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Around The Lives By The Sea #5

 3rdアルバム『Lives By The Sea』のCDとレコードの通販予約分が届きはじめたみたいで、とても嬉しいです。

 僕の元にも、完成版が届きました。

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 いやはや、アジカンやソロだけでなく、いろいろなアーティストと作品を作ってきましたけれど、どんなかたちでも楽曲を聴いてもらえた瞬間はとても興奮します。すべての苦労が一気に報われるというか。

 それとは別に、自分の作品を「ある種のカタチ」として手に取ると、特別な感動があります。CDやレコードのモノとしての物理的な重みと作品の重みには相関関係はないんですけれど、でも、いくらかの実感として、手応えとして、確認することができます。

 もちろん作っているのは音楽なんだけど、CDやレコード盤や紙のパッケージや、もちろんそこに印刷されたアートワークまで含めて、作品として考えているんですね。そうした自分の思いを、現物を手に取ったときに再確認します。「嬉しい!」と正直に思うので。

アートワークについて

 ジャケットはこのようにヤマテツの撮った写真を布にプリントして、スタジオに吊るして撮影しました。真ん中に入っているのは布のつなぎ目です。

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 四国某所の現地に行って撮影するという案もありましたが、新型コロナの影響で叶わず、いろいろな案を考えているうちに思いついたアイデアです。真ん中のつなぎ目をPhotoshopで修正する案もありましたが、そのまま、つなぎ目がある写真をジャケットにしました。

 このつなぎ目はコロナ禍のドキュメントでもあるし、虚構と現実のつなぎ目でもあります。

 実際に撮られた写真ではなく、それを布にプリントアウトして吊るし、その前で再度撮影すること。それは創作の過程そのものを表す比喩でもあるんです。僕が作っている楽曲というのは、現実をそのまま現したものではないですから。

 このつなぎ目にどんな意味があるのかは、受け手によっても違うかもしれないですよね。そういうところが面白い。なんだろうって考えてもらえるフックのひとつとして、とても素敵だなと僕は思います。

 縫い合わせることについても考えるし、つながっていなかったことについても考えます。プリントされた風景についても考えますし、こういう場所が実際にあることも含めて、過去と現在が組み合わさって複雑な時間が演出されていることにも面白さがあります。

 綺麗な色だなという、表層的な感覚もあります。それが表現物の面白いところで、受け手の態度によって深さが変わってしまう。本人が用意していないところまで深読みできるところが、作品を味わう楽しさかなと思います。

モノづくりの難しさについて

 レコードの話を少し。

 レコード作りには特別な難しさがあります。それは、音源データがアナログだからなんですね。CDや配信はデジタルなので、複製を作りやすい。ほとんど劣化することなく、同じ音質のものを各種のサービスを使って届けることができます。

 しかし、レコードはモノ(物)なので、物理的な制限があるんですね。レコードの材質とか、どういうふうにレコードの溝を作る(溝を切るって言います)のかで、音質に変化がある。作る国によっても、使うことができる薬剤に違いがあるので、音が変わります。

 写真はラッカー盤といって、直接溝を切るやわらかいレコード盤です。ラッカーというスプレーを使ったことがあるひとは、それを吹きつけたところのイメージ通りの硬さだと思ってください。

 ラッカー盤は完成品の塩化ビニール製のレコードより、いくらかやわらかい音になります。

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 この段階で良い音になっているのはもちろんのこと、実際に製品になったときのことも想像しながら、エンジニアはラッカー盤を作ってくれるんですね。僕も完成品を想像して要望を送ります。

 レコードは東洋化成さんにお願いしました。

 これまたコロナの影響で立ち会いでの作業ができませんでしたが、僕の要望に応えてくださいました。ソロの最初の7インチに比べて、数段進歩できたんではないかと、実際の完成盤を試聴して感じました。

 僕らの時代の音楽はレコードを最終的なアウトプットだと考えていないところがありますし、デジタルデータとアナログレコードでは最適な音像というのにいくらかの差がある、差というよりは指向性のよいうなものがあるので、とても難しいです。

 だからこそ、レコード時代のレコード盤はむちゃくちゃ音が良いんです。そこにすべての技術が集まっていたので。

 僕たちはデジタルの時代を生きていますが、例えば、Nonsuchみたいな優良レーベルのレコード盤のサウンドに近づけるべく、これからも努力していきたいです。

 モノのままならなさに向き合うのは、単純に楽しいです。

 物量とコストを勘がると、数万枚はおろか、数千枚も作れません。無限に作り続けることもできない。そういうモノの儚さも含めて、同時代に生きていることの幸せも含めて、手にとってくれたら嬉しいです。

 一般発売は3月3日です。