見出し画像

ストーンズを聴こう!その13 “Monkey Man”


そもそも"Monkey Man"とは何か。直訳すれば「猿人間」ということになり、調べると、2001年春のニューデリーでの「猿人間による襲撃事件」なんかに行き当たったりする。正体不明の猿人間が人々を襲い、世界的にも報道されたそうだ。

しかし、ストーンズの場合、「猿人間」のことを歌っているわけではなく、もう少し調べてみるとBlues Languageというサイトにこうあった。”Monkey Man”ではなく、”Monkey”の項である。http://blueslyrics.tripod.com/blueslanguage.htm
“a desperate desire for or addiction to drugs, often used in the phrase "monkey on one's back". Also, a monkey on one's back: a persistent or annoying encumbrance or problem”
…ドラッグがもうなにがなんでも欲しい状態あるいは習慣。しばしば「背中にモンキーがいる」という風に使われる。しつこくまとわりつくやっかいな問題があるという意味でもある。

たしかにドラッグ中毒になると汗と一緒に粉も出てくるらしく、インドでドラッグ漬けになって帰国して風呂から出たら背中に粉がふいて家族に指摘され参った、という話を聞いたことがある。

そうなると"Monkey Man"とは、「ドラッグ依存者」と理解するのが、普通だろう。

イントロからして、朦朧とした意識の中で目覚めたかのようなアレンジだ。右チャンネルの響きはギターだろうか。それに対して、左チャンネルでは、C#m7から半音ごとに下降する華奢なクリシェをピアノが奏で、中央からはベースがビートを弾く。次の周では右から真夜中の部屋で時を刻む、焦りのようなタンバリンにクリシェをダブらせるギター、そして、いきなりドンパパスタタン!といかにもチャーリーなドラムが爆発すると、ギターが急ブレーキでドリフトするようなフレーズをキメ、”I'm a fleabit peanuts monkey~!”とミックが歌い始めるのはすでに30秒経過したあとだ。

“If you pay peanuts, you get monkeys” という諺があるらしいが、ピーナツは猿の好物のようである。この場合は”Fleabit“だからノミが食ったピーナツつまり、それくらい安っちい餌でもOKなほど低級な猿ということなんだろうか。歌詞はそのあと、ダチはみんなジャンキー、でもそれはほんとうじゃないぜ!とか、冷えたイタリアのピザ、街中の雌ネズミにひどい目に合わされ、とか割れた卵の入った袋とか、乱れたベッドとかそれでもブルーズを歌うのが好きなんだとか、もうめちゃくちゃである。そして出会ったのが同じような状態の猿女というわけだ。やはりドラッグ(この場合はヘロインらしいが)で主人公はぼろぼろになっているとみえる。

そんな想像をたくましくしてから、Wikiを見ると、この曲はイタリアのアーティスト、Mario Schifanoに捧げたもの、とある。調べると、彼は画家であるとともに映画も作っており、1969年春にミックとキースも出演した”Umano Non Umano! (Human, Not Human!)”をアニタ・パレンバーグほかのプロデュースで制作、その撮影時に彼らは出会ったそうだ。映画自体観ていないが、ドラッグ中毒と言うより、「人、人でないもの」と言うタイトルから触発された素性の怪しい中途半端な存在としての”Monkey Man”なのかも知れないと思えてくる。

この記事の冒頭の動画クリップはその映画のミック出演のシーンだが、なんとも意味不明な感じだ。ちなみにこの映画は72年にプレミア公開され、2016年にはDVD化もされたらしいが、ストーンズファンあるいはマニアの間でロバート・フランク以上に話題になっているとは思えない、まさにカルト中のカルトと言えそうだ。YouTubeには、キース出演のシーンもあるが、これまたミック以上におかしなものである。

“Monkey Man”の録音は、イタリアからの帰国後すぐにロンドンのオリンピックスタジオで開始されており、年末にリリースされる“Let It Bleed”に収められるのであるが、面白いのは、1969年にThe Maytalsが”Monkey Man”というナンバーをUKチャートTop 50以内に送り込んでいることで、タイトルだけみると、なんか関係があるのでは、と訝ってもみたが、時期的には69年末から70年初頭のようで、内容もThe Maytalsのほうは”Monkey Man”の他の意味、即ち、浮気相手のことらしいから偶然の一致なのだろう。

マニア好みのナンバーでとくにキースのギターワークに魅せられたファンも多いんじゃないか。リズムは「無情の世界」にも共通するハネ方だったり、そのキースのギター・リフは「悪魔を憐れむ歌」を連想させたりもするし、後半、E/B/A/Bのきれいな繰り返しになっていくところは、どこか「いとしのレイラ」の後半を思い出させる。

今年の”No Filter Tour 2021”では、10月24日ミネアポリスで”vote song”として登場しており、思わせぶりなミックのMCで気をもたさせれるが、残念ながらオリジナルの訳の分からないあやしさはまったく感じられない。

ごとう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?