依存症患者の家族になって⑤:白と黒

今日は、家族が依存症になった経験から、本人を信じるということについて書いてみようと思います。

人が何かの病気になったときに、その病気のせいで言動が別人のようになり、家族が困惑する話はよくあります。脳の病気などが原因の場合はもちろんのこと、辛い治療や痛み、不安に耐える中で怒りっぽくなったり、卑屈になってしまったりなど、性格が変わったように見えることもあります。

依存症も、この「病気ゆえの言動」を起こします。例えば、うちの弟の場合なら、いきなり数百万の借金が発覚する、知人からお金を借りる、たくさんの病院にかかり同じ薬を集める、それを一度に飲んでしまう・・などです。それに加えて、この生活を維持するためのウソや言い訳を言うようになります。「自転車が壊れたから修理費が欲しい」「給料の振り込みが遅れているから貸してほしい」「けがをした」など、仕事を休んで家で寝ている生活をするためのウソを次々に繰り出し、要求が通らないと時には声を荒げてきます。

家族から見ると、これらの言動は常識や以前の本人の言動からは想像もできないもので、依存症の知識がなければ到底理解できないし、腹も立つし、疲れます。依存症について学んでからでも、今のこの本人の行動はなぜおきているのか、言っていることを信じていいのか、ウソなのか・・と葛藤します。やっかいなことに、いつもウソをついているわけではなく、シラフの時には以前の本人のように戻ったりするので、どこまでが本音なのか、わかりにくいのです。私は多重人格状態に近いなあと感じていました。

しかし私は年単位で弟と密に連絡を取り、行動観察と分析(笑)することで、だんだんその白黒の見極めができるようになってきました。そして黒ヒロシ、白ヒロシ(仮名)というように、名前を付けていました。一度薬を多量に摂取すると、「もっともっと薬が欲しい」とスイッチが入り、暴走するので、マックス黒ヒロシ状態になります。そして薬が抜けるまで、ずっと黒です。薬が入っていなくても、隙あらば薬を飲みたい状態のときは、黒い言動が増えます。

こういう風に白黒と考えるメリットは、家族のメンタルを守れることだと考えています。全て本人の言動だと思っていると、家族はうそをつかれた、裏切られたと思って悲しい気持ちになります。腹も立ちます。でも、黒ヒロシがやったと思うと、「ああ、病気が言わせているのね」と、自分自身が傷つく度合いが減ります。

この白い本人、黒い本人の話は、家族会でも何度か聞くことがあり、「ああ、みんな同じように感じているんだなあ」と思った記憶があります。

最近、弟が回復してきて、白い本人とたくさん話ができるようになったことは、とても嬉しいです。でも、正直、まだ言動を疑ってしまうところもあります。いつ再発するかわからない病気だし、本人を心配する気持ちはなくならないので、完全に信頼するということは難しいなあと思います。

でも、そこで考えが浮かぶのが家族支援の先生の言葉。


・本人の失敗を家族が先回りして回避させるのは、いい支援ではない。(本人の意に反してお金を取り上げるなど)。

・本人の失敗の尻拭いも、いい支援ではない。(借金肩代わり、お酒の失敗の後始末、仕事の休みの謝罪をするなど。)

・家族がすべきなのは、自分自身の生活を守ること。(例:本人と親子クレジットカードを持たない、財布からお金を盗まれないようにするなど。)

・いい支援は、本人が回復仲間、専門家につながる支援。

・本人の人生は本人のもの。家族は家族でそれぞれ幸せになること。

 

びっくりすることや辛く感じることもあるけれど、家族が本人よりも上手になるくらい依存症について知って、希望を持って一つずつ対応していれば、必ず事態は好転すると信じています。そして「本人も本当は幸せになりたいと思っている」ということを思い出しながら、油断しすぎず、悲観しすぎず生きていきたいなあと思っています。

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