見出し画像

ストーンズを聴こう!その5 “Hang Fire”

パンクロックの登場で、本来ならOld wave"に属するストーンズは、とくにミックは「パンクの連中以上にパンクなレコードをつくろう」と思ったかどうか分からないが、性急なビートの「パンキッシュ」(もう死語か・・・)なナンバーをたくさん書いて、”Some Girls”のセッションに持ってきたと言う。それらの曲を聴いてスチュは"They sound like bloody Status Quo"とぼやいたと言われている。

“Some Girls”で発表されたそれらのナンバーに加え、”Emotional Rescue”に廻されたもの、さらには”Tattoo You”で発表されたものはパンキッシュと言っても、同じ頃、パンクロックと同じほどにミックが影響を受けたディスコ・ミュージックから採用したのか、4-on-the-floorの4つ打ちキックとその上で骨格だけになったようなチャーリーのドラムが、「とてもベテランとは思えないパンクな」ぶっ壊れる寸前のフレーズを爆発させるというパターンが印象的だ。

“Hang Fire”もそのグループにカテゴライズされるナンバーであるが、数あるストーンズ流パンキッシュなナンバーの中でも、この曲こそが、俗な言い方だが、「ストーンズ流パンクロックへの回答」と言っていいものだと思う。

それはサウンドに加え、歌詞、内容がパンクロックの連中が好んで取り上げた英国の経済状況を歌ったものであるからだ。タイトルの”Hang Fire”の意味がうまい日本語が見つからなくてシマらないが、こんな内容だ。

「ぐずぐずやるぜ」

ドゥードゥドゥドゥ ドゥードゥドゥドゥ ドゥードゥドゥドゥ ドゥウドゥウ

俺の素敵な故郷じゃ
誰も働かないし、やりきらない
俺たちはぐずぐずやるのさ

お金と結婚することがちゃんとした仕事なんだ
これ以上ひどくなる必要はない
俺は最低の怠け者
ぐずぐずやるんだ
世界に知らせろ

食べるものもなく
働く場所もない
飲む酒もない
シャツもどこかに行っちまった
俺は失業中
雇ってもらえるような手合いじゃないのさ

なんてこったい
ひでぇな
ぐずぐずやるぜ
世界に知らせろ

一千万ドル手に入れていい思い
そりゃぁいいだろうね
ぐずぐずやるぜ
世界に知らせろ

"put it on the wire"の意味がイマイチ自信ないが、WireとFireで韻を踏んで、WIRE=通信、いまのようにインターネットがなかった頃だから電信に乗せて知らしめろ、みたいな意味かなぁと解釈した。

1981年のUSツアーではステージ・レパートリーであり、82年4月にはシングル・カットされ、シングル・チャートで20位と、そこそこヒットしている。英国ではシングル・カットは見送られているが、”Start Me Up”のあとではどうみてもマイナーなシングル・リリースであり、70年代末ならまだしも80年代に入ったとあっては、歌詞の内容を考えても英国リリースは「旬を過ぎている」と言うところだったのだろう。

余談であるが、「旬を逃す」と言えば思い出すのが1991年の”Highwire”。リリースされたのは1991年3月、ちょうど湾岸戦争が終わった頃のタイミングであった。ストーンズ自身はこの曲に関して「戦争を歌ったものではなく、それがどうやって始まったかを歌ったんだ」と言っているが、それがタイムリーなリリースが出来なかった言い訳なのか、あえて「旬をはずした」タイミングを狙ったストーンズ流のマーケティングなのかわからないが…。

一方楽曲的には、ストーンズには珍しく、キーをCとすると、C⇒Am(Am7もしくはC6)⇒F⇒G7というロックンロールというよりそのちょっとあと、ビートルズ登場までの間のアメリカン・ポップスの黄金のコード進行を用いて(ちょっとひねって)仕上げた乗りのいいナンバーと言うことになるだろう。この循環コードはそのポップスぽさゆえ、ストーンズにしろ、ビートルズにしろあえて避けていたと僕には思える。それでもストーンズで言えば、古くは"Tell Me"、少し経ってからの"Congratulations"、"Singer, Not the Song"、"Think"などが頭に浮かぶが、そのあと随分してから、"Memory Motel"で堂々と登場したのだが、僕はとても意外な感じがした。

70年代の終わりから80年代の初頭と言えば、この連載のその1で触れたが、カバー曲にも「意外な選曲」が目立った時期で、”Twenty Flight Rock”を初め、Liveで演奏された”Chantilly Lace”やのちに正式発表された”Tallahassee Lassie”など、それ以前のストーンズでは聴けなかった種類の選曲が意外に感じられたものだ。

ごとう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?