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スコップひとつで動きだす/土中をめぐる水講座 第5章-1 点穴(てんあな)のはたらきと作り方

高低差を作り、出口でもあり、浸透させることもできる点穴。
やってみてわかったこと、作業の方法、ポイントをまとめました。

水が浸透して効果を感じるまでにはちょっと時間がかかりますが、じんわりと効き目が出てくるのも、土中環境改善のいいところなのかな、とも思います。
その点穴のはたらきと作り方について、詳しく説明します。


点穴のはたらき

点穴には、
 1 高低差をつくる
 2 水脈の方向を整える
 3 脈動させる

などのはたらきがあります。目的に合わせて掘ると、効果が上がります。

● 高低差を作って流す

穴を掘ると高低差ができます。低くなった穴の底へ向かって、水と空気が動き出します。
流れをつくる目的で掘る点穴は、「川に倣う(ならう)」といいです。

● 水脈の方向を整える

点穴を掘ることで、水が行ってほしくない方向に水が行かないようにコントロールできます。

昔の建物では、普通にそれをやっていました。井戸と池です。
古いお寺の池や井戸の配置を見ると、水脈をコントロールするために掘られているのがわかります。あえて深みをつくることで、水が別の方向へ向かわないようにしています。
谷側部分の端、水脈上に、深い穴を掘ると、もっとも効果があります。

井戸
水脈上のいちばん下流側(谷側)、もしくは敷地の下流側に井戸があることが多いです。これは深さのある点穴ともいえます。
深い井戸は高低差が大きく、水を呼び込みます。水を井戸の方向へ向かわせることで、建物の水はけをよくする効果があります。

「井戸を埋めると、祟りがある」・・そんなことを聞いたことがありませんか。実は、井戸は深さのある点穴の働きをしているので、埋めてしまうと水の行き場をなくしてしまいます。行き場がなくなった土中の水が、湿気のある場所にし、建物が腐りやすくなり、病気にもかかりやすい環境になってしまいます。
けっしてオカルティックな話ではなく、点穴の働きがなくなって、水はけが悪くなるために引き起こされるのです。


池も点穴の仲間です。広い面積で深さはあまり深くないのが特徴です。
水は深いところへと流れるので、あまり深い穴を掘ると、水を呼び寄せすぎてしまいます。広く、浅いくぼみを作ることで、ほどよく水を呼び寄せる点穴となっています。
池は、敷地の上流側や中央近くの水脈上に掘ることが多いようです。
井戸と同様に、「どうせ魚とか飼わないし・・」といって不用意に埋めてしまうと、行き場のなくなった水が溜まって、水はけが悪くなる原因となります。

奥多摩の古里には、沢の水が湧く傾斜地に建つ家は、ちょうどいい場所に池があります。池があることで、建物に水が行かないようになっています。

● 脈動させる

水平に近い平坦な場所では、点穴によって上下に弾みをつけて水を動かします。
たとえば雨落ち。等高線に沿って水平に溝があることが多いです。点穴を等間隔に掘ると、リズミカルな上下の動きを作りだして、水が停滞しづらくなります。

また、枯れた沢などでも、この脈動を目的とした点穴を掘ると、水の動きが活発になり、水を呼びよせやすいです。
脈動させる点穴は、深くないほうがよく、リズミカルに動くように、等間隔に掘ると、効果があります。一直線ではなく、左右に振ったりするとさらに水が動きます。

点穴の作り方

ではどこにどうやって掘ったらいいでしょうか。穴の掘り方について、説明します。
材料さえ揃えればかんたんにできるので、湿り気やぐずぐずが気になるところで試してみるといいです!

深さ

点穴は水を呼びたい場所に掘るのが、鉄則です。

注意したいのは、場所。深い穴を適切でない場所に掘ってしまうと、水を呼び寄せてしまうからです。

わたしも失敗したことがあります。駐車場がぬかるむので、そのぬかるみの真ん中に点穴を掘りました。逆に水が集まってきて、余計にぬかるむようになってしまいました。
気になるぬかるみを解消するには、ぬかるみの下流側谷側(できれば敷地の端)に点穴、もしくは山側に溝を掘るべきでした。

ぬかるみを解消するには、泥の層を超える深さに掘るといいです。長らくぬかるんでいるところでは、泥がたまっています。泥の粒子は細かいので、水がしみ込むすき間を埋めていってしまうからです。

はじめは敷地の端で、小さめの点穴から、ようすを見ながら掘っていくといいです。

ぬかるみの近くでは、泥よりも深く、泥の層を超えるように掘ります。大きさは必要に応じて決めるといいです。大きく深いいほど、点穴の効果が高いです。

泥の層をつきぬけたほうが、水はけの効果が高いです。泥の細かな粒子が、水の浸透をじゃましているからです。
雨どいの近くなど、長らく水がたまってぐずぐずしてきた場所は、泥の層も厚いです。もし泥の層が厚すぎて貫通できなくても、効果はあります。穴を掘って炭をつめておくだけでも、土中にすき間が生まれて水が動き出します。

広さ

穴が大きさに比例して、効果が高まります。駐車場など、敷地が広く、しっかり水を動かしたいなら、大きく深い穴を掘ります。穴が大きいと、中につめる資材もたくさん必要となりますので、しっかり準備しましょう。
庭先や畑で手軽にはじめるなら、スコップで掘れる直径10センチメートル程度の穴でも、効果は感じられます。川に倣って適切な場所に掘ると、小さな穴でも環境の変化を感じられます。

スコップで掘る手間をかけられないときには、小さな点穴でも効果があります。たとえば細長い鉄の棒などを挿してグリグリするだけでも、水が動き始めるきっかけとなります。
グリグリしながら脇から炭を撒き入れて、アリジゴクのように中へと炭を落としたり、鉄棒を抜いてできた穴に、細い枝や枯葉をねじこむといいです。

点穴を保つ

掘った穴をそのままにしておくと、埋まってしまいます。埋まらないために工夫をすると、点穴の効果が長く続き、土中で水の循環が安定していきます。

垂直に掘る

穴は、できるだけ垂直に掘ると、崩れにくく長持ちしやすいです。すり鉢状だと崩れやすく、埋まりやすいです。また、垂直の壁を伝って縦に水が動くので、土中へと浸透しやすくもなります。

穴の底に炭を入れる

掘った穴の効果が持続するように、中に炭、枝葉などを入れます。
底に入れるのは、炭がもっとも適しています。炭は細かな穴のある多孔質で変化しない物質のため。そのほか、炭のさまざまな効果も期待できます。

埋炭、イヤシロチなど、神社の建立にも大量の炭を埋めた記録が残っています。

他に、素焼きの植木鉢を砕いたもの、瓦を砕いたもの、コンクリートのガラ、石、などでも代用できます。できるだけその場にあるものを利用するようにしたいです。

木の枝などをつめる

炭の上に、直立するように枝をつめます。

はじめは太めの枝を穴の縁近くに縦に入れて、次に細めの枝を挿していきます。
歩かない場所なら、枝は地面よりも高くします。時間がたつと、点穴は埋まってきますが、ちょっとだけ出た枝が、埋まった後も水の浸透を助けてくれます。
よく歩く場所では、つめた枝を地面の高さよりも短くしておくと、引っかからないです。
中に入れるのは、剪定した生の枝などがおすすめです。微生物による分解の速度が違うので、できるだけ、さまざまな樹種のほうがよいです。枝のほか、節を抜いた竹などもいいです。

枝をつめる密度は、揺すったときにグラグラせず、でも、ぎゅうぎゅうすぎないようにします。重なり合った枝に微生物が居つくようにしたいからです。
詰めた枝の間に微生物が育つことで、穴の周りで小さなすき間がじわじわと広がります。微生物がいることで、めづまりしにくくなり、日を追って土に水が浸透しやすい状態となっていきます。

揺すったときにゆらゆらしてしまうと、微生物が落ちついて居つけません。お互いにくっつきあっていたほうが、育ちやすいです。
逆に、密になりすぎると空気どおりが悪くなるので、微生物が活動しづらくなります。上から揺すって、枝が大きくずれたり動いたりしない程度に加減すると、いいです。

さらに、挿した枝のすき間に炭や落ち葉をつめると、泥濾しになります。泥が穴の中に入り込まないほど、点穴の効果が長持ちします。

掘った土は、近くに置かない

掘った土は、テミやバケツなどにとって別の場所へ移動させます。そのまま近くに置くと、掘った泥がまた穴に入ってしまいます。泥が穴の中に入ると細かな粒子が隙間を埋めてしまうので、水が浸透しづらくなります。

硬い場所は、タガネを使うと掘り進みやすいです。掘るのにじゃまな石も取り除きやすくなります。大きな点穴を掘るときには、剣スコップ、ツルハシがあると便利です。

どこに穴を作るのか

点穴をどこに掘ったらいいのか、最後に解説します。適切な場所に掘ると、効果が出やすいです。
ポイントは、水脈。土の中に流れている水の流れを読み取ります。

地形から、水脈の場所を見ていきます。普段は地上から見えませんが、土の中を流れている川のようなものです。大雨が降ったときに観察すると、地表面を流れるので、発見しやすいです。

川に倣う

点穴は、川の流れで「深み」のできる場所に相当するところを掘るといいです。

川は、
 曲がっているところ
 合流しているところ
 硬いものにぶっつかっている上と下

深いです。

全体のようすを見て、凹んでいるところ、コンクリートなどの硬いもののきわ、流れの終着点と思われる角、雨が降るとぐずつくところ。

鍼灸師さんは、感覚的に点穴を掘る場所を選ぶのが上手だとか。
点穴を掘るのは、ツボ押しと似てるんですね。

写真の例にあるように、
● 二方をコンクリートなどで固められている下流側
● 雨落ちの端(下流側)、または軒下の雨落ちに等間隔に
● 流れの合流点
など水の集まる場所に作ると、しみ込みの効果が出やすいです。

よくわからなかったら、単純にぬかるみやすいところに掘ってみるといいです。
あまり難しく考えずに、はじめは適当にやってみるといいです。
作って、観察してみて、「違うな」と思ったら別の場所に掘ってみるくらいの気持ちで。

大雨の時に、水の動きを観察してみるのもおすすめです。
水がどう動いているのかがわかると、掘るべき場所が見えてきます。
とにかくまずは、やってみるといいです!

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スコップひとつでめぐる水講座は、奥多摩で週末も含めて毎日開催しています。おひとりでも、平日でも開催しています。


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