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「行こうゼ!行こうゼ!ナンパに行こうゼ!」

1987年。
漸く社会にも慣れ始めた阿呆男子数名。

とりたてて大した目標も無く、その上、夢も特に無し。

有るのは若さと、時間と、健康的な身体欲求のみ。

彼女がいるヤツもいたが、いつも同じ阿呆男子メンバーと連んでいたので、いないのも同然だった。


その当時のルーティンはこんな感じ・・・

仕事を終え家に帰ると、クルマ一台に乗り合わせた友人達が迎えに来る。

行き先も特になく取り敢えず出発。
ハラが減ったら行きつけのラーメン屋へ行くパターンも有りつつ、談笑しながら楽しいドライブを楽しむ。

運転手は回り順だが、大抵はクルマのオーナーが運転を担当する暗黙の了解が存在した。

BGMはクルマのオーナー次第だが、一人の友人のクルマばかりに乗っていたので、友人が大好きだったLAメタルをひたすら聴いていた記憶がある。

今、改めて当時を振り返ってみると、贅沢な時間の使い方をしてきたな。
と、心底思う。

適当に潰すだけの時間。

もう二度と手に入らない至福のひと時だ。


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それは秋口の平日の夜の事だったと記憶している。

いつもの様に友人のクルマへ数人乗り込むと、当然の様に「当ての無いドライブ」へと出発した。

友人のセドリックY30の乗り心地は最高で、申し訳無い程にいつも乗せてもらっていた。

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スピーカーからは友人の大好きな「ストライパー」が大音量で流れる。
悪魔好きな友人がストライパー?
実に洒落ているではないか。

少し開けた窓からは秋の涼しい風。
気分がいい。今日は何かイイ事が起きそうだ。

しかし今日は何処へ行くのだろう?車中の皆んなもドキドキしてきた。


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「凄い霧だな?!」


地元の高原の山中を走る友人のクルマ。

運転する友人は夜勤明けらしく、疲れと霧のダブルパンチで敢なくダウン。

唯一免許証を持っていた僕が代打運転手を務める事となった。

変わらず車内は阿呆な話で盛り上がっている。
「普通はナンパしに季節外れの夜の高原まで行ったりしないし。」
僕らはナンパを口実に、皆んなで楽しいひと時を過ごしたいだけなのかも知れない。

そうさ。
これが僕ら阿呆男子のルーティンなのさ。


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時刻は深夜1時。本当に凄い霧。
明日も仕事だというのに、僕らはまだ山中にいた。

クルマのヘッドライトが照らし出せる範囲は、ほんの数メートル。
僕は無理せず、ゆっくりと友人のセドリックY30を走らせた。

「ここはどの辺りだ?」

街道沿いに点在しているお店が頼りだったが、この霧だ。全く分からなくなってしまった。

「あっ?ちょっとクルマ止めて!」

後部シートで寝ていた筈の友人が、突然声をあげた。

「オネエちゃんが歩ってたぜ!」

「えっ?本当か?」

湧き立つ車内。
本来の目的である「ナンパ」というワードが急浮上してきた。

「クルマを止めてくれ。俺が声をかけてくる。」

風見しんご似の、寝起きの友人が名乗りを上げた。
これは上手くいくかも!という、変な期待感にワクワクする僕達。

でも、そんなオネエさんなんて歩いていたっけ?


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僕は友人のセドリックY30をゆっくりと停めた。

「バタン」

濃い霧の中に友人が溶け込むのを、皆んなで固唾を飲みながら見ている。

テールランプとハザードランプに照らされ、まるで友人の身体が霧の中で点滅している様だ。


「オネエちゃん見えるか?」


「いや、見えないな〜。」


「またアイツお得意の『僕らを騙す』やつじゃない?」


「あ〜。有り得るね。」


そう。彼は僕らを欺くのが大好きだ。
だから今回もそんな感じなのかもしれない。


この間、約1分。


彼は直ぐに帰って来た。


『ガチャッ!』

「ありゃダメだ。ヤバい。行こう。早く行った方がいい。ドアをロックして!」


真顔で帰ってきた彼の、何か普通じゃない様子を察して、僕はクルマを走らせた。


「どうだった?」


と友人達は聞きたがったが、彼は黙ったままだ。


霧が少し晴れてきた。
ヘッドライトが街道を照らし出す。
良かった。これで町に帰れる。


あの場所から離れられる。

クルマを出す時、バックミラーの中に僕は見たんだ。


霧の中、クルマを覗きこもうとする、
真っ白な顔の白無垢姿の女を。





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『伊藤さやか』姉さんのカッコ良さはホンモノだ。

ちょっとアイドル風に売り出されたのが、イメージを曖昧にしてしまった感があるけど、実際には物凄く歌の上手いカッコいいシンガーなのだ!

本当に素敵です♫(^ω^)




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