日銀、苦肉の金利誘導

きょうの話は日本の国債市場のかなりマニアックな話です。債券先物が乱高下し、国債市場や日銀ウオッチャーの間ではかなり大きな騒動になっていますが、いまのところ、為替や株式といった他市場に影響は及んでいません。また説明がかなり細かくなりますので、ご関心のある方だけご覧ください。

まず金融政策の基本的なところをザックリと確認です。日銀のいまの金融緩和は10年物国債を0%程度に誘導するというものです。「0%程度」は上限を「0.25%」としており、市場金利がこれを超えると日銀は指値オペという手段で無制限に国債を買い、金利上昇を押さえつけます。
※「指値オペ」のイロハは下記をご覧ください

最近、アメリカの金利急上昇や円安を受けて、市場では「日銀がYCCを見直すのでは」との思惑が浮上していました。海外金利の上昇も止まらず、債券市場では外国人を中心に債券を売る(金利は上昇)動きが増えていました。仮に日銀がYCCを見直し、金利が0.25%以上になることをみとめれば、実際に金利が上昇(価格下落)し、売っていた投資家が儲かるからです。

日銀は今週、10年物国債を大量に買うことで金利上昇を抑えてきました。これまで0.25%を大きく上回ったことはありません。

この数日で焦点となったのは10年物国債というより債券先物です。これは現物の国債と比べ、売買がしやすく、たとえば海外のヘッジファンドが金利上昇に賭けるときに利用されます。実際、今週に入り、債券先物は大きく売られました。海外勢がYCCの持続性に挑戦するかのような動きです。

債券先物は商品の仕組み上、残存期間が7年の国債と値動きが連動しやすくなっています。つまり、10年債が0.25%という「天井」に達した一方、債券先物が大きく売られたことで、今週は7年債の金利が10年債を上回るいびつな金利形成となりました(通常は年限の短い債券は金利が低くなります)

そこで日銀が15日、動きました。先物に連動しやすい残存期間7年ほどの国債も指値オペの対象としたのです。さらに6/16, 17にはなんどでも無制限に買うと構えです。10年の金利をピンポイントで0.25%に抑えるだけでなく、「7年の金利も0.25%より高くさせない」という強固なメッセージです。

▼日銀のリリース
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2022/rel220615a.pdf

この日銀の対応を受け、15日の債券市場では残存7年の国債の金利は低下しました。ただ、本来残存7年の国債と連動しやすい債券先物は乱高下しつつも先週末よりかなり価格は安い(金利は上昇)ままです。

日銀の大量購入が7年にもおよび、国債の流動性が大きく落ち込むと、現物の国債と先物との裁定が効きづらくなります。日銀の介入にもかかわらず先物だけが逆に売りこまれるといういびつな価格形成にもなっています。明日以降も金利形成がどうなるのか不透明です。

いまのところ、為替市場や株式市場に影響は広がっておらず、債券市場以外の人にとってさほど重要な話題ではないと思います。

ただ、日銀が長く続けてきたYCCは持続可能性が揺らいでいます。事情がどうであれ、債券先物という金利市場の重要なインフラは市場機能を失いつつあります。現物の国債も日銀がどんどん買い上げており、市場機能や流動性は一段と低下しています。金融システムの安定は日銀の使命。自らの金融政策を巡る思惑や投機で金利が乱高下し、さらに自らの国債購入で債券市場の機能が弱まることは皮肉な事態でもあります。

日銀は16-17日に金融政策決定会合を開きます。政策は現状維持との見方が優勢ですが、最近は円安やインフレにつながる金融緩和そのものにも国民や政治家の一部からも批判が出ています。記者会見では、YCCの持続性、さらには金融政策運営のそもそもの理念についても説明が求められそうです。

今回の記事はきょうの債券市場の動きに焦点を当てて説明しました。16-17日の決定会合のプレビューはあすYouTube & noteで配信する予定です(FOMCで多忙の場合、見送る可能性もあります)

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