誠@ライター

奈良在住のライターです。「歴代内閣総理大臣のお仕事」(鹿砦社)「天皇と日本の歴史」(彩…

誠@ライター

奈良在住のライターです。「歴代内閣総理大臣のお仕事」(鹿砦社)「天皇と日本の歴史」(彩図社)「百舌鳥・古市古墳群」(実業之日本社)など60冊以上の書籍の執筆に携わりました

最近の記事

素敵な贈り物

クリスマス・イブ。 街中に溢れるジングルベルのメロディが、道行く人の足を急がせている。 特別な一日という意識があるのか、寒風の中でも人々の顔はどこか幸せそうだ。 だが、E氏はやり場のない憤りを胸に抱え街を歩いていた。 また会社をクビになったのだ。別に仕事を怠けたわけでもミスをしたわけでもなかった。 むしろ人より真面目に取り組んだと言っていいだろう。 だが正社員でないE氏は、どこの会社に勤めても業績が傾いたり、人員削減案が出されたりすると真っ先に解雇された。 ここ数年

    • カウンターの中の2人

      俺が忍び込んだのは小さな飲食店だった。 雑居ビルの2階にあるカウンターが数席とテーブルが1席だけの店舗。   チンケな盗っ人の俺には手頃に小遣い稼ぎができる店だ。 初老のダンディな店主が1人でやっていることも、店主の行動パターンも調査済み。 店主が買い出しに行くのを確認した後、俺は覆面をかぶり素早く鍵をこじ開け侵入。                               暗い店内の中、俺は懐中電灯を片手に店内を歩きレジに辿り付く。簡単にレジは開き、俺は紙幣を掴もう

      • もう一度、その記憶を。

        仰向けになってじっとしていると、ふいに一つの光景が頭をよぎった。 スクリーンのように眼前に映し出されたと言ってもいい。    それは夏の慰安旅行のワンシーンだった。 大陸の連中との交渉が予想以上に上手くいき、あぶく銭を得た俺は組員を引き連れて温泉宿に宿泊した。 組員の要望を聞くと海水浴がしたいという。 笑われるかもしれないが、俺にはよくわかる。 普段、みかじめ料の取り立てだの売春の斡旋だのせせこましいシノギをしていると、だだっ広い海なんぞを拝みたくなるものなのだ。 そし

        • 「博士の追憶」

          今ここに、静かに最期を迎えようとする老学者がいる。 病院のベッドに横たわったC博士は、自分の死期をすでに悟っていた。 自分の人生に悔いがない、と言えば嘘になる。 だが発掘調査一筋に生きた生涯は充実したものだったと博士は思っている。 ベッドの傍らには老いた妻が腰をかけて、博士の思い出話に相槌を打っていた。 「結局、私はポルマッソ文明の存在を証明することは叶わなかった。それが唯一の心残りだ」 ポルマッソとは、北アフリカの海沿いにあったとされる伝説の都市だ。 ある程度の規模と

        素敵な贈り物

          サイレント・キラー

          あるビルの一室。その男が入室すると、会長専属のボディーガードが身体を改めようとした。だが、 「身体検査は要らん」 会長がソファに腰をかけたまま鷹揚に言った。 「彼は武器などなくても、おまえを瞬時に倒せるさ」 なあ?というように、会長は入室した男に顎を向ける。男は表情も変えず、会長の向かいの席に着座した。 ボディガードは仏頂面になる。こんな男のどこが、という思いがあるのだろう。実際、岩のように胸の筋肉が盛り上がったボディガードに比べ、男の身体は痩せぎすで貧弱と言ってよ

          サイレント・キラー