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議会改革の第2ステージには、議選監査委員と議会の協働が不可欠――LM推進連盟・オンライン研修会

 ローカル・マニフェスト推進連盟(LM推進連盟)は2022年12月21日、早稲田大学内で「議会と監査の連携ー議選監査委員または監査委員との連携の必要性」をテーマにオンライン研修会を開催した。研修会では議長経験がある現役の議選監査委員3人が事例発表。関心の高さを示すように100人以上の議員などが参加し、積極的に意見交換を図った。LM推進連盟は今後も議選監査委員(監査)をテーマにした研修会を開催する予定だ。


■議選監査委員は選択制に

 研修会(早稲田大学マニフェスト研究所共催)は、新型コロナの感染対策のため会場での参加者は10人程度に限定。オンラインで100人を超える議員などが参加し、このテーマに対する関心の高さをうかがわせた。

 自治体の監査制度をめぐっては、第31次地方制度調査会が、議員から選任される監査委員(議選監査委員)を置かないことを選択肢とする答申をし、それに基づいて地方自治法が改正された(2018年4月1日施行)。第196条1項のただし書きで「ただし、条例で議員のうちから監査委員を選任しないことができる。」とされたのだ。

 この規定に基づき、既に30ほどの自治体で議選監査委員を廃止。一方で、存続させる議会で議選監査委員のあり方をめぐる議論が高まってきたことが今回の研修会開催の背景にある。

■課題が多く、「不毛の地」

研修会の冒頭、挨拶する子籠敏人・東京都あきる野市議(LM推進連盟共同代表)。
「未来の地方議会からのバックキャスティング~監査委員を使い倒せ」と題して講演を行う北川正恭・早稲田大学マニフェスト研究所顧問。

 研修会では冒頭、子籠(こごもり)敏人・東京都あきる野市議(LM推進連盟共同代表)が挨拶。2021年に議選監査委員に選任された子籠氏は「どう改革を進めていけばいいのか(知り合いの議員に)聞いてみると共通の課題があることに気づき、これまでに監査の勉強会を3回開催した。(監査をめぐっては)課題が多く、『不毛の地』だという感触を得た。いろいろな事例を紹介し、住民福祉の向上につながるようにしたい」と研修会のねらいを話した。

 研修会ではまず、北川正恭・早稲田大学マニフェスト研究所顧問が「未来の地方議会からのバックキャスティング~監査委員を使い倒せ」と題して講演を行った。北川氏は、かつて三重県議時代に議選監査委員を務めたことや三重県知事時代のエピソードを披露し、「時代が変わったという認識が必要」と強調。「研修会で気づきを得て、実質的に効果をあげていってほしい」と呼びかけた。

■議選監査委員の新時代の息吹

「議会と議選監査委員との協働」をテーマに講演を行う江藤俊昭・大正大学教授。

 続いて江藤俊昭・大正大学教授が「議会と議選監査委員との協働」をテーマに講演を行った。
 江藤氏は最初に「議会改革の第2ステージには議選監査委員と議会の協働が不可欠だ」と強調。議会改革によって監査の重要性、監査委員(議選監査委員)の役割、監査委員と議会との連動が模索、実践されはじめた状況を「議選監査委員の新時代の息吹」と表現した。そこでは監査委員の議会同意権、監査請求権、議選監査委員の選出などが主要な課題となり、議選監査委員の役割を再考し、地域経営に活かす議会も広がったと話した。

 江藤氏は、「監査委員による監査」と「議会による監視」の違いを説明し、「議会は独自の監視機能を発揮するとともに、監査委員の監査領域の中で、議会がかかわれない(財政援助団体等)、あるいはかかわれる領域を意識し議会の監査請求、監査委員報告を活用することが必要」と指摘。また、議選監査委員は政治的感覚を発揮して監査を豊富化させること、議会と監査委員との連携では、監査情報・議会情報を相互で共有する場を設ける必要性を述べた。

■議選監査委員が質疑・質問を差し控えるのは「本末転倒だ」

 江藤氏はさらに、議選監査委員は、「いわゆる『上がりのポスト』では決してない」とし、議選監査委員がその任期中、質疑・質問を差し控える議会があることには「本末転倒だ」と強く批判。「監査委員の活動を通して得た情報を議会で共有することを前提として、自由に活用すればよい。それは住民のためになる」と指摘した。
 ただし、決算議案については、「議選監査委員は質疑を差し控えるという『申し合わせ』が必要だろう」とし、決算常任(特別)委員会とは協働(論点の明確化、情報の共有)があるが、ここでの質疑も差し控えることになるとしている。

 地方自治法198条3第2項は「監査委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。」と規定する。監査委員に守秘義務を課している。
 これまでは、この規定によって議選監査委員と議会との協働が進まないとみられてきたが、江藤氏は「守秘義務を広くとっては議員活動はできない」と指摘。個人情報保護条例や情報公開条例で開示される範疇、つまり「プライバシーや政争の具となるような争点以外は原則可能であろう」と話した。ここでも「知り得た情報は全議員と共有すること」を留意点として述べた。

 監査委員の守秘義務に関しては判例が見当たらないとされている。監査委員の守秘義務の範囲、その基準づくりなどが今後注目される。

■監査委員はかかりつけ医(主治医)

「議選監査委員の今までとこれから~監査委員は行政のかかりつけ医(主治医)」をテーマに事例発表を行う川上文浩・岐阜県可児市議。

 

 可児市議会:4つのサイクルアニュアルプラン。予算決算審査サイクルでは、毎定例会ごとに「監査委員との意見交換」が組み込まれている(川上文浩氏の資料より)。


 続いて3人の議選監査委員による事例発表が行われた。いずれも議長経験があり、議長時代に議会改革を進めたことも共通している議員だ。

 最初の川上文浩・岐阜県可児市議は「議選監査委員の今までとこれから~監査委員は行政のかかりつけ医(主治医)」をテーマに発表した。

 川上氏は議選監査委員となり、監査委員をかかりつけ医(主治医)になぞらえる。私見と断った上で、監査委員を「日頃から行政の政策に精通し、財政面・行政全般に関することを何でも相談でき、必要な時は専門的な相談や機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる存在」と位置付ける。「健康診断して、ちょっと悪いところがあれば手を打たないと大きな病気になってしまう」とし、監査委員の指摘によって財政・行政の「グレーゾーン」をなくしていくことで、結果的に「職員を守る立場でもある」と語った。

 川上氏は2021年8月に議選監査委員に就任。議会との連携を図るため、毎定例会ごとに議選監査委員報告、常任委員会正副委員長会議での情報共有を行っている。「守秘義務に触れない範囲で情報共有し、必要なものは(常任委員会の)所管事務調査に入れていく」と話した。

 現地での学校監査やリモート監査など監査を充実させた結果、「監査委員事務局の意識が変わった」と川上氏。学校監査など現地に監査委員が赴くことで「学校の意識改革に大いに関与できた」という。議会においても▽議員の監査に対する意識が変わった▽常任委員会との連携により、所管事務調査が深化した――と効果を指摘した。

■議員ならではの知見を発揮

「議選監査としての役割」と題して事例発表を行う目黒章三郎・福島県会津若松市議。

 続いて目黒章三郎・福島県会津若松市議が「議選監査としての役割」と題して事例発表した。目黒氏は2019年8月に議選監査委員に就任。市では2020年4月、全国都市監査委員会の「都市監査基準」に準拠して監査基準を改正、新たな監査基準を施行した。

 そこでは「監査の方向性」として、「市民の視点」「事務処理における合規性・正確性の視点」「事務事業における合理性・効率性の視点」に加え、「違法、不当の指摘のみならず、業務改革・課題提案型」も挙げている。目黒氏は、「税理士や公認会計士など(識見監査委員)は専門的知見はあっても、必ずしも行政の事務や政策面など行政事務に詳しいわけではなく、事務執行の全体最適性や住民の受け止め方など議員ならではの知見を発揮できる」と議選監査委員の意義を語った。

 現在の課題は、▽監査の議会に対するフィードバックは報告書によるものだけで、「政策サイクル」に還元する仕組みが整っていない▽現地での学校監査が実施できていない▽DX予算への対応が十分でない(ベンダーロックイン状態)▽元職員による公金横領事件を防げなかった監査体制――など。そこで目黒氏は、①監査情報を議会にフィードバックする「理論」的整理を図り、議長へ提起②監査委員事務局の増員要請③随時監査における技術士の工事監査のように、外部のICT専門家への監査委託――などを課題解決の方向性として考えていると話した。

■みんなのリスクを取っていく

「議選監査となって一年の挑戦」と題して事例発表を行う子籠敏人・東京都あきる野市議。


 3番目の事例発表は子籠敏人・あきる野市議。子籠氏は「議選監査となって一年の挑戦」と題して話した。

 子籠氏は2021年7月、48歳で議選監査委員に就任。就任前から他市の議選監査経験者との情報交換や参考文献の読み込みを行い、就任の翌週から決算審査に突入したという。その後、▽全課(室)への積極的な聴取▽監査委員審査意見書への積極的な記述▽議選監査委員として議会への決算審査報告を初実施▽決算審査の内容に関心のある議員への説明――などを行ってきた。

 「監査はみんなのリスクを取っていくのが仕事」と子籠氏。LM推進連盟で監査の勉強会を企画してきたが、「議選監査への関心の高さを実感している」と話した。

 これまでの経験から「監査のやり方は、自治体によって千差万別」であり、「全国のさまざまな取組みを共有し合えれば、自治体監査や議選監査はより機能する」と感じているという。

■議選監査委員と議会の協働で議会の監視力・政策提言力が向上

「議選監査委員の現状とあるべき姿」をテーマにしたパネルディスカッションの様子。左から子籠敏人、目黒章三郎、川上文浩の各氏。右端はコーディネーターの江藤俊昭教授。

 後半は、「議選監査委員の現状とあるべき姿」をテーマにパネルディスカッション。事例発表者3氏がパネリストを務めた(コーディネーターは江藤俊昭教授)。江藤氏は最初に、「やる気があれば監査自体が活性化する」「議選監査委員と議会が協働できれば議会の監視力・政策提言力が向上していく」と事例発表の感想を語った。

 パネルディスカッションで議論になったのは、▽議選監査委員と識見監査委員の関係、▽議選監査委員と一般質問の関係、▽守秘義務など。「行政に関する知識は、識見監査委員より、議選監査委員のほうがはるかに豊富」、「議選監査委員と識見監査委員との連携でいい監査ができる」といった指摘があった。

 一般質問については3氏とも実施。「一般質問では全般的な方向性」を問うているので「(議選監査委員として)壁があると思ったことはない」と目黒氏。守秘義務に関しては何らかの基準を議論していく必要性が語られた。

 最後に江藤氏が「議選監査を充実させる手法・方向性が見えてきたが、まだ細い。もっと太くするためにネットワークが必要だ」とまとめた。

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 議選監査委員の選択制導入によって、議選監査委員を廃止する自治体(議会)がある一方、その充実策を志向する自治体(議会)も出てきた。議選監査委員(監査)をめぐる議論がどこまで盛り上がり、どのような成果に結びつくのか注目される。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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