「初登山、おニューの靴を泥から守り抜け!」
『上西物語』登山編
・前回までのあらすじ(ロングバージョン)
上西は遠くからうっすらと響くその音に耳を澄ました。
山が上西を呼んでいた。
雛の帰りを待つ親鳥のように、どこか寂しそうでそれでいて温かい呼び声が上西には聞こえた。
上西は羽ばたく準備をしていた、その声のするほうへと。
翼を広げ、いざ地面を蹴り上げようとしたその瞬間、灰色の空が大粒の涙を落とし始めた。
ああ神よ、また上西に試練を与えるのですね。
上西は部屋へと引き戻り、翼についた水滴をぬぐった。目の下を流れ落ちた雫と一緒に。
「私が何をした。私の生誕したその日に、なぜ雨が降らねばならぬのだぁぁぁぁ」
・前回までのあらすじ(ショートバージョン)
上西、誕生日に山に登りたくなる→雨→凹む→次の日休みになったとの連絡→ヤッホーイ
詩人っぽく書き始めたものの途中で飽きて、再度あらすじを書き始めたら2行で終わることに気づきました。どうも、上西です。
誕生日翌日に山へ行けることが決まった上西はルンルン気分で下調べを始めた。
"下調べ" と書くと、それっぽい感じに聞こえるが、やったことといえばベットに横たわりながら、YouTubeで「山登り 初心者」と検索しただけだ。
山登り関係の動画をアップする登山家YouTuberなるものが世の中に一定数いることを知った。
彼らが口を揃えていうのは、初登山ならば、ケーブルカーやリフトがある山がオススメだということだ。
登山している時は平気だが、下山で心折れる人が多いので、リフトで帰れる保険がついてることが結構大事なようだ。
そういった点から、"高尾山" を初心者入門山として掲げている方が多かった。
都内からも行きやすく、駅の近くには温泉もあるらしい。
山登り後の温泉なんて、想像しただけで胸が高鳴る。
上西は高尾山を初登山の地に決めた。
高尾山の頂上までの行き方は大きく分けて6通りもあるらしい。
考えてみれば、山は360度色んな方向から登るわけだから、そりゃあ色んなルートがあるわいな。
中でも、YouTuber曰く、6号路が初心者にはオススメらしい。
登ってる道の隣をずっと沢が流れているので、水のせせらぎを聴きながら頂上を目指せるらしい。
オサレである。
背伸びせず、初心者は初心者らしく、上西は勧め通り、6号路から登山していくことを決めた。
ちなみに下山は、1号路がおすすめらしい。
神社や様々なお店があり、リフトやケーブルカーでも帰りやすい。
中でもリフトから降りていくと、圧巻の景色の中を下っていくらしい。
全部自分の足で歩きたい気持ちもあったが、リフトに乗って、まったり降りていくのもアリだなぁと思った。
さて、高尾山の予習も完了してケータイを閉じようとした時、登山YouTuberの別タイトルの動画が目についた。
「初登山で気をつけること」
なるほど。
これは絶対観ておいたほうが良いな。
上西は、相も変わらずベットに横たわりながら、その動画をクリックした。
YouTuber「初登山で気をつけることその1、天気はしっかり確認しよう!」
ぐさっ。
前日まで天気の確認を怠っていた上西には痛い忠告であった。
だが、しかし、明日の天気は晴れ予報。
結果オーライ。この項目はクリアしている。ギリギリ。
YouTuber「初登山で気をつけることその2、雨が降った翌日も出来ればやめよう!」
え....
いや...えぇ...。
まじか......。
話によると、雨の翌日は道がぬかるんでて滑るため、少し危ないようだ。
まぁ、大丈夫だろ。うん。
上西は色んな意味で、滑るのには慣れてる。
YouTuber「初登山で気をつけることその3、汚れてもいい靴を履いていこう!」
ガーーーンΣ(゚д゚lll)
上西は山登りのために新しい靴を買った。
派手な黄色のランニングシューズを買った。
もちろん、出来れば汚れて欲しくない。
...履いていきたい。
テンションあげるために履いていきたい。
「素敵な靴ですね♪」って山ガール美女に話しかけられてみたい。
「いや、お姉さんのほうが素敵ですよ。」って答えてみたい。
上西は悩んだ末、
「汚れてはよくない靴を履いていき、何とか汚さないように頑張る作戦」を敢行することにした。
さぁ、山へ登る朝がやってきた。
(ここまで長かったですね、すいません。早よ登れや!って思ってたでしょ?ごめんなさいね。いやぁ、登り始めると意外とあっさり文章終わっちゃうかと思ってさ、上西って結構引っ張る癖があっ.....(以下略)
8時に起きて、準備を開始する。
お湯を沸かして、マイボトルにコーヒーを注いでいく意識高い上西。
ジャージに身を包み、温泉用のバスタオルなどをリュックに詰める。
最後に「どうか汚れませんように」という願いを込めて、おニューのスニーカーに足を通す。
いざ、出陣じゃ!!
高尾山へ行くには「高尾山口駅」というところで降りると良いらしい。
1時間半くらいかけて電車を乗り継いでいき、10時半頃に到着した。
不足の事態が起きることも想定して、15時までには下山したほうが良いとYouTuberさんが言っていた。
山頂までだいたい1時間半かかるようなので、10時半出発の12時到着。
山頂で1時間まったりしてから下山しても15時までには余裕がある。完璧な上西。
高尾山の入り口に到着した。
ワクワクしてきた。
さぁ、どんな冒険が待っているのか。
そして、この相棒スニーカーをどこまで汚さずに帰れるのか。
当初の予定通り、自然豊かな6号路からスタートした。
沢が横を流れていくルート。
なんて良い響きだ。最高だなぁ。
そんな感慨にふけながら山を登り始めると、1分もしないうちに上西はあることに気付いた。
「あれ?沢が流れてるってことは...道めっちゃ濡れてるんじゃない?」
前日からの雨に加え、沢のサービス噴水により、道はびしゃびしゃだった。
そのおかげで土もぐちょぐちょしていて、絶好の靴汚し日和であった。
くそぉぉー、なんで俺はこのコースにしちまったんだぁぁぁ。
よりにもよって一番汚れるコースやないかぁぁぁい(*´◒`*)
「沢の流れるコース=道が濡れてる」
その単純な思考回路が結びつかなかった己の愚かさを嘆きながら上西は山頂を目指していくのであった。
「上西物語」登山編
次回
「癖になってたんだよね 靴汚さずに歩くの。」
お楽しみに。
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