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ストーンズを聴こう!その6 “Time Waits For No One”

高校時代の友人宅で集まったときのことだ。たぶん75年の春、3月下旬だったのではないか。高校を卒業して約1年後の再会だった。

ぼくは買ったばかりのJohnの"ROCK'N'ROLL"とStonesの"IT'S ONLY ROCK'N'ROLL"を持ってった。
別に「ロックンロール」で韻を踏んだわけではなかったし、「俺はロックンロールだぜ、ベイベ!」といきがるつもりもなく、まぁ、そのとき僕にとって旬だった2枚を持ってったわけだ。

そこには5-6人集まってたが、歌謡曲至上主義のやつ、洋楽も聴いてるやつ、いろいろいたが、高校時代すでにセミプロみたいな活動をしてたベーシスト/ドラマーだったやつは高校時代はクリームやCCRを聴いてたんだが、だんだんロックには飽きてきたらしくその日彼が持ってきたのはマハヴィシュヌ・オーケストラの「火の鳥」だった。ここに来る途中、レコード屋で買って来たと言った。流石、こう言うの買うやつは金の使い方が違うなと思った。

ジョンのLPから”Be Bop A Lula”が流れると、そのマハヴィシュヌ氏は「こいつら進歩しないねぇ!まだ3コードやってんだ!笑」と一喝!「いーじゃん、別に!」と心では思ったが、苦笑いで答えた僕。

さて、宴は進み、みなが持ち寄ったレコードをとっかえひっかえ聴いていき、”Time Waits For No One”が流れた時、そいつはまた叫んだ。

「なんだこのコード!あれぇ、歌謡曲じゃないの。あー気持ち悪いなぁ!」

たしかに”Time Waits For No One”の冒頭のコード展開、さらにすぐに聞こえるギターのメロディはそういわれても仕方ないほどマイナーコードだったから僕は反論しなかった。

・・・”Time Waits For No One”とくるとぼくは必ず自分のこの体験を思い出す。

さて、この曲が収録されたアルバム"It's Only Rock'n'roll"はそのタイトルに反して、たかがロックンロールなナンバーはあまりない。一曲目の"If you Can't Rock Me"とB面の"Dance Little Sister"くらいだろう。タイトル曲だってちょっと脱力系。モータウンのカバー、センチメンタルなバラード、レゲエ、ソウル・バラード、ブギ、ファンクといった案外ヴァラエティに富んだ中にこのサンタナ風味のナンバーは、B面ラストの"Fingerprint File"と対峙するようにA面ラストに収められている。

リムショットが宇宙の時を刻むがごとく、それに続くギターのフレーズとパーカッションが豊富な水の流れを導くがごとく、この壮大なテーマの曲は始まる。ぼくはこの曲を印象付けているものとして、ミック・テイラーのソロと並んでその歌詞に注目する。

Yes, star crossed in pleasure the stream flows on by
Yes, as we're sated in leisure, we watch it fly

なかなか難解な歌詞である。

「悦楽のうちに星が横切り」とでも言うのだろうか。満天の星がぐるっと廻るのであれば複数形になるだろうが単数だから流れ星なのか。Star-corssedとすれば「星の巡り合わせのよくない」という意味だ。それに続くのは水の流れかそれとも星に関連させて宇宙の「気」の流れなのか。とうとうと流れて行くことは確かだ。

Time can tear down a building or destroy a woman's face
Hours are like diamonds, don't let them waste

この2行はまだ具体的であるが、続くのは

Men, they build towers to their passing yes, to their fame everlasting
Here he comes chopping and reaping, hear him laugh at their cheating

Menは「男たち」なんだろうな。「彼らの過去のために塔を建てる そうさ、永遠に続く名声のために」。
「さぁ、収穫の時期がやってきた 時が彼らの欺瞞をあざ笑うのを聞け」。ここの"him"は「時」なんだろう。名声など続かないのに必死になっているさまが可笑しいとみえる。

このあとでだけ、繰り返されるフレーズに変化がある。ここだけ、"man"が入っている。
And time waits for no man, and it won't wait for me
Yes, time waits for no one, and it won't wait for me

Drink in your summer, gather your corn
The dreams of the night time will vanish by dawn
人生の盛りに飲み、穀物を集めるがいい
夜の間の夢は夜明けまでには消えてしまうさ

・・・想像たくましくこの歌詞を味わうと古代ギリシャ、ローマ、あるいはエジプト、と言った時代の夏の夜が感じられる。陽は長くとも、すぐに過ぎてしまう夏が。
その焼けるような一瞬をラテン風味のギターフレーズとパーカッションが見事に表現していると思う。

そしてあらためて、この曲が収められたアルバムのジャケットを見てみよう。

階段に佇む現代の服装のストーンズの5人を女神や子供たちがたたえるように腕を伸ばし迎えている。みな笑っている。そして背景にはギリシャ・ローマの神殿の柱が見える。

この絵画の作者であるGuy Peellaertはきっと"Time Waits For No One"をイメージしてこの絵を描いたに違いない。

ごとう

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