブと決めていた」とキッパリ。
選手を守る、あるべき監督の姿です。

第5戦

1982年10月17日 @カウンティ・スタジアム

【スタメン】
(カージナルス)

1. DH:SS ロニー・スミス
2. LF:A デービッド・グリーン
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
5. C:A ダレル・ポーター*
6. CF:A ウィリー・マギー#
7. 3B:A ケン・オバークフェル*
8. 2B:A トム・ハー#
9. SS:S オジー・スミス#

ここにきて大きくオーダーを変えたのはカージナルス。プレーオフでは全く活躍できていなかった不動の先頭打者ハーをついに下位打線に降格させ、L.スミスを1番に。2番には第1戦以来のスタメンとなるグリーン。俊足コンビで上位を固めました。ハーと同じく今プレーオフ大不振のヘルナンデスは、打線の核として替えが効かないため我慢の3番起用継続


(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター
2. SS:SS ロビン・ヨーント
3. 1B:SS シーセル・クーパー*
4. C:SS テッド・シモンズ#
5. LF:SS ベン・オグリビー*
6. CF:SS ゴーマン・トーマス
7. DH:A ドン・マネー
8. RF:A チャーリー・ムーア
9. 2B:A ジム・ガントナー*

王手をかけたいブルワーズは、5番オグリビーと6番トーマスの打順を再び入れ替え。この年最も多く見られたベストオーダーです。
オグリビーとトーマスはともに今プレーオフでは打率1割台と不調ですが、相手右腕フォーシュ対策で左打ちのオグリビーを上位に上げたと思われます。

【先発投手】

STL:S ボブ・フォーシュ
(15勝9敗1SV 233.0IP ERA3.48)
MIL:S マイク・コールドウェル*
(17勝13敗 258.0IP ERA3.91)

初戦と同じカード。
第1戦で完封された相手先発コールドウェルに対して、カージナルス打線は借りを返せるでしょうか。


結果はこちら。

借り、返せず


📝 "限界に達した守護神スーター"

初回に先発フォーシュは自身の牽制エラーから失点。

それでも3回表に2アウトから本日スタメン復帰の2番グリーンがスリーベースを放つと、続くヘルナンデスのセンターへの当たりはCFトーマスのグラブを弾きタイムリーツーベースに。同点に追いつきます。ヘルナンデスは久々のタイムリー

3回表 CF G.トーマスのグラブはあと数cm届かず


しかし直後の3回裏、連打を浴び再び勝ち越されます。4回表には相手のエラーから1アウト一二塁のチャンスを作るもO.スミスが痛恨のダブルプレー。5回裏にはモリターのタイムリーで点差を2点に広げられます。

それでも打線は7回表、1アウト一二塁でのヘルナンデスのゴロが一塁ランナーL.スミスの殺人スライディングにより併殺崩れとなると、続く4番ヘンドリックがタイムリーヒット。

7回裏 L.スミスの殺人スライディング


ちなみにこの書き方だとL.スミスが悪者に見えてしまいますが、当時のMLBではダブルプレーの際にかなりの割合で一塁ランナーが殺人スライディングを行っています。このプレーでは二塁のみならず一塁でも衝突が起こっており、観客は大盛り上がり。笑っちゃうくらい危なくて笑えない。ここだけはもはや別の競技です。

こうして1点差に詰め寄るも、直後にヨーントのソロHRで再び2点差に。

7回裏 R.ヨーントのソロHR


8回表は得点を奪えず、8回裏に。
これ以上点差を広げたくないカージナルスは、守護神スーターをマウンドに送り込みます。

しかし第3戦の時点で疲労が見え始めていたスーターは、タイムリー2本を浴び2失点。シーズン中ではほとんど見られなかった大乱調。スーターの身体はとうに限界を超えていました。

9回表、ブルワーズは先発コールドウェルの続投を選択。しかしまだ諦めないカージナルス打線は、3番ヘルナンデスと4番ヘンドリックにタイムリーが飛び出し2点差とします。

9回表 不振に苦しんでいた主砲ヘルナンデスの本日二本目となるタイムリーツーベース


この1アウト一塁の状況でキーン監督は、第2戦から休養日を挟んで4連投の本来先発3番手ボブ・マッカラーを投入。続く5番ポーターはヒットを放ちますが後続が倒れ、カージナルスは敗戦。
一方のブルワーズはワールドシリーズ制覇に王手をかけました。

後がなくなったカージナルスはさぞかし焦っていることだろう、と報道陣はハーゾグ監督にインタビュー。
するとハーゾグ監督は、「移動日の明日は昼はゴルフをする予定だ。夜は妻とディナーにでも行こうかな」とここでもホワイティ節が炸裂。

編成/采配面のみならず、チームを引っ張るリーダー的性格も強かったホワイティ。どんな時でも決してブレません。

第6戦

1982年10月19日 @ブッシュ・スタジアムⅡ

【スタメン】
(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター
2. SS:SS ロビン・ヨーント
3. 1B:SS シーセル・クーパー*
4. C:SS テッド・シモンズ#
5. LF:SS ベン・オグリビー*
6. CF:SS ゴーマン・トーマス
7. DH:A ドン・マネー
8. RF:A チャーリー・ムーア
9. 2B:A ジム・ガントナー*

勝って優勝を決めたいブルワーズは、第5戦と同じオーダー。第2戦ではこの日先発のストゥーパーを5回途中でノックアウト。6日前の再現なるか

(カージナルス)

1. LF:SS ロニー・スミス
2. 3B:A ケン・オバークフェル*
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
5. C:A ダレル・ポーター*
6. DH:A デーン・オージ*
7. CF:A ウィリー・マギー#
8. 2B:A トム・ハー#
9. SS:S オジー・スミス#

後がないカージナルスは、相手先発サットンから前回登板(第2戦)で2安打を放ったオバークフェルを2番に起用。同じくサットンからヒットを打ったオージをDHに起用しました。


【先発投手】

MIL:SS ドン・サットン
(17勝9敗 249.2IP ERA3.06)
STL:A ジョン・ストゥーパー
(9勝7敗 136.2IP ERA3.36)

第2戦と同じマッチアップ。
前回サットンは6回4失点、ストゥーパーは4回4失点。


ブルワーズは勝てばワールドシリーズ制覇。
結果はこちら。


文句無しの勝利


📝 "スランプ組完全復活、打線爆発で大勝"

雨の中行われたゲームは、ハーゾグ監督が試合後「今日はなにも言うことは無いよ」と言った通り文句無しの大勝。2度の雨天中断で計5時間に及んだ長期戦も、9回を投げ切った先発ストゥーパーは見事。これも現代野球では考えられない起用法です。

当時の中継のかわいい雨天中断イラスト
(映像では雨粒が下に落ちます)


打線は2回裏に相手のエラーで先制すると、プレーオフ絶不調のハーがタイムリーツーベース
一塁ランナーのマギーの全力疾走も見事でした。

2回裏 ハーのタイムリー
2回裏 マギーの全力疾走


3回裏にはエラーで出塁したL.スミスが単独ホームスチールを狙うもタッチアウト。しかし試合後にはスミスの手が先にベースに触れている「証拠写真」が公開され、実際はセーフだったと話題になりました。

翌日の新聞に掲載された"証拠写真"


4回裏には好調のポーターが2ランHR、5回裏には第5戦で復活の兆しを見せた主砲ヘルナンデスに2ランHRが飛び出し相手先発サットンをノックアウト。ヘルナンデスは6回裏にもタイムリーを放つなど2安打4打点1HRの大活躍。ヘンドリック、ハーもマルチ安打、オージは猛打賞と計12安打10得点の猛攻で大勝

決着は最終決戦、第7戦へもつれこむこととなりました。


第7戦

1982年10月20日 @ブッシュ・スタジアムⅡ

【スタメン】
(ブルワーズ)

1. 3B:SS ポール・モリター
2. SS:SS ロビン・ヨーント
3. 1B:SS シーセル・クーパー*
4. C:SS テッド・シモンズ#
5. LF:SS ベン・オグリビー*
6. CF:SS ゴーマン・トーマス
7. DH:A ロイ・ハウエル*
8. RF:A チャーリー・ムーア
9. 2B:A ジム・ガントナー*

DHを左打者のハウエルに変更した、第3戦目までのオーダーに再変更。前日は4安打4エラーと良いところがなかった野手陣は、最終決戦で本来の力を発揮できるか。

(カージナルス)

1. LF:SS ロニー・スミス
2. 3B:A ケン・オバークフェル*
3. 1B:S キース・ヘルナンデス*
4. RF:S ジョージ・ヘンドリック
5. C:A ダレル・ポーター*
6. DH:A デーン・オージ*
7. CF:A ウィリー・マギー#
8. 2B:A トム・ハー#
9. SS:S オジー・スミス#

一方前日良いところしかなかったカージナルス打線は第6戦と同じラインナップ。強力打線でかつてのカージナルスのエース、サイ・ヤング賞のピート・ブコビッチを打ち砕けるか。ちなみにヘルナンデスはこの日が誕生日です。

【先発投手】

MIL:SS ピート・ブコビッチ
(18勝6敗 223.2IP ERA3.34)
STL:SS ウォーキン・アンドゥーハー
(15勝10敗 265.2IP ERA2.47)

第3戦で右足を痛め負傷退場したアンドゥーハーは痛みに堪え強行出場。お互い1年間チームを支えてきたエース同士が、強い想いを胸に最終戦のマウンドに上がります。

全米が注目するワールドシリーズ第7戦。
勝負の結末は、果たして。


*この試合はプレーボールから試合展開を見ていく特別形式でお送りします

試合前セレモニーに参加する
ルー・ブロック(左)とブッシュ・オーナー(中央)


📝 " ? ? ?"

全身全霊をかけた最終決戦が幕を開け、先にチャンスを手にしたのはカージナルス打線でした。

2回裏、オージの内野安打とハーの四球で2アウト一二塁のチャンスを作ると、9番O.スミスがショートへ内野安打を放ち満塁に。しかし1番L.スミスがライトフライに倒れ、得点とはなりません。
一方でピンチを抑えた相手先発ブコビッチはL.スミスを強い口調で煽りますが、乱闘には発展せず。前章で説明した通りブコビッチは1980年までカージナルスのエースでしたが、L.スミスはこの年に移籍したばかりなので両者の在籍期間は被っていません

打ち取ったL.スミスを煽る相手先発ブコビッチ


対照的に冷静
なのはカージナルスの現エース、先発アンドゥーハー。三振を奪うブコビッチとは真逆の打たせて取るピッチングで、3回までを完璧に抑えます。

ブコビッチとは対照的に冷静なアンドゥーハー


カージナルスは3回裏にも2アウト二三塁のチャンスを作りますが、今度はオージが凡退で無得点。思うように打線が繋がりません。


しかし続く4回表、ここで試合の流れを変えるプレーが飛び出します。

ブルワーズは1アウト一塁から3番クーパーがライトへヒットを放つと、一塁ランナーのヨーントは三塁へ激走。これを見たRFヘンドリックは三塁へダイレクト送球。際どいタイミングも、3Bオバークフェルが先にヨーントの足にタッチしてアウト。球場は大いに盛り上がります。

4回表 走者ヨーントにタッチする3Bオバークフェル


勢いを取り戻したカージナルスはその裏、マギーとハーの連打で1アウト一三塁とすると、L.スミスの内野安打で1点を先制。走力が武器のカージナルス打線はこの時点で既に内野安打は4本目。

ホワイティ・ボールの真骨頂のような攻め方で先制に成功します。

4回裏 L.スミスのタイムリー内野安打
3B P.モリターは飛びつくも捕球できず


しかし対極的にパワーが武器のブルワーズ打線。直後の5回表に先頭のオグリビーがソロHRを放ち、すぐさま同点に。

これぞまさしくパワー対スピードの戦いです。

5回表 B.オグリビーの同点ソロHR


そう思ったのも束の間。

6回表に先頭の9番ガントナーが出塁すると、1番モリターが予想外のセーフティバント。捕球したアンドゥーハーはファーストに慌てて投げるも送球は逸れ、勝ち越しを許してしまいます

ブルワーズ打線までスモールベースボールで攻めて来るとは、流石のホワイティでも予測出来ません。

6回表 P.モリターのセーフティバント


さらに続くヨーントのセカンドへの打球は、2Bハーが処理するも1Bヘルナンデスとの連携ミスでアウトに出来ず内野安打に。ノーアウト一三塁の大ピンチとなります。

ここでカージナルスベンチは投手コーチがマウンドへ。アンドゥーハーを落ち着かせます。
ブルペンでは左右の中継ぎエース、カートとベアーが準備。今日だけは絶対に間違えられない継投策、ハーゾグ監督はアンドゥーハーの続投を選択します。

ブルペンで準備するベアー(左)とカート(右)


打席には強打者の3番クーパー。
アンドゥーハーは牽制を挟み、初球を外角低めに投じます。これをクーパーはレフト最深部へ運び、犠牲フライに。3対1とブルワーズがリードを広げます。

それでもアンドゥーハーは続く4番シモンズ、5番オグリビーを打ち取り、何とか2失点で踏みとどまります。

2点を奪われた直後の6回裏。
追い付きたいカージナルスは1アウトからWスミスの連打で二三塁のチャンスを作ると、ブルワーズは投手を交代。キーン監督は87球の先発ブコビッチを下げ、シリーズ7戦で5度目の登板となるマクルアーをマウンドへ送ります。一方カージナルスのハーゾグ監督はオバークフェルに代打テナスを選択。

ブコビッチに交代を告げるキーン監督


ブルワーズが大ピンチを抑えるか、カージナルスが追い付けるか。

いずれの結果でもこの試合のターニングポイントとなる事には間違いない場面です。

ハーゾグ監督からの信頼も厚い勝負師、代打テナス
火消しを任された中継ぎエース、マクルアー


1アウト二三塁、代わったばかりのマクルアー対代打テナス。

初球は高めのゾーンギリギリを攻めるもボールのジャッジ。2球目もほぼ同じ場所に投じるも、またも球審はボール判定。これにマクルアーは不満を露わにします。
一呼吸置いた後の3球目はカーブが決まりストライク。しかし4,5球目が外れフォアボールに。1アウト満塁となります。

ハーゾグ監督はすかさずテナスの代走に俊足ラムジーを起用。ダブルプレーを回避するためです。一方のキーン監督も投手コーチと作戦会議。ブルワーズのブルペンでは第1,5戦で先発したコールドウェルが準備を開始。

両ベンチが騒がしくなってきました。

代走ラムジーを送るハーゾグ監督


作戦を練るキーン監督


6回裏2点ビハインド1アウト満塁、打席には本日誕生日の3番ヘルナンデス。対するは2番手マクルアー。
一打同点、ダブルプレーならイニング終了となる重要な場面。シリーズ中盤から調子を上げてきたヘルナンデスはチームの救世主となれるか

1アウト満塁で打席には主砲ヘルナンデス


初球は外角低めも僅かに外れてボール。2球目は大きく曲がるカーブでストライク。3球目は大きく外れ、2ボール1ストライクに。

3ボールは避けたいブルワーズバッテリー、捕手シモンズはミットをゾーン中央に構えます。しかし今度は内側に大きく外れて3ボール1ストライクに。コマンド力が武器のマクルアーですが、制球が定まりません。一方のヘルナンデスはバッティングカウント。

4球目と同じく捕手シモンズはミットを中央に構え、マクルアーが投じた5球目。
ゾーン内内側に入った速球をヘルナンデスは振り抜き、打球はセンターへ。快足のWスミスはすぐさまホームインし2点を追加。さらに一塁ランナーの代走ラムジーは三塁へヘッドスライディングし、これもギリギリセーフ。

こうしてこの日29歳の誕生日を迎えたヘルナンデスの2点タイムリーにより、試合は振り出しに戻ります。

6回裏 ヘルナンデスの同点バースデータイムリー
代走ラムジーのヘッドスライディング


チャンスは続き、ハーゾグ監督の代走策もハマり1アウト一三塁、打席には4番ヘンドリック。3対3の同点、勝ち越したい場面です。一方のブルワーズ、キーン監督はマクルアーの続投を選択

初球は真ん中の直球もヘンドリックはカット。その後もマクルアーは吹っ切れたかのようにゾーン中心に投げ込んでいきます。
そして1ボール2ストライクで迎えた6球目。マクルアーの投じた速球は外角に外れるボール球も、ヘンドリックは得意の流し打ち。これがセカンドの横を通過し、勝ち越しタイムリーヒットとなります。球場は大盛り上がり。

6回裏 4番ヘンドリックの勝ち越しタイムリー


続くポーターはセカンドゴロに倒れると、ブルワーズのキーン監督はここで投手を交代。マクルアーに代えて、第4戦で先発したハースを送り込みます。

そのハースは代打ブラウンをセカンドゴロに抑え火消しに成功

試合は3対4カージナルスの1点リードで後半7回へと進んでいきます。守護神スーターはハーゾグ監督のすぐ後ろで待機。

ハーゾグ監督と守護神スーター


7回表先発アンドゥーハーが続投。代走のラムジーはそのままサードの守備に就きます。

先頭のトーマスは三振に倒れ、打席には7番ハウエル。初球は外れて1ボール0ストライク、続く2球目でした。
ハウエルが捉えた打球はレフト後方へ。LF L.スミスは追っていき、フェンスへ激突しながらジャンピングキャッチ。堅守のカージナルスらしいプレーでアンドゥーハーを援護します。

7回表 LF L.スミスのスーパーキャッチ


このプレーで落ち着きを取り戻した先発アンドゥーハーは、この試合序盤に紹介した通り冷静に投球を続けて、、

7回降板時 アンドゥーハーは何やら怒っている様子


いたはずだったのですがここで事件が勃発
2アウトから9番ガントナーはピッチャーゴロを放ちイニング終了も、お互いに暴言を吐き口論に

実は元々かなり気性の洗いアンドゥーハー
、かかって来いと言わんばかりの鬼の形相でガントナーに詰め寄りますが、球審が体を張って静止
隣にいた温厚なO.スミスはガントナーに落ち着けとジェスチャー。

激昂するアンドゥーハー


こうして両チームがベンチから飛び出す一触即発の事態となりましたが、試合の重要度を分かってか選手達はいたって冷静で乱闘には発展せず

選手以上に熱くなるSTLコーチ陣


そんな騒動を他所に、ブルペンでは「あの男」が準備を始めます。

ブルペンで肩を作る守護神スーター


7回裏はブルワーズ3番手ハースが三者凡退のピッチングで動きなし。

そして8回表1人勝ちパターンこと守護神スーターがマウンドに上がります。
世界一まで、残り6アウト

8回表 マウンドには守護神スーター


ブルワーズの打順は1番モリターから。ランナーを溜めてクリーンナップに回したいところです。

しかしそこはスーター。先頭のモリターをショートゴロに打ち取ると、2番ヨーントは得意のSFFで三球三振に。続く3番クーパーは初球でセカンドゴロに抑え、僅か9球で強力打線の上位3人をシャットアウト。格の違いを見せ付けます。

8回表 ヨーントを三球三振に打ち取るスーター


1点差の8回裏、ブルワーズのキーン監督はまたも3番手ハースの続投を選択。これでハースは3イニング目の回跨ぎ。先発2番手コールドウェルは6回裏から肩を作っていますが、延長戦を見据えてか温存します。

カージナルスの先頭は1番L.スミス。するといきなり初球、甘く入ったストレートをスミスは振り抜きライトへエンタイトルツーベース。追加点のチャンスを作ります。

しかし代走から2番に入っているラムジーはバント失敗で1アウト。3番ヘルナンデスは敬遠も、4番ヘンドリックはセンターフライ。
この2アウト一二塁の場面で、ブルワーズのキーン監督は投手交代を決断。左打者が続く場面で、先発2番手左腕マイク・コールドウェルをマウンドへ送ります。

8回裏 2アウト一二塁で登板のコールドウェル


2アウト一二塁、ここで打席には今プレーオフ大活躍中5番ポーター
初球はデッドボールスレスレのボール球。

そして2球目、コールドウェルが投じた低めの変化球をポーターは捉えてライトへ。この間に俊足の二塁ランナーL.スミスが生還し1点を追加。さらに続く途中出場ブラウンもセンターへタイムリーを放ち、リードを3点に広げます

優勝へ大きく前進する貴重な追加点に、カージナルスベンチは今シリーズ最高の大盛り上がり
足を怪我していると思われるカージナルスファンの男性も、あまりの興奮で松葉杖を突き上げ喜びを爆発させます。

過去最高の盛り上がりを見せるカージナルスベンチ
喜びのあまり普通に立ってしまっている松葉杖の男性


7番マギーはセカンドゴロに倒れ、長かった8回裏がようやく終了。

カージナルスの攻撃が終わるのを見て、すぐさま守護神スーターは一人マウンドへ向かいます。
世界一まで、残り3アウト

マウンドへ向かう守護神スーター


9回表
、先頭は元ミスター・カージナルス4番シモンズ。2年前の1980年まで13年間チームの顔として、誰よりも暗黒期のカージナルスを優勝させたいとプレーし続けていた選手です。

そんなシモンズをスーターは1ボール1ストライクからピッチャーゴロに抑えて1アウト。難しい打球処理でしたが、スーターは守備も一流です。


世界一まで、残り2アウト

9回表 シモンズをピッチャーゴロに打ち取り1アウト


5番はLFオグリビー。今季は34HRを放ちオールスターにも選出された強打者です。

しかしスーターは初球からストライクを取る攻めの投球で、気付けば1ボール2ストライクに。そして4球目に低めのSFFに手を出させ、セカンドゴロに打ち取ります。

9回表 B.オグリビーをセカンドゴロに打ち取り2アウト


2アウトとなり、ブッシュスタジアムは最高潮の盛り上がり。カージナルスベンチも選手たちはその瞬間を待ちきれない様子。場内が騒がしくなって来ました。

そんな中でも冷静にスーターを見守るのはホワイティ・ハーゾグ監督。暗黒期に沈んでいたチームを約3年で建て直し、独自の戦術"ホワイティ・ボール"で遂に優勝まであと一歩のところまで辿り着きました。普段はどんな時でもコーチ陣と話し合い次の作戦を立てるも、今はその必要は無し。作戦などありません。

両手をポケットに入れ、「あとは任せた」といった表情でマウンドの絶対的守護神スーターを見守ります。


世界一まで、残り1アウト。

どんな場面でも采配を振るってきたハーゾグ監督もあとは見守るだけ


一方で世界一を目前にして簡単には終わりたくないのはブルワーズ。打席には今季のア・リーグHR王ゴーマン・トーマスが立ちます。
カージナルスの外野陣は長打を警戒し、深めの守備シフト。

打席に立つトーマス
対する守護神スーター


初球
、攻めの投球を続けるスーターは、内角低めの変化球でストライク

2球目は指に引っかかりワンバウンドのボール

一呼吸おいた3球目は、直球が外角にそれボール。これで2ボール1ストライク

この場面でピッチャーは通常、3ボールにはしたくないと考えます。それを読んだ打者トーマスは、続く4球目をフルスイング
しかしその球は大きくゾーン外へ落ちる得意のSFF。裏をかいたバッテリーの作戦が上回ります。

5球目は真ん中付近の直球もファール。続く6球目はキャッチャーはSFFを要求。しかしスーターは首を振り直球を投げ込みますが、僅かに外に外れてボールフルカウントとなります。

ここからトーマスは7,8,9球目を同じような三塁線へのファールで粘り、意地を見せます。

勝負を決めたいスーター。
一呼吸おき、集中力を高めます。

10球目のサインに首を振るスーター


一度首を振り、10球目のサインが決定。直球か、或いは自慢のSFFか。

果たして選んだ球種は。

高めの直球で空振り三振!

この瞬間、ハーゾグ監督率いるカージナルスは、1967年以来15年振り9回目となるワールドシリーズ優勝を成し遂げました。

マウンドに駆け寄る捕手ポーター、迎え入れるのは笑顔の守護神スーター。
長い間待ち望んだ歓喜の瞬間です。

抱き合う捕手ポーターと守護神スーター
優勝の喜びを爆発させるカージナルスナイン


グラウンドはファンの乱入で溢れ返り
、選手たちは安全のために喜びを噛み締める間もなく急いでロッカールームへ。この時代はこれが当たり前でした。

歓喜の瞬間から30秒後のグラウンド
ロッカールームへ向かう選手たちとフレッドバード
(左のデカくて赤い鳥)


そしてすぐにMLBコミッショナーから優勝トロフィーが贈呈。ハーゾグ監督は直後のインタビューで「昨日は若手が頑張り、今日は信頼して来た投手陣が頑張った。このチームで優勝出来て本当に嬉しい」と語りました。

優勝トロフィーを受け取るハーゾグ監督


またシリーズMVPにはNLCSに続き正捕手ダレル・ポーターが選出。投手のリードに加えて、第2戦では同点タイムリーツーベース、第6戦では2ランHR、そして第7戦では貴重な追加点となるタイムリーなど攻守で活躍。今回のポストシーズンではチームで唯一と言っていいほど安定して結果を残しました。

つい2年前までは薬物依存症に苦しみ、完治後にロイヤルズ時代の恩師ハーゾグにカージナルスに呼んでもらった際も重圧から一時は不振に陥ったポーター。チームの顔シモンズと超有望株ケネディの2人の捕手を放出した後の後任ポーターに対するファンの風当たりは強く、ポーターの不振時は彼のみならず、彼を強い希望で獲得してきたハーゾグ監督が叩かれることもありました。

そんなポーターが度重なる活躍でチームを世界一に導き、恩師ハーゾグ監督にトロフィーを持たせることが出来たのです。

MVP受賞のインタビューに答えるポーター


そんなワールドシリーズ第7戦の最終スコアがこちら。


試合の明暗を分けたのは中盤の投手交代。ブルワーズの投手交代はワンテンポ遅かった印象でした。
結果論ですが、6回裏にマクルアーが打たれる前にハースを、8回裏にハースが打たれる前にコールドウェルを登板させていたら結果は変わっていたかもしれません。

しかしそれ以上にブルワーズの敗因だったのは守護神ロリー・フィンガーズの不在でしょう。これは第7戦のみならずシリーズ通して言えることです。

特に第2戦の終盤に新人ラッドが打たれた場面は本来はフィンガーズが登板していたはずであり、マクルアーを7戦中5戦も登板させる事態にはならなかったでしょう。フィンガーズ不在のブルワーズは、例えるならスーターが不在のカージナルス。あの超強力打線でなければ今回のワールドシリーズは早々に決着がついていたかもしれません。

ロリー・フィンガーズ


シリーズを通しては、カージナルスの隙あらば走るホワイティ・ボールにブルワーズが翻弄されている印象でした。またシーズン中から素晴らしかった守備も安定していました。また面白いことにシーズン中は大きな差があったパワー面は、シリーズ中のHR数はブルワーズが5本に対してカージナルスが4本とまさかの互角の勝負


よってカージナルスの最大の勝因は、強みを発揮できたうえに短期的な爆発力も見せられたことでしょう。ブルワーズは守備のミスも多く、パワーで押し切るのであればより多くの長打が必要でした。

②-2 トレード評価と選手たちのその後

こうして見事ワールドシリーズ優勝を成し遂げた1982年のカージナルス。

ここで改めて、ハーゾグ監督が行なった一連の補強を簡単に振り返ってみましょう。1982年以降の結果も含めて、トレードの評価を5点満点で付けてあります。

1. C ダレル・ポーター獲得

再建を託されたハーゾグが最初に行った動きが、FAの捕手ダレル・ポーターの獲得でした。
ポーターはチームの顔であったシモンズの後任という重圧から移籍後2年間は打率.224(81年)/打率.231(82年)と低迷。しかし2年目のポストシーズンでは大活躍を見せ、ご存じワールドシリーズMVPも受賞しました。
ポーターはその後翌83年に打率.262/15HRと好成績を残し、チームが再びワールドシリーズへ進出した85年までカージナルスでプレー。84年からは試合数がやや減少しましたが、結果5年間でfWAR12.8を記録しました。

メガネが特徴的なダレル・ポーター

よってポーターの獲得自体は成功と言っていいのですが、問題だったのは引退後のポーターの私生活。第一章でお話ししたようにポーターはロイヤルズ時代にドラッグ依存症に苦しんでおり、通院を続け完治した後にカージナルスへ移籍。ワールドシリーズMVP獲得時のインタビューでは「酒とドラッグは何ひとつ良いことはない。それらに苦しんでいる人は今すぐやめるべきだ。治療を頑張って本当に良かった」と話していました。
しかしそれでも繋がりを断ち切れないのがドラッグの恐ろしさ。引退して時間ができたポーターは再びドラッグに手を染めてしまい、2002年8月にドラッグの過剰摂取により亡くなりました。50歳でした。

評価:/5
📝:前任シモンズに比べると打撃成績は見劣りするも、プレーオフで勝負強さを発揮し世界一に導いた時点で補強は大成功。なによりシモンズを倒して世界一になったのは、ハーゾグの正捕手入れ替えの決断が正しかったことを証明している。

2. パドレスとの超大型トレード

ハーゾグ最初の大型トレードとなったこちらのトレード。有望株捕手ケネディにクローザー候補の若手3投手など計7人を放出してまで獲得したのは、リーグ屈指の守護神フィンガーズを含む4選手。
対価一人目のフィンガーズは数日後にブルワーズへトレード放出。しかしその対価でソレンセンを獲得し、さらにその対価で後にフィリーズからロニー・スミスを獲得することができました。二人目のジーン・テナスはDHやポーターの控え捕手として2年間プレー。2シーズンで合計124試合に出場し、打率.246/12HRと陰でチームを支えました。FAとなった82年オフにパイレーツへ移籍し、翌年に引退。三人目のボブ・シャーリーは翌オフにトレード放出されるも、対価でのちにクローザーも務める中継ぎ右腕ジェフ・ラーティを獲得。四人目の有望株捕手ボブ・ゲレンはカージナルスではメジャー昇格することなく85年オフに退団します。

パドレスからカージナルスを通過してブルワーズ移籍したロリー・フィンガーズ

一方放出した選手達は、ほとんどが移籍後は失敗続き。カージナルスではリリーフの主力だったリトルフィールドウレアは移籍初年度はまずまずの活躍を見せるも、82年開幕前にリリースされその後引退。同じく勝ちパターンだったシーマンに至っては登板ゼロで引退となります。内野手フィリップスは結果を残せず僅か半年で放出、有望株先発オルムステッドは2年後のオジー・スミスのトレードでカージナルスへ出戻りに。さらに控え捕手スウィッシャーもマイナー生活続きで2年後に引退と、ハーゾグの見切りは完璧でした。唯一移籍後に結果を残したのは、パッケージのメインでありテッド・シモンズの後継者とされていた若手捕手テリー・ケネディ。ケネディは移籍初年度の81年に打率3割を記録し自身初のオールスターに選出されると、その後6年間パドレスの正捕手として活躍。キャリア通算では4度オールスターに選出されるなど名捕手へと成長を遂げました。

よってカージナルスが送った対価7人のうち6人は2年以内に退団。パドレスからすれば大失敗のトレードでした。

評価:/5
📝:後にフィンガーズをトレードするもこれといった対価は格下のソレンセンのみだったことを考えると、トレードの駒としてフィンガーズを獲得したこのトレードも最高評価は付けられない。ただしハーゾグの慧眼により有望株ケネディ以外は実力不足の選手を大量にパドレスに送り付けただけ。よってどう転んでも損はしない為、最終的には高評価とした。

3. カブスとの1対3トレード

パドレスとのトレードの翌日にはカブスからブルース・スーターを獲得。
スーターはカージナルスの絶対的守護神として世界一の瞬間までフル稼働してくれました。82年シーズンのチームMVPは間違いなくこの人でしょう。スーターはFAとなる84年までカージナルスでクローザーを務め、4年間で3度のセーブ王のタイトルを獲得。特に84年は71試合で防御率1.54(45sv)と圧巻のパフォーマンスを見せました。しかし毎試合のように2-3イニング回跨ぎを行いかつ自慢のSFFを投げ続けた結果肩が壊れ、FA後に移籍したブレーブスでは全く結果を残せず。35歳で引退となりました。その後06年にはMLB殿堂入りのタイミングで背番号42がカージナルスの永久欠番に指定。その後22年10月に末期癌で死去。69歳でした。
「なぜ4シーズンしか在籍していないクローザーが永久欠番?」と疑問に思う方も居たかもしれませんが、ここまで読んでくださった方には納得して頂けると思います。カージナルスでのブルース・スーターは現在のような"クローザー"ではなく"一人勝ちパターン"だったのです。

トレードマークの顎ヒゲは引退後も変わらず


一方で対価の三人ですが、対価のメインであり前年までカージナルスの正三塁手だったケン・リーツは移籍後打率.215とまさかの大不振。82年の6月で実質的な引退状態となります(正式にはカージナルスのマイナーに戻り87年オフに引退)。
リーツはカブス退団後のインタビューで「シカゴのファン、メディアの全員が私を責め立てた。彼らはスーターの見返りが何も無いと怒っていた。しかしスーターは特別な存在だ。私は彼らを責められない」と発言。また「そのストレスから逃れる為にドラッグを服用し始めた。そこから重度の依存症に陥り、抜け出す方法が分からなかった」と話しています。その後はポーターと同じく治療に努め依存症を克服。ただしポーターと違ったのは引退後に本格的にゴルファーに転向したこと。忙しい上にストレス発散にもなる為、依存症は再発しませんでした。2021年3月に69歳で死去。

ケン・リーツのカブス移籍は
ファンにとっても本人にとっても黒歴史


では残り二人はと言うと、若手UTタイ・ウォーラーはメジャー昇格することなく退団。しかし有望株UTレオン・デュラムは移籍2年目にリーグ3位の打率.312を記録し、オールスターにも初選出。88年まで7年半にわたりカブスの主力選手として活躍しました。その後はドラッグ問題でMLBには戻れず引退。

評価:/5
📝:世界一に貢献したのちの永久欠番選手を獲得できた時点でこのトレードは大成功。さらにここでもハーゾグはリーツの成績低迷を慧眼で見抜いており、実質デュラムとの1対1トレードとなっている。文句無しの満点評価。

4. ブルワーズとの大炎上トレード

スーターのトレードから僅か3日、投打の中心選手であった捕手シモンズと先発ブコビッチ、そして獲得したばかりの守護神フィンガーズの大物三人を放出しセントルイスのファンを激怒させたこちらのトレード。ご存知の通り彼らはブルワーズ移籍後も活躍を続け、最後はワールドシリーズでカージナルスの前に立ちはだかりました。では最初にそんなスター三選手のその後の活躍を見てみましょう。

まずは先発ピート・ブコビッチ。カージナルスでは78年から3年間エースとして39勝をマークしましたが、ブルワーズ移籍後は初年度から最多勝を獲得。さらに翌年にはサイ・ヤング賞を受賞し、チームをワールドシリーズへ導きました。しかしその後3年間は怪我の影響で合計31登板に終わり、86年オフに引退。引退後は映画『メジャーリーグ』にヤンキースの一塁手クルー・ヘイウッド役で出演するなどマルチな活躍を見せています。

続いて守護神ロリー・フィンガーズ。移籍初年度の81年には自身三度目のセーブ王のタイトルとともにサイ・ヤング賞&ア・リーグMVPをダブル受賞。翌82年には史上初の通算300セーブを達成しました。しかし翌年はワールドシリーズ欠場の原因となった怪我が想定以上に長引き全休。84年は好投も、85年は結果を残せずこの年のオフに引退します。それでも1992年にMLB殿堂入りを果たすと、同時に背番号34はブルワーズ、アスレチックスの二球団でチーム殿堂入りかつ永久欠番に指定。スーター同様実働僅か4シーズンであったブルワーズから認定されていることからも、いかに彼らの功績が大きいかが分かります。スーターフィンガーズ、そして今回紹介できなかった元ロイヤルズのダン・クイゼンベリーの三人は、クローザーの概念を世に定着させた偉人です。

トレードマークの口ひげは引退後も変わらず

また余談ですが、元阪神の江本孟紀はフィンガーズに憧れて口ひげを生やしていたそう。改めて見るとその風貌はかなり似ています。この当時からメジャーリーガーは世界中の野球選手の憧れでした。

江本孟紀


最後はミスター・カージナルス、テッド・シモンズ。68年から13年間カージナルスで正捕手を務めたチームの顔はこのトレードでまさかの放出。様々な思いを胸に戦った82年ワールドシリーズでは古巣から2HRを放つ活躍を見せました。その後は85年まで5年間ブルワーズでプレーし、FAでブレーブスに移籍後88年に引退。キャリアを振り返ると捕手歴代2位の通算2472安打、捕手歴代7位の通算出塁率.348など素晴らしい成績を収めた名捕手でした。
しかし主要タイトルと無縁だったことからMLB殿堂入り投票では全く票を得られず。投票資格1年目の94年には得票率3.7%で足切りを食らい、2011年に時代委員会による投票が始まってからも依然として票を得られませんでした。そんな長らく過小評価されてきたシモンズでしたが、2010年代後半にMLBにおいてデータ革命が起こると流れが一変。WARの高さなどからその功績が再評価され、見事2020年にMLB殿堂入りを果たしました。さらに翌年にはカージナルスがシモンズの背番号23を永久欠番とすることを発表。こうしてファンが夢見ていた"ミスター・カージナルス"の永久欠番認定が40年越しに実現したのです。ファンもSNS上で「あれほど長年チームの顔として活躍した選手が赤いジャケットを着れないのは悲しいことだった」などと満場一致で祝福。現在でも球場前に建てられたシモンズの銅像の前では多くのファンが記念撮影を行なっています。

自身の銅像と並ぶテッド・シモンズ


このようにカージナルスが放出したスター三選手は移籍先でも軒並み大活躍。
それではカージナルスが獲得した選手たちはどうだったかと言うと、先発ソレンセンと外野手レスカーノは当初からトレードの駒としての獲得だったようで翌年に放出。ただし二人共にレギュラー級の成績を残したことでその後の大型トレードが成立に至ったため、彼らの獲得は大正解でした。また同じく獲得した投手デーブ・ラポイントは移籍2年目の82年には先発兼中継ぎとして大車輪の活躍。ジョン・ストゥーパーとともに先発不足の危機的状況を救い、ワールドシリーズでも好投を見せました。その後2年間は先発ローテの一角を任され両シーズンともに防御率3点台をマーク。その年のオフにともにブルワーズから移籍してきた外野手デービッド・グリーンとともにジャイアンツへトレードとなります。


え、グリーンも放出!?」と驚かれた方もいるかもしれません。
ブルワーズとのトレードでは球界No.1の超有望株として移籍してきたグリーン。カージナルス側が惜しみながらもスター選手3人を放出したのは彼を獲得する為でした。そんなグリーンは1年目の82年は4月には打率.381を記録し、ワールドシリーズにもスタメン出場するなど期待通りの成長を見せていました。翌83年はOFウィリー・マギーの故障や、1Bキース・ヘルナンデスの放出に伴うRFジョージ・ヘンドリックの一塁コンバートによりライトのレギュラーとしてプレー。この年は兄が地元ニカラグアで逮捕された影響で母親と弟がアメリカへ移住するなど多少のトラブルはあったものの、シーズンでは打率.284/34盗塁と安定した成績しました。「スーパースターの誕生まであと一歩」とファンに期待されていたグリーン。しかし翌84年シーズンになると、将来有望だった彼のキャリアは突如暗転します

デービッド・グリーン

そのきっかけはスプリングトレーニング直前の最愛の母親の死でした。この年グリーンはヘンドリックのライト再転向によりファーストを守ることになるのですが、春先から絶不調に。実はこの時グリーンは精神に異常をきたしており、過度なストレスからアルコール依存症となっていました。
のちにハーゾグが「チームの誰もが彼がアルコール中毒となっていることを知っていた。彼は毎日のように遅れて現れ、そして酷い二日酔いだった」と語っているように、開幕1ヶ月の時点でグリーンはチームメイトから敬遠される存在に。これを重く見た球団はグリーンを球場近くのリハビリ施設に通わせますが、その治療も本人にやる気が無く失敗。「ある日グリーンがリハビリを終えた直後、ハーゾグ監督が球場から車で帰っていた際に数台前にいたグリーンの車から5分おきにビールの缶が投げ捨てられていた」という逸話もあるほど、そのリハビリは無意味に終わりました。結果この年は打率.268/15HR(自己最多)/65打点という成績を残し、オフにジャイアンツへトレード移籍。精神面での不安はありつつも元No.1有望株かつまだ23歳と若かったことから、比較的価値のあるトレードチップとなりました。その後は集中力の無さで首脳陣を怒らせジャイアンツを1年でクビになり、翌年近鉄バファローズへ移籍。打率.270/10HRという成績を残すも好不調の波が大きく1年で退団となり、翌年カージナルスに戻るも87年オフに引退を決断します。95年には飲酒運転で死亡事故を起こし半年間服役。2022年にコロナウイルスの合併症で61歳で亡くなりました。

評価:/5
📝:このトレードで獲得したソレンセン、レスカーノは予定通りトレードの駒となり優秀な対価を獲得も、超有望株グリーンが開花しなかった時点でこのトレードは失敗。結果的にグリーンはスター外野手ジャック・クラークのトレード対価にはなったものの、当初の計画とは大きくズレている為トレードの評価には値しない。しかしそれでも最終的にワールドシリーズを制覇したのはカージナルスなので、中間である3点評価。

5. アストロズとのラッキートレード

チームとの確執があったアンドゥーハーを「明らかに釣り合っていない」平均以下の外野手で獲得したラッキートレード。移籍後はエースとして期待通りの大活躍。旧エースP.ブコビッチとの投げ合いとなったワールドシリーズ第7戦では、怪我の痛みに耐えながら7イニングを投げ抜く漢気を披露しました。その後アンドゥーハーは翌年は怪我の影響で防御率4.16と苦しむも、84年には20勝を挙げ最多勝を獲得。翌85年には再びワールドシリーズへ進出しますが、MLB史に残る誤審、通称"世紀の誤審"により敗れます。

1985年ワールドシリーズ「世紀の誤審」

そしてこの年のオフにアスレチックスへ放出され、2年後に引退。カージナルスに在籍していた4シーズン(81年を除く)では年間平均255イニング平均防御率3.34とエースとして素晴らしい活躍を見せました。2015年9月に62歳で死去。
一方の外野手スコットは移籍後さらに成績が低迷し、翌年には引退となりました。2024年5月26日に72歳で死去。

評価:/5
📝:文句無しの満点評価。アストロズとの確執からアンドゥーハーの素行不良を警戒して獲得を避ける球団がほとんどだった中で、自信を持って素早くトレードを実行に移したハーゾグにあっぱれ。スコットを見切る眼力も流石だった。

6. ヤンキースとの余剰有望株トレード

レギュラーシーズン終了後の10月下旬には先発ボブ・サイクスを放出し、ヤンキースから有望株の外野手ウィリー・マギーを獲得。マギーはワールドシリーズ第3戦で2HR&HRキャッチの大活躍。正真正銘1人で1勝を稼ぎました。その後は85年にリーグMVPを獲得するなどチームの顔として活躍し続け、移籍を経て99年にカージナルスで引退。後ほど紹介しますが、現在でもチームに帯同し外野コーチを務めています。

球団史に残る名場面『ウィリー・マギー引退試合』

そんなマギーとは対照的に、放出されたサイクスはMLBに昇格することなく翌年に引退。こちらもハーゾグは見事な眼力を発揮しました。

評価:/5
📝:このトレードがどれだけ上手くいったかを象徴するのは、ワールドシリーズでのマギーの大活躍を見て激怒したヤンキースのJ.スタインブレナー・オーナーをなだめるためにカージナルスが翌年ヤンキースに自らが不利なトレードを要請したというエピソード。結果このトレードも両者共にほぼ意味のないものに終わったため、一連のトレードはカージナルスの完全勝利となった。優秀なのは、ブルワーズから獲得したデービッド・グリーンだけで満足せずにもう一人外野手の有望株を取っておこうという考えに至ったフロント。出血無しという意味では翌年のオジー・スミスのトレード以上に大成功だったトレードと言えるかもしれない。

7. 一見放出しすぎに思えた三角トレード

その直後にはフィリーズ、インディアンスと5人が動く大型三角トレードを敢行。ここではブルワーズとのトレードで獲得した先発2番手ソレンセン、さらには先発4番手マルティネスまでも放出し、若手外野手ロニー・スミスを獲得しました。選手の動きを見ると一見カージナルスが不利なトレードに見えますが、結果はカージナルスの一人勝ちL.スミスは翌年チーム最多の68盗塁を決めリーグMVP投票では2位に輝く中、インディアンスへ移籍したソレンセンは成績が大幅に下降。またマルティネスに至ってはMLBに昇格することなく後に引退となります。

ロニー・スミス

L.スミスは翌年打率.321とさらに成績を上げるも、84年と85年前半は打率.260前後に。そしてこのタイミング(85年夏)でハーゾグはトレードを決断するのですが、これが失敗。L.スミスの成績がその後特段良くなった訳ではないですが、対価の有望株外野手J.モリスがあまりに打てなさすぎました。しかしハーゾグがトレードを行ったのはこの年L.スミスと同じLFにビンス・コールマンという年間110盗塁の完全上位互換が登場したからであり、いずれにせよオフには放出することになっていたと考えられます。(他の理由もありますがそれは後ほど)

評価:/5
📝:4年連続防御率3点台(前年防御率3.27)だったエース格の25歳ソレンセンを放出した際は非難轟轟だったが、翌年L.スミスはMVP級の活躍を見せる一方でソレンセンは炎上続きにより防御率は5.61。トレードの"答え合わせ"は早くも翌年には可能だった。まさに非の打ち所のない満点トレード。

8. パドレスとの最終大型トレード

年が明けた82年2月、開幕前の最後の仕上げとして実行した大型トレード。オジー・スミスは移籍初年度からレギュラーとして活躍し、その後はGG賞13年連続受賞オールスター15度選出とMLBを代表する内野手の一人に。トレード移籍後は引退まで15年間カージナルス一筋でプレーし、背番号1はチームの永久欠番に指定されました。また先発ミューラもプレーオフでは登板が無かったものの、シーズン中はローテ4番手として活躍。しかし翌年にはリリースされ、移籍後も結果を残せず85年に引退。若手投手オルムステッドもMLB再昇格は叶わないまま82年オフに引退となります。
一方放出したテンプルトンパドレスに10年間在籍し後にパドレスの球団殿堂入り。しかし一度も打率3割は超えず、カージナルス時代のような成績は残せませんでした。また外野手レスカーノは移籍後半年でフィリーズへトレード移籍。予想以上に活躍したのは若手有望株だったルイス・デレオンで、移籍後は2年間で124試合に登板し防御率2.37、28セーブを挙げました。

評価:/5
📝:色々な意味で余剰戦力だった問題児テンプルトンに2選手を加えて、将来の殿堂入り選手と先発ローテ投手を獲得した最高のトレード。これまでトレードで獲得してきた選手の中でもハーゾグが最も欲しがっていたのがオジー・スミスで、一度交渉が決裂しても粘り強くトレード案を提示し続けたのがその証拠。カージナルスの歴史を語る上で外せない、球団史上最高のトレードの一つとなった。

②-3 ピッツバーグ薬物裁判


1983年6月15日、カージナルスの主砲であったキース・ヘルナンデスがメッツへ電撃トレードとなります。安定して打率3割をキープし、打線の中核であった彼のトレードは、カージナルスファンに衝撃を与えました。結果としてヘルナンデスは移籍後メッツで永久欠番となるほどの大活躍を見せ、カージナルスが獲得した二選手は結果を残せず。このトレードは球団史上二番目に最悪のトレードと呼ばれるようになります。(一番は70年代のスティーブ・カールトンのトレード)

ではなぜヘルナンデスをトレードする必要があったのか。当初ハーゾグ監督は、ヘルナンデスがオフにFAとなるが再契約が難しそうであること、また年齢による衰えを懸念したことが理由だと説明していました。しかしその後のインタビューでは「キース(・ヘルナンデス)はチームにとってガンのような存在だった」と発言。入団以来温厚で明るい性格で親しまれたヘルナンデスに、一体何があったのでしょうか。

その答えはMLB史に残る大事件、「ピッツバーグ薬物裁判」にありました。


ヘルナンデスのトレードから約2年後の1985年6月、MLB関係者の一人がコカインの売人であったことからパイレーツのJ.ミルナーのコカイン使用が発覚。そしてここでは「証言を行った選手は起訴を免除する」という規則のもと大陪審での証言が行われるのですが、何と芋づる式で何十人もの選手の薬物使用が明らかに。パイレーツのマスコットキャラの中に入っていた男が売人の一人だったと判明した際には大きな話題を呼びました。

また"コカインを所持または販売に関与した証拠が明確に確認"された11人はミルナー同様大陪審に召喚され、証言をすることに。ではその11人はどんな選手だったのか。名簿を確認してみると、キース・ヘルナンデスにロニー・スミス、ウォーキン・アンドゥーハーにシクスト・レスカーノ... 「ほとんどカージナルスじゃねえか!」とツッコみたくなる陣容です。

大陪審へ向かうロニー・スミス


それもそのはず、ここまで紹介してきた80年台前半のカージナルスの選手内ではコカインが蔓延していました。大陪審でのヘルナンデスの「選手の40%がコカインを使用していると思う」という発言はこの事件の代名詞となるほど有名な言葉ですが、ハーゾグ監督は事件直後の85年9月のインタビューでこう振り返っています。

「キースのあの発言はカージナルスでの話だと思っている。私の認識では、当時コカインの重度の使用者がチーム内に11人(!!)は居た

なんとロースターのほぼ半分が「重度の」コカイン中毒者だったという衝撃発言。逆にやっていなかった選手は居なかったのではと思ってしまうほどです。
また続けてハーゾグは、当時のコカイン問題に関して次のようなエピソードを話しました。

「ある日のモントリオールでの試合で、我々のピッチャーが当時最大のディーラーだったエクスポズの選手にデッドボールを当てた。すると我々の内野手の一人がマウンドへ行き、ピッチャーを怒鳴った。彼のディーラーであったその打者から弾かれる(コカインを買わせてもらえなくなる)ことを恐れたんだ」

「だからモントリオールへは試合の当日に向かわなければいけなくなった。そうすればその日はまともにプレーができる。コカインを摂取すると数日間は眠れなくなってプレーどころではなくなるんだから。それでもその"ディーラー"はまだ現役で、チームはチャンスを与え続けている」

ここで言う"ディーラー"は恐らく当時エクスポズでプレーしていたティム・レインズ。MLB歴代5位の808盗塁を記録し現在ではMLB殿堂入りも果たしている名選手ですが、85年の大陪審では「常にズボンの後ろポケットに入れていたコカインのガラスバイアルが割れないように、盗塁の時は必ずヘッドスライディングをしていた」と証言しています。これも中々の衝撃発言。

コカインに気を付けて丁寧にスライディングするT.レインズ


またハーゾグはロイヤルズ監督時代に関しても「ロイヤルズがワールドシリーズ制覇を逃したのは間違いなくコカインのせいだ」とし、「プレーオフの重要な試合で緊張を和らげるために選手たちはコカインを使用していた」と発言。あのダレル・ポーターの話とも繋がります。

一方で当事者のヘルナンデスも証言後にインタビューに答えています。

「私はコカインをこの世の悪魔だと思っている。使い始めたのは妻と別居した80年からだ。ある日ロニー(・スミス)がコカインを使用後に試合に出場できないほど酷い状態になっているのを見て、もう使うのをやめようと思った」
「メッツにトレードされる直前の6月のある日、鼻血で目を覚ますと体重が5キロ近く減っていた。その日は震えが止まらず結局1グラムのコカインをトイレに流したんだ」

メッツ移籍後はコカインの使用をやめたというヘルナンデス。証言では81年にチームメイトだった先発ラリー・ソレンセンともコカインの取引をしていたと語りました。


ここで改めて先ほどの②-xを見てみると、コカイン問題の主要人物に挙げられたヘルナンデス、ロニー・スミス、アンドゥーハー、ソレンセンは数年以内に軒並みトレードにて放出されています。ヘルナンデス以外はコカイン問題が放出理由かは定かではありませんが、間違いなく理由の一つには含まれているでしょう。

ハーゾグ監督率いるカージナルスは85年と87年には再びワールドシリーズに進出したものの、その後は低迷。これはトレードの失敗が最大の原因という声が大きいですが、一連の薬物事件を振り返るとそもそもトレード自体がハーゾグの計画には無かった動きだったように思えます。こうして主力の放出を余儀なくされたハーゾグ監督は、思うようなチーム作りが出来ずに90年途中に解任。後任のジョー・トーリ監督もチームを建て直すことは出来ず解任となり、終わってみれば88年から99年までの11年間でプレーオフ出場は一度のみという暗黒期を経験します。

MLBの歴史においてブラックソックス事件に次ぐ大事件となった『ピッツバーグ薬物裁判』。その影響を最も直に受けたのは、ホワイティ・ハーゾグ率いるセントルイス・カージナルスだったのかもしれません。

②-4 未来へと繋がるホワイティの信念


ホワイティ・ハーゾグは監督引退後もチームのイベントに度々顔を出し、2024年シーズン開幕戦のセレモニーにも参加していました。

しかし現地4月16日、セントルイス・カージナルスは、ハーゾグが持病の悪化により亡くなったことを発表。92歳でした。

そんな現地16日の追悼試合でカージナルスは、走力と小技を生かしたホワイティ・ボールで得点を重ね見事勝利。

流石にクローザーのヘルズリーの3イニング回跨ぎはさせませんでしたが、ハーゾグに捧げる素晴らしい勝利となりました。

現地5月17日の試合からはユニフォームの右腕に追悼パッチが追加


一方で現在でもシーズン通してチームに関わっているのは、2018年よりアシスタントコーチを務めているウィリー・マギーと、スプリングトレーニングコーチ/公式YouTube"Cardinals Insider"進行役を務めるオジー・スミスのみ。マギーはベンチにいる姿が試合中継に度々映るため、見覚えのある方も多いかもしれません。
2023年に外野守備に苦しんでいたジョーダン・ウォーカーの指導を付きっきりで行なっていたのもこのマギーコーチです。

ウォーカー(左)とマギーコーチ(右)


昨年のインタビューでウォーカーマギーについて

「彼は毎日僕に、人は一夜にして上達することはないと言う。これは練習するうえで支えになっているし、技術からメンタルまで指導する人物として彼以上に相応しい人はいないだろう」

と語っており、マギーに絶大な信頼を置いていることが分かります。ウォーカーもいつの日か、ワールドシリーズ第3戦でマギーが見せたHRキャッチのようなプレーを見せてくれるかもしれません。

また同じくMLBでマギーが積極的に指導している選手に、昨年マイナーで94盗塁の俊足かつトップクラスの守備力をもつ外野手ビクター・スコットⅡがいます。彼の選手としての理想系はまさにウィリー・マギー。1985年の打率.353/10HR/82打点/56盗塁/GG賞は彼の目指すべき姿です。

一方でST(スプリングトレーニング)で毎年守備コーチを担当しているオジー・スミスが、昨年のSTから個人指導を行なっているのが若手遊撃手メイソン・ウィン

ウィン(左)とオジー・スミスコーチ(右)


ウィン
子供の頃からオジー・スミスに憧れており、少年野球時代から背番号1を着てプレーをしてきた選手。
カージナルスでは背番号1が永久欠番となっているため着用出来ませんが、その事について問われたウィンは「MLBで1番を付けられないのは残念だけど、1番を引退させる人物が彼(O.スミス)なのは嬉しいことだね。このチームに入れたからには彼のあとを追って偉大な"Cardinal"になれることを願っているよ」と話しました。

そんなウィンとオジー・スミスがSTで練習するグラウンドは、小説が由来となっている"The Land of Oz"。スミスが現役時代に"オズの魔法使い"と呼ばれていたことに掛けて「カージナルスの内野手が魔法使いになる場所」という副題が付けられた、神聖なグラウンドです。


かつて"オズの魔法使い"と呼ばれた師匠オジー・スミスのようになるべく練習を重ねているウィン。その身体能力はMLBトップクラスの逸材とも言われており、肩の強さは師匠以上。今後は師匠のゴールドグラブ13度受賞(MLB遊撃手記録)超えを目指して欲しい逸材です。

このようにハーゾグの信念は彼の愛弟子たちによって、現在の若い選手たちにも確実に受け継がれています。またチーム全体としても、長い歴史の中で培ってきた古くからの組織哲学を継承し続けているのです。

近年のヌートバー旋風によって日本のカージナルスファンは増加傾向にありますが、そんな方々にも知っておいて欲しいのが歴史的なシーズンを送った1982年のカージナルス。そしてそのチームを作り上げたホワイティ・ハーゾグ監督兼GM。

カージナルスは現在でも1982年ワールドシリーズに関連するセレモニーを度々開催しています。「なぜこの年ばかり注目されるのか」と疑問に思う方も居たかもしれませんが、それは本記事で紹介したようにこの年の世界一には計り知れないほどの価値があるから。言わば"常勝軍団カージナルスの一歩目となった年"だったわけです。

また、以前投稿した『セントルイス旅行記』でも紹介しましたが、ブッシュ・スタジアムにある球団殿堂博物館には1982年ワールドシリーズを紹介する特別コーナーが常設されています。1試合ごとの試合結果や当時のユニフォームなど展示内容は幅広く、ホワイティボールのファンには堪らない内容です。
(もし現地で博物館を訪れる予定がありましたら、こちらのnoteを見て振り返って頂くとより楽しめるかと思います)

そんな1982年のカージナルス、そしてホワイティ・ハーゾグの魅力を本記事でお伝えすることが出来ていれば幸いです。


(おわり)

②-x 次回予告
『カージナル・ウェイの欠陥(仮)』


2023年
シーズン、カージナルスは投手陣が先発/リリーフ含め完全崩壊し、71勝91敗で33年ぶりの地区最下位に沈みました。


今回紹介したように、カージナルスは伝統を重んじる球団であり、現在のチームにも打撃面・守備面ではハーゾグの信念であるホワイティ・ボールの哲学が継承されています。

では、現在のカージナルスにおいて2023年シーズンに崩壊した投手面における哲学はどのようなものなのでしょうか?

ご存じの方も多いかもしれませんが、カージナルスにはカージナル・ウェイという独自の組織哲学がまとめられた117ページに及ぶ門外不出の機密文書が存在します。

しかしながら現在までのチームの歴史を見ていく中で、私は投手面においてカージナル・ウェイには大きな欠陥があるのではないかという仮説を立てました。そしてこの欠陥を修正するアップデートを行わない限り、カージナルスはいずれ10年単位の暗黒期に突入する可能性もあると考えています。それは仮に2024年シーズンに世界一に返り咲いたとしても、です。

カージナルス・ウェイは機密文書であるため内容を断定できないことから、この言葉をメディアが使用する場合は「伝統が受け継がれている」というアバウトかつ良い意味で使用されてきました。
そこであえて次回の記事は、カージナル・ウェイには大きな欠陥が存在し、誰も気付かない間にチームはかなり深刻な問題に直面しているというテーマをお送りします。

あくまで仮説に過ぎませんが、ひとつの着眼点として楽しんでいただければ幸いです。

乞うご期待ください。

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