見出し画像

姫野カオルコ「青春とは、」

「青春とは、」(2020年、姫野カオルコ著)読了。読んで良かった。

「謎の毒親」「彼女は頭が悪いから」と最近の作品しか読んだことがなく、これで読むのがまだ3作目程度なのにしかももう評価も十分に確立された作家なのに、お前はいまさらなにを偉そうに言ってるのかではあるが、姫野カオルコ、最も信頼できる小説家の一人であるとここで断言したい。明暗、喜びと哀しみ、くだらないことと真剣なこと、個人が生きているうえでの歪さ、それでもそのときそのとき各々が懸命に生きてる感じを、深く掘って言葉にする、重厚感なく、でもときにとてつもなく鋭く。

この小説の主題は、1970年代半ばの滋賀の高校生の生活。どこまでが実体験かは不明だが、姫野本人リアルを想起させる設定。日本赤軍や重信房子といった言葉が、コロナや鬼滅のように、日常的に社会に溢れていた時期。芸能人、外国の映画俳優やミュージシャン、「ラブアタック」などのテレビ、ラジオ、雑誌、さまざまな当時の文化を具体的にごくあっさり出してきて、雰囲気と空気を巧みに描く。

「今なら・・・・・・、だれだろう、たとえるなら。小松菜奈か。彼女はちょっとふしぎでかっこいいと、異性よりも同性から高い人気があるが、私が青春に在った時代、その立ち位置は秋吉久美子だった。/ なぜだろう。そういう立ち位置の女性はたいがいストレートヘアだ。秋吉久美子はミニバーグはしなかったのだろうか。ミニバーグ(小さな波)というパーマが話題になったことがあったのだ」「『女は注意力散漫で意志が弱い』が父親の信条だ。『金閣寺』の主人公さながら<幼児から私の父はよく、私の頭の悪さを語った>。彼は生理的な根底で女という生物を憎んでいるのだろう」、なんとなく引用したこれら序盤1章での描写だけでも、この小説の言葉の生きてる感じが伝わるのではないだろうか(伝わってほしい)。

小説後半部分で、1970年代ではなく、2020年のコロナ禍において「青春」を過ごす人の実に心を打つ言葉が出てきて、それを読んだ自分もほんと主人公と同じようにジーンとして泣きたくなった。タイトル「青春とは、」がここで、読み手に突きつけらる。この箇所だけでも読む価値あり。ほんとにおすすめで、今年感想書けて良かったと思ってます。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?