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ViroNote:王冠泥棒をデザインする

 ViroNoteへようこそ!

 この記事は私、Virtualゲームデザイナーのバーチャ・ローズウォーター
/Virtua Rosewaterがカードデザインの考察をするものだ。今回のテーマは、スタンダードからヴィンテージまで知らぬ者なし、プレインズウォーカーの歴史を塗り替えた《王冠泥棒、オーコ》だ!

 注文の多いカードタイプ

 プレインズウォーカー(以下、PW)は1枚のカードであると同時に、1人のキャラクターでもある。PWカードは通常のデザインに加えて、キャラクターらしさを表すためにたくさんの要求が課せられるのだ。オーコの場合は大きく以下の項目があった。

・フェイ(妖精)のPWであることを強調する泥棒のモチーフ
・他者を操って争わせる陰謀家である
・ケンリスを鹿に変えた変身魔法
・ガラクを支配していた精神魔法
・Foodメカニズムを推すためのシナジー

 キャラクター設定、ストーリー上の活躍に加え、セットの固有メカニズムまで盛り込まなくてはいけない。これらの要求を基にして、カードの内容をひとつひとつ考えていこう。

  
 変身する、精神を操る、物を盗む妖精である、長期の計画を企て他者を利用する、これらの特徴はまさしく青らしいものだ。一方でFoodを使うのは黒か緑であり、どちらかを2色目にする必要がある。変身魔法によって他人を野生動物に変えるので、動物の色に合わせてオーコも緑にした方が把握しやすい。色は青と緑になる。

  忠誠度能力
  ①変身魔法

 《ケンリスの変身》と共通の、クリーチャーを大鹿にする能力が必要だ。この変身は元に戻ることが可能なので、代わりのトークンを与えるタイプよりも特性を上書きするタイプが相応しい。ストーリーでのオーコは、敵を変身させて捕らえたり追い払ったりするのに魔法を使うので、この能力も除去として働くものにしたい。

  ②精神魔法と盗み
 他人を操ったり物を盗んだりするのは伝統的なコントロール奪取のフレイバーだ。これに妖精が持つ取り替え子のイメージを組み合わせ、パーマネント交換を使うことにした。この能力は奥義に当たるのだが、1:1の交換にすると盗みのイメージが伝わりやすいため、小規模かつ低コストな形である。

  ③Food関連
 スタンダードでFoodデッキを成立させるため、なんらかのFood関連能力を持たせることになった。①②がマイナス能力になりそうなので、こちらはプラス能力が望ましいだろう。毎ターン起動しても問題なく、また単体でも機能するように、単にFoodを生成する能力となった。

 プラスでFoodトークンを出し、マイナスで敵を大鹿に、奥義でそれらを交換する。特徴的な魔法を再現しつつ、能力同士の噛み合いも良さそうだ。 この後は各種の数値を設定し、調整とテストの反復工程を経て印刷に至る。

 鹿がどうして問題なのか

 それでは実際に印刷されたカードを見てみよう。

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 このカードはパワーレベルの問題が目立っているが、[+1]にはデザイン上の問題も見られる。
 ひとつ目に、クリーチャーを毎ターン除去できること。PWはクリーチャーで攻撃されることが弱点であるのに、相手クリーチャーをすべてバニラ化できては弱点にならない。アーティファクトも同様に除去可能で、このカードの生存性を過剰なものにしている。
 ふたつ目に、自分のパーマネントを強化できること。3/3の群れを作るコスト不相応な強さに加え、キャラクター性との食い違いが起きている。動物たちを率いて戦うのはガラクやビビアンの特徴であり、オーコに鹿で戦うイメージを付けたくはなかった。
 みっつ目に、忠誠度が増えること。初期値4から[+1]で大鹿に変身、すぐ[-5]で交換する、という動きのためにプラス能力を選んだのだろう。しかし[+1]が除去もクリーチャーも兼ねられるため、オーコを捨ててまで[-5]を使う必要が無くなってしまった。忠誠度+1が奥義のサポートには使われず、ただ変身能力を強化しただけになっているのだ。

 オーコのデザイン目的

 軽いコスト、対策カードを耐える忠誠度、シナジーに富む[+2]、汎用性が高い[+1]、すぐ使える[-5]と、オーコはあらゆる点で"強く"設計されている。これらの恣意的な強化を見るに、「強いPWにすること」自体が目的になっていたのだと思う。
 スタンダード環境の安全を考慮すれば、仮に[+1]やFoodシナジーの強さを見落としていても、低コスト・高忠誠度という危険要素を放置しないはずである。しかし実際には修正されず強力なままであった。このことから、PWを絶対に活躍させなければならない、その為なら特別強くしても許される、という考えで作られたと推察できるのだ。
 なぜ《王冠泥棒、オーコ》が強すぎたのか、私ならこう答えよう。ゲームプレイ以外の目的で強くされ、健全なゲームのためにデザインされていなかったからだ、と。


 読んでくれてありがとう、この記事がプレインズウォーカーたちを理解する助けとなれば幸いである。そして記事への感想や意見、質問を募集中だ。コメント欄やツイッターのハッシュタグViroNoteで投稿してくれたまえ。

それではさようなら。                        どうかあなたがゲームをゲームらしく楽しめますように。

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