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ストーンズを聴こう!その4 “Spider and the Fly”

この曲は、1965年5月11-12日、LAはハリウッドのRCAスタジオでプロデューサーはアンドリュー・ルーグ・オールダム、エンジニアはデイヴ・ハッセンジャーで録音されたようだ。

レコードで発売されたのは、アメリカがもっとも早く、同年7月30日に出た"Out Of Our Heads"に収録された。英国では、8月20日、シングル"'I Can't Get No) Satisfaction"のB面として。英国でアルバムに収録されたのは1971年3月の"Stone Age"で、ちなみにこのLPはそれまで英国でLPにならなかったナンバーばかりを集めたいわばレア・アイテム・コレクションとしては重宝なものなのだが、ストーンズ側からは「自分たちの許可を得てないので、こういうものは買わないように」という反対キャンペーンを打たれたりもした。ジャケットも当時Deccaがダメ出した"Beggars Baquet"を模したもので、その辺もDeccaは何を考えてるんだ?と言われてもしかたないチープなものだった。

では、日本ではどうだったかを調べてみると、ずっと遅れて、翌66年に「19回目の神経衰弱」のB面でシングル・カットされ、アルバムとしては、US版"Out Of Our Heads"を「ステレオ ローングストーンズ第4集」として日本オリジナルのスリーヴ&曲順も変えたリリースで、やはり66年まで出ていない。このアルバムはUS版をAとBをひっくり返して、B面のトップに"The Last Time"をもってきたという変則盤だ。従って、「クモとハエ」はA面5曲目になっている。

当時の日本ではこの曲はシングルカットされたことになるが、それがどういうインパクトや意味を持っていたかは、ちょっとわからない。まして、この曲がジミー・リードのブルーズを下敷きに書かれたものであるということが、どれだけのストーンズ・ファン/マニアの間で語られ研究されたかはまったくわからない。そもそも当時ジミー・リードが日本に紹介されていたのかも、ちょっとGoogleしたくらいではわからないし(わからないといえば今回ストーンズの日本盤ディスコグラフィーをネットで探したが、60年代のシングルに関してはちゃんとしたものが見つからなかったのはとても不思議だ)、課題である。

さて、ジミー・リードを下敷きにして書かれたという点については、ミックが1995年に"Rolling Stone"のインタビュー[註1]で、"I wasn't really that mad about it, but when you listen to it on record, it still holds up quite interestingly as a blues song. It's a Jimmy Reed blues with British pop-group words, which is an interesting combination: a song somewhat stuck in a time warp."(それほど入れ込んでるわけじゃないけど、聴いてみるとブルーズ・ナンバーとしてはなかなか面白いと思う。ジミー・リードのブルーズに英国POPの歌詞という面白い組合せで、時間に取り残されている感じだ)と告白している。95年と言えば、Strippedでもこの曲をやっており、調べてないが、その関連での発言と思われる。[註1]"Jagger Remembers". Rolling Stone. Dec 14, 1995

そのジミー・リードはコアなストーンズ・マニアなら先刻承知のストーンズのフェイヴァリット・ブルーズマンのひとりだ。VeeJayからリリースしたアルバムはかなりの数に登るが、彼自身がギターを弾きながらきぃきぃと吹き鳴らすハープと相棒のEddie Taylorのセカンド・ギターあるいはベース、そしてEral Phillipsほかのドラムという構成を基本とした一貫したサウンドがあって、シンプルななかにきっちりとしたビートがある。

ストーンズも彼のカヴァーを何曲かやっていて、それだけに飽き足らず、なのか、彼の曲を下敷きにオリジナルを書いている。"Little By Little"(Shame, Shame, Shame)やこの"The Spider and The Fly"がそうだ。今はBMIによってクレジットはジャガー=リチャーズになっているようだが、かつてはNanker Phelge名義であったようで、先の”Little By Little”もそうだが、ほかにはたとえば”Under Assistant West Coast Promotion Man”、”Now I've Got A Witness”、”Stoned”や”2120 South Michigan Avenue”なども「なんか持って来ちゃった」系ナンバーだろう。しかも確信犯という訳だ。

では具体的にジミー・リードのどの曲なのか?ということになるが、”Little By Little”ほど顕著ではないようで、今回改めて探してみて、似てるなぁと感じたのは次の曲。多作なリードなので、ほかにもあるかもしれないが、とりあえずこの5曲にしぼってみた。

①Can't Stand To See You Go
②Too Much
③Good Lover
④Baby, What You Want Me To Do
⑤Brights Lights Big City

①②③はイントロのあの二つのギターの絡み方とフレーズが似ており、④は歌いだしの歌詞。⑤はストーンズもカヴァーしているが、歌の締め方が似ている。これらのナンバーを混ぜて書いたというところか。

それでもミックが言うように歌詞が独特・・・と言いたいところだが、実は英国では有名な詩人・Mary Howittの1829年の作品”The Spider and The Fly”から借りてきたようだ。タイトルはそのままだし、"My my, my・・・"というとこはその詩の"No, no, no・・・"という部分に似ているとも思われる。内容も網を張る(誘惑する)「クモ」と飛び込んでくる(餌食になる)「ハエ」という設定は近いものがある。余談だが、この作品からはほかにもルイス・キャロルがAlice's Adventures in Wonderlandでパロディを書いているらしい。

しかしストーンズの歌詞では"keep fidelity in your head"とか、"Superficially thinking"とか、普通出てこないような言葉の使い方が逆に妙にシカゴ・ブルーズぽく感じられる。あ、これにはとくに根拠がないので御用心!

演奏はキースとブライアンのギターの絡みがジミー・リードとエディ・テイラーを模したという感じだ。超イントロの綺麗な音色のがブライアンで、それにすぐ絡む硬い音色で、上に上げた曲からそのまま持ってきたフレーズを弾いてるのほうがキースだろうか。さらに少し進むと、イントロのギターは陰に隠れ、代わりにウォーキング・ベースぽいフレーズと、いかにもキースぽいおかずが聴こえてくる。しかしBBCでの演奏を聴くと、ウォーキングベース風ギターとこのキースぽいフレーズが一緒に聞こえるから、もしかしたらLiveではベースぽいギターはブライアンかも知れない。数少ないライヴ演奏[註2]でもハープが聴けるのですくなくともそれはミックが吹いているのだと思う。
[註2]20th August: UK radio (BBC) 'Yeh! Yeh!', London. Host: Tony Hall. 、20th August: UK radio (BBC) 'Saturday Club', London. Host: Brian Matthew. 、23rd September: UK TV (BBC) 'Top Of The Pops', London.

95年ヴァージョンは、妙に大人ぽい感じであんまり好きではない。このアルバムは”Love In Vain”にしてもどうも大人ぽくて僕はイマイチなんだが。

ごとう


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