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権力が狂わすもの

2014・2・23

 アメリカで精神学者が、刑務所に関する実験を行っていたことを発表した。
 一般人からランダムに選ばれた人10数名を看守役、囚人役に分けて実際の刑務所と同じ建物の中で、それぞれの役をこなしながら2週間生活してもらうというもの。
 2週間たったら今度は役を交代してもう2週間過ごして実験終了。
 すべてをビデオに収め、その行動や、感情の動きを研究するののが目的だったのだが、実験は終了の声を待たずに中止となった。
 理由は、芝居の中であっても、看守という絶対的権力を手に入れてしまった役のほうがどんどんエスカレートしてゆき、叱責から暴言をはくようになり、やがて体罰鵜を与え、食事を与えないなどしたことで囚人側が暴動を起こすに至ってしまったからだ。
 これを見て思い出すことあるんだよ。
 刑務所にいる医者ってのは外部から来る人だから、一般人だ。
 就任されて来たころは、娑婆と同じで親切な対応でも月日が経つと立場の弱い懲役に対してだんだん横柄になるやつもいる。
 府中刑務所にいたとき、合わない入れ歯を修正してほしくて、歯科治療を願い出た。
3か月後にやっと診察にこぎつけ、歯科治療室のドアを開けると、奥の窓際におばさん医師が、背中を向けてたっていた。
 助手は白衣の刑務官だ。ドアを閉め称呼番号と名前を言って挨拶をする。
 するとそのおばさん、振り向きざまに大声で俺に向かって、ヒステリックにこう叫んだ。
「お前なぁ、ここには歯がなくたってモノ食ってるやつは大勢いるんだよ!なのにちょっと入れ歯が合わないくらいで削ってくれなんて甘いんじゃないのかあ。」って。
 なんだいきなり。そりゃあブチ切れたよ。
 助手の刑務官もあんまりだと思ったんじゃないかね。俺の肩掴んで「まあまあ」って。
 じゃなきゃなにしたかわかんねえぞあのクソババァ。
 
でもさ、きっとあのババアだって初めからあんな態度じゃなかったはずだよ。
刑務所の患者はお客じゃない。下に見てどんなに態度が悪かろうと文句を言うものはいない。
権力が人を変えてしまうのさ。
 人を見て態度を変えるってのは情けないものだなあ。
 だからこの日から俺は、どんな時も落ち着いて誰に対しても同じ、真摯的な対応を心掛けているんだ。
俺はあのババアとは違う。

次に来た若い男性の先生は、きちんと敬語を話すおとなしいひとだった。
でも彼が狂ってしまうのも、きっと時間の問題だろう。



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