学マスはフレーバーの落とし込みが凄いんだ

俺は学マスくんとはワンナイトラブのつもりだったが学マスくんは俺のことが好きすぎて困っちまうな

 今年5月16日にリリースされた学園アイドルマスター。アイマスブランドの最新作なのだが、イメージとしては電音部×アイプラ×スレスパである。現代性のよくばりセット。シリーズの歴史の長さに尻込みしていた筆者でも入りやすい。筆者みたいな層を意識しているのか、公式音楽チャンネルではアイマスの名を前面に押し出さず初星学園を自称している。開発のクオリアーツはサイゲの兄弟会社で、元々アイプラの変態的な作り込みで通に知られ、著名IPを得て世間にバレたらしい。3D表現もそうだしUIも洗練されてて……こう……凄い!(素人語彙)

 で、スレスパ成分よ。つまりデッキ構築型ローグライク。新鋭のソシャゲでも見かけるようになったアレ。学マスはカードゲームなのでなおさら源流に近い。

 学マスはここが面白い。それも、FunであるだけでなくInterestingな意味でも。アイドルのキャラクター性がゲームプレイとして表現される。その手腕が秀逸なのだ。カードゲーマーのはしくれとして、フレーバー再現の秀逸なテキストに興奮する種の人間のはしくれとして、学マスの表現にはうならされるばかりだ。この記事ではそういう話をする。

 大分類としてセンスとロジックに二分され、それぞれ出現カードが異なる。軸となる戦術が2種ずつ計4タイプ。各アイドルはこのどれかを指向している。

  • センス好調タイプ   (花海咲季 / 有村麻央)

  • センス集中タイプ   (月村手毬 / 紫雲清夏 / 姫崎莉波)

  • ロジック好印象タイプ (藤田ことね / 葛城リーリヤ)

  • ロジックやる気タイプ (倉本千奈 / 篠澤広)

 このうち、手毬、莉波、ことねについて、それぞれの人物像がどうカードゲームに落とし込まれたかについて解説してみたい。選出の理由は筆者がpSSRを持ってるから。

月村手毬

シナリオでは

 アイドル科の1年生。中等部のアイドルコースからの進学組で、元エリート。中等部時代のユニットが故有って解散。今は不振に喘いでいる。これがプロデュース開始時点の手毬の状況だ。いや、その……ここに書いてない諸々が相当おもしれー女なのだが、おもしろ部分は早々にTwitterを席巻したのでもうご存知と思う。

 手毬の最大の長所は歌唱力だ。ところが、全力で歌うと最後までスタミナが保たない弱点を抱えてしまっている。ただの体力不足という話ではない。不調の原因はシナリオ中で指摘されている。

P 「月村さんは、集中力が高まると、」
P 「実力以上のパフォーマンスを発揮する才能があるようです。」
手毬「そっ、それは……いいことじゃないの?」
P 「本来の全力よりもさらに疲れてしまう。だからあっという間に力尽きる。」

 歌うと、アクセル踏んで、疲れる。ユニット時代はメンバーがブレーキを掛けていたのが、ソロ活動になりブレーキの壊れた暴走トラックが爆誕したのである。この気性難といかに付き合っていくかが手毬の課題になる。

ゲームでは

 月村手毬はセンス集中タイプに分類される。基礎値に加算されるバフをスタックして細かいアクションと連撃で高得点を稼ぐ戦術を得意とするタイプだ。pSSR月村手毬の固有カード・アイテムが以下の通り。

それぞれの道 (-7)
パラメータ+14
集中+5
レッスン中1回 重複不可

自分を守るイヤホン
スキルカード使用時集中が5以上の場合、スキルカード使用数追加+1 集中+1
(レッスン内1回)

 固有カードを使うだけで固有アイテムをトリガーできる。集中タイプなので行動数が増えるのは嬉しいのだが、問題は固有カードの体力消費の重さ。2回アクションすれば当然体力消費も嵩む。すると集中が累積して美味しい終盤にはガス欠して、思うように行動できないのである。

 どこかで見たような話だ。どこでといえば、シナリオで。歌うと集中が高まってパフォーマンスが上がるが、ガス欠になって歌いきれない。全部言ってる。

 ゲーム上の初期構成がシナリオの設定をよく反映し、同じ課題を抱えている。すると、ゲーム攻略上の工夫や対策が全て、シナリオを読む際の体験に跳ね返ってくる。このシンクロが学マスのゲームデザインの妙だ。

姫崎莉波

シナリオでは

 アイドル科3年。過去所属していたユニットでは妹キャラを演じていたが、高身長で穏やかな雰囲気と噛み合わなかったか、人気が出なかった。それ以来アイドルとしての自信を喪失していて、卒業後はアイドルは辞めようとも考えていた。実はプロデューサーとは幼馴染。彼の熱意に押され、再びアイドルとしての道を歩み直すことを決意する。(オブラートに包んだ表現)

 オブラートを剥がすと、再会した幼馴染にときめくアイドルと弟になりたがる異常者とのトンチキラブコメになる。

P 「そのための秘策もあります。」
莉波「……秘策?」
P 「はい、まずは――」
P 「俺のお姉さんになってください。」

 プロデューサーをプレイヤーの分身と思って読む人は面食らうだろうが、作中人物と割り切って読む分にはたいへん胡乱で擦りがいがある。フラグブレイカー男が弱ってやっと進展するときの、味。

 ゲームでは

 手毬と同じセンス集中タイプに属する。集中を累積して殴るのは同じだが、固有カード・アイテムのためプレイ感に若干差が生じてくる。pSSR姫崎莉波のはこれ。

距離感 (-4)
集中+4
体力回復4
レッスン中1回 重複不可

等身大のレディリップ
ターン開始時残り2ターン以内の場合、パラメータ+5
(レッスン内2回)

 手毬と比較すると、まずパラメータを上昇させる効果がアイテムに移動している。そしてアイテムの発動タイミングが異なり、手毬のは序盤の積み行動でトリガーしやすいのに対し、莉波のは終盤に確実に発動する。

 集中は終盤ほど累積して強くなる。体力を温存しながら集中を積んで終盤に起爆するゲームプランが分かりやすく提示された構成だ。なので獲得カードの選択も、終盤用の高コストで強いカードを自然と意識する。

 試験序盤は点数が伸び悩み、終盤は一気に追い上げる。これを莉波のプロフィールに置き換えてみると、人気の低迷していた時期、そして今プロデュースしているこの時期に対応していることが明らかだ。

 あえて同タイプの手毬と比較しながら解説したが、要素のわずかな違いで全く異なるフレーバーが表現されていることが伝わったと思う。お見事。

藤田ことね

シナリオでは

 アイドル科1年。手毬と同じアイドルコースからの進学組だが、成績は芳しくない。バイトを掛け持ちしながらレッスンに励む苦学生。常に体力不足気味であり、ちゃんとした休養を取るだけでパワーアップ状態になる。

 ことねの人物像として特に印象的だったのが、親愛度コミュ第6話。

P  「1つ、課題を設けます。今後のために必要な布石です。」
ことね「課題……?」
P  「寮に住んでいる全員と知り合い、交流を持ってください。期限は一月――」
ことね「そんなの、もうできてますよぉ?」
   (中略)
ことね「気に入られたり、好かれといたら、いいことあるかもーって。」
ことね「人間かんけーのトラブルも減りますし、悪いコトなーんにもないですよね」
ことね「だったら、1円もかかんないし、やり得・・・かなって」

 この強かさにはプロデューサーもニッコリ。ことねの目指すべきアイドルとはこういう方向性であり、ことねは既に体現しているのだ。後述するが、このコミュを読んだか否かで、学マスのシステム全体の見え方まで変わってくる。最初の方に読めてよかった。

ゲームでは

 センスの手毬や莉波とは全く異なる、ロジック好印象タイプ。ターン経過ごとに得点を得る効果を累積・起爆して……要するに毒。持続ダメージ。

よそ見はダメ♪ (-6)
元気+2
好印象+7
レッスン中1回 重複不可

ビッグドリーム貯金箱
スキルカード使用後好印象が6以上の場合、好印象+3 スキルカード使用数追加+1
(レッスン内1回)

 あえて毒ではなく好印象というネーミングになっているのが秀逸。この好印象を積み上げるというシステム、親愛度コミュと見比べると驚くほど「そのまんま」だ。

 こうしてみると、なぜ大分類がセンスとロジックだったのかまで納得がいく。打算で好印象を積み重ねる、自分の糧になる。ロジカルだ。純粋な才覚で勝負しているセンス族に対して、絡め手で好感度をハックするのがロジック族なのだ。

 面白いのが元気というシステム。体力の代わりになり、レッスン後に持ち越せない代わりに増やしやすい。元気と好印象を同時獲得するカードが何種類かあるから、うまく集めてやると体力をほぼ消費せずにレッスンを繰り返せる。体力問題を解決したことねが、ちゃんと強い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?