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「あ。あそこへ行ってみようよ!」

そう言うと、助手席の彼女は満面の笑顔で僕を見つめた。

「あそこって?何処?」

車のライトはアスファルトの上を照らし出し、まるで僕達を誘う様にエスコートしてくれる。

「あそこよ。オバケ屋敷!

ほうら、思った通りの答えが出てきた。

「あまり気が乗らないなぁ。」

僕はわざとはぐらかした。

「だってさ、あそこって本当に出るらしいんだぜ、オ・バ・ケ〜〜〜〜」

僕は運転しながら少し脅かした。つもり。


「ぎゃあーーーーって、私が叫ぶと思う?」


いや。よく知りませんけどネ。確かに叫ばなそうだわ。と、心の中で返答。


「じゃ、決まりだわ。早速向かって下さいな。」


「ヘイ、ヘイ。分かりましただ〜〜お嬢様〜〜。」


僕の自慢の愛車『ユーノス/COSMO・2ローター』のロータリーエンジンが唸った。

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結局。地元で有名な噂の廃屋・・・オバケ屋敷へと向かう事にした僕達。


知り合って短い・・・ほんの数十分前のコンビニからの付き合いだが、男なら可愛い女性のリクエストに応えねばなるまい・・・

「ねぇ?あの噂知ってる?あの廃屋で亡くなった男女の怨念が超絶凄すぎて、男女のカップルばかりが引き寄せられるんだって。

「俺に彼女寄越せーーーーっ」
「私に彼氏寄越せーーーーっ」って。」


「へェ?そうなんだ。でも本当のカップルじゃなかったらどうなるの?」


僕は片手でステアリングを握りながら、彼女にカマをかけてみた。
なんか、もう一息な気がするんだ。


「えーーーーっ。確かにーーーーっ。それじゃダメじゃーーーーん。」

「だろ〜?だからさ〜、もっと楽しいトコロへ行こうよ〜」

「うーーーーん・・・仕方ない。考え直すか〜〜〜」


「でしょ?でしょ?!じゃ、俺いいトコロ知っているから、そこへ行こ〜〜よ〜〜♫」



「うん。もうさ・・・もうさ・・・


カップルじゃなクテモイイ!!!


ダレデモカマワナイコトニスル!!!!!」




「えっ?」






『グワガーーーーーーッ!!』



僕の愛車が凄い音を立て、何処かへ突っ込んだ!!
幸いエアバッグが出る程の衝撃ではない。
どうやら車が田んぼに落ちた様だ。


「大丈夫?!?!」


助手席を見る。彼女は居ない。
そう。居なかったのだ。




「大丈夫ですか?」


突然声をかけられて僕はハッとした。
運転席側のドア横に若い男性が立っていた。


「だ、大丈夫です!!車が突っ込んでしまいました!!お気遣い、あ、ありがとうございます!」



僕は一旦エンジンを止めようとして、ギョッとした。

車のヘッドライトが照らし出していたのは、草が伸び放題の荒れ果てた廃屋。




ドア横の若い男性に目を向けると、そこには歪んだ顔で嗤う1組のカップルの姿があった。




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「なーんて話だってよ。怖いよね〜。あっ、シャワー浴びてきたら?」

僕は髪をタオルで拭きながら彼女に噂話を聞かせた。

コンビニでナンパしたのは初めてだったけど、実に上手くいったナ。
しかも車内灯で見るより遥かに可愛い。
今夜は最高についている!
僕は枕元の照明を微かに落として、徐々に臨戦態勢へと突入した。

「怖いわ〜。そうだね〜。あと少ししたら入るね〜。」

彼女はソファーに腰掛けテレビを観ている。
緊張しているのだろう。


『ピンポーン、ピンポーン』


突如部屋に鳴り響いたチャイム音に僕はビクッとした。
何だ?さっきお金は払った筈だけど・・・?


『ピンポーン、ピンポーン』


やはり鳴った。
僕はタオルを巻き直すと、部屋の入り口へと向かい鍵を開けた。

『ガチャッ。』


先程のスタッフとは違う、若い男がそこに立っていた。


「あ。すみません。そこの車庫に停めてあるユーノス・COSMOはお兄さんのクルマ?」


「は、ハイ。そうですが、」


「あ、いや実はですネ。」


「遅いよーーーーっ!何やってんのよ〜、もーーーーっ!」

「あっ、ごめん、ごめん。途中でトイレ行きたくなっちゃってサ。ごめんね〜」


えっ?二人はお知り合い?って違う!これは・・・


「何でお兄さん俺の彼女とココに居んスか〜?しかもお兄さんバスタオル一枚ってw
ホント、俺の彼女に何してくれんのよ?!」


「フフフ。」


「しかしお兄さん、イイ車乗ってんね〜?」


僕の身体は硬直し、まるで金縛りにあった様に動かない。


次第に額から滝の様に流れ出る汗により、僕の目の前の風景は歪み、そして滲んでいくのだった。


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ZELDA・ゼルダのデビューアルバムの破壊力は実に素晴らしいモノがある。
ムーン・ライダーズの白井良明氏のプロデュース力も勿論だが、ニューウェーブ的な視点から観ても本当に素晴らしく、2020年の今だからこそ、心に迫るその真価に触れる事が出来るのかも知れない。
「狂気」を内包したサウンドを。今。



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