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昔のカヤックで長良川を下ってみたら、いろんなことに気づいた。

「昔のカヤックって乗りにくいよね。曲がらないし、不安定だし。」

昨年末、30年来のカヤック仲間と飲みながらの会話から、昔のボートに乗って長良川をダウンリバーすることになった。かつて自分たちが初心者のころに乗っていた、古くて長いモデル限定で、当時下っていたような区間で。

5月の中旬に平日の二日間、ダガー/クロスファイアとレスポンスに乗って、長良川を下ることに決定。

ボートの選定

ボートは、カヤックを始めたころに乗ってたボートにしようということで、30年以上前のカヤックしばりになった。
候補は、パーセプション/ダンサー、ダガー/クロスファイア、ダガー/レスポンス。長野県野尻湖畔にあるサンデープラニングさんが当時のボートをたくさん持っているので、それを借りることになった。

長良川と吉田川の合流からスタート。フィッティングから。
昔のボートはコーミングサイズが小さくて、今どきのスプレースカートが合わない。

最近のボートとの違い

ダガー/レスポンスは、長さ340センチメートル、幅60センチメートル。
ちなみに、現在のジャクソンカヤック/アンティックスは、長さ250センチメートル、幅67センチメートル。同じダウンリバーボートでも今は、全長が1メートルほど短く、横幅は広くなっている。

ちなみにマニアックな情報としては、当時はカップリングがタテだった。デッキとボトムの中心で合わせた作りだったそうだ。(知らなかった!)その後、デッキとボトムを水平につなぐ作りに変わった。

大きく違うのが、コクピットの大きさ。幅はそれほど変わらないが、前後の長さが短い。そのため膝を抜きにくく、出入りしづらい。膝をそろえて脚を抜かなければならない。

現代のボートは、コクピットの前後の長さが長くなっている。これはボートが挟まったり刺さったりしたときに、抜け出しやすくするため。スプレースカートを外さなくても、膝を外すことができるようになった。

ボートはデッキが低く、膝回りのフィッティング(サイブレイス)が小さい。足は、ボートの内側の両サイドにあるペダルに置く。
膝まわりのフィッティングが貧弱なので、膝でボートをホールドするのが難しい。

シートはいたってシンプル。滑らないような工夫もないし、腿の下を持ち上げたりもできない。

ボートのデザインだけでなく、フィッティングのしやすさもこの30年で大きく変わった。今は、サイブレイスが深くなり、位置が調整できる。シートまわりは、腰の横にパッドがついたり、バックベルトの調整がワンタッチでできる腿を上げられるなど、かなり進化している。
足、膝、腰回りのフィッティングがしやすくなったので、身体の一部のように動かせるようになった。

昔は、ボートのメーカーによっては足が届かないものもあったりした。フィッティングも、自分でウレタンフォームを接着剤で貼りつけたりして、手間も時間もかかったのよね。

初日は12キロメートルを下る

それぞれのルートで瀬を軽快に下る。

ボートが長いと、瀬遊びも場所を選ぶし、船足が早いのでサクサク下れてしまう。
そのころにならって、今回は長めのコースになった。吉田川と長良川が合流する郡上八幡近くの「出会いの瀬」からスタートし、ふれあい広場までの約12キロメートルだ。

古いボートは基礎力が試される

漕ぎ出しは、慣れない長さに戸惑いながらだった。バウに当たる水の感覚も違う。特にエディラインの強いところでは、進入角度がシビア。短いボートのようにごまかしがきかない。

自分を動画で見ると、みんなのような「キビキビ感」がない!
そこはずっと変わってないのだなぁ(笑)
船足がはやいので、瀞場はラクラク。ちょいちょい昔話が出てくる。

慣れてくると、水をボートの斜め後ろに当ててフェリーしたり、バウ側に当ててエディに入ったり、水に動かしてもらうのを楽しめた。
長めのボートは水圧をしっかり受けるので、水のチカラを感じとりやすい。それが楽しいところであり、難しいところでもある。

川のようすも変化した

昔に比べて川のようすはずいぶん変わった印象だ。前日にけっこう雨が降って水量はそこそこあったのに、全体に浅い。

わたしの推測だけれど、これは水の増減が激しいからなのでは。

一気に増えて、一気に水が減ると、広がった流れが川全体を浅くして、川底の土砂が平らなままになる。一気に減ると流量がないので、本流を削る力が水にない。

水位が一気に上がると、土砂が平らに均される。そのまま一気に水位が下がると水深が浅くなる

かつては徐々に水位が下がったので、本流付近の水が川底を掘り下げられたのだと思う。水位が下がって全体の流速が遅くなっても、相対的に本流の方が強いので、本流付近は深まる。

ゆっくり増えてゆっくり水位が下がると、本流付近は流れによって深められる。

水質もずいぶん落ちたかんんじだ。
以前は、もっとずっと透明で匂いもなかった。ホームの御岳渓谷よりも、水がきれいだった印象がある。今はちょっと濁っていて、岩も滑る。泡が浮いているところもあったりして。

それぞれの立場で向き合った30年余りの歳月

いい天気!数日前まで雨予報だったんだけれど、晴れ女パワー!

参加者は初日は6人、二日目は一人減って5人。
みんな30年以上カヤックを続けてきたメンバーだ。カヤックとの向き合い方が、パドリングのストローク(漕ぎ)にあらわれているのが、おもしろい。

イニット榎本さんは海外からボートやギアの輸入業者としてリバーカヤックに向き合ってきたひとだ。最近は講習で教えることも増えてきて、改めてパドリングについて考えることがあるみたい。シーカヤックを漕ぐことも多い榎本さんは、ストロークのミドルで一番ボートを動かしている。

ボートを含め、パドリングの道具はパドリングが好きでメーカーを立ち上げたひとがほとんど。だから道具にはその思いが込められている。
榎本さんと一緒に漕ぐと、道具の開発ストーリーやそれまでに変化・進化などのうんちくがちょいちょい挟まれて楽しい。

サンデープラニングは、ダガーというアメリカのカヌーメーカーの輸入元だった。長年リバーカヤックの普及にも取り組んできた会社だ。そこに所属する平井さんは、全国を回っていろんな川を漕ぎながらレッスンをやってきたひとだ。
教わるひとが見てわかりやすいように、ひとつひとつの動きがわかりやすい。エディへの入り方とか、めちゃくちゃかっこいい。

山口ケンジ君は、17歳にカヤックと出会ってから漕ぎ続けているパドラーだ。長良川がホーム。フリースタイルは黎明期からやってきていて、フリースタイルのワザ、エンダー、ピロエットからはじまりカートまで、長いボートをグルグル回してきた。
若いころから漕いでいるひとの特徴なんだけれど、ボート、ブレードの扱いがとても自然で、歩くように、息をするように漕ぐ。

一滴の中村昭彦さんは、山も海も川のガイドもする。シーカヤックも漕ぐので、長いボートの扱いに慣れている。
フォワードストロークは、パドリングの後半にボートが動く。初中級者を指導することが多いからだろう。彼らにとってボートのコントロールがしやすいのが、パドリングの後半だからだ。

もっちゃんこと石田元子さんは、スイートパドルという長良川でスクールをやっている。
それまではフリースタイルとスラロームと、競技をやってきた。スラローム競技は愛知県代表の国体選手だったこともあり、スピードの出るパドリング。
フォワードストロークは、キャッチからの前半に、ボートを意識的に動かしているのがわかる。

30年の間で変わったこと、変わらないこと

30年前のボートは、それほど乗りにくくはなかった。ちゃんと曲がるし、安定も悪くない。むしろ自分たちが下手だったから、うまく曲がらなかったし、グラグラだったんだね。という結論にいたった。

それでも大なり小なり、その”ままならなさ”に魅了されてきたんだと思う。違う川へいけば違う流れがある。30年たった今でも、同じ川を同じ道具で下って、楽しくワクワクが感じられるのってすごいことだよなぁ。

また一緒に漕ぎたいね。

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