ギャランドゥーのワルツ
ワルツという言葉を、ご存知だろうか?
音楽に関係する事だと認識する人は多いと思う。
ウィキペディアを確認してみてもそんな感じだ。
私はこの言葉を私の愛しい「胸毛」に由来するものとして読者諸君にお伝えしたいと思う。
胸毛、否、ムナゲだ。
MUNAGE。
ここでいう「ムナゲ」とは、下記の毛であると定義する。
・乳首の周りに生えている毛
・乳首と乳首の間の皮膚に生えている毛
・ヘソの周りや、ヘソ下に生えている毛
あれは、仕事終わりに電車で帰宅した後、風呂に入り、風呂後にソファの上でくつろいでいた時だった。
ピンと1つ思い出したように閃いたのだ。
「そうだ、ムナゲを剃ろう」
まるで「そうだ、京都に行こう」というノリで頭の中に思い浮かんだ。
思い立ったが吉祥寺、否、吉日。
私はゴロンと横に向けていた体を起こしてリビングから洗面台に移動した。
お風呂上がりに着衣したパジャマとヒートテック黒をパサっと脱ぎ捨てた。
そして、半身鏡の前に自分の上半身をさらけ出した。
そこに広がるは、大草原をそよめく風のごとくフサフサという音を立てて波立つムナゲ達であった。
MUNAGE。
乳首の周りにもソイツ達が。
乳首と乳首の間にもソイツ達が。
そして挙げ句の果てには、ヘソの周りにもソイツ達が静かに波打ち、うずくまり、四方八方へ毛先を伸ばしている。
そして彼らは、はしゃいでいる。
「子犬のワルツ」は想像しただけでも愛しいだろう。
幼な子が踊るワルツも愛しいに決まっている。
そこにムナゲのワルツときたら、どうだろうか。
言わば、ギャランドゥーのワルツだ。
彼らとて、踊りたいのだ。
はしゃぎたいのだ。
私の胸元に生を受け、一生懸命に毛先を伸ばしてきた嫌われ者。
そう、嫌われ者。
今のご時世、「ムダ毛処理」が商業的に大ヒットして久しい。
多くの職業がAIに仕事を奪われていくように、多くのムナゲ達が、「ムダ毛処理」という概念に生を奪われていく時代。
むなしいMUNAGE。
私はおもむろに、ピンセットを右手に取り、大草原たる毛たちを1本1本抜いていく。
プチッ、プチッ。
チクッとした痛みと共に、何やら痛気持ちいい快感が私を包み込んだ。
周りは風呂上がりの換気扇の静かな音だけが包みこみ、私の行為を遮るものなど何もなかった。
私のこの快感とは裏腹に、抜かれて洗面台の上に落とされていくムナゲたちは、まるで自分たちの役目を果たしたように萎れている。
そして鏡に映るは「ツルツル」という効果音が適しているような肌の表面であった。
「ムダ毛処理」を終えた私は静かに合唱し、抜け落ちて洗面台の中にうずくまる彼らに囁いた。
お疲れ様、そして今までありがとう。
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