スコップひとつで動き出す/土中をめぐる水講座 第1章_水の困りごとは「走る」「たまる」のふたつ
土の中の水と空気を動かす。身近な水についての困りごとが、土中環境について考えるきっかけになるひとが多いです。
たとえば、庭先や駐車場のぬかるみ。畑の水はけ。
逆に畑の乾き。車道の崩れや削れ。山の斜面の崩れ。
これらの水の困りごとは、たったふたつ。
「走る」と「たまる」です。
リバーカヤックでもそうなのですが、流速がはやいだけの川は、楽しくないです。あっという間に運ばれてしまいます。起伏がないと一気に移動してしまいます。ほどよいスピードで、緩急があるのが理想です。
逆に、たまっているところも快適ではありません。たまった水は臭くて、その上に浮かびたいとは思いませんよね。
目に見えない土の中でも、同じように水の動きがあります。走りすぎ、たまったままの状態は、そこにいて快適な環境とはいえないです。
「走る」とは
水が「走る」とは、流れが集まって速く強く、水が動く状態のことです。
砂利を踏み固めた道のわき、土がむき出しになった斜面などでよく見られます。
集まった水は竜にもたとえられ、大雨や台風などで流量が増えると威力を増し、災害の原因になったりします。流れながら斜面の土砂を削っていくので、斜面はより崩れやすくなります。土砂が運ばれるので、水に力が乗りやすいです。
災害レベルとまではいかなくても、流れる水で土砂を掻きとって道が崩れたり、掘れたりします。斜面が削られていくと、崖崩れの恐れも出てきます。これらは、水が走って起こることです。
「たまる」とは
もう一方の「たまる」というのは、水が動かずにそこに停滞している状態。流れのない池の水が腐敗するように、水が動かずに溜まり続けると、たとえ目に見えない土の中でも、腐ってきてしまいます。
車が踏み固めてしみ込まなくなった土の駐車場や、コンクリートに囲われて逃げ場のなくなった地形で起こります。
水がたまり続けた場所を掘ると、「グライ層」と呼ばれる青っぽい灰色の臭い泥が出てくることがあります。これは土中で酸素が欠乏してしまった状態。土中の微生物が活動できないので、土壌そのもののチカラが弱くなっていきます。
その土壌の弱まりは、周りの植物にも影響が出ます。コンクリートで囲まれた場所で、植物が弱って枯れたり、虫がついたり、病気になるのは、土中の環境が悪くなっている可能性が高いのです。
土の中も、地上と同様にほどよく水が動いていないと、土そのものの力が弱まってしまいます。
水が動かずにたまる場所では、空気も停滞するので、ヤブ蚊が繁殖したり、雑草が茂ったりしやすいです。そんな空気がとどまっているところでは、鬱蒼とした雰囲気を感じます。
土中でも地上でも、水が停滞しないほうが、快適な環境と感じます。
水が「走らない」、「たまらない」のが理想
快適な環境とは、土の中の水や空気も、早すぎず、かといってとどまらず、ゆっくりと動いている状態です。走りすぎないように、たまらないように、程よいスピードで水の動きを調整できると、作りだしやすいです。
また、水が走ることで水が引き寄せられ、たまりやすい場所にはたくさんの水が集まってしまいます。水は大きな動きに引っ張られる性質をもっているからです。
ある一か所に水がたまらないようにするには、走らないようにする対策を山側にほどこすといいです。例えば、水を分散させて走らないようにするなど。ふたつの水の動きを同時に考えていくと、ちょうどいい水の動きを作りだしていけます。「走らない」「たまらない」二つの対処法を組み合わせて、水を走らせないようにしながら、溜まりにくくしていきます。
次章では、「走らせない」を説明します。
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多摩川流域(青梅&奥多摩)で土の中の水や空気を動かすワークショップを開催しています。リクエストがあれば、出張講座もできます。
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