見出し画像

ノーマル四間飛車の難しさ②

どーもこんばんは,がばなーです。今回も前回に引き続き,ノーマル四間飛車の難しさについて語っていきます。

前回の記事では,ノーマル四間飛車を理解する上で,「プラスの手待ちの難しさ」という問題があることを述べました。この記事では,手待ちを難しくしている「後出しジャンケン」について述べていきます。

前回の記事はこちら↓↓↓。

対ノーマル四間飛車戦における居飛車の7大急戦策

なぜ,ノーマル四間飛車を学ぶ級位者にとって手待ちが難しいか,その理由を端的に言うと,「居飛車側の攻め筋の多様さ」というものが関係しています。

本記事では,下記の7つの急戦策を「対ノーマル四間飛車における居飛車の7大急戦策」と呼ぶことにします。これはわたしの造語です。なお,「〇〇戦法が入ってないやん!どうしてくれんの?」というクレームは受け付けませんので,ご了承ください。

対ノーマル四間飛車における居飛車の7大急戦
1. 斜め棒銀
2. 45歩早仕掛け
3. 袖飛車
4. 引き角戦法
5. 2枚銀
6. 右四間飛車
7. 棒銀

居飛車側の囲いとしては,下記のものがポピュラーです。
1. 居玉
2. 船囲い
3. エルモ囲い
4. 79玉型左美濃囲い
5. 中住まい
6. 金無双

がばなーの感覚では,これ以上,手数のかかる囲いは急戦策ではないので,ここでは省いています。攻撃7種×守備6種=42種となりますが,駒組みの都合上,あり得ない組み合わせもあるので,もうすこしパターン数は絞れるかと思います。それと,「対振り飛車で中住まいとかありえねーよwwwww」という方も居ると思いますが,アマチュア級位者だと普通に中住まいとか右玉とかやってくる力戦派が居ますので,案外馬鹿にできません。某黒猫花子兄貴氏は最近,3切れで2段になったそうですが,対振り右玉も使っていたそうです。結局,こういうのも侮れないんですよね。

これに対し,ノーマル四間飛車の王道の陣形はというと,下記の2つですね。美濃と穴熊です。がばなーは穴熊やらないヒトなので,穴熊のことは何も論じません。悪しからず。なお,最近のポスト現代将棋では「平凡に美濃を組むと,簡単に不利になるんじゃね?」という価値観が定着しつつありますが,そこに踏み込むと議論が混乱するので,できるだけそこには踏み込まないことにします。

局面図02A

局面図02B

さて,穴熊のことはよくわかりませんけども,居飛車が居玉で超急戦策(原始棒銀とか,そういうの)を仕掛けてこない限り,本美濃囲いくらいは作れるわけです。美濃囲いは手数のわりに固い囲いなので,これを攻略するために,居飛車はさまざまな工夫を凝らしてきました。さまざまな戦法が淘汰され,洗練されていった結果,上記の7大急戦策が生き残ったと言えます。

「ウッヒョオオオアアア,美濃囲いサイッキョ!!美濃囲いはノーマル四間飛車の権利!!美濃囲いだけですべての急戦策を迎え撃てるぜーーー!!相手が何で来ようが,なんでも美濃!なんでも美濃!!」と宣う振り飛車党の方も多いと思いますが,「将棋は美濃囲いを作って喜ぶゲームじゃない」ので,美濃囲いを使いこなすには,それなりの修練が必要とされます。過信は禁物です。

居飛車の作戦はいろいろありますし,居飛車側が守備にどの程度,手を掛けるかは相手次第なので,どのタイミングで仕掛けてくるかはよくわかりません。駒組みをよく見て,仕掛けのタイミングを予想する必要があります。

手待ちをしたほうが良いのか,それとも手待ちは不要か,あるいはどのように手待ちをするのが最善か,それは相手の戦法次第です。先手か後手かも重要で,何手待たないといけないかも変わってきます。

上記の7大急戦策の定跡をすべて理解する必要は無いと思いますが,定跡をまったく知らないと,どのように待機すれば良いのか,まったくわからないという状況に陥ります。これでは,何もできないうちに負けてしまうことも多いでしょう。

また,定跡の理解が浅い,あるいはうろ覚えであるという状況も危険です。「なんとなく,こう待てばいいだろう」で一手指すと,大怪我することも多いです。

じゃけん,「ノーマル振り飛車は覚えることが少ない」って言うけど,それ,嘘だよね。

……って,がばなーは思うわけです。

「ノーマル四間飛車は簡単だよ,楽に勝てるよ」って言うヒトも居るけど,「楽に勝てる戦法なんてあるわけねーじゃん」って早く気づこうよ。そんなの「〇〇食品を食べるだけで痩せる!」みたいな詐欺に近いよ。

居飛車急戦は強いんだよ。がばなーはたくさん負けたから知ってるんだ。定跡系で,力戦系で,たくさん,たくさん負けてきたから知ってるんだ。

というか,平手の定跡はスレスレなので,戦法の良し悪しとかあまり関係ないです。結局,将棋は終盤力です。「簡単に勝てる序盤戦術」というものは存在しないので,「詰将棋を一生懸命やることが上達の秘訣」というのは一理あります。

7大急戦策は単体では怖くない

話をもとに戻しましょう。詰将棋が大事なのはわかった。でも,わたしは序盤の勉強がしたいんじゃ。詰将棋なんて楽しくないんじゃ。というひとも居るでしょう。わたしも,比較的,そういうタイプです。

7大急戦策は単体でも強力です。棒銀や右四間飛車に手を焼いているアマチュア級位者のヒトも多いでしょう。

ですが,相手が何をやってくるのかわかっているんだったら,対策は難しくないです。さほど怖がる必要はありません。

例えば,棒銀の典型図は以下のような形です(手前の振り飛車が後手の想定で説明します)。

局面図04A

たしかに棒銀は破壊力抜群の戦法です。振り飛車の大きな弱点である「角頭」を右銀で狙ってきます。右銀が2筋3筋で躍動し,右銀が捌け,飛車が2筋突破に成功すれば,それはすでに居飛車の必勝形でしょう。

しかし,相手が棒銀で来るとわかっていれば,さほど怖がる必要はありません。ここから,43銀,54歩,12香車の3手が入れば,振り飛車側がかなり指しやすいです。

43銀は角頭を補強すると同時に攻められそうな3筋への飛車回りを用意する手,54歩は角の可動域を広げる一手で,あとあと28の飛車や26の銀を角でロックオンする狙いがあります。12香車は角が移動したあとに香車をタダ取りされるのを防ぐ手で,価値が高いです。本美濃囲いを完成させるために,52金も入るなら入れておきたいですね。

ただし,指さないほうが良い一手もあります。64歩です。64歩を指すと角の可動域が減少するので,28地点の飛車を角で狙うことができなくなります。

このあとの指し方はたくさんの定跡書に書いてあるので,そちらを読むのが良いと思います。

それと身も蓋もない話ですが,棒銀が成立するのは「角頭」というわかりやすい弱点があるからなので,もしも角交換四間飛車を指せるのであれば,それをやってみるのも一興でしょう。序盤に角交換すれば,「角頭」という弱点がなくなるので,棒銀は成立しなくなります。

右四間飛車もノーマル四間飛車だと避けて通れない戦法なのですが,そもそも44歩を突かなければ成立しない戦法なので,これも角交換振り飛車が有効です。44歩を突くと45地点が右四間飛車のわかりやすい争点になってしまうため,45地点をめぐる大決戦となるわけですが,44歩を突かなれば争点がないので,右四間飛車は成立しません。

ということで,7大急戦は単体ならば別に怖がるほどのことはありません。まぁ,がばなー的には普通にやられたら嫌な戦法ですけど,対策を知っていれば,「体感,51%は勝てる」という気持ちで指せますよね。実際に勝ててるのかどうか,知らないですけど。

おまけに,すこしマニアックな話をするならば,33銀型角交換四間飛車は対策されまくってしまって少し勝ちにくい戦法だと思います。アマチュア的には「ヤバぼーず流角交換四間飛車」がオススメです。ポスト現代将棋の棋理に即した良い戦法だと思います。

7大急戦は組み合わせるとめちゃくちゃ強力

7大急戦は単体だと怖くないですけど,じゃあ,組み合わせたらどうでしょうか?振り飛車の陣形に合わせて,「後出しジャンケン」で下記の戦法のどれで行くか決めたらいいのではないでしょうか?

1. 斜め棒銀
2. 45歩早仕掛け
3. 袖飛車
4. 引き角戦法
5. 2枚銀
6. 右四間飛車
7. 棒銀

なお,ここで言う後出しジャンケンとは,「ギリギリまで形を決めず,相手の形に応じた最善の駒組みや攻め方を選ぶ」ということですね。後出しジャンケン的な戦法は,覚えなくてはいけない定跡の量は多いですが,習得すれば有利を取れる状況が増えます。

球種の多彩なプロ野球投手のように,ストレート,カーブ,フォーク,シュート,スライダーなどなど,相手に合わせて投げ分けるイメージです。

6. 右四間飛車と7. 棒銀は駒組みが独特で,他の戦法との親和性が低いので,1~5の戦法を組み合わせることを考えましょう……。

そうやって産まれたのが,下記の陣形,昭和の時代の居飛車急戦の究極形態「57銀左急戦」だと,わたしは理解しています。

局面図02C

35歩~46銀と仕掛ける斜め棒銀,46歩~37桂馬~45歩と仕掛ける45歩早仕掛け,3筋に飛車を回る袖飛車の仕掛け(鷺ノ宮定跡とも呼ばれるもの)の3点セットに加え,振り飛車の陣形によっては97角~79角~66銀から引き角にすることも可能です(この形からの引き角は成立するための条件が厳しいですが,ハマると面白い形になります)。また,ちょっと力戦調になりますが,右銀も活用して二枚銀にするのも面白いです。

前回の記事で述べた通り,振り飛車にとって「プラスの手待ち」は重要かつ高度なテクニックです。良い形で手待ちし続けることは,地味ながら非常に難しいテクニックといえます。

それを逆手に取って,仕掛けのタイミングをあえて遅らせ,形が悪くなったところで仕掛ける,というのが57銀左急戦の一つの特長なんです。

これらの戦法を振り飛車の陣形に応じて後出しジャンケンで使い分ける……。うわ,居飛車党ってめっちゃ卑怯じゃん……。最低……。

っていうことを最近になって,ようやく理解したので,最近のがばなーは居飛車転向すら考えています。

「57銀左急戦」は現代のプロ棋界では廃れていますけども,別に居飛車不利だから廃れたのではなくて,単に穴熊のほうが簡単で勝ちやすいという認識が広まったから廃れただけです。変幻自在のすごく良い戦法だと思います。めちゃくちゃ研究されていて,定跡も深い。勉強しがいがありますね。

じゃけん,現代のアマチュア将棋でも将棋ウォーズ低段くらいまでなら,普通に有効だと思います。四間飛車側はこの作戦に対して,最善の形で待ち続けないといけないのが辛いところです。

「なんでも美濃囲い」という気持ちでいると,後出しジャンケンで狙い撃ちにされちゃうということは昔からよくある事例なので,覚えておきましょう。

補足ですが,ポスト現代将棋では,振り飛車側が囲いをなかなか決めない将棋が増えてきています。これも後出しジャンケンを狙う戦略ですね。

ちなみに,左銀急戦をより詳しく勉強したい場合は,下記のページを読むと良いでしょう。


http://kyokumen.jp/positions/4175

右銀急戦との違い

すこし脱線しますが,左銀急戦と右銀急戦の違いについても述べておきます。

局面図03A

左銀急戦は攻撃力全振りの戦法なので,持久戦に移行するということが難しいというデメリットがあります。それに対し,右銀を57に配置した場合は,急戦を仕掛けた場合の攻め筋がすこし限られることになるものの,持久戦への移行がスムーズです。なので,57銀右の場合は,持久戦と急戦の両天秤で戦えるということですね。「居飛車の持久戦策は,急戦策以上に厄介である。特に穴熊は振り飛車の天敵」という意見も多いので,57銀右はこれはこれで厄介なわけです。

なお,右銀を57に配置し,船囲いから36歩と突いた場合,左銀急戦よりも1手早く仕掛けることが可能です。それがプラスになるか,マイナスになるかは難しいですが,手待ちのスキルが無い四間飛車初心者にとっては混乱しがちなポイントですね。

ちなみに,一昔前の将棋では,57銀右から36歩を早めに決めたら急戦確定と言われていたのですが,ポスト現代将棋では36歩を突いたからといって急戦というわけではありません。もうこんなのわけわかんねーな。

ついでにエルモ囲いについても述べておきましょう。

最近流行りのエルモ囲いだと,左銀を囲いに使う都合上,攻めに使うのは右銀になります。エルモ囲いの下図のケースだと,上図よりも1手仕掛けが遅くなっているわけですが,右金をどこに置くかによっても仕掛けのタイミングがずれます。あまり詳しくないですが,右金を動かすのを保留するのは,相手の陣形を見てから右金の位置を決めたいという意図があるそうです。これも後出しジャンケン的な発想ですね。

局面図05A

なお,エルモ囲いに関する考察に関しては,shinri@四間飛車検討室(@shogishinri)氏による下記のサイトが詳しいです。とても良い内容なので,がばなーは感動しました。

https://shikenbisha.com/gote4ken-elmo/

まとめ

というわけで,今回は57銀左急戦が如何に卑怯な戦法か,解説しました。「美濃囲いは卑怯な戦法」と考えている居飛車党の方も多いと思いますので,どっちもどっちですけどね。お互いに卑怯な戦法を使っていくのが将棋というゲームなので,これでいいんです。

57銀左急戦は四間飛車定跡の中で最も有名で,「王道中の王道」なんですが,この作戦の本質を理解している級位者の方って,あんまり居ないと思って今回の記事を書きました。こういうのって,初心者向けの棋書に書く内容じゃないですけど,もっと早い段階で知りたかった内容ではありますね。たらればの話ですが,独学じゃなければ,誰かが教えてくれたのかもしれません。

今回はこれまで。ノーマル四間飛車の話はもうすこし続くと思いますが,予想以上に書くのが大変なので,単発で別の話を書くかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?