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そもそも経済#4 日銀短観って?

けさ「日銀短観」が発表されました。日本経済新聞にいたころ、なんども記事を書きましたが、うまく伝えるのがなかなか難しい統計でもあります。そもそもどういう統計なのか、という点までサクッとみながら、今日の統計のポイントをグラフ多めで解説してみます。

短観は日銀が年4回発表する「企業期経済測調査」の略です。全国約1万社もの企業へのアンケート調査です。日銀の事務作業も膨大なようで、これほどの定例調査は海外でもほとんどありません。

聞き取り先の数が多い分、日本経済全体の状況が把握しやすく、かつ企業の「肌感覚」を数値化したものなので、ほかの経済指標より景気の変調をいち早く映すとみられています。

ニュースでは「大企業・製造業」の回答が報じられることが多くありますが、「中堅企業」「中小企業」といった規模別もあり、業種は「食料品」「化学」「建設」「小売り」などなど細かく分類されています。

もっとも注目される「業況判断」は景気について「良い」「さほど良くない」「悪い」の三択で聞いたものを指数化しています。このほか仕入れ価格の状況設備投資計画雇用判断など様々な項目があります。人手不足が話題の時には雇用判断が注目されますし、いまのようなコスト高のときは「仕入れ判断」にも関心が集まります。

で、7/1発表分は?

まず、ニュースでよくでる「大企業・業況判断」です。「製造業」「非製造業」にわけました。

コロナショックで大きく落ち込んでからは回復傾向でしたが、最近は製造業非製造業で様子が異なります。

非製造業はほぼ右肩上がりで、今回+13と2019/12以来の高い水準に。コロナ前を回復したかたちです。営業制限などが次第に緩和され、買い物や外食、旅行など個人消費が持ち直してきたことを映しています。

一方、製造業は年明け以降、悪化。原油価格をはじめ、コストの急上昇が影響しています。上海のロックダウンで、サプライチェーンの混乱が深まったことも重荷に。世界的な株安で企業を取り巻くムードが暗くなっていることも影響していそうです。

わかりやすい業種をピックアップしてみましょう

「個人向けサービス」「宿泊飲食」は2020~21年にかなり厳しい状態でしたがかなり持ち直してきました。1-3月はオミクロンの急拡大がありましたが、4-6月は感染や各種規制も和らぎ、サービス消費が回復してきたようです。一方で、「鉄鋼」「繊維」は業況が悪化。エネルギー・素材価格の急上昇が大きく響いているようです。

インフレは?

なにかと話題のインフレ。下記は「仕入れ価格」と「販売価格」に分けて、上昇しているか下落しているかを聞いたものです。数値が上にあるほど、インフレが進んでいます。

赤い線の仕入れ価格+65と記録的な高水準になっています。2008年の原油高騰時を上回り、今世紀最大です。それだけコスト上昇が厳しいことを映します。

販売価格も今世紀最大です。注目すべきは過去どの局面でも、仕入れ価格の指数を下回っているということです。企業はコストが上がっても、自助努力で無駄を減らし、なるべく販売価格に転嫁しないよう努力してきたことがうかがえます。赤い線との開きが大きい時期は自助努力の域を超えて、収益をむしばんでいた企業も多くありそうです。

今回はその販売価格の指数も明確にプラスになってきたことも重要です。いまなお赤い仕入れ価格とは差があるものの、「もはや値上げせざるをえない」という判断が働いていることを青い線が映しているといえます。

賃金上昇が鈍い中、こうした値上げに家計は耐えられるのかが今後の日本の景気を行く先を占ううえで重要になってきます。

人手不足は?

雇用の指数も興味深くなっています。

このグラフは上にあると「人手が余っている=就職は厳しい」、下なら「人手不足=就職がラク」という構図です。2010年代後半は記録的な人手不足でした。コロナで営業制限がかかり、人手不足感は一時的に和らぎましたが、いまは再び人手不足が厳しくなってきています。

少子化で労働力が不足するという大きな構図はかわっておらず、需要が回復すれば、人手は不足しがちです。ここ数年は外食や小売りでも、注文・支払いの自動化が進んでいますが、この流れはいっそう強まる可能性が高そうです。外国人労働者の受け入れや賃上げの状況など、今後、新たな論点も注目されやすそうです。

と、少しかみ砕いた感じで短観をお伝えしました。経済指標の単なる数字も、世の中の変化とあわせてみると、さまざまなストーリーも浮かび上がります。そして数字は、雰囲気で語るだけでない、裏付けにもなります。

このnoteでは経済指標も定例の決まり文句の解説ではなく、できるだけ経済・社会の動きを頭の中で整理できるようまとめていければと思っています。

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後藤達也


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