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危機一髪!ワイン一本機内預り!

あの911事件以来、液体を機内に持ち込むのが極端に制限され、いろいろ不便になった。搭乗前にペットボトルで水を飲んでいても、残ったら持ち込めないから捨てるか、無理に飲んでしまうしかない。一度無理に飲んだことがあって、離陸したら急にトイレに行きたくなり、シートベルト着用のサインが消えるまで猛烈に苦しんだことがあるが、例えば、市内でワインを買ったとしても機内に持ち込めないからほんと大変だ。

スーツケースに入れて、もしものことがあって割れたりしたらそれこそ一発でゲームオーバーになる。タオルでぐるぐる巻きにすると言う手はあるが、そのためにホテルからバスタオルを拝借する訳にはいかない。

一度、LAの出張先で同僚からワインを一本貰ったことがあって、どうした訳か、スーツケースに入れずに手荷物のバッグに入れたままで空港へ来てしまったことがあった。

チェックインを済ませ、搭乗手続きの段階になって、係官から「あ、ワインの機内持ち込みはダメだ」と言われ、しまったと思ったが後の祭り。バッグから取り出して係官に差し出したワインを見ながら、せっかく貰ったのに置いていくことになるのか、と奈落のどん底に突き落とされた気分でいると、その係官は「これ、持って帰りたい?そうだよね。じゃ、こっち廻ってついて来い!」と言ったかと思ったら、さっと裏側へ通じるドアに入った。僕も慌てて後を着いていくと、普通の乗客なら通ることのない通路を通ってチェック・イン・カウンターまで戻り、エアラインのスタッフに「悪いが、これ、一本、チェック・インしてくれ!」と言って、それを受けたエアラインのスタッフは、ワインがちょうど一本入るカートンを持ってきて、そこに僕のワインを入れ、チェック・インしてくれた。

ワインは取り上げられてしまうとばかり思っていた僕は、まさか、そんなウルトラCがあるとはまったく知らなかったから、その係官に感謝の気持ちでいっぱいになった。

そして、成田に着くと、派手にFRAGILEの札が付いたワインが一本入ったカートンが、ターンテーブルを廻って来て、無事にピックアップすると、再び嬉しさが込み上げて来たのだった。それはワインを無事に持ち帰れたと言う純粋に嬉しい気持ちと、なんか特別なことをしてもらったこと、さらに、そう言う方法があるのを僕は知っていることから来る優越感などが、重なったものだった。

このワイン一本チェック・インと言うなんとも言えないスペシャルな感じが気に入り、味をしめた僕は、欧州出張の際、この手を使ってみた。

オランダのスキポール空港に比較的早く着いた僕を含む出張者一行は、順番にチェック・インを済ませていた。勿論、僕は街で買ったワインを一本差し出して、これ単独でチェック・インして下さいとお願いしたら、同じ日系のエアラインなのに、意外にも、ちょっと待ってくださいとなり、少しして、これ用の梱包材を探して来ますと言った切り、係員はどこかへ行ってしまった。

この時、運がいいのか悪いのか、その帰国便はビジネス・クラスに空きが出て、僕ら一行のチケットなら無料アップグレードが出来ることになった。喜ぶ同僚たちは順番にアップグレード・チケットを手にして意気揚々と空港ロビーに消えていく。

僕は焦った。アップグレード出来る席には明らかに限りがある。見ると同僚だけでなく、列に並んでる客は次々とアップグレードにあずかっているではないか。そして僕はと言えば、ワイン一本の為に、チェック・イン出来ず、ずっと待たされている。ああ、ワイン一本でもチェック・イン出来るんだぜ!などと同僚に言い放ち、優越感に浸っていた自分の空虚さを呪った。

やっと、遠くから先程の係員がカートンを携えて戻って来た。もう気が気でない僕は無料アップグレード席はまだ残っているか聞いた。

「大丈夫ですよ」と言う軽やかな声を聞いた時は一気に心配が吹き飛んだ。まさに危機一髪であった。

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