ストーンズを聴こう!その12 “Out Of Time”
英国ではStonesアルバム史上初のミックとキースのオリジナルで組まれた ”Aftermath”のB面3曲目に収録されたナンバー。アメリカでは、同タイトルの米国盤では外され、のちに出されたアルバム未収録曲の編集盤”Flowers”に短縮ヴァージョンで収録された。さらに1975年に突如リリースされた ”Metamorphosis”にまた別のヴァージョンが収められたが、それは66年にクリス・ファーロウがシングル発売したヴァージョンのカラオケでミックが歌っているもので、当時クリスに渡したDemoを正規発表したものだと言われている(そのクリスのヴァージョンは英国のシングルチャートで1位を獲得している)。
こうして都合三種類のヴァージョンが世に出たわけだが、オリジナルの英国アルバムに収められたものが1番長く、5分37秒ある。ちなみに”Flowers”ヴァージョンは3分41秒で2分近く短く、”Metamorphosis” ヴァージョンは3分22秒ともっとも短い。またクリスのヴァージョンは3分33秒である。クリスはミックに比べてはるかにポップ色少なく、いわゆる「渋い」感覚で歌い上げている。彼の声色のせいもあるが、ミックが歌う10代~20代のフィーリングはなく、若いのに熟した英国紳士的な感覚がある。織り込まれる掛け声がまた独特で、これが英国第一位になったというのは単にストーンズ効果もあるのだろうが、こういう声を英国人が好きなのではないだろうか。
話が脱線したが、歌詞の内容はかつてのガール・フレンドに「きみはもう時代遅れだ。いまさら僕のとこに戻ってきてもマジで過去の女なんだぜ」というようなもので、同じ頃、同じようなテーマで書かれた一連の"anti-girl song"ものと言えるが、これについてキースは「ライフ」のなかでツアーに忙殺された日常から出てきたもんだ、と説明している。
しかし、”Aftermath”だけでも"Stupid Girl"、"Under My Thumb"、"Doncha Bother Me"などがあり、そのあとの”Between The Buttons”にも"Yesterday's Paper"、"Please Go Home"などがあるところをみると、むしろ積極的にそういうイメージを作ろうとしてたフシがあったのではと思う。所謂「白い帽子のビートルズに対して黒い帽子をかぶった」イメージ戦略もあったのだろう。しかし反面、"Lady Jane"や"Ruby Tuesday"などではこれとは逆のイメージをつくっているわけだ。
その辺の事情をもう少し知ろうと、ネットで検索していたら、キースがインタビューに答えて次のように言ってた(2015年9月)。
・・・それを男と女、みたく受け取ることもできるけど、単に「人間」とみてもいい。つまり、男についての歌になりえたかもしれないし、実際にある男が、彼女の尻に敷かれてなんとかしなきゃって歌ってるって状況でもいい。いろんな関係とかそういうものについて歌ってるわけだよ。決して性差別とかいうんじゃない、それにすらなってない、だってそんなことを考えてたわけでもないし。ある種の人々がどんなふうで、そういうことが起きるってことを歌ったに過ぎないんだ。
これには「まぁ、とにかく、歌詞を書いたのは俺じゃないからな!」というオチがつくのであるが(笑)。しかし、昨今の”Brown Sugar”問題から考えても、本人がそんなつもりじゃない、と言っても2020年代の今だとなかなか説得力はないだろう…
http://www.npr.org/2015/09/18/441412552/keith-richards-the-fresh-air-interview
ところで、“Out Of Time”はストーンズのレパートリーでもっともポップな部類に入ると思う。コードは4つしかなく(F、C、B♭、Dm)、展開もよくあるものだが、そのシンプルな構成にシンプルだが親しみやすいメロディが乗り、繰り返しを多用したコーラスは実にキャッチーで覚えやすい。この曲のルーツを考えてみたが、実はストーンズ自身の”Tell Me”を発展させたものではないかと思う。冒頭のドゥッドゥドゥというリズム、コード展開、コーラスなど同じようなパターンではないか。そして”Tell Me”はロネッツの”Be My Baby”にヒントを得ていると言われている。ロネッツといえばフィル・スペクターであり、この頃までのストーンズの周辺ではアンドリュー・ルーグ・オールダムが、フィル・スペクターに憧れてオーケストラ作品を制作していることもあって、この”Out Of Time”は最初から誰かにあげてしまうつもりで書かれたのかもしれない。実際、クリス・ファーロウで大ヒットするのだが、彼はストーンズがレコード発表したあとでカバーしたわけであるが、ミック自ら冒頭に書いた「ガイドヴォーカル・ヴァージョン」をわざわざ作っている気合の入れようを考えると、この曲を書き上げた時、とてもポップなので、ヒット性は十分あったが、ストーンズのシングルとしてはちょっとインパクトに欠けるためシングルカットできないが、誰か適切なシンガーなりを見つけてカバーしてもらうことにより、はなからエクストラな印税収入を期待したのかもしれない、などと言うことを考えてしまうのである。
ごとう
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